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「共創で広がる業界エンパワーメント」、楽天モバイルが描くAI×DXの未来とは

 楽天グループは7月30日から8月1日までの3日間、グループ最大級のイベント「Rakuten AI Optimism」をパシフィコ横浜で開催した。2019年から昨年までは、ビジネスパーソン向けの講演・展示のほか、家族や友人同士で楽しめる展示も揃えた「Rakuten Optimism」が開催されてきたが、今年は「Empowering the Future」をコンセプトに、AIに焦点を当てたビジネスイベントに生まれ変わった。多くのキーマンが登壇する「ビジネスカンファレンス」と、楽天グループやパートナー企業による多彩なソリューションを展示する「エキシビション」が展開された。

 イベント2日目には、楽天モバイルの共同CEO 鈴木和洋氏が 「すべての企業にAI×DXを ~共創で広がる業界エンパワーメントの未来」 と題して講演。楽天モバイルの法人事業を紹介するとともに、パートナー企業のAI・DXの取り組みを紹介した。ここでは講演の内容と、それに関連するエキシビションの展示を紹介しよう。

楽天モバイルの法人事業について講演する共同CEO 鈴木和洋氏

多くのAIエンジニア、圧倒的なデータ量から生まれた「Rakuten AI for Business」

 楽天モバイルの法人事業は2023年1月から本格的に開始、今や顧客は2万社を超えている。

 2025年5月に出された第三者調査機関による社用携帯電話の総合満足度調査で、 楽天モバイルは「満足」と回答した人の割合が4キャリア中もっとも多く 、「やや満足」と合わせた割合はトップのドコモと同レベルになっている。 さらに、4キャリア中で乗り換えたいキャリアNo.1、コストパフォーマンス、申し込みから利用開始までの速さもNo.1 と評価されている。

社用携帯電話の総合満足度調査で、楽天モバイルは高い満足度を記録

 好調さがうかがえる楽天モバイルの法人事業で、今もっとも注力しているのがAIだ。「日本の企業の99%を占める300万社以上の中堅・中小企業が、AIを活用したDX化を推進して競争力をつけないと日本経済の復活はない」と鈴木氏は述べ、1月にリリースした生成AIサービス「Rakuten AI for Business」を紹介した。

法人向けの生成AIサービス「Rakuten AI for Business」が今年1月に提供を開始

  Rakuten AI for Businessの強みは、楽天に1000人を超えるAI技術者がいること。 楽天は社内公用語を英語にしていることが有名だが、それによって世界中から優秀なAI技術者を集めることができているという。「日本国内だけでは、これだけAI技術者を集めるのは難しいと思う」と鈴木氏は述べていた。

 もう1つの強みは、 「世界でも非常に稀」 「圧倒的なデータのバリエーションと、その量」 だ。楽天グループは楽天市場、楽天トラベル、楽天モバイル、フィンテック系サービスといったさまざまな事業から得られる莫大なデータを持っている。AIはデータを学習し賢くなっていくもの。楽天グループが持つ圧倒的な量のデータを使って学習することで「洗練されたAIのエンジンを我々は持つことができる」とした。

Rakuten AI for Businessの強み

 このRakuten AI for Businessを活用すると、要件を入力するだけで簡単にイメージ通りのメールを作成できること、さまざまな言語に翻訳できること、自分では考えつかないようなアイデアが得られること、希望条件に合わせたシフト案を瞬時に作成し、シフト管理者の作業時間が短縮できることなどが紹介された。

 Rakuten AI for Businessには、 職種に合わせたプロンプトテンプレートが用意 されており、例えばマーケティング部門の担当者が、新商品を出す際に競合商品をリサーチしたり、これから出そうとしている商品の特徴を入力し、キャッチコピーを作ってもらったりもできるという。鈴木氏は、「指示をすればいろんなことをやってくれ、予測をして、望んでいることを考えていろんな情報を出してくれる。AIがあなたのもう1人の部下になるイメージ」と語った。

各職種でよく使うプロンプトがテンプレートとして用意されている

 Rakuten AI for Businessは楽天グループの社内でも活用され、「全従業員が毎日AIを使っている」という。AIを定着させるための研修もサービスとして提供しており、Rakuten AI for Businessが最大6か月間、基本料金無料で使えるキャンペーンも行っている。

※Rakuten最強 プラン ビジネス・Rakuten AI for Businessともに、契約期間に解約をした場合は違約金あり。

業界に特化したDXパッケージを提供

 次に、「AI・DXで広がる業界エンパワーメントの未来」というテーマで、業界に特化したさまざまな取り組みが紹介された。

 楽天はAIを活用したDXパッケージを提供している。「導入したらすぐに使えるオールインワンパッケージ」で、現在は特に人手不足が問題になっている飲食店、ホテル、小売、医療、介護の5つの業種向けに提案している。

AI・DXのソリューションパッケージを5業種向けに提供

 楽天モバイルのAI・DXのソリューションパッケージは、「Rakuten最強プラン ビジネス」や「KOSOKU Access」といった通信サービスをベースに、業種に応じて、監視カメラや店内BGM、デジタルサイネージ、トランシーバーアプリ「Buddycom」などのコミュニケーション基盤、Rakuten AI for Businessなどバックオフィス機能を組み合わせて提供するソリューションパッケージだ。

 それぞれのサービスに対する価格がはっきり示されているのでわかりやすく、「介護DXパック」では補助金対象のサービスが分かるようになっていて、補助金の代行申請もパッケージに含まれる。

デリバリーサービス「Wolt」の事例

 講演では、楽天モバイルと協力し業界DXに取り組んでいる、Wolt Japanの代表取締役 ナタリア・ヒザニシヴィリ氏と、浦島観光ホテルの代表取締役社長 松下哲也氏が、飲食・ホテル業界におけるAIを活用したDXソリューションの取り組みについて語った。

Wolt Japanの代表取締役 ナタリア・ヒザニシヴィリ氏

 Woltは2014年にフィンランドで設立されたフードデリバリーおよびクイックコマースのリーディングカンパニー。設立から10年で世界30カ国以上、1000以上の都市でサービスを提供。

 日本ではデリバリーでも店頭価格と同じ商品価格で購入できる取り組みも北海道や、広島県、東北地方から開始しており、それによってユーザーの利用頻度が急増。エンゲージメントも向上し、参加したレストランは注文が平均して約2倍以上に増加したという。

 ヒザニシヴィリ氏は、WoltがAIをどのように活用しているかについても紹介した。なお、AIは事業運営の核になりつつあるが、「人間の可能性を拡張することで、置き換えることではない」とも語っていた。

 活用事例としては、まず商品検索。メニューの検索にAIを活用することで、写真、名前、テキストによって正確で多層的な検索が可能になり、ユーザーはより正確な結果が得られるようになったという。

検索にAIを活用することで精度が向上。「AIによって1.5倍の精度向上が見られた」という

 もう1つの取り組みはWoltのセルフサービス画像プラットフォームで、Woltではこれを"photographer in your pocket"(ポケットの中のフォトグラファー)と呼んでいる。

AIツールで写真を美しく変換して表示。手間やコストが大きく削減された。

 ヒザニシヴィリ氏によると、以前は、加盟店が提出する写真の80%以上が、Woltの品質基準を満たしていなかった。現在はAIツールを使えば、加盟店はスマホで写真を撮影するだけで、美しい写真に変換され表示される。また、これによって制作コストは70%削減、手作業の工数は90%以上削減され、メニュー更新のスピードも向上したという。

 楽天モバイルとのパートナーシップは、日本での事業開始と同じ2020年から始まり、2024年12月までに、楽天モバイル5000回線以上がWoltに導入された。

 ヒザニシヴィリ氏は 「安定したネットワーク接続はもちろん、それ以上に重要だったのは、管理プラットフォームを通じて何千もの回線管理が非常に簡単になったこと。使いやすさは本当に画期的だった」 と振り返った。

 今後も、Woltのグローバルな専門知識と楽天モバイルの店舗運営ソリューションをRakuten AIを介して組み合わせることで、レストラン、小売業者に新しい価値を創造していくという。2025年7月には楽天モバイルと飲食業界へのAI・DX推進に向けた提携に合意し、Woltは加盟店におけるRakuten AI for Businessの導入に協力していく。 加盟店のニーズに合わせて機能をカスタマイズ できることから、先んじてインタビューを行ったレストランからは非常に好意的な意見をもらっているという。ヒザニシヴィリ氏は 「多くの時間を投資することなく、レストランの業務を楽に改善できるソリューション」 と高く評価していた。

浦島観光ホテルのAI活用事例

 浦島観光ホテルのAI活用事例は、松下氏と鈴木氏とのトークセッションで紹介された。

浦島観光ホテルの代表取締役社長 松下哲也氏

 浦島観光ホテルのホテル浦島は和歌山県の南東部、那智勝浦に位置し、来年で創業70年を迎える名門ホテル。有名なのが大洞窟温泉「忘帰洞」で、「あなたが好きな露天風呂のある宿」ランキングで2年連続全国No.1となっている。さらに、那智勝浦はマグロの水揚げでも有名だ。

 他方、宿泊業を取り巻く状況は厳しい。産業別の名目労働生産性は下から2つ目。産業別賃金は最も低い。人手不足と高齢化も進んでいる。浦島観光ホテルの従業員も平均年齢は48歳。60代以上も多いという。

宿泊業を取り巻く状況は厳しい
人手不足も大きな問題になっている

 松下氏は2024年に浦島観光ホテルの社長に就任後、「設備・施設のリノベーション」「外国人材の積極採用」「人材投資(賃上げ・育成)」「AI・DXの徹底活用」という4つの課題を挙げ、現在取り組んでいるが、「徹底的にやっていきたい」と考えているのがAI・DXの徹底活用だという。

 そう考えていた中、楽天トラベルを介して楽天モバイルと出会い、AI・DX活用に向けたパートナーシップを組むことになった。

浦島観光ホテルのAI活用

 AI活用の事例としては、まず外国語のメールや口コミに対する返信での活用だ。松下氏は「口コミの返信はスピードが命」だという。今や口コミもさまざまな言語で投稿されるので、返信をスピーディにするにはAIの力が必要だと語った。また、 口コミをデータとしてAIを使って分析し、より良いサービスにつなげる 取り組みも行っている。

Rakuten AI for Businessを使って、口コミの返信を素早く生成

 監視カメラはビュッフェの料理のモニタリングでも活用を予定している。これについて松下氏は「実験段階」としつつ、次のように語った。

 「なくなった料理を確認して差し替えるのは人間の目でもできると思いますが、何がどれくらいなくなっていくか、そのデータの蓄積に注目しています。曜日傾向やお客様の国籍別の傾向、例えば今日は日本人が多め、外国の方が多めということによっても、なくなる料理が全然違う。そういうデータを分析して、いつどういう料理をどのタイミングで出せばいいのか、作っておけばいいのか、こういうことにも役立てていきたい」

 デジタルサイネージも活用されている。実はトークセッションのあった日は、前日にカムチャツカ半島付近で大規模な地震があり、日本の沿岸にも津波警報・注意報が発表された。松下氏は「これがあったら良かったのにと痛感した」という。

 「お客様の避難を誘導する際に、一斉に知らせるのは館内放送以外では難しい。館内放送も多言語で話さないといけない。サイネージなら多言語も一発表示で目視できる。避難誘導に大いに有効だろうと昨日痛感しました」

エキシビションエリアで展示されていたデジタルサイネージ。上部にカメラが設置され、カメラでサイネージの前に立った人の属性を把握し、その人に合った情報を表示する。また、ディスプレイは3領域に分割表示され、静止画、動画を混ぜるなど、複数のサービスを同時に表示することが可能だ。例えば、有名な観光地まで何メートルなど地図を出して示したり、目的地に合わせて近くの飲食店の広告を表示したりといったことができる。

 鈴木氏も「ホテル浦島さんのように非常に広大な敷地でも、いる場所によってそれぞれの避難経路を表示することがデジタルサイネージであれば可能になる」と述べていた。

 最後に松下氏は、AI・DXを活用することで「ホスピタリティをしっかり発揮しながら、お客様から対価をいただく観光業を続けていきたい」との意気込みを語った。

 「今までは人がすることでお客様に対価をいただいて商売をしていましたが、人が少なくなって、それができなくなる。じゃあ、商売が成立しない、ではなくて、 人がやるところはやって、しっかり高付加価値に持っていく。人がやることに価値を見出すホスピタリティにしていくためには、反対側でDXが必要だと考えています。 これが最終的に日本の観光業、経済を支えると考えています」

 鈴木氏は、浦島観光ホテルの取り組みは、全てのサービス産業に共通する話だとし、楽天の法人向けサービスを活用することで、「地方、日本が元気になれば大変嬉しい」と語っていた。

 なお、エキシビションでは講演で言及された以外の法人ソリューションも展示されていた。写真とともにいくつか紹介しよう。

トランシーバーアプリ「Buddycom」と連携するAI管理カメラ。あらかじめ顔登録した人をカメラが認識すると、認識したことをBuddycomで担当者に通知する。VIPや要注意人物、介護施設であれば徘徊の検知に顔認識が使われ、その場に人がいなくてもすぐに対応できる。カメラが認識した人物の性別や年齢層などはダッシュボードにまとめられ、マーケティング調査などにも利用できる。
今回の記事のポイント
1.楽天モバイルは、1000人超のグローバルなAI技術者とグループの膨大なデータを強みに法人向けAIサービス「Rakuten AI for Business」で、日本企業のAI導入を支援する。

2.楽天モバイルは、単なる通信回線の提供にとどまらず、AIや多様なソリューションを組み合わせた「DXパック」を特に人手不足が深刻な5業種に向けて提案し、顧客の課題解決に深く関わるDXソリューションパートナーを目指す。

3.AIによるソリューションは、メール文生成や多言語対応といった、人間だけでは時間がかかる業務を補完し、従業員が「おもてなし」などの付加価値の高い業務に集中できるような役割を果たす。
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