トピック

楽天モバイルがパートナーと挑む、5Gで創造する新たな体験価値とは

 Jリーグの試合で選手の情報をARでチェック、はたまた、プロ野球チームの選手たちが取り組む練習の様子を高精細なVR映像で楽しむ――

 いよいよ始まった日本の5G時代。そうした中、楽天モバイルが、さまざまなパートナーと力をあわせ、5Gを活用する新しい体験やサービスを生み出そうとしている。

 それが、企業や自治体、大学・研究機関などと共同で進める「楽天モバイルパートナープログラム」だ。

 これまでに、いくつかのプロジェクトが実施され、その様子も発表済み。

 たとえば11月には楽天ヴィッセル神戸のノエビアスタジアム神戸での試合でスマートフォンやARグラスを使ったARアプリの実証実験を実施した。また、8月には楽天イーグルスのファンイベントで5Gを活用したリモートタッチ会などが実施されている。

左から近谷氏、益子氏、田中氏

まだ具体的な最終プロダクトが出てくる段階ではないが、そもそも「楽天モバイルパートナープログラム」を、楽天モバイルはどのような狙いで実施しているのか。今回は、楽天モバイルの5Gビジネス本部ビジネスソリューション企画部部長の益子宗氏、グループコーディネーション課長の田中由紀氏、同課の近谷珠希氏に話を聞いた。

「楽天グループの文化」が未来への一歩を踏み出すきっかけに

――まずこうしたプログラムを実施されているきっかけ、経緯のようなところを教えてください。第4の携帯キャリアとして、ゼロからサービスを作り上げる中で、プログラムも立ち上がったわけですよね。

益子氏
 楽天モバイルは携帯キャリアとしては後発組ということで、通信インフラの構築や提供だけではなく、あわせて新しい価値を提案していきたいと考えております。

 私たちは「楽天市場」で創業当時からいわゆるB2B2Cモデル、パートナーとともにサービスを提供してきました。

 つまり楽天グループには「パートナーと一緒に作っていこう」というカルチャーがあるんです。新しい価値を作るにはパートナーとの共創コンセプトが不可欠、と考えています。

 私たちならではのノウハウやアセットもありますが、5G時代の新たなサービスを展開するには、まだまだ及ばないところもあります。パートナーの皆様と、お互い補い合い、新しいものを作るという今回のような関係性は、楽天グループのカルチャーを引き継いでいるものなんです。

――今回のプログラム、ゼロベースから立ち上げるというのは大変だったのではないでしょうか。

近谷氏
 「楽天モバイルパートナープログラム」は、私どもの力だけで“5Gを使った何か”ができるわけではなく、パートナーの皆様とともに、付加価値を作り上げて提供していこうという取り組みです。確かにまったく何もない状況から始めていますが、付加価値をエンドユーザーに届けたいという強い思いがあり、立ち上げに至りました。

田中氏
 パートナー種別は「ロケーションパートナー」「コンテンツパートナー」「技術パートナー」「イベントパートナー」という形にしています。

パートナー種別は「ロケーションパートナー」「コンテンツパートナー」「技術パートナー」「イベントパートナー」に分かれる

 いずれの分野でも、私どもで持っているものと持っていないものがあります。楽天グループのノウハウを集めつつ、そこにパートナーの皆様の力も合わせて立ち上げています。

豊富なアセットが強み

――では、「楽天モバイルパートナープログラム」の強みとはどこにあるのでしょう。

益子氏
 楽天グループでは、日本国内では一定の規模感のあるインターネットのサービスを手掛けています。インフラに関しても知見やノウハウがあるわけです。

 モバイルネットワークも完全仮想化をしていますし、オンプレミスのサービスやサーバー運営を展開してきましたので、システムに強く、経験の豊かなエンジニアも多数在籍しているんですよ。

 社内で英語が公用語になって以降、さまざまな国・地域から、多彩なエンジニアやマーケターが参画しています。

――人材が集まりやすいと。

益子氏
 はい、そうなんです。

 そして、もうひとつ、当社ならでの面があります。一言で表現すると、それは「Get Things Done」、つまりさまざまな工夫を凝らして、何が何でも物事を達成するという強い決意です。これも私たちならではのカルチャーで、社内に根付いています。

田中氏
 たとえば楽天モバイルのネットワーク展開のアンテナ設置では、本当に泥臭い営業活動や工程管理などに挑んでいます。ワクチンの職域接種でも発揮されましたが、そういったオペレーション部分をしつこく根強くやるカルチャーを持っているのも強みです。

近谷氏
 もちろん楽天グループの70以上のサービスと連携できるのも大きな強みです。

――確かに「楽天◯◯」というサービスはたくさんありますね。

近谷氏
 サービスだけではなく、プロスポーツチームの存在も楽天ならではですよね。

 「楽天モバイルパートナープログラム」では、プロスポーツのスタジアムでも実証実験を実施しているのですが、その点でもスピーディに実現できているんです。

 たとえば11月3日にはノエビアスタジアム神戸で実証実験をしましたが、そこでも企画段階から相談し、サービス要件に最適化したアンテナ設計ができています。

2021年11月に実施された、ノエビアスタジアム神戸での実験の様子

益子氏
 「楽天モバイルパートナープログラム」では、自治体や大学などにも参加いただいていますが、楽天グループはもともと、イノベーションを通じて、人々と社会をエンパワーメントするというミッションに基づいて、そうしたところと包括連携協定を結んでいました。

 これまでの取り組みをベースとしたコミュニケーションができるというのも強みだと思っています。

田中氏
 たとえば神戸市と仙台市はヴィッセル神戸と楽天イーグルスの本拠地もあり、多方面での提携も結んでいるので、コミュニケーションが取りやすいですね。

益子氏
 楽天グループ内にある楽天技術研究所では、いくつかの大学と共同研究も手掛けています。そういったチャネルが今回のプログラムにつながった事例もあります。

――基本的に大規模にテストを展開しようというお考えなのか、あるいは少しずつやっていこうという形式なのでしょうか。

近谷氏
 現時点ですと、4つあるステップの前半、R&D(技術研究)とPoC(概念検証)に注力しようと考えています。

 すでに一部公表もしていますが、私どもの5Gネットワークにパートナーの方の技術を掛け合わせ、実証実験するところから段階的に進めています。

 ひとつやって振り返り、得られた知見をまとめて次に進む、というステップを一歩一歩、踏んでいっています。

――どういった企業や団体からの問い合わせが多いのでしょうか。

近谷氏
 現段階では技術パートナーが多いです。「5Gの社会実装」がそうしたフェーズなのかな、と。参加してくださるパートナーの方としては、「5Gで新しいことにトライしたい」とお考えのところが多いですね。あとは持っている課題を5Gで解決したい企業もいらっしゃいます。

 今後は展開できるタイミングで、さまざまな分野に拡大していきたいと思っています。

どんなプログラムをやってきた?

――公表されている内容ですと、実証実験が実施されたプロジェクトは、スポーツチーム関連の取り組みが多い印象です。

近谷氏
 実証実験には「場所」と「コンテンツ」が必要です。

11月に実施されたノエビアスタジアム神戸でのAR実験のイメージ

 これまでのプログラムの代表例としては、楽天グループと関係の深い、楽天ヴィッセル神戸とノエビアスタジアム神戸、楽天イーグルスと楽天生命パークでの取り組みが挙げられます。

神戸での実験内容
5Gのミリ波およびVPS(Visual Positioning System)技術を活用し、選手情報や試合情報をAR(拡張現実)で表示した。スマートフォン、あるいはスマートグラスでピッチを見ると、Jリーグ公式情報にもとづく選手の情報などがARで表示された。またAR広告を表示し、ネットショッピングの連携も試みた。VPSを用いることで、ARコンテンツをより高い精度で表示することに成功した。

仙台での実験内容
2021年8月、楽天イーグルス(楽天野球団)と、技術パートナーのtoraruのコラボによるファンイベントが開催。リモートで、選手たちが打撃練習をする様子を楽しんだり、現地にいるスタッフを介して選手に質問したりするなど、通信を活用してプロスポーツ選手とファンの絆を深める内容だった。リモートタッチ会と題されたイベントでは、視覚・聴覚に加えて、触れる感触をリモートで伝える機能が用意され、選手とリモートでハイタッチするという近未来感のある交流も図られた。

リモートでの打撃練習見学会

 そうしたプロスポーツチームは、いわば“楽天の家族”で、実験を進める場所もある程度、私どもにとっては、とても交渉しやすいところがあります。

 交渉に関するコストが大きく抑えられることや、消費者・生活者のお客さまにとって身近に感じていただけるということで、プロスポーツチームでの取り組みが多くなっています。

コロナ禍でも負けずにチャレンジ

――実際にスタジアムの混雑緩和やARなどの実証実験を実施してみて遭遇した課題のようなものはありましたか?

近谷氏
 共通する課題は、やはりコロナ禍です。

 スタジアムにお客さまを入れられない状況が長く続いていました。シーズン中に何度も実証実験をやりたかったのですが、観客が入場できるようになったのは2021年シーズンの終盤でしたので……。

 また、コロナ禍でパートナーが一同に会することなく進めるのも難しいところでした。

田中氏
 一般的なプロジェクトと違うので、実証実験で再現性が低く、毎回新しい壁にぶつかることがやはり難しい点ですね。

 そうした中で、パートナーの皆さんも私たちも、「初めてのものを作ろう」と集まった仲間。何かあっても大きなトラブルになるようなことはありませんでしたね。

近谷氏
 私ども、楽天モバイルも携帯キャリアとして参入して間もないので、何事もトライしていく姿勢でやっています。すんなり行かなくても、課題があるのが当たり前、そこは慣れています。

田中氏
 細かいところでは、ノエビアスタジアム神戸で実施したARの実証実験での思い出があります。

 カメラでスタジアムの特徴点を検出してARオブジェクトを表示するVPS技術を使っているのですが、事前にスタジアムを撮影し、点群データを作成する必要があったんですね。

 これが夏の昼間に得た特徴点のデータと、実際のシーズン中では、(明るさの違いなどで)異なるところが出てきて……。

 また、ノエビアスタジアム神戸は天井が開閉するんですよ。

 ということは、「天井が開いているときに取得した点群データが、閉じているときにうまく使えない」ので、開閉スケジュールも踏まえた試験日程や、撮影日程を組む必要がありました。

 遭遇してみると「なるほど」と思える事象であっても、実際にやってみなければわからないことがたくさんあります。そうした要素の調整を乗り越えていったのです。

――そういうときは楽天グループだと何度もデータ収集に行けるのが強みですね。その一方で、パートナーの力で解決した課題のようなものはありましたか?

近谷氏
 たとえば混雑緩和プロジェクトでは、混雑緩和のために、行動をしたユーザーにインセンティブを与えるアイディアは、パートナーの大学側から提案していただいたものでした。

 また、実際のインセンティブの確保や周辺のお店の交渉などもパートナーと分担し、良いものになりましたね。

田中氏
 スタジアム周辺の混雑緩和は、神戸市から助成を受けている公募プロジェクトです。

 混雑緩和による周辺住民の苦情を軽減しつつ、近隣飲食店へ誘導して交通機関の混雑を緩和できないか、という社会課題解決のプロジェクトだったので、そこに地元企業にも入ってもらい、一緒に作り上げていきました。

――実証実験を実施し、「これは成果を得られた」と感じるポイントは?

近谷氏
 ARコンテンツですと、去年も実証実験をやっているのですが、その時はARマーカーを使っていました。そこを今年はVPS技術を使い、マーカーレスに進化させました。
 このように段階的にアップグレードし、検証を重ねてアセットを充実させています。

――AR実証実験は選手や試合の情報、Jリーグ公式データも使っていますが、こういったところを使えるのも、繰り返しになりますが楽天グループの強みと。

近谷氏
 こうしたロケーション・コンテンツで実験したいからと参画しているパートナーもいらっしゃいますね。

田中氏
 「楽天モバイルパートナープログラム」の特徴としては、1対1ではなく、複数のパートナーに入ってもらい、私どもがコーディネーションして場を作り、実証実験などにつなげるという面白さがありますね。

 私たちもスタジアムは借りて運営している立場なので、パートナー同士のアセットを繋ぎ、「プロジェクトに参加しませんか」という仲介をしています。今回のARはノエビアスタジアム神戸ですが、ほかのローケーションパートナーでやりたいとなれば、融通しあって実施します。

――プログラムを進める上で、「ここは大切にしようね」というのはどういったところでしょうか。

田中氏
 WIN-WINの関係になれるように、と考えています。複数のパートナーがいて、その先にエンドユーザーがいて、そのみんながハッピーになれるもの、というのが大前提です。

これからの「楽天モバイルパートナープログラム」が目指すもの

――今後やっていきたいことや、チャレンジしていきたいことはありますか?

近谷氏
 先に「楽天のさまざまなサービスとの連携が強み」とお伝えしましたが、やっぱり複数のサービスを1つのプロダクトに連携する流れが作れれば、と思っています。

 たとえば先日のノエビアスタジアム神戸でのARの実験では、お客さんのスマートフォンの画面からAR映像を表示しつつ、選手のユニフォームを楽天市場で買えるようにしました。

 楽天グループには広告事業もあるので、今後はスマートフォンやスマートグラスから、見ることのできる動く広告とかもあれば、と。

 新しいサービスを立ち上げるだけでなく、楽天にすでにあり、完成されているサービスを包み込んでいくことで、完成度を上げられればと思っています。

田中氏
 ふたつの方向性があるかな、と考えています。

 ひとつはサービス化やビジネス化を目指す方向です。現在はスポーツ分野での実証実験が先行しておりますが、それに加えて、楽天グループが持つ70以上のサービスとも連携していければと思います。

 もうひとつは、これは新しい技術の使命だと思っていますが、社会課題を解決することです。

 この2つを並行してやっていきます。

――なるほど。

田中氏
 パートナーにはアカデミックな機関もいらっしゃいます。

 短期的な取り組みだけではなく、長期的な社会課題を解決するソリューションを考えるようなところも始めています。

 とくに5Gに期待されているロボティクスやテレマティクスは、まだまだチャレンジできる余地がありますので、社会課題を解決するようなことは、今後も取り組んでいきたいですね。

――たとえばメタバースが世間で話題になっていますが、今後はVR(仮想現実)やメタバースの領域にも展開するのでしょうか。

近谷氏
 以前、楽天イーグルスでの取り組みで、VRを活用したこともあり、スポーツとXRは相性が良いと思っています。

 今までは録画した映像をもとにしていましたが、5Gを使って中継することで、その場にいるような体験もできるようになるのではないかと考えています。

――どのようなパートナーが今後参画されることになるでしょうか。

近谷氏
 私どもの社内にも外国籍メンバーがいますが、パートナーとなる機関も国内企業に限らず、海外の企業も受け入れています。国内に限らず参画していただければ、と。

田中氏
 差別化できるロケーションや技術を持っていて、5Gで何かを実現したいという強い思いを持っているパートナーと一緒に、社会を変えていく活動ができればと思っています。

 私どものメンバーも、ビジネス、技術者、研究者とさまざまな分野のエキスパートが揃っています。いろいろなパートナーといろいろなお話をして、強みに応じて座組みを組んでやっていこうというスタンスです。

――ユーザーがもっと楽しく5Gを活用できるプロダクトに期待しています。本日はありがとうございました。