ケータイ用語の基礎知識

第859回:eMBB、URLLC、mMTC とは

5Gが目指す要件

 国際電気通信連合 無線通信部門(ITU-R、ITU Radio communication Sector)は、2020年頃に商用化される「5G」(第5世代の携帯電話向け通信規格)が、現在の4Gと比べ、どのように異なる使われ方になるのか、そのユースケースを想定してきました。そして、さまざまな用途に対応できるよう、5Gでは「eMBB」「URLLC」「mMTC」が要件として定められました。

 「eMBB」はenhanced Mobile Broadband、高速大容量という意味です。「URLLC」はUltra-Reliable and Low Latency Communications、超高信頼低遅延ということになり、「mMTC」はmassive Machine Type Communication、超大量端末といった意味になります。

eMBB、URLLC、mMTCのユースケース

 eMBBが実現すると、どんな使い方が実現できるのでしょうか。たとえば端末との通信速度が高速になることで、従来より高精細な4Kや8Kサイズといった映像をストリーミングで送信できます。また、よりリアルなVR(仮想現実)やAR(拡張現実)などにも使えそうです。

 意外に思われるかもしれませんが、通信速度が高速になると、都心の駅前などで、混雑しがちな通信が解消されることが期待できます。。通信速度が向上し、利用できる周波数帯が増えることで、より多くのデータやユーザーを、余裕をもって処理できるようになります。大容量データの受信にかかる時間も短縮できますし、5G基地局が建てられることで通信品質が改善されるわけです。

 超高信頼低遅延という意味のURLLCが実現されればは、自動運転や遠隔医療、テレイグジスタンスなどへの活用です。たとえば自動運転の場合、道路上で何か発生するとすぐ反応する必要があります。遅延が大きければリスクが高まるわけです。

 mMTCは、IoT時代が今後本格化する中で、携帯電話のネットワークへ接続できる機器がどこに、いくつあってもよいと言えるような状況を提供できるようになります。

5G、商用化の後も進化

 5G最初の標準である3GPP Release 15が公開されても、これらの全てが実現するわけではありません。技術的に5Gとは言っても、OFMDA方式、Massive MIMOなど、すでに4Gで採用されていたり、あるいは4Gと同じ変調方式を使うというように原理的には4Gに近い技術を使用するためです。

 2020年のスタート直後から5Gでは、では新しい周波数帯を使い広い帯域を利用できると見られていますが、それ以外は4Gに近い規格なのです。特に、4Gと5Gの基地局を組み合わせて使う「ノンスタンドアローン」モードでは、たとえば制御信号を4Gで、データ信号を5Gでやり取りするといった可能性があり得ます。データのやり取りは5G本来のスピードが期待できるでしょうが、4Gと同じような遅延が出るかもしれません。

 制御も含め、全て5G基地局で処理する「スタンドアローン」モードであれば、制御も5G本来の性能が出せるはずですが、カバーエリアが狭くなってしまうなど、広いエリアで実現するには、課題があります。

 5Gでは、4Gよりも高い周波数帯に移行することで広い帯域を使って通信することで、より高速なブロードバンドや、低遅延の通信を実現しようとはしています。

 そしてそのために、同じ電波を仮想的に分割し大容量に適した方式で流したり、あるいは低遅延の通信に適した方式で流せるように切り替えられるように「スライシング」というような技術が開発されています。

 また、5Gサービス開始後、次の規格として標準化されるRelease 16以降では、サービスエリアを拡げる仕組みや、非同期通信をサポートできる信号波形の設計、同時に接続する端末数を増やせるよう制御チャネルに工夫するといった仕掛けも必要となるでしょう。

大和 哲

1968年生まれ東京都出身。88年8月、Oh!X(日本ソフトバンク)にて「我ら電脳遊戯民」を執筆。以来、パソコン誌にて初歩のプログラミング、HTML、CGI、インターネットプロトコルなどの解説記事、インターネット関連のQ&A、ゲーム分析記事などを書く。兼業テクニカルライター。ホームページはこちら
(イラスト : 高橋哲史)