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NEC、2020年を見据えた次世代ネットワーク構想を解説

5G商用化やセル仮想化で柔軟なネットワークを

 NECは、記者向けに次世代ネットワークに関する技術戦略の説明会を開催した。

 NECでは、5G技術の商用化や、IoT(Internet of Things)の普及が見込まれる2020年を見据えて、次世代ネットワーク技術構想「Network 2020」を策定し、ホワイトペーパーを公表している。今回、「Network 2020」の具体的な利用例や、そこで用いられる技術について解説した。プレゼンテーションを行ったのは同社次世代無線NWビジネス開発室の田上勝巳氏。

NEC 次世代無線NWビジネス開発室の田上勝巳氏

 田上氏が示した4つの活用例から、次世代通信ネットワークが実現された近未来をみてみよう。

交通制御

交通制御の例

 自動運転車の実現に向けて、自動車メーカー各社やGoogleなどのIT企業が実験を続けている。こうした自動車に設置されたセンサーや信号システムなどが、通信ユニットによりネットワークに接続するだろう。こうした多数のIoTデバイスから情報を吸い上げ、ビックデータの分析により状況を予測してリアルタイムにフィードバックするシステムが実現されるだろう。このためには、超低遅延の通信技術によるリアルタイム通信や、大量のデータを処理して、ネットワークへの負荷を減らす技術が必要となる。

スポーツ中継

エンターテイメントの例

 2020年に開催される東京オリンピックでは4Kや8Kなどの高解像度の映像中継で楽しむことができるだろう。近未来のネットワーク技術を用いれば、スタジアム上に多数設置されたカメラや、選手が身に着けたウェアラブルカメラなどから多数の映像を収集し、視聴者それぞれの好きな選手にスポットを当てた、オリジナルの映像を合成して配信するシステムが実現されるかもしれない。これには、超高解像度映像の配信のためのトラフィック制御や、ユーザーの趣向に応じた映像を選別する技術が求められる。

物流管理

物流管理の例

 物流管理においては、荷物にIoTソリューションを用いたタグをつけ、受取人の在宅情報とあわせて分析することで、荷物1つ1つの現在地情報の表示や、最適な配送計画の実現を目指す。これを実現するためには、膨大な数のID管理や、高精度の位置測定、効率の良いエネルギー利用などが必要とされる。

セキュリティ

セキュリティの例

 これらの技術を実用化することで、今までにも増して重要視されるのがセキュリティに対する取り組みだ。NECでは、個人や企業などのユーザー特性に応じたセキュリティレベルの柔軟な制御と、監視カメラ映像やネットワークログなどをビッグデータとして分析することでセキュリティリスクを検出するシステムを組み合わせて、効率的なセキュリティ管理を目指す。

「Network 2020」を実現するための性能要件

ユースケースの実現のために必要なネットワーク性能要件

 これらのユースケースを実現するために、「Network 2020」のネットワークには、大容量のデータ転送や多数の小規模データの取り扱いといった、さまざまな条件に対応した柔軟なネットワーク構築が求められる。そのために、SDN(Software-Defined Network)やNFV(Network Functions Virtualization)といったネットワーク仮想化技術と、LTE-Advancedや5Gといった通信技術、データ分析などの情報技術を組み合わせて、さまざまな要求に対応できる技術が発展するだろうと見込む。

2020年のICT技術進展予測

「Network 2020」を支える技術

 「Network 2020」では、実際にデータを収集するIoTや携帯電話、パソコンなどにもっとも近い基地局の集合体を第一レイヤー(インフラストラクチャー)とする。それらをサーバーにより仮想化して運用した設備を第二レイヤー、ネットワーク制御やデータ圧縮、解析などの処理を行う。そして、第二レイヤーによって加工された情報を、第三レイヤーでビッグデータ解析などの高度分析技術を用いて集中的に行うことで、データ転送を効率化しつつ高度なサービスを提供する。

「Network 2020」のアーキテクチャ

モバイル・エッジ・コンピューティング

 現在のモバイルネットワークでは、端末から受け取ったデータを全てそのまま転送し、遠くにあるクラウドサーバーで処理する方式が一般的だ。IoTが一般化した近未来では、少量だが膨大であったり、大容量のデータをこれまでより多く扱うため、効率的な処理が必要となる。そのために提案されている手法がモバイル・エッジ・コンピューティング(MEC)である。基地局に送られてくるデータをまずは一次処理サーバーでさばく。ユーザー側に近い場所でのデータ処理を行ってから、より上流のネットワークに送信することで、データ送信の量を減らそうというものだ。

モバイル・エッジ・コンピューティング

 モバイル・エッジ・コンピューティングでは、場所の特性に応じて利用する処理を設定する。例えば、大量のセンサーを管理する工場では、一次的に集約したデータに加工してから送信し、ネットワークの中心側で行う分析処理を効率化する。電車内に設置された監視カメラの例では、営業中の電車の映像データだけを管理センターに送信するように判別処理を行ったり、映像データを圧縮したりといった処理を行う。自動運転車の例では、瞬間ごと変化する状況の判断に、ネットワークの末端にあるエッジネットワークでの処理を行うことによって、人体における脊髄反射のように素早く対処し、衝突の回避などに役立てられる。

サービス特性に応じた処理

基地局の仮想化

 現在の携帯電話ネットワークでは、マクロセルやマイクロセル、ピコセルといった基地局のひとつひとつが単体で電波の出力を制御し、それらを協調して動作させることでネットワークを構築しているが、「Network 2020」では、Cloud-RAN(クラウドRAN)の手法を取り入れる。これは、各基地局がそれぞれ行っていた出力制御などのデジタル処理を、仮想マシン上に集約し、一体的に処理することで、出力制御を柔軟にすることができる手法だ。また、仮想マシン上に統合するため、センターとやり取りするデータ通信量が減り、光回線の容量を節約できる。

クラウドRAN

 仮想化した基地局を複数繋ぎ合わせて協調制御し、必要に応じて分散アンテナネットワークや3Dビームフォーミング、Massive MIMOといった5G技術を組み合わせることで、必要な場所だけに必要な無線リソースを供給可能な、一つの巨大なセルとして運用することができる。

セルの仮想化

超多素子アンテナ

 NECがドコモと、5Gでの実用化に向けて共同実験している要素技術が超多素子アンテナだ。超多素子アンテナは、64個のアンテナ素子を持つ、スモールセル向けのアンテナで、大量のアンテナで素子を制御し、それらの放つ電波を合わせたり打ち消したりすることで、指向性のある電波を送信することができる。

超多素子アンテナの解説

 従来の周波数リソース割り当てにおいては、周波数軸と時間軸で区切られていたのに対して、超多素子アンテナでは、空間軸によるユーザーの振り分けを加えたことで、電波利用の効率を従来の4倍まで高めるという。

会場では超多素子アンテナが展示されていた

石井 徹