ニュース

エリクソン、“グローバルバンド”700MHz帯の世界の動向を解説

 エリクソン・ジャパンは、LTE時代の“グローバルバンド”として注目を集める700MHz帯「APT700」の世界の動向を解説する説明会を開催した。また、エリクソンが9月25日に海外で発表した超小型の無線装置「Radio Dot システム」も披露され、特徴や仕組みが解説された。

700MHz帯はLTE時代の“グローバルバンド”

エリクソン・ジャパン チーフ・テクノロジー・オフィサー(CTO)の藤岡雅宣氏

 同社から「APT700」として解説されたのは、698~806MHzという、700MH帯をめぐる世界各国・地域の動向。世界的にアナログテレビからデジタルテレビに移行する流れが起こっており、周波数利用効率が大幅に向上することから、700MHz帯の“跡地”はどの地域でも今後の利用が注目されている。

 そうした中、アジア太平洋電気通信共同体(APT)は、700MHz帯について、地域で協調が可能な移動通信用の周波数帯の候補に認定し、「APT700」として2011年に策定。3GPPはこの枠の中で、FDD(バンド28)、TDD(バンド44)の2つを立案し、2012年6月に合意している。国や地域により一部は異なるものの、FDDプランでは45MHz幅×2という形になっており、「FDDで、というのが世界の趨勢」としている。

 ITU(国際電気通信連合)では、移動通信の地域として、リージョン1(欧州、中東、アフリカ)、リージョン2(南北アメリカ)、リージョン3(アジア太平洋地域)という3つの地域に分けており、APT700はリージョン3の動向ということになるが、リージョン1の欧州でも最近の標準化作業でAPT700のプランが検討されており、さらにラテンアメリカでも同様の動きが起こっている。APT700の採用を確約・検討する国や地域の人口を合計すると25億人に迫る規模になり、世界の中心的な利用方法になる勢いがある。

 なお、北米では、すでにアメリカでAPT700とは互換性のない形で携帯電話向けの割り当てが行われている(US700)ほか、中国では、700MHz帯の移動通信用の議論は行われていない。

700MHz帯の各国・地域での動向

 説明会に登壇したエリクソン・ジャパン チーフ・テクノロジー・オフィサー(CTO)の藤岡雅宣氏は、ネットワークの性能が、キャリアが抱えるユーザーの満足度に大きく影響を与えているという同社の調査結果を示し、「ロイヤリティを維持するには、パフォーマンスを維持することが重要」とする。また、今後もトラフィックの増加が見込まれることから、パフォーマンスの継続的な向上が重要な課題になると指摘する。また、島国である日本では大きな問題にならないものの、前述の「APT700」のような各国・地域間で協調した周波数帯を用いることは、国境付近での干渉問題を解決する手段になるともした。

 APT700は、日本のキャリアに当てはめると、718~748MHzと773~803MHz、FDDで30MHz幅×2という、KDDI(au)、NTTドコモ、イー・モバイルに割り当てられている周波数が該当する。

 APT700のように、各国で周波数の利用が共通化されると、端末などハードウェア開発などの面で規模の経済によるコスト削減が見込まれるほか、グローバルローミングや相互接続性などの協調した利用がより推進されることが期待される。

1.4GHz帯、3.4~3.6GHz帯の動向も

 藤岡氏からは、「APT700」以外の周波数帯についても、各国の動向が解説された。まず欧州では、1.4GHz帯(1452~1492MHz)が付加下りリンク(SDL:Supplemental DownLink)として策定され、年内に決定する予定となっており、FDDの下り専用として、2.1GHz帯などと組み合わせたキャリアアグリゲーションで利用される。日本ではソフトバンクに割り当てられている周波数帯がまるごと重なるほか、ドコモ、KDDIも一部が重なっている。藤岡氏は、「欧州でSDL対応の端末が出てくるようになれば、日本でも使える可能性は十分にある」としている。

 欧州ではまた、軍など公的機関に割り当てられている帯域のうち、十分に活用されていない帯域を利用する「LSA」(Licensed Shared Access)または「ASA」(Authorized Shared Access)とよばれる概念を検討している。これは、帯域を使わない時間帯を予めデータベースに登録しておくことで、その時間は携帯電話などで利用できるようにする仕組みで、アメリカでも3.5GHz帯において、同様の検討がされている、また、「日本でも2.3GHz帯ではこの話があるかもしれない」としている。

 3.4~3.6GHz帯の動向については、欧州ではTDDかFDDを議論している段階で、3カ国がTDDを表明したものの、そのほかの国がまだ立場を表明していない状況という。この議論は2013年の12月には決定する見込み。なお、3.6~3.8GHzについてはすでにTDDが前提として進められているほか、日本でもTDDでの利用になる見込み。

 このほか、2GHz帯のうち衛星サービス向けに確保されている帯域は、十分に活用されていないことから、欧州や韓国では移動通信を含めた利用方法が検討されており、3GPPでも標準化の検討が始まっている。日本でも総務省で議論がはじまっているという。

 藤岡氏からはさらに、将来の周波数利用についても予測が示された。「2020年までにあと1.5GHz分が必要と言われており、6.5GHz帯あたりまで利用できるよう拡張される」と近い将来はさらに高い周波数帯が利用されるようになるとしたほか、「5Gの時代、2020年以降にもなると、10GHz帯より高い周波数を使っていくことになる。電波の通りも悪く、使いにくい周波数帯で、技術的な課題も多い」とした。

手のひらサイズの屋内用無線機「Radio Dot」

 説明会ではまた、エリクソンが9月25日に海外で発表した小型の無線装置「Radio Dot システム」が解説され、ハードウェアのモックアップも披露された。

「Radio Dot システム」

 藤岡氏は、スマートフォンが普及する時代を迎え、音楽サービスや動画サービスが満足に利用できる“アプリ・カバレッジ”が今後は重要になるとし、音声通話がつながるというエリア構築から一歩進み、屋内においても、十分な容量を備えた装置が重要になっていると指摘する。

 これまでの屋内設備は、天井裏やダクト内で引き回すDAS(同軸漏洩ケーブル)が大半を占め、設置コストが高く、周波数の拡張などの柔軟性に欠けるといった課題があったという。小さなビルはピコセルなどで対応するものの、中~大型のビル向けのソリューションは最適なソリューションが少なく、将来の要求にみあったものにはなっていないとする。

 「Radio Dot システム」は、スモールセルを再定義すると謳う、屋内向けの無線装置。中~大型のビルなど屋内の電波環境を改善するための装置で、壁や天井に簡単に取り付けられるのが特徴。ベースバンドとなる装置はマクロセルと同等で、屋外と同じ環境を屋内にも構築できるという。

 サイズは手のひらに乗る小型サイズで、配線は既存のLANケーブルのみを使い、電源もLANケーブルから供給される。なお、LANケーブルを通してやりとりされる信号は特許を含む独自の規格となる。市販のCAT5以降のLANケーブルを利用でき、CAT6A以降ではケーブル長として最大200mまで対応する。

 「Dot」は、簡単に取り外しできるアンテナ部分と、基盤部分の2つのパーツで構成されており、磁石で固定されている。対応周波数などが変更される場合は、このアンテナ部分を取り替えれば対応できるという。LTEでの利用では2×2 MIMOまでをサポートする。1台で600~800平方mをカバーできる。

 「Dot」は「IRU」(Indoor Radio Unit)と呼ばれる装置にLANケーブルで接続され、初期に出荷される「IRU」では8台まで「Dot」を接続可能。「IRU」が1つのセルとして機能し、配下の最大8台の「Dot」は同じアンテナという扱いになる。「IRU」はさらに「DU」(Digital Unit)と光ケーブルで接続される。「DU」はベースバンドユニットと同じで、ビルの1カ所に集中配備できるほか、屋上設置の基地局がある場合は共用できる。

 「Radio Dot システム」は2014年第2四半期にトライアル提供が開始される見込みで、2014年後半には市場に登場する見込み。すでにAT&TやVerizon Wireless、シンガポールテレコム(SingTel)などが興味を示しているとのことで、藤岡氏は「日本でも話が出てくるのでは」と期待を寄せていた。

太田 亮三