ドコモ決算は減収増益、今秋には「Xi」タブレット投入


 NTTドコモは28日、2010年度(2010年4月~2011年3月)の決算を発表した。同日行われた会見では、同社代表取締役社長の山田隆持氏から昨年度の業績、今年度の取り組み、そして東日本大震災を受けた今後の新たな取り組みについて説明が行われた。

2010年度の業績

ドコモの山田社長
決算概要

 同社の2010年度における業績は、営業収益が4兆2242億円、営業利益が8447億円、当期純利益が4905億円となった。前年度と比べると営業収益は1.4%減、営業利益は1.3%増の減収増益となった。東日本大震災の影響は、多くが2011年度決算にずれ込む。

 2011年度については、営業収益が0.1%、営業利益が0.6%と、ぞれぞれ増加が見込まれており、達成すれば8期ぶりの増収増益になるとのこと。なお、東日本大震災の影響で、約200億円が影響すると見られ、山田社長は、震災がなければ営業利益は8700億円に達するとの見方を示した。今年度には震災対策のほか、引き続き、顧客満足度トップを目指す。特にスマートフォンユーザーのサポート窓口では、現在、電話がつながりにくいため、増強を図る。

 設備投資は、2010年度に約6685億円かけて行われたが、震災により100億円分、2011年度にずれ込む。さらに復旧費用や新たな対策による約300億円を含め、2011年度の設備投資は7050億円に達する。ドコモでは、7000億円を切るレベルでの設備投資を予定しており、2011年度は震災により7000億円を超えるものの、今後は7000億円以下という計画を維持する。

 営業利益については、2012年度に9000億円を超えるという、以前からの計画に変更はない。質疑応答で、震災による下振れの影響を問われた山田氏は「携帯電話は生活必需品となっており、大きな影響はないと見ている。リーマンショックでも、通信業界への影響は少なかった。ありがたいことだが、だからこそ震災のようなときには、頑張らなきゃいけないと思っている」と説明した。

設備投資利益目標

 

オペレーションデータ

割引サービスとバリュープランの利用状況

 オペレーションデータを見ると、基本料を50%割り引くサービスは、全体の8割を超え、同社の収益に与える影響がわずかになってきた。バリュープラン契約数は4000万に達し、契約率は71%となる。

 ARPU(ユーザー1人あたりの収益)については、前年度より5.2%減少し、5070円となった。このうち音声ARPUは2530円(12.8%減)で、パケット通信は2540円(3.7%増)となり、パケットARPUが音声ARPUを上回った。2011年度の目標ARPUは4890円(月々サポートを除くと4940円)で、さらに減少するものの、音声ARPUは2220円(月々サポートを除くと2260円)、パケットARPUは2670円(月々サポートを除くと2680円)で、同社ではさらに通信の利用を促進する。

 ARPU上昇の背景としては、iモード端末ユーザーのうち、シニア層などに向けて行ってきた教室などが効果を上げ、徐々にiモードの利用が促進され、増加の半分程度を占めるという。2011年度は、ARPU増加においてスマートフォンが与える影響が拡大するとのこと。これまではARPUの減少傾向が続いてきたが、山田氏は「現在が一番底。ここから反転上昇したい」と語り、スマートフォンの拡大をてこに、ARPUの増加を達成する意欲を見せた。料金施策については、月額5460円の「パケ・ホーダイ フラット」を選ぶユーザーが、スマートフォン購入希望者の大半を占めるとのことで、パケ・ホーダイ ダブルより525円安い同プランが事実上の値下げになっているとした。

音声ARPUとパケットARPUが逆転ARPUの状況パケットARPUが上昇2010年度はiモード、2011年度はスマートフォンがパケットARPU増に貢献

 

 端末販売数は、前年度比5.6%増の1906万台となった。四半期別に見ると、第1四半期から順に、461万台、463万台、434万台、547万台となる。2011年度は3.9%増の1980万台で、このうちスマートフォンは600万台の販売を目指す。2010年度第1四半期時点では、スマートフォンユーザーのうち女性は19%だったが、第3四半期には36%程度に上昇し、スマートフォンの普及が裏付けられた。今後は、40代以上の層、女性層のさらなる拡大が期待されている。今夏モデルの発売時期は、一部機種において、震災の影響による材料調達に課題があるため、例年より2週間程度ずれ込む見込み。スマートフォンでは、液晶や基板、カメラ、一部チップで調達が難しくなっている。ただ、7月になると回復する見込みで、それまでは代替品でしのぐという。タブレットについては、2011年度に約85万台販売される見込み。

 解約率は0.47%(前年度は0.46%)、純増数は193万件(前年度から45万件、30%増)となった。

総販売数解約率純増数2012年3月末でPDC方式は終了する

 2011年度は、来年度開始予定の携帯端末向けマルチメディア放送の準備が進められる。現在はコンテンツ提供の形を検討中とのこと。震災の影響で、東北では地上デジタルテレビ放送への移行が延期されるという話もあるが、現在は正式な計画が決まっておらず、延期された分、アナログ放送の帯域を利用する携帯マルチメディア放送の開始時期もずれ込むと見られる。

スマートフォン体制を強化。Android中心にシフトサポート体制も強化し、スマートフォンラウンジを各支社にスマートフォン販売は600万台目指す女性比率が上がった

 

秋にXi対応のタブレット、

 新たな通信方式である「LTE」を採用した新サービス「Xi(クロッシィ)」については、2010年度に5万契約を目指していたが、最終的には2.6万契約に留まった。今夏には、予定通り、Xi対応のモバイルWi-Fiルーターを投入するほか、秋にもXi対応のタブレット端末が投入される方針が明らかにされた。Xi開始時には、2011年冬モデルでXi対応スマートフォンが登場するとされていたが、今回は、タブレット投入が明言された。

 こうした取り組みで端末を拡充し、2011年度は、Xi契約数を約100万件にする。ただしXi対応エリアについては、震災で部材の調達などに影響が出ており、2週間程度の遅れが想定されるものの、これまでの計画から大幅な変更はない。今年度中には県庁所在地級都市でエリア拡充を図り、基地局を約5000局、人口カバー率を約20%にする。2011年度は、Xiだけの設備投資に約1000億円かける。

 これらの取り組みを踏まえ、2011年度におけるデータ通信の契約数を約230万件、端末販売数を約130万台に伸ばす。

Xiは100万契約突破を目指し、タブレットも投入エリア拡大計画に変更はないデータ通信の取り組みパケットトラフィック増大にも対応

 

震災対策

新災害対策の基本的な考え方は3本柱
新災害対策にかかる費用

 前日の27日には、NTTグループとして東日本大震災以降の復旧に関する記者会見が行われたこともあり、今回の会見では、復旧そのものよりも、天災への今後の対策の説明に多くの時間が割かれた。

 ドコモが掲げる、新たな災害対策は「重要エリアの確保」「被災エリアへの迅速な対応」「利便性の更なる向上」という3本柱となる。重要エリアの確保は、人口密集地で災害が発生した場合、一部の設備が被災しても通信網全体がダウンしないようにするための取り組み。具体的には、全国約100カ所において、1基地局でカバーする範囲を拡げる“大ゾーン方式”の基地局を新たに設置する。これは、東日本大震災の応急措置でも活用されている手法。通常の基地局とは別に設けられ、各県に2カ所程度、東京では5カ所、大阪では4カ所の設置が予定されている。これにより国内人口の35%程度をカバーできる。大ゾーン方式の基地局では半径7km程度をカバーするとのことで、これは通常の都市部にある基地局と比べ、10倍程度の広さになるとのこと。基地局のバックボーン回線も有線に加えて、無線伝送路を設ける。

 また都道府県庁や市区町村役場において、24時間、通信できるようにするため、発電機(エンジン)設置による無停電化やバッテリー増強を約1900局で行う。災害発生から24時間経てば、緊急連絡が一通り済んで、トラフィック(通信量)が落ち着くことから24時間の稼働を目指す。こうした場所は、災害拠点病院(厚生労働省が指定)も隣接することが多いとのことで、人口の約65%、災害拠点病院の約50%をカバーできる。現在は、発電機を設置した基地局が約400局あり、今後約400局で新設し、計800局で発電機による無停電化を実現する方針。バッテリーの増強による24時間化は、約1100局で導入される予定で、現在は約150局で導入済みとなっており、残り約950局での対応が必要だ。このバッテリーは、重さ約1.5tのものを4つ、それらの設備を入れるための設備が4t、あわせて10tというもので、マンションの屋上にあるような基地局での導入は難しく、自立型鉄塔での導入が主になる。

大ゾーン方式の詳細24時間稼働化の詳細

 被災地での迅速な対応としては、衛星携帯電話の即時提供を行う。今回の震災では約1000台を貸し出したとのことだが、今後は3000台の配備を想定しており、充電器(シガーライターからの充電用)などとセットにする。また、衛星回線を利用する基地局についても、現在は各支社に1台ずつ、計10台という状況だが、今後は19台に倍増する。可搬型装置も新たに24台導入する。山頂のアンテナと基地局を結ぶ伝送路には、非常用としてマイクロ波設備(マイクロエントランス)を100区間で導入する。

避難所用の衛星携帯電話を増やす被災エリアの早期復旧でマイクロ波や衛星を活用

 このほか、27日の会見で明らかにされた災害用音声ファイル型メッセージサービスについても紹介された。電話をかける要領で、繋がらなかった場合にパケット通信で音声を届けるというサービスだが、4月から開始された新サービス「声の宅配便」は回線交換で配信する仕組みである一方、新サービスはパケット通信を利用することから、災害時の高トラフィックな状況下でも利用しやすいと見られる。このほか、2011年夏を目処に、音声認識対応の「音声ガイド災害伝言板アプリ」の開発も行われる予定だ。このほか、SNSと連携した情報発信の活用という方針も示されているが、今回の会見では詳しい説明は行われなかった。

利便性向上策の音声ファイル送信サービスその他の取り組み

【お詫びと訂正 2011/4/28 19:55】
 記事初出時、タイトルで「減収減益」、本文の一部で「増収増益」と記述しておりましたが、正しくは「減収増益」です。お詫びして訂正いたします。

 



(関口 聖)

2011/4/28 19:26