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DeepLのセバスチャンCTOが来日、日本展開と音声翻訳機能の強化を説明

 DeepLは23日、「DeepL Connect: Tokyo」の開催にあわせ、CTOのセバスチャン・エンダーライン氏が来日し、最新テクノロジーと日本市場戦略に関する説明会を実施した。企業向け事業の拡大に注力する同社は、日本を世界で2番目に大きな市場と位置づけており、その姿勢をあらためて示した。

左からDeepL アジア太平洋統括 社長 高山清光氏、DeepL 最高技術責任者 セバスチャン・エンダーライン氏、サイボウズ 執行役員 情報システム本部長 鈴木秀一氏

DeepL、日本市場での展開は次のフェーズへ

 DeepLはこれまで、日本市場をグローバル戦略上の中核と位置づけ、企業向け機能の強化やパートナー連携を進めてきた。今回の説明会では、その方針を再確認しつつ、今後の展開と技術進化に関する取り組みが紹介された。

DeepL アジア太平洋統括 社長 高山清光氏

 企業向けには、セキュリティやID管理、コンプライアンス対応の強化に加え、製造業や法務部門など特定の業種・部門向けソリューションの提供も進めている。日本市場ではシステムインテグレーターとの連携を重視し、API活用によるパートナー支援も強化していくという。

 現在、DeepLの製品は20万社以上に導入されており、日本の自然言語処理(NLP)市場は約2500億円規模と見込まれている。

AI翻訳技術の最前線

 DeepLが展開する「フルスタック言語AIプラットフォーム」の中核には、翻訳精度の高さで定評のある「DeepL翻訳」がある。

 セバスチャンCTOは、2024年11月に発表された「DeepL Voice」を紹介。従来のテキスト翻訳に加え、リモート会議や対面での会話などに対応したリアルタイム音声翻訳を可能にする技術で、企業の多言語コミュニケーション支援を強化する。

DeepL 最高技術責任者(CTO) セバスチャン・エンダーライン氏

 会議では、言語の違いにより約30%の時間が非効率となり、理解度も60%程度にとどまるという研究結果を紹介し、DeepL Voiceがその解決策になると説明した。

 DeepL Voiceには、会議向けの「DeepL Voice for Meetings」と、モバイルでの対面会話に対応する「DeepL Voice for Conversations」の2種類がある。

 今回のアップデートでは、中国語・ウクライナ語・ルーマニア語が音声入力に新たに対応。対応言語は計16言語となり、翻訳キャプションはベトナム語やヘブライ語を含む35言語に広がった。

 また、会議内容の書き起こしや翻訳結果のダウンロード機能も追加され、議事録作成やフォローアップの効率化が図られている。Microsoft Teamsとの連携に対応しており、今後はZoom Meetingsとの統合も予定されている。

Zoom上のDeepL Voice

 さらに、研究開発への投資として、欧州で初めてNVIDIA DGX SuperPODを導入。DeepLのAIモデルは業界特有の表現や各市場の文脈に対応する高度な言語処理を実現しており、DeepL Voiceも企業水準のセキュリティに準拠し、高精度・高品質・プライバシー保護を兼ね備えている。

サイボウズのDeepL導入事例

 説明会では、DeepLを導入しているサイボウズ執行役員の鈴木秀一氏が登壇。同社は、日本を含むアメリカ、ベトナム、中国、マレーシアに拠点を持ち、多様な言語を使う従業員とのコミュニケーションに課題を抱えていた。対応は2022年末から開始され、約半年の準備期間を経て、2023年6月に全社導入されたという。

サイボウズ 執行役員 情報システム本部長 鈴木秀一氏

 導入の理由は主に3点。第一に、セキュリティの高さ。他の翻訳サービスでは入力データが学習に使われるケースもある中で、DeepLはデータの安全性や削除ポリシーを明確にしており、安心して利用できると判断された。第二に、翻訳精度の高さ。自然で業務にそのまま使える品質が評価された。第三に、管理負担の少なさ。情報システム部門の工数をかけずに広く展開できる点が評価された。

 現在は自社サービス「キントーン」と連携し、保存された議事録やミーティング情報を自社開発のプラグインを通じてワンクリックで翻訳。日本語から英語、ベトナム語、中国語、タイ語などに変換し、非日本語話者の理解を支援している。これにより、社内のコミュニケーションは大きく改善されたと語った。

 今後は、「いつでも、どこでも、誰とでも働ける環境」を実現するため、DeepL Voiceを活用し、会議の場における言語の壁をさらに取り払っていく。

質疑応答で見えたDeepLの今後

 質疑応答では、サーバー設置や音声認識のタイムラグなど、幅広い質問が寄せられた。

 セバスチャンCTOは、現時点でサーバーは北欧を中心に展開しているが、「需要に応じてグローバルに拡大する」と説明。日本においては、遅延とデータの所在地要件がサーバー展開の鍵になると述べた。

 音声認識のタイムラグについては、現在のDeepL Voiceが高精度かつ低遅延のテキスト出力に重点を置いていると説明。将来的には音声から音声へのリアルタイム翻訳も視野に入れており、「実現は時間の問題」との見解を示した。

会場ではセバスチャンCTOのプレゼンがDeepL Voiceを使って訳されていた