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ソラコムの新サービス発表会、「生成AIで実現したかった“真のIoT”を実現」へ
2025年7月9日 21:25
ソラコムは9日、OpenAI APIプラットフォームのエンタープライズ契約の締結やIoTデータ分析基盤「SORACOM Query」の正式提供、複数のプロファイルを切り替えられる「SORACOM Connectivity Hypervisor」などを発表した。
IoTソリューションとして、主にIoTデバイス向けの通信サービスを提供している同社だが、生成AIの発展がめざましいなか、IoT技術に通信とAIを取り入れた、新たなソリューションを展開していくという。
OpenAI APIプラットフォームのエンタープライズ契約
「OnenAI APIプラットフォーム」は、OpenAIが提供するプラットフォームで、大規模なシステムへの組み込みを想定したソリューション。強固なセキュリティ対策と高度な管理機能を備えており、APIを通じて生成AIを業務システムや顧客向けサービスに組み込む際に求められる要件に対応している。
ソラコムでは、生成AIの利用ガイドラインを整備した上で全社的に活用を進めてきた。そのなかで、IoTデバイスから取得するセンサーデータの分析や予測、意思決定支援、ロボットへの応用などさまざまなシーンで生成AIが活用できることがわかった。
今回の契約により、生成AIを組み込んだサービス、プロダクト開発を加速させ、安定したプラットフォームを提供できる環境の構築に貢献するという。
IoTデータ分析基盤「SORACOM Query」の正式提供開始
ソラコムは、IoTデータ分析基盤「SORACOM Query」を、7月16日から正式に提供を開始する。同基盤では、ソラコムのSIM状態や通信量、利用料金などの情報や、同社のデータ収集、蓄積サービス「SORACOM Harvest Data」に蓄積された時系列のIoTデータを検索し分析できるサービス。
あわせて、生成AIを活用して、自然言語からSQL(Structured Query Language、データベースを操作する言語)へ変換できる「QueryアシスタントAI」機能を搭載する。
具体的なユースケースとして、同社回線を大規模に運用するユーザーが、SIMの利用状況や通信量などを分析し、運用を最適化するというもの。どの国や地域での運用が多いか? といった統計データの検索から、生成AIを活用し通信料金を削減する(最適化する)方法の提案を受けたりできる。
また、「SORACOM Harvest」に蓄積されたIoTセンサーからのデータログから、異常値を検出したり予兆を分析したりもできる。各地に設置したIoTデバイスの電圧センサーのログを分析して、特定の傾向や異常の兆候を分析する、といったことが、専門知識がなくてもできるようになる。
複数のプロファイルを入れ替えられる「SORACOM Connectivity Hypervisor」
「SORACOM Connectivity Hypervisor」は、1つのSIMにソラコム回線のプロファイルと、ほかの事業者を含むプロファイルの2つを導入できる機能。eSIMや組み込み型のSIMであっても、電源を投入した瞬間にソラコム回線でネットワークに接続し、ソラコム回線経由で2つ目のプロファイルの追加や切り替えができる。
たとえば、同一のデバイスをさまざまな国や地域で運用する場合、運用する場所でデバイスを立ち上げると、その国に応じたプロファイルを追加できたり切り替えたりできる。また、同じ通信モジュールを別々のデバイスに組み込んだ場合、デバイスや国に応じて「音声対応プロファイル」や「大容量通信プロファイル」など回線を切り替えて運用できる。
国によって、利用できる回線に制約があったり、通信用途に幅があったりする場合でも、地域や用途に応じて動的にプロファイルを切り替えられるようになる。
加えて、通信品質の劣化などに備えて、あらかじめソラコム回線のプロファイルをバックアップ回線として登録しておけば、自動でプロファイルを切り替えて、通信が継続できる運用にもできる。
今回の機能は、トヨタ自動車など自動車会社や通信会社が参加するコンソーシアム「AECC(Automotive Edge Computing Consortium)」において、コネクテッドカーの安定したネットワーク接続の維持と柔軟な通信制御を実現するための実証が進められており、コネクテッドカーへの活用が期待されている。
同機能は、2025年度内に提供を開始するとしており、対応する通信事業者の拡大を進めている。
生成AIで「真のIoTを実現できるためのピースが揃った」
同社の2025年3月期の売上高は89億円で契約回線数は700万回線。グローバル売上比率は41.8%となり、代表取締役社長CEOの玉川憲氏は「日本のIT通信プラットフォームとしては非常に珍しい、ソラコムぐらいしかいないと思っている」とアピールする。また、5月には丸紅との戦略的協業が発表され、丸紅のMVNO事業の子会社化を実施する。
一方、近年発展がめまぐるしい“生成AI”への取り組みも進めており、東京大学の松尾研究所との合同プロジェクトのほか、ソラコムのさまざまなソリューションへの展開も実施。たとえば、カメラデバイス「ソラカメ」と生成AIによる分析機能を備えた「SORACOM Flux」を組み合わせると、倉庫の不正侵入者検知や、スーパーなどでの売り場の在庫状況確認を自動化し、省人化、自動化を進めている事例がある。
玉川氏は「生成AIの劇的な進化で、我々が当初描いていた“IoTの世界観”が実現できる。現実世界のデータがAIによって価値に変わっていく時代になった」とコメント。ユーザーからは「ソラコムのソリューションでIoTデータを収集できるようになったが、活用方法が限定的だ」という声もあるといい、これまでIoTデータを上手く活用できずに“IoT化をあきらめていたユーザー”にも、生成AIにより価値を見いだせるようになっていくと話した。
最高技術責任者兼CEO of Americasの安川健太氏も、生成AIの発展で「真のIoTを実現できるためのピースが揃った」とコメント。同社のIoTプラットフォームに生成AIが繋がることで、安川氏が唱える“真のIoTのビジョン”に近づくと語る。
そのなかで、同社の“10年の節目”をきっかけに、新たなプラットフォーム戦略を定めた。新たなビジョンは「Making Things Happen for a world that works together」。モノや人が通信で繋がるという基本的なコンセプトはそのままに、クラウドやAIなどの技術を誰もが使えるようにして世界を良くするといったビジョンになると玉川氏は説明する。
このビジョンに沿って、新たな戦略として「リアルワールドAIプラットフォーム」を発表。これは、現実世界のすべてをAIに繋ぐことで、よりよい未来の創造を目指すもの。具体的には、AIがソラコムのさまざまな機能やリソースをAPI経由で利用できるMCPサーバーの提供を実施。生成AIが、回線情報を照会し「ソラコム回線の最適化」の提案ができるようになるなど、さまざまなシーンで活用できるようになる。
幅広いソリューションで通信のニーズも変化
ソラコムのソリューションは、さまざまな企業の現場で取り入れられている。たとえば、JR東日本情報システムの事例では、IoTで無人駅などでも遠隔で操作できる駅の発車標を開発し、リアルタイムの遅延情報を提供する。また、ハンシン建設では、高齢化と人材不足のなかで熟練オペレーターの技術を、IoTセンサーからのデータを蓄積することで作業内容を可視化し、技術の継承を目指す取り組みを進めている。
さまざまなソリューションが展開されるなか、通信容量のニーズも変化しているとCEO of Japanの齋藤洋徳氏は話す。IoTデバイス向けでは、これまで低容量帯が中心のイメージだったが、近年はリアルタイムの画像解析など大容量のデータを即時アップロードする場面も増えてきている。齋藤氏はこれらのニーズもくみ取り「テラバイトのデータにも対応できるプランの準備も進めている」と明かす。
また、組み込み型SIM(eSIMやiSIMなど)について、製品の試験段階における通信を0円にする「テストモード」を導入する。製造後にテストし、在庫保管する段階までのSIMの保持コストを0円にすることで、ユーザーのコスト不安を解消できるという。
ソラコムが手がけてきたIoTの10年間でも、技術が進化するとともに、ユーザーのニーズにも変化が生じてきた。同社では、10年間に培った経験と技術の進歩を織り交ぜながら、ユーザーのニーズの変化を捉えた「現実とAIが融合する未来」を創造していくことを目指していく。

























































