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「安倍首相の鶴の一声」はどうなる? 総務省で議論スタート
(2015/10/19 16:14)
19日、総務省で「携帯電話の料金その他の提供条件に関するタスクフォース」の第1回会合が開催された。9月、安倍晋三総理大臣から高市早苗総務大臣に対して、携帯電話料金の引き下げを検討するよう、経済財政諮問会議で指示があったことを受けて、急遽設立された会合で、第1回はこれまでを振り返り、現状の課題を洗い出そうとする内容となった。
会合の構成員は、新美育文 明治大学法学部教授(会合主査)、平野晋 中央大学総合政策学部教授(主査代理)、全国地域婦人団体連絡協議会事務局長の長田三紀氏、野村総合研究所(NRI)上席コンサルタントの北俊一氏、舟田正之 立教大学名誉教授、弁護士の森亮二氏、相田仁 東京大学大学院工学系研究科教授の6名。
太田補佐官「透明性と公平性の議論を」
会合の冒頭、太田直樹 総務大臣補佐官が議論して欲しいポイントとして「透明性」と「公平性」を挙げた。
太田氏
「安倍総理の指示があって急遽検討することになった。この10年、通信料金が家計に占める割合は2割ほど上がったのは事実。確認したいのは『高くなったから安くする』という単純な話ではない。
ショップで携帯電話を購入する際も、ユーザーに対して利便性を提案しているとは思うが、端末や料金、サービスの選択など、正直、複雑だ。請求書も何にいくら払っているか、よくわからないところがある。どれだけの対価を払っているかわかる仕組みが、業界としてなんとか作れないか。透明性が1つのポイント。
もう1つは、よく言われるが頻繁に買い替える人に莫大なマーケティングコストが費やされていて、誰かが肩代わりしているということ。長期間買い替えない人が負担しているのではないか。ここは公平性がポイントになる。利用者から見て、透明性、公平性がきちっととれたものか、軸を置いて検討してほしい」
また第1回会合の直前には、菅義偉 官房長官が定例の記者会見において「携帯大手3社が似たような料金設定をしており、特にライトユーザーに沿ったプランになっていないのではないか、と国民の皆さんが感じているのでは」とコメントしている。
「MNP、場合によっては機種変よりも12万円も安い」
第1回会合とあって、総務省側からは、これまでの流れがざっと紹介される。たとえば2007年のモバイルビジネス研究会での議論(※関連記事)とその後導入された分離プラン(端末代と通信料を分けるプラン)などだ。
そうした振り返りや現状の紹介のなかで、細かく具体的な例が挙げられたのが、携帯電話代金の割引額だ。事務局からは、各キャリアでiPhone 6s、Xperia Z4などを購入した場合の事例が示されており「MNP(携帯電話番号ポータビリティ)のほうが割引額が多い。場合によっては端末代以上の割引になることもある。機種変更と比べ、MNPの割引額が12万円も多いことがある」と説明があった。
このほか“格安スマホ”などと注目を浴びるMVNOについては、現在の契約数が326万件に達し、増加傾向にあるものの、携帯電話市場全体で見るとまだ2.1%に過ぎない規模と紹介された。
NRI北氏の指摘
議論に入る前、NRIの北氏からは、あらためて日本の現状、そして海外の動向が紹介される。同氏は、「過度な端末の安売り競争が進んだ背景にはキャリアの同質化、土管化がある」「2014年4月以降、キャッシュバックはピークを過ぎたが、今も一部店舗で、商品券の還元、〇万円のおトク、と表現を変えて実施されている」「抱き合わせ的に、キャリアではなく店舗独自のアプリが販売され、解約し忘れで過剰な支払いが発生しているのではないか」と指摘する。
海外の事例としては英国のEE(Everything Everywhere)や米国のVerizon Wirelessのプランが挙げられた。EEでは、通信量、月額利用料、端末代の初期支払い額といった項目をユーザーが組み合わせられるようになっている。たとえば1カ月あたり10GBのプランで、端末代が「99.99ポンド(1万8400円)」「29.99ポンド(5500円)」のどちらかを選べる。ここで安い方を選ぶと、月額利用料が5ポンド高いプランしか選べず、24カ月の期間拘束が付く。北氏は「英国も細かく料金は変わっており、日本と同じく端末と回線が分離されていないが、日本よりも公平」と評する。
米国Verizonでは、端末代は割賦と一括払いの金額が示され、通信料が1GBで30ドル、3GBで45ドル、12GBで80ドルなどと細かくラインアップされており、「現地の代理店関係者に聞いてもキャンペーンらしいキャンペーンがなく、端末割引はメーカーがおそらく原資を出している。端末割引はなく、シンプルさを特徴にしてユーザーを獲得しようとしている」とコメント。
一方、日本のサービスについては、「海外に行けばわかるがダントツの品質。店舗数も各社2400~2500店ほどあり、各地でスタッフの雇用もある」と評価し、設備競争を減らす方向に舵を切って品質低下を招いてはいけない、とする。今後の議論として、「『端末と回線を再度分離して端末代は上がるが、通信料が安くなり、MVNOの普及を促進する世界』と『端末と回線を一体的に扱い、通信料はある程度高いが端末を安く買える世界』のどちらを選択するのか」と問いかけつつ、「解はイチゼロではない。規制するとどちらかになる。奨励金自体はどの業界にも存在するもの。行き過ぎを是正して奨励金の削減分を、ライトユーザー充当することが自主的にできればいいのでは」とし、不公平な環境を正す方向を示す。
「iPhoneが優遇されるのはなぜ」
北氏が不公平感の是正が必要と語る中で、不公平性の具体的な例として「音声/通信のライトユーザーとヘビーユーザー」「MNP、新規、機種変更のユーザー」とともに「iPhoneと他の機種」が挙げられる。これは、iPhoneだけ通信量のボーナスが用意されるというもの。
構成員による議論がはじまって早々、メンバーの1人である平野教授が「なぜiPhoneとの違いが出てくるのか」と問いかけるも、北氏は「私からは回答できない」として、サービスを提供する携帯電話会社へのヒアリングで、質問項目に含めるよう求めた。
「ライトユーザーがMVNOに出会えるように」
全国地域婦人団体連絡協議会の長田氏は、「MVNOを選ぶべきライトユーザーがMVNOに出会えていない。そのあたりをまず見直して欲しい」と要望。また携帯各社のキャンペーンや端末の実質負担額に関するキャンペーンが「今、買い替えないと損をするのではないかと思ってしまう。ユーザーが必要なときに、必要な端末を普通に選ぶ。端末を買い替えない人に負担させないような仕組みを今回獲得したいと強く思っている」と述べ、端末買い替えに関する不公平性の解消も、最終的な成果として求めていく考えを示す。
弁護士の森亮二氏は、「自由化していたものを直接、規制するのはよろしくない。今日の話では、特にMVNOを中心とした競争の促進、という方法かなと感じた」と語る。一方で、座長としての役割を果たす新美教授は「規制官庁が消費者などの動向を見ながら、というのも1つのオプション」と述べる。
今後の会合では、携帯電話各社やMVNO、全国消費生活相談員協会から意見を聴取する。