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「NTTセット割」「規制は維持」――何を論ずべき?
2020-ICT基盤政策特別部会が本格スタート、これまでの流れを振り返る
(2014/4/15 09:00)
2020年代に向けた情報通信政策の在り方に関する議論が活発化しつつある。
総務省の「情報通信審議会」に設置された「2020-ICT基盤政策特別部会」が専門的な事項を調査するために設けた「基本政策委員会」(※PDF:総務省資料 委員会の設置)では、委員たち(名簿、PDF)に向け、<2020年代に向けた情報通信の発展の動向を見据えた上での時代に即した電気通信事業の在り方の検討に資する観点>から、関係事業者・団体などに公開ヒアリング(ヒアリング概要のPDF)が始まっている。第1回は、既報のとおり4月8日(火)に行われ、第2回は4月15日(火)、第3回は4月22日(火)を予定している。対象となる事業者・団体は以下のとおり。
4月8日
- ケイ・オプティコム
- ソネット
- DSL事業者協議会
- 日本通信
- UQコミュニケーションズ
4月15日
- NTT(持株)
- NTTドコモ
- KDDI
- ソフトバンク
4月22日
- ジュピターテレコム
- 日本ケーブルテレビ連盟
- 日本インターネットプロバイダー協会
- 徳島県知事(全国知事会情報化推進プロジェクトチームリーダー)
- イー・アクセス
- ティーガイア
- テレコムサービス協会
- 情報通信ネットワーク産業協会
KDDI、ソフトバンクらが危惧する「NTTセット割」
この公開ヒヤリングに先立って、KDDI、ソフトバンク、イー・アクセスら65事業者・団体は、NTT独占回帰につながる政策見直しに反対する連盟要望書を新藤義孝総務大臣に提出した(※参考記事)。
その内容は、<NTTグループの支配力は依然と大きいにも係わらず、複数の報道によれば、総務省はNTTグループに対する規制を緩和する方向で検討を始めたとされている。具体的議論が進む前に、議論の方向性が決まっているとすれば、極めて問題>で、<上記審議会及び特別部会、基本製作委員会での具体的議論が進む前に、議論の方向性が決まっているとすれば、審議会制度自体を蔑ろにするものであり、極めて問題がある>というもの。会見を行ったイー・アクセス、KDDI、ソフトバンク(五十音順)各社の渉外担当者は、先行する報道で世論醸成されてしまうことに違和感を隠さなかった。
その報道とは、2月ころから出始めているもの。口火を切ったのは日経新聞で、2月10日に「総務省、NTT『セット割引』解禁を検討 シェア低下で見直し」の見出しで、総務省で始まった議論を紹介し、<通信各社の意向も踏まえて今年11月をめどに見直し案をまとめ、2015年の通常国会に電気通信事業法の改正案を提出する。法改正後は、これまで禁止されていたNTT東西とドコモによる『一体営業』の一部が認められる>と、踏み込んだ表現で報道。また2月17日の社説では、NTT分割の際に固定通信と移動体通信の事業を明確に区分しているが、海外では同じ事業者が両方を提供していることを引き合いにしたうえで、<規制が固定と携帯との融合を阻んでいる面もある。KDDIには固定と携帯を一括契約すれば料金割引があるが、最も顧客数の多いNTTドコモにはそうした契約が認められていない。ドコモの支配力が高かった時代の非対称規制であり、携帯大手が3社に集約された今、見直す余地があろう>と主張。<日本では定額の携帯データ通信端末が登場したことで何でも携帯網ですます風潮があり、せっかく整備した光回線の契約を解約する例もある。有限の電波を無駄使いしないためにはなるべく固定回線を使い、端末との接続部分にだけ無線を使うといった工夫が必要>と、ユーザーに向けた利用提案も行っていた。さらに3月20日朝刊では、「ドコモに支配力なし」との見出しをつけ、ここ10年でPHSを含む携帯電話市場でのシェアが約55%から40%近くに低下したことから、<「ドコモにはもはや支配力はない」。総務省幹部からこんな声が漏れるようになった>と伝えた。こうした総務省の空気感が広がることを恐れたため上述の要望書に至ったようだ。
この件について本誌では、まずドコモの渉外担当者を取材し、その主張をお伝えした。記事では、各携帯電話事業者の差別化が困難になっているなかで、電気通信事業法30条第3項に挙げられている事前規制が足かせになっているとして、
- ・NTT東西とのセット割が実現できない
- ・MVNOのサービス多様化を阻んでいる
- ・異業種、ベンチャーとの協業の際に子会社化などが必要
などを例示していることを紹介した。また移動体通信ではグローバルプレーヤーが台頭し、国内企業(とくに端末メーカー)が苦戦していること、OTT(Over The Top 通信事業者などのインフラによって実現されているインターネット上で事業を行うサービスや事業者のこと)の存在感が増して土管化(ダムパイプ化)が進むため、設備投資や研究開発などが鈍ることを懸念しているとする。
さらにKDDIやソフトバンクの競争力は増してシェアが上がっていること、グループごとに見ると電波の割り当てではソフトバンクとイー・モバイルがもっとも多く割り当てられていることなどを挙げながら、いまの事前規制の対象が現在のままでの良いかという主張も触れた。(※同記事で引用している総務省の資料は、「情報通信審議会 2020-ICT基盤政策特別部会 基本政策委員会」の第1回の配布資料 1-6)
筆者もこの取材に同席し、脇本氏の話を聞いたが、その中で同氏は「グローバルプレーヤーやOTTの存在が大きくなるなど移動体通信の分野では競争環境が変わってきているなかで、ドコモは新規分野で1兆円規模の市場を創出したいとチャレンジしています。こうした状況を考えるなら、(上記資料で引用したような)従来の議論を繰り返すのではなく現状に即した議論をする必要ではないか」との立場も示している。この点は、安倍内閣が2013年6月に閣議決定した「日本再興計画」にある「日本産業再興プラン」の「世界最高水準のIT社会の実現」に向け、<圧倒的に速く、限りなく安く、多様なサービスを提供可能でオープンな通信インフラを有線・無線の両面で我が国に整備>するため<情報通信分野における競争政策の更なる推進>すること、そして<電気通信事業法等の具体的な制度見直し等の方向性について、来年中(※引用注:2014年)に結論を得る>とのコンテクストに沿っているように見える。
ひとまずNTTへの規制維持を訴えた競合他社
一方、これまで取材したKDDIやソフトバンクは、従来の電気通信行政の一貫した規制緩和の流れを主張の骨子にしている。たとえばソフトバンクの嶋氏は、<(ドコモが求める)規制緩和は、言葉だけ見れば良いことのように思う人がいるかもしれない。しかしNTTグループは、かつて通信市場を独占し、それでは市場が発展しないということで規制をかけて、競争を促進してきた。今もNTTグループはFTTH(家庭向け光ファイバー)市場で7割のシェアを持ち、NTTドコモも携帯電話市場で45%のシェアを占める。2位が追い上げたといってもまだ10%も差があり、ようやく背中が見えてきたかな、という段階。海外、特に先進国では旧国営企業がシェア1位のままということはない>と、固定通信も含めた状況を見ればNTTグループの独占回帰につながりかねないと声を荒らげて主張する。
このほかKDDIは、総務省と公正取引委員会が2012年4月27日に示した共同ガイドライン「電気通信事業分野における競争促進に関する指針」(PDF)に電気通信事業法上問題となる行為の例として<自己の関係事業者(=NTTグループ内の企業)のサービスを排他的に組み合わせた割引サービスの提供を行うこと>(P.036 「II 独占禁止法又は電気通信事業法上問題となる行為」の「第3 電気通信役務の提供に関連する分野」の「(2)セット提供に係る行為」にある「イ 電気通信事業法上問題となる行為」の例示)を挙げて、NTTグループのセット割が解禁になることについて懸念を示していた。
KDDIによると、競争の成果として、『フレッツ 光』の料金がNTT東日本は6720円、NTT西日本は6930円(※ともに『フレッツ 光 ネクスト』、ISPはOCN)だったのに対し、KDDIが2008年10月から『ギガ得プラン』を始めたことで高速化や料金低廉化が進み、2013年4月に始まったソネットの『nuro(ニューロ)』は最大2Gbpsが4980円になった例、『フレッツ 光』もNTT東日本では「思いっきり割」が4830円(※)まで下がった例を紹介している。移動体通信では、auが「ダブル定額」(それまで月額4200円だった定額制「EZフラット」を2段階制にすることで幅広いユーザーがパケット通信を利用できるようになった「ダブル定額」を導入したことで、料金やサービス競争が進展したこと、Google、Facebook、Skype、LINEなどのOTTとの連携を進めることで、ユーザーに利便性をはかりつつ、新しい市場を作ったことをアピールしている。
※NTT東日本 『フレッツ 光 ネクスト』(思いっきり割、2年割、フレッツ光メンバーズクラブマンスリーポイント):3675円、ISPはOCN2年割:1155円)の場合
イー・モバイルについては、6月以降に「Y!mobile(ワイモバイル)」としてサービスを提供するため、4月22日の公開ヒヤリングで踏み込んだ主張をするとネタバレになるであろうことから、目立った主張は出てこないと思われる。けれど従来の通信事業者とは異なる“インターネットキャリア”を標榜しているだけに、今回の議論にも影響を与えることも考えられる。
禁止行為継続を求める動きは……
移動体通信に注目すると、ドコモへの禁止行為規制は現状に則さないのではないかとの見方が浮き彫りになる。しかし固定通信も含めて考えると、通信行政が進めてきた、あるいは日本のさまざまな場面で進められてきた規制緩和の流れに対し、KDDIやソフトバンクらが求める規制維持の要望は、緩和に逆行するとの見方も説得力を持ってくる。一言でいえば、双方の主張、議論が噛み合っていないというのがこれまでの状況だ。
ただ、これは当然のことで総務省が示している検討スケジュール(PDF)によれば、9月に「基本政策委員会」の報告書案をまとめ、11月に報告書を「2020-ICT基盤政策特別部会」、そして「情報通信審議会」に送り、同審議会が総務大臣に答申する。現在は、委員に向けてさまざまな論点を出していく過程にあるからだ。
今の環境を振り返る
いまのところの報道は、「セット割」解禁の是非、ドコモへの禁止行為規制の廃止/継続など通信各社の主張を基した部分に焦点があたっているが、今後の検討に向けた意見として、2月3日(月)の第31回 情報通信審議会、2月26日(水)の第1回 2020-ICT基盤政策特別部会、3月11日(火)の第1回基本政策委員会で、
- 2020年代に向けた情報通信の展望
- 情報通信基盤を利用する産業の競争力強化のための電気通信事業の在り方―世界一ビジネスがやりやすいICT基盤の提供―
- 情報通信基盤の利用機会の確保や安心・安全の確保のための電気通信事業の在り方―世界に誇れるICTを利用しやすい国に―
と3つに大別して総務省がまとめている(PDF)。詳細は割愛するが、筆者は、
- 現在の携帯市場はユーザーの囲い込み競争ばかりが激しく、サービスの向上という点で競争しているのか疑問(2.の〔1〕)ICT基盤を担う事業者感の競争の在り方の5)
- 今の競争は、新規ユーザーに対しては割引やキャッシュバックばかりがみられる一方で、長期契約ユーザーに対しては協調的寡占の色彩が強いという2つの側面がある(2.の〔1〕の7)
- キャッシュバックは、利用者が得をしているように見えて、結局高い通信料金が原資となっている。その一方で、通信キャリアは高い収益をあげている点はよく考えることが必要(2.の〔2〕ICT基盤の料金・サービスの在り方の7)
といったあたりは幅広いユーザーが素朴に感じている感覚だろうと思う。また今後の移動体通信を取り巻く環境を考えると、
- これまで、固定はサービスベースの競争、モバイルは設備ベースの競争が行われる中で、それぞれの競争を促進してきたが、今の時代は、固定とモバイルを総合的に考察することが必要(2.の〔1〕の11)
- 国内の政策であっても対象となる事業者はグローバルな展開をしているため、グローバルな視点を念頭に入れて議論すべき(1.の〔3〕ICTの国際展開の4)
などの点や、医療・教育・行政といった幅広い分野でICTの利活用が進むことを期待したい。またICTの安心・安全の確保やICTの利用機会の確保の面も疎かにしていただきたくない重要な部分だ。
NRIの北氏が指摘、「2013年度だけでMNPに3400億円が費やされた」
議論の流れを考える補助線としてご紹介しておきたいのは、3月27日(木)の第2回会合に有識者として参加した野村総合研究所の北 俊一氏によるプレゼンテーション「移動通信市場の現状と展望」だ(資料、PDF)。北氏は「現状の通信市場の歪みは酷く、これをなんとかしないと先にも行けない。(中略)これから2020年くらいまでの見通せる範囲内で、ある課題を解決することがその先の発展にもつながるであろうことを抽出した」という問題意識で資料をまとめ、これから7年後(2020年)を見通す前に、過去に7年前を振り返るというところから始めている。
これまで2006年の「ICT国際競争力懇談会」、2007年の「モバイルビジネス研究会」、2008年の「モバイルプラットフォーム研究会」(通信プラットフォーム研究会)、2010年の「光の道」(グローバル時代におけるICT政策に関するタスクフォースの光の道ワーキンググループ)の委員として議論に参加してきたが、「なんということをしてきたのか、反省の色は隠せない」として7年間を振り返った。
以下は資料に沿った北氏の分析だ。まず現在、安倍内閣の官房長官である菅義偉氏が総務大臣時代に開かれた「ICT国際競争力懇談会」では、その当時の日本は世界一ブロードバンドが速くて安く、携帯電話もこの時点では先進的なサービスを行っていたが、世界の携帯電話市場が約10億台あるなかで、日本の携帯電話メーカーのシェアは約5000万台の約5%に留まっていた。これを自動車産業のように強くしたいとの思いから、携帯電話事業者の垂直統合型のビジネスモデルにメスを入れ、パソコンのような水平分業型に移す政策が実施された。この政策が見事に「成功」し、スマートフォンシフトなどの動きも相まって、気が付くと日本の通信事業者は土管化し、そこに入ってきたのは米国発のグローバルプレーヤーばかり。プレゼンテーションが行われた前日の試算で、Appleは約50兆円、Googleは約40兆円、AmazonとFacebookは約16兆円もの時価総額になるほど巨大なプレーヤーに成長し、彼らが次の新しいイノベーションの芽を自ら育てながら、新しい企業を買収していて、この流れに日本も巻き込まれている。
こうしたOTTプレーヤーは、自ら通信インフラを持っていないため、規制の縛りを受けないのが特徴で、とくに米国のプレーヤーは法的にギリギリのものはセーフということでやってしまう。こういうプレーヤーと伍していくには、キャリアもちろん日本のプレーヤーが誰もが柔軟性をもってスピード感をもって戦える環境を整えるべきとする。そして「規制は最小限、基本的に規制は事後的に。その代わり、罰則は強烈に」というやり方が必要との考えを示した。
また固定と移動の垣根がほぼなくなくなり、映像、固定電話、固定ブロードバンドの3つを束ねて提供するトリプルプレイがトレンドで、これにモバイルを加えたクワドロプレイと“4つ”もっていないと戦えないというのが日本を始めとした世界的な趨勢と紹介した。上図では、ドコモの固定ブロードバンドと固定電話に×があるからといってフレッツとのセット販売をやりましょう、やるべきではないというレベルの話をするのではなく、諸外国では珍しくなっている固定単体、移動単体のプレーヤーを存続させるのかであり、固定通信と移動体通信の両方ともトップシェアで持っているNTTグループの特殊性を指摘した上で、結局はNTT東西の持つボトルネック設備の光ファイバーのシェア70%超をどう考えるかが、議論のポイントであろうと指摘。今後、トリプルプレイやクワドロプレイになると、ユーザーが乗り換える際にキャッシュバック競争が激しくなることを強く懸念した。
キャッシュバックについては、非常に大胆で大雑把な想定と前置きしたうえで、2013年の1年間で550万件のMNP(携帯電話番号ポータビリティ)の利用があり、仮に1件5万円、MNPした人への毎月の割引(いわゆる月々割)を含めると、3400億円程度がMNPをした人だけに使われていると試算。これを全携帯電話ユーザー(約1億2000万契約)に還元すると、約5%の契約者のために、95%の契約者が2800円ずつを出し合っている状況とする。これは政策的に防ぎ、縮減した分は、長期契約者へ還元されるなど多様な料金プランが出てくるべき、とした。
このほか委員からの質問に答える形で、日本の3大キャリアはそれぞれクリエーターを目指しているが、4G(第4世代移動通信システム)の公開ヒヤリングでの各社の発言から、ドコモは、“ネットワークを自らが整備し、外部のプレーヤーと組んでサービスも創造”し、ソフトバンクは“世界で最も速くて安いインフラを提供し、その上で世界中のベンチャーに新しいサービスを提供”、KDDIは“「KDDI∞Labo」を作って資金やノウハウをベンチャーに提供し、その中で面白いものができたら「auスマートパス」で展開”させているなど、その方法の違いを紹介した。また通信事業者とOTTが連携として、AmazonとAT&T、FacebookとSingTelの例を紹介。AT&Tは、AmazonのKindleユーザー向けにQoS(Quality of Service、特定の通信のための帯域を設け、一定の通信品質を保証するもの)を担保し、電子書籍を読んだりダウンロードしたりする体験を高めていること、SingTelは月々約8~10ドルの「Facebookプラン」(プリペイド)を設け、Facebookに限って使い放題にしているとして、こうした協業の動きに対して、足かせになるような規制があることは望ましくないとしている。
縁遠く感じる法規制の話、でも……
以上、この件の大まかな流れを、できうる限り引用元を明らかにしたうえで、ご紹介した。今回の委員会の報告書案が固まる9月までの間に各委員の間で活発な議論が行われることを期待するが、読者の皆さんのケータイ生活に直結する話でもあるため、強い関心を持っていただくと共に、今後機会が設けられるはずなので、総務省への意見を送るなどして議論に参加してみてはいかがだろう? 筆者としては、せめて公開ヒヤリングに参加する各社の方々には、ICTを利用した社会像を具体的に示し、そこから議論が発展するような主張がされることを願っている。
今後も、この件については、ご報告していく予定だ。