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楽天テクノロジーカンファレンス2024で三木谷氏が語ったこれからのAI

 楽天グループは、11月16日、国内外のテックリーダーやエンジニア、研究者が集まり、セッションや議論を通してテクノロジーの可能性を考えるテクノロジーイベント「楽天テクノロジーカンファレンス(Rakuten Technology Conference)2024」を開催した。

 16回目となる今回は、「AI-nization 4.all」をテーマとし、AIをはじめとするテクノロジーがもたらす変革の可能性について、さまざまなトークセッションが行われた。

 本稿では、楽天グループ株式会社 代表取締役兼社長 最高執行役員の三木谷浩史氏がスピーカーとなった、基調講演の内容について紹介していく。

三木谷氏が語る「AIの変革力」

 楽天テクノロジーカンファレンス2024のテーマである「AI-nization 4.all」は、“AI化”を表す造語である「AI-nization」を楽天がさらに推し進め、「4(for).all」、つまりあらゆる人々がAIを活用できる「AIの民主化」を目指していることを表している。

 基調講演で三木谷氏は、AIの変革力、社会に革命を起こすAIの可能性について強調。また、楽天グループが注力するモバイル事業の将来について、オープンソースソフトウェアと、クラウドコンピューティングの重要性について改めて主張する。

 生成AIは、2023年が実験の年、今年2024年が応用・適用の時期だったため、来年2025年はAIが技術者だけのものではなく、日々の生活の一部に溶け込み、あらゆる人のためのものになると、楽天は考えているようだ。三木谷氏は、AIの変革力について、以下のように語っている。

「AIは段階的に進化していくものではなく、抜本的に世界を作り変えるかもしれない。これからAIや機械に、人間がやってきたことを委託する時代が来る。もちろん、機械の方が優れている可能性もあります。


 人間の脳には1000億以上の脳細胞があり、体中に接続されているが、インターネットに接続できるAIはこの比ではない。彼らは情報を消化し、繋げて処理している。

 例えば、「1+1=2」というのは、ほとんどの人が即答できる。これはパターンやアルゴリズムが記憶されているからだが、より複雑な問題を解く場合は、多数のアルゴリズムを駆使して解決していかないといけない。インターネットのつながりは無限大で、人間には見出せない回答に辿り着くこともあるでしょう。これが人間とAIとの違いです」

 膨大なデータがあるインターネットの世界から、あらゆるアルゴリズムを組み合わせることで、もしかすると、病気や疫病を撲滅できるかもしれない、生き物が苦しんできた問題が全て解決するかもしれないと三木谷氏は語る。重要なのは、このようにAIが世界を作り変えるということに、人々が気づいていくことだという。

楽天グループがモバイル市場で何を成すのか

 AIの日常化、これからの世界について触れるため、三木谷氏は楽天グループがこれまで取り組んできた事業や、そのマインドについても語っている。


 日本の企業は、グローバル市場でどう戦っていくのかを考えないといけない。質の高いプロダクトを作るだけでなく、どうデータを繋げるのかを考える視点が重要です。

というのも、日本人はものづくりが得意とよく言われるけど、これからは機械とAIに取って代わられる。そこで何をするべきか、ということを自問自答した結果、我々はモバイル事業を始めました。

2Gから3G、4G、5Gと、モバイルネットワークの世代は推移してきた一方、アーキテクチャは近代化されてこなかったと考えている。独自のソフトに基づいており、レガシーな基盤を使い続けています。


楽天は、ハードウェアに基づいた仕組みを変えました。専用のチップは必要ないと考え、ハードウェアで行なっていたことをソフトウェアに移行した。これにより、劇的にコストを下げられています。ソフトウェアに基づくことで、新しいものがいち早く作れるというメリットもあります」

「1997年に楽天市場を立ち上げた頃、情報を繋げることは世界を変えると信じ、従来型のビジネススタイルを変えてきました。当時の業績はあまり良いものではなかったけど、今は新しいサービスを多数追加し、グローバルな企業になった。

 これが、楽天モバイルが掲げる仮想化ネットワークの始まりだ。

 コスト面で言えば、現在は月額最大3168円でデータ通信使い放題となるRakuten最強プランのように、低価格な料金プランが提供されている。安さへの支持もあり、楽天モバイルは800万回線契約を突破するなど、徐々に存在感を増している。

 日本で展開してきた楽天モバイルのサービスは、今後世界により広げていく構想もあるとのこと。実際、ドイツの1&1社は、楽天シンフォニーがネットワークを構築し、2023年12月にサービスを開始している。

 ちなみに、楽天モバイルが当初掲げていた月額料金0円での提供は、「あまり自信がなかったから」との発言も見られた。

楽天グループが推し進めるAIの民主化

 楽天グループのAIへの取り組みの1つに、独自の大規模言語モデルの開発がある。また、クライアントのビジネスにAIを提供して使用する取り組みも行なっている。

 現在、楽天の会員数は1億人以上おり、モバイルだけ、楽天市場だけといったように、単独のサービスのみを使っているユーザーは少ないとのこと。つまり、1ユーザーがどのスマートフォンを使い、どのような買い物をするといったデータを持っていることこそ、楽天グループの強みだ。もちろん、プライバシーに配慮しながらサービスを展開していることは強調されている。

 今後、楽天が持つ膨大なデータは、AIに学習させる、AIを賢く使う上で重要だという。

 楽天グループのAI機能として、Rakuten LinkにAIチャットサービス機能が追加されたのも、記憶に新しい。三木谷氏は、Rakuten Link AIに、AIサービスの橋渡し的な役割になってもらおうと考えているとのことだ。Rakuten Link AIを楽天エコシステムのコンシェルジュのようにし、エコシステムの拡大を図っている。

 三木谷氏は、「AIを使わないと、将来はない。振り子を大きく振るためには、大きく振りかぶる必要がある。AIは人に害をなすのではなく、人に力を与え、より人生を楽しくするものになる」とコメントし、基調講演を締め括った。