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「漫画村」裁判で約17.3億円の賠償判決、出版社側は抑止効果に期待も「海外で悪質な海賊版サイト」広がる

 大規模な漫画海賊版サイト「漫画村」(閉鎖済み)に対して、出版3社が損害賠償を求めて提訴していた裁判の判決が18日、東京地方裁判所であり、サイトの元運営者の被告に対して約17億3000万円の賠償が命じられた。

 原告代理人弁護士の中川達也弁護士は、「著作権侵害を理由とする訴訟で支払いが命じられた額としては、恐らく過去最高額ではないか」と指摘。原告の主張がおおむね認められたとの判断で、判決が確定すれば損害額の回収に努める、としている。

KADOKAWA、集英社、小学館の3社が漫画村の元運営者を提訴した裁判の判決が下り、代表者が会見を開いた

賠償額は請求の9割

 元運営者を訴えていたのは、KADOKAWA、集英社、小学館の3社で、それぞれが出版する漫画17作品が漫画村に掲載されて被害を被ったとして、2022年7月に提訴していた。

 訴状では漫画村による被害額の一部として19億2960万2532円の賠償を求めていたが、中川弁護士によれば被告側は、「自身の行為は著作権侵害に当たらない、時効が成立している、損害額の算定についても色々と主張していた」という。

3社17作品の一覧。隠れている小学館の作品は『黄金のラフ』、『ドロヘドロ』、『YAWARA!』

 それに対して東京地裁は18日の判決で、被告側の主張をすべて退け、原告が請求した額の約9割となる17億3664万2277円の賠償を命じる判決を下したという。

 3社の損害額は、概算でKADOKAWAが8作品で約4億円、集英社が2作品で約4.3億円、小学館が7作品で約9億円と認定された。

 判決を受けて出版3社は「原告3社の主張が認められ、原告3社の17作品に限ってもその損害額が17億円強と判示されたことは妥当なもの」とコメント。海外を中心に海賊版サイトが横行しているとして、「今後も侵害に対してあらゆる手段による対策を講じてまいります」とした。

出版3社の判決を受けてのコメント要旨
ACCS(コンピュータソフトウェア著作権協会)のコメント要旨

 漫画村は最盛期を迎えたとされる2018年当時、最大規模であり海賊版サイトの象徴でもあった。最大7万2577巻のコミックスがサイト上に掲載されていたとされており、その中から特に巻数が多かった17作品を抽出して提訴したのが今回の裁判。

日本国内で運営する海賊版サイトはなくなるも……

 おおむね原告側の主張が認められたことで、今後海賊版サイトに対する抑止効果が高まると原告側は期待する。実際、すでに「日本発の海賊版サイトはほぼ根絶できた」(集英社編集総務部参与・伊東敦氏)状況。現時点で、日本国内の運営者が運営している海賊版サイトは発見されていないという。

 ただし、英語に翻訳するなど海外発で海外向けに提供される海賊版サイトや、日本人向けに海外から海賊版サイトを運営する例は後を絶たず、「常に1000サイト前後は存在している」(同)というのが現状だ。

 日本向けのサイトでは2021年の秋ごろに上位10サイトが月間4億PVとなっていたと推測され、「タダ読みされた(損害)金額は1兆円を超えた」と伊東氏。現在は1億PV程度と1/4まで減少したが、それでも中国、インドネシア、ベトナムなど、各国に海賊版サイトが広がっている現状に、伊東氏は危機感をあらわにする。

ドメインを頻繁に変更、TikTokやYouTubeにアップロード

 2週間や1カ月でドメインを変えて新サイトになりすますドメインホッピングも増えていると伊東氏。これまでも海賊版サイト対策として青少年フィルタリングやアクセス制限の取り組みを進めてきたが、こうした対策はドメイン単位のため、ドメインホッピングで対策が無効化されてしまうため問題になっている、と伊東氏は強調する。

原告代理人弁護士の中川達也弁護士
集英社編集総務部参与・伊東敦氏

 「最近は、簡略化されたクローンサイトを250ぐらい誕生させてたくさんのサイトを運営して(広告などで)儲けるなど、悪質な運営者が登場していて、油断ができない状況が続いている」(伊東氏)。

 こうした海外の海賊版サイトに対しては、正規版の販売を各出版社が力を入れて広めていく取り組みと、啓発活動や削除要請・摘発といった取り組みの両輪で対処していくという方針。

 加えて、SNSやYouTubeなどに漫画をアップロードする例も多く、特に若者に人気のTikTokでの掲載が増えているそう。「罪の意識なく海賊版を楽しんでいる状況が散見される」と伊東氏。

 結果として、月に2万件の削除要請を各プラットフォーマーに送信しているそうで、特に画像1件1件に要請が必要なFacebookの削除要請の件数が多いという。こうしたことから、伊東氏はプラットフォーマーとも協力して、啓発活動に取り組んでいきたい考えを示す。

 また、ネタバレ、早バレと言われる発売前の漫画をアップロードするサイトも継続した問題について「漫画は部数が多いので早くから印刷されて早めに各販売店に納品される。そこから流出していることが(過去の事件から)判明している」と伊東氏。特定の流出ルートがあるわけではないため、「すべての紙の販売ルートをチェックするのは困難」と対策の難しさを訴える。

 運営者の摘発だけでなく、技術的な対策の難しさもあるという。YouTubeにはContent IDの仕組みがあり、音楽や映画などは音声ファイルと映像ファイルのデータベースを使用することで、著作権で保護されたコンテンツを特定することがある程度できるようになっている。

 これを漫画に応用することが現時点で難しく、YouTubeで漫画を違法アップロードしている運営者の収益化が防げていないという。海賊版サイトも広告で運営されている例が多く、今後も日本の関連省庁や各国の捜査当局と連携して、海外やSNSも含めた海賊版サイトの削除や摘発などを継続していく考えだ。