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「漫画村はすべての発端」、KADOKAWA・集英社・小学館が19.2億円賠償求め共同提訴――その狙いと今も続く被害とは
2022年7月29日 00:00
KADOKAWA、集英社、小学館の出版3社は28日、閉鎖された海賊版サイト「漫画村」の運営者に対して、総額約19.2億円の損害賠償訴訟を、東京地裁に提訴した。漫画村閉鎖でも海賊版コミックスの被害は収まっておらず、他の海賊版サイトに対しても、刑事、民事の両面での追及がありえるという警告につながることも期待されている。
今回の提訴で損害賠償請求の対象となったのは、KADOKAWAの「オーバーロード」や「ケロロ軍曹」など8作品89巻(請求金額4億5083万9961円)、集英社の「キングダム」「ONE PIECE」の2作品131巻(同4億7692万3161円)、小学館の「からくりサーカス」「YAWARA!」など7作品221巻(同10億183万9410円)で、合計は17作品441巻で19億2960万2532円となる。漫画村の被害総額が3200億円規模と言われる中で、あくまで一部の被害回復を求めて、3社で共同提訴をした形だ。
漫画村とは
漫画村は、遅くとも2016年2月ごろまでに開設された海賊版サイト。マンガをはじめとした多くの出版コンテンツを違法に掲載しており、2018年3月には最盛期を迎えたとされる。その後、「出版業界をあげて対応すべき最重要案件」(ACCS事務局長・中川文憲氏)として対処が行われ、2019年6月には運営者が逮捕された。
2021年6月には、福岡地裁で運営者に対して懲役3年、個人の賠償の上限である罰金1000万円、追徴金6257万1336円の判決が確定した。加えて、共犯者3人に関しても有罪判決が確定している。
刑事裁判と並行して、出版社らでは民事裁判の検討を進めており、刑事での著作権侵害などが認定されたことで、今回あらためて被害回復を求めて訴訟が提起された。
損害額の算定まで
損害額の算定には、次のような推計が用いられた。
まず、漫画村のアクセス総数は、2017年6月~2018年4月までで5億3781万件。アクセスした人が1アクセスで漫画コミックス1巻を閲覧したと仮定して、閲覧されたのは5億3781万巻分。
漫画村には、最大7万2577巻のコミックスが掲載されており、1巻あたりの平均閲覧数は7410件。請求対象作品17作品の各巻ごとに、平均閲覧数と販売価格をかけた上で足し合わせ、作品ごとの損害を算定して計算したものが、今回の約19.2億円という請求額になった。
今回、請求対象作品は刊行巻数の多いものを中心に選ばれたという。漫画村全体での損害額は3200億円とされており、どうしても一部請求の形にはなったが、民事でも裁判所の判断を仰ぎ、出版社らは被害回復に向けた対応を進めていきたい考えだ。
漫画村には、コミックス以外にも漫画雑誌、一般雑誌、写真集、文芸作品など約8200タイトル、7万3000巻が掲載されていたとされる(2018年4月時点)。この最盛期には月間アクセス数は1億件に達していたと推計されている。
ひろがる海賊版サイト
漫画村が多数のアクセスを得たことで、「海外の犯罪者に漫画村のようなサイトを作れば儲けられるということが伝わってしまった」と指摘するのは、海賊版対策などを目的に出版社が作ったABJの広報部会長兼法務部会長である伊藤敦氏。その結果、漫画村以降もこうした海賊版サイトが次々と登場したのだという。
2022年6月のABJの調査では、海賊版サイトへの日本からのアクセスは上位10サイトの合計で約1億7000万件。これも、今年2022年3月に巨大海賊版サイト3サイトが閉鎖したことで減少しており、閉鎖前は月間4億アクセスに達していたという。漫画村閉鎖以降も状況は悪化しており、「漫画村は、海賊版サイト跋扈の始まりだった」と伊藤氏。
2021年はこの巨大サイト3サイトも稼働していた時期で、掲載された海賊版漫画などが閲覧された(タダ読みされた)金額は、年間で約1兆19億円とABJでは推計。同年の漫画市場の年間規模は6759億円とされる。「タダ読み」金額が、全て損失額とは言えないが、それでも大きな金額の損失が発生していることは想像できる。
さらに最近は、海賊版サイトの運営者が「ほとんど海外に在住している」(同)という状況で、匿名性を売りにして身元確認をしないような海外サービスを使って運営されている。その結果、権利者が運営者を突き止めづらくなっているという。加えて、CDNを使うことで大量のアクセスを気軽にさばけるようになったことで被害が拡大。
海賊版サイトの収益源は広告だが、「日本のまっとうな企業の広告は表示されない」(同)一方、アダルト、カジノ、出会い系といった広告が多く、悪質な海外の広告事業者を使って広告料で収益を上げているという。
「漫画村はすべての発端だった」と伊藤氏は強調。漫画村に影響を受けた海賊版サイトが継続して登場したことに加え、一般消費者に対して漫画が無料で読めてしまう海賊版サイトの存在が広く知られてしまった点も、漫画村が端緒になったのだという。
「漫画村登場前は、海賊版サイトはダウンロード型が一般的で、比較的ライトなユーザーには敷居が高かった」(同)。しかし、漫画村によってストリーミング型の海賊版サイトが登場し、さらにスマートフォンの普及が被害を加速させた。実際、現在はいつでもどこでも閲覧できることから、「スマートフォン・タブレットでの閲覧が9割」(同)に上っているそうだ。
漫画村全盛の頃は、ほとんど存在しなかった同種のストリーミング型海賊版サイトが、現在では日本人向けで70に増加。ABJが把握しているだけでも海賊版サイト数は1000サイトに上り、英語版は約430サイト、それ以外の言語版の海賊版サイトは約400サイトに達しているという。YouTubeやTikTokなどのUGC、SNSでも投稿があり、こうした海賊版サイトは閉鎖してもすぐに新しいものが生まれるいたちごっことなっている。
海賊版サイトを閉鎖しても利用者が次々と渡り歩いているため、数カ月で巨大サイトに成長してしまう。伊藤氏は、この民事訴訟の提起が海賊版対策の施策の1つとして有効に機能することを期待しているという。