ニュース

KDDIとトヨタが「安心安全なモビリティ」を目指し「危険地点スコアリング」を提供へ、出会い頭事故防止などのソリューションも

 KDDIは、トヨタ自動車と連携し、安心安全なモビリティ社会の実現に向け、「人流/車両のビッグデータ」や「過去の事故情報などのオープンデータ」をAIで分析し、危険地点を見える化するソリューション「危険地点スコアリング」を今春に提供を開始する。

 法人や自治体向けに提供し、たとえばカーナビゲーションサービスを提供する企業がスコアリングのデータを利用して案内に役立てたり、自治体が管理する道路でデータに基づいた事故対策を実施したりすることが期待される。

 あわせてKDDIは、自動車と自転車の位置情報から互いに接近情報を通知する「Vehicle to Bike」や、コネクティッドカーに関する運用情報や障害情報などを一元管理、確認できる「つながるみまもりセンター」といった、同社のネットワークを活用したソリューションの実証などを進めている。

通信があらゆるものに溶け込んでいく時代

KDDI 執行役員 経営戦略本部長の門脇 誠氏

 KDDI 執行役員 経営戦略本部長の門脇 誠氏は、KDDIの「サテライトグロース戦略」について「5G通信を核として、その周りに注力事業を配置し、連鎖しながら拡大していく構想」と説明。今回のソリューションは、その中の「モビリティ領域」に関わる取り組みで「戦略全体の中の重要な要素として現在推進している」と、注力する姿勢を見せた。

 KDDIとしては、20年以上前のIoT黎明期から力を入れてきたとしており、電力スマートメーターなどのほか、トヨタ自動車やいすゞ自動車など業界最大規模となる4500万回線を突破し、拡大傾向にあると説明。長年の実績を生かしてモビリティ事業に取り組んでいくという。今後の時代を門脇氏は「通信があらゆるものに溶け込んでいく時代。自動車だけでなく、ドローンや物流、ロボティクスなど、さまざまなモビリティサービスが登場する」と予想。同社としてもモビリティ社会の課題解決と、新しい体験価値を創出していくとした。

トヨタ自動車と共同検討を実施

 今回連携するトヨタ自動車とKDDIの関係について、門脇氏は「2002年のテレマティクス提供から始まり、コネクティッドカー向けの通信基盤をグローバルに提供している」と長年の関係をアピール。そのなかで、2020年からは共同で「家、人、車のすべてがつながる社会を見据えた共同検討」を実施しているという。

 この検討に際し、「まず安心安全について」と課題を位置づけ、過去から現在まで大きな問題となり続いている“交通事故の問題”について課題提起する。

 たとえば、自動車と自転車の接触事故では、40%が見通しの悪さに起因する事故になっていると指摘。さらに、コネクティッドカーの普及が進中で、車両の高度化複雑化とともに「よりセキュリティが重要になってくる」と、グリーン(省電力化)とともに「安心安全なモビリティ社会の実現」、「グリーンなモビリティ社会の実現」、「モビリティ体験価値の拡張」の3つをテーマに掲げ共同検討の実施を進めるとした。

具体的な取り組み

 KDDIが進めているモビリティ領域の取り組みとして、「危険地点スコアリング」、「Vehicle to Bike」、「つながるみまもりセンター」の3つが紹介された。

危険地点スコアリング

 「危険地点スコアリング」は、KDDIが保有するユーザーの位置情報や属性情報、トヨタ自動車が保有する車両や車速などの通行データ(プローブデータと車載ネットワークデータ)、道路特性や交通事故発生数などのオープンデータをAI分析し、危険地点をスコアリングし可視化する。

 約10m四方単位で危険度合いを可視化でき、高齢歩行者や高齢自転車利用者の割合、自動車の急ブレーキ発生率などの危険要因が確認でき、データに基づいた道路標識の新設など効果的な対策を打てるという。

 KDDIのユーザーデータでは、最小50m単位、24時間365日の最短数分間隔で収集される位置情報と、通信契約時の本人確認情報に基づいた性別と年代、トヨタ自動車では、車両数や平均車速、急減速発生件数、ABS作動件数一時停止率、右左折率などのデータを活用する。

 これらのデータの内容は、サービス提供画面でも確認できる。

 今回のソリューションでは、これをさらに地域などの条件に基づいて調整されたAIにより解析し、独自のスコアリングを提供する。

KDDIのデータを元にしたスコアリング
トヨタ自動車のデータを元にしたスコアリング
2つを掛け合わせたスコアリング
さまざまなデータを確認できる
低いスコアの場所と見比べることも

 KDDI 技術統括本部 技術戦略本部長の大谷 朋広氏は、これまでの交通事故抑制対策では、事前に対策が必要な箇所を客観的に把握することが難しく、事故が発生してから対策をすることが多いという。

KDDI 技術統括本部 技術戦略本部長の大谷 朋広氏

 自治体では高いスコアの部分を確認したうえで、どういった事象が発生しているかのデータを確認し、効果的な交通事故抑制対策を打てるという。たとえば、自転車交通量の多い路線では通行帯を設置したり、急ブレーキの多い場所に一時停止線を設置したり対策を打てるほか、安全なまちづくりへの活用もできる。

Vehicle to Bike

 自動車と自転車の位置情報を活用し、互いに接近を通知する「Vehicle to Bike」では、互いのスマートフォンにアプリをダウンロードし立ち上げておくと、相手の乗り物の種類と接近している情報を画面やプッシュ通知、音で知らせる。

 たとえば、信号がなく見通しの悪い交差点では、出会い頭の交通事故が多く発生している。今回のソリューションでは、同じ交差点に入る自動車と自転車がいた場合、交差点進入の5秒程度前に通知を出し、原則や一時停止を促すことができる。

 また、アプリでは急ブレーキや減速に関する「ユーザーの運転状況」を収集できる。たとえば、タクシー会社やフードデリバリーの会社で運転状況を管理者とともに確認し、安全運転への指導などに活用できる。

 担当者によると、「アプリをバックグラウンドで起動させたまま、スマートフォンを胸ポケットなどに収納しておくことで、通知を音で聞いてもらう」としており、スマートフォンを注視しなくても、安全運転に貢献できる。

通常時
接近時の通知
画面ロック上の通知

 2023年2月に板橋区で実証実験した際には、交差点への進入速度が、平均時速10.1km減速する効果が確認されている。

つながるみまもりセンター

 「つながるみまもりセンター」では、コネクティッドカーの不具合発生時に、不具合箇所の発見を容易にしたり、車両との通信の正常性を監視し、ネットワークサービス全体を一体的に“みまもり”、影響拡大の抑止や早期復旧に繋げる。

 このソリューションでは、KDDIのネットワーク情報とトヨタ自動車の車両情報やサーバー情報など、コネクティッドカーの運用情報を横断的に繋げることで、自動車1台1台の状況を把握し状況を確認できる。

 たとえば、基地局障害が発生した際、どの基地局で障害が発生しているのか? どの自動車が影響を受けているのか? を確認できる。

 また、管理サーバー経由でネットワークが攻撃されたり、車両を踏み台に攻撃されたり、通常と異なる通信パターンを検知することで、未然に被害を防いだり、影響を軽減したり、早期に正常な状態に戻せたりすることが期待できる。

サービス画面イメージ

「グリーンモビリティ」にも今後注力

 テーマの一つに掲げていた「グリーンなモビリティ社会」については、2月から浸透冷却技術を活用した小型データセンターを設置し、大容量データをネットワークエッジで処理する実証を実施している。

 「モビリティ体験価値向上」では、AIを使って「お出かけのプランニング」や「最適ルートの検索」などの取り組みを進めていく。

他社との連携など

 質疑では、今回のソリューションが「公共性の高いもの」であることを踏まえ、KDDIとトヨタ自動車だけでなく、他社との連携についての声が上がった。

 KDDI 門脇氏は「これから検討することになるが、こういった取り組みをKDDIという起点でほかのモビリティのサービスにも広げて行く」とコメント。

KDDI 門脇氏

 トヨタ自動車 情報システム本部 情報通信企画部 部長の木津 雅文氏も「(KDDIとトヨタ自動車の)2社で閉じることなく、いろいろな可能性を含めて今後検討していく」とした。

トヨタ自動車 情報システム本部 情報通信企画部 部長の木津 雅文氏

 なお、「セルラーV2X(Vehicle-to-everything)」技術を活用した取り組みとの連携について、KDDI 大谷氏「スマートフォンをベースとしたサービス利用を想定している。セルラーV2Xをほかの技術でどう実現するかということは、今後の検討課題だと考えている」とした。