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KDDI、24年3月期は減収減益の滑り出し――髙橋氏「上期のARPU収入反転目指す」
2023年7月28日 22:36
ローミング収入減などが減収要因に
営業売上は1兆3326億円、営業利益は2667億円。前年同期比で減収減益となったが、通期での業績予想に対する進捗は順調という。
グループMVNO収入とローミング収入は105億円減、マルチブランドARPU収入は29億円減だった。KDDI 髙橋誠社長は「ARPUは順調に推移している」と説明。減益要因としては、楽天モバイルのローミング収入減や前期の会計処理に関する影響が大きいとした。
その一方で注力領域は成長している。マルチブランド総合ARPU収入は4797億円。対前年比で見ると減収幅は縮小傾向で、同社では上期での収入反転を目指す。UQ mobileやpovoも含めたマルチブランドIDは3091万ID1で前年比で19万増だった。5G契約は全体の6割弱で、こちらも順調に伸びている。
auユーザーにおける月間平均データ利用量もあわせて伸びており、前年比で25%増。機種変更時にはおよそ8割のユーザーが使い放題プランを選択しているという。
決済・金融取扱高は3兆9000億円で前年比17%増。au PAY カード会員数は880万で前年比90万増だった。auじぶん銀行口座数は530万で前年比53万増となった。同社では、金融関連の付加価値ARPU収入がau解約率の低減につながっていると説明。複数の金融サービスを利用するユーザーは特に解約率が低いという。
決算ではあわせて、ケーブルTV事業をJ:COMに移管することを表明。あわせてAIへの積極投資やカーボンニュートラルへの取り組みも進めていくことが説明された。
法人向けはIoTが順調
法人事業ではIoT回線が前年比850万回線増と成長を後押し。各領域で前年比二桁成長を達成したとしてその好調ぶりが示された。
同社のデータセンター事業では、カナダでトップの事業者からコネクティビティDCの事業譲渡契約を締結。同社はデータセンター「TELEHOUSE」(テレハウス)を展開しており世界4位、通信事業者では第1位というポジションを築いている。
また、BPO事業ではKDDIエボルバとりらいあコミュニケーションズを統合しアルティウスリンクを発足させる。
質疑応答
――楽天モバイルからのローミングによる収入増は今期の滑り出しにどう影響しているのか?
髙橋氏
(前回)決算で今期予想として600億円の減収を見込むと説明した。その後にローミング協定の見直しがあり、これにより2024年3月期の減収規模は100億~200億円ぐらい改善される。協定はいくつか論点がまだ残っていて議論しているが、順調に約束したことはすすめられるというふうに思えっている。
――他社から新プランが出てきたが感触は?
髙橋氏
今の段階ではあまり大きな影響が出ていない。ドコモのプランは当社とは容量が異なり、一部では5G非対応、混雑時のネットワーク制限があるなど比較が難しい。一概には言えないが、そんなに大きな影響は出ていない。
楽天モバイルも最強プランといって出されていて、我々も気にしている。UQ mobileではコミコミプランなんかも用意している。20GBのデータと10分かけ放題と対抗に備えてやっているということもあり、ここもあまり大きな影響が出ていないと思う。
楽天モバイルはローミングでのエリアも無制限とかいろんな話があって、若干過度な説明だなとは思った。実際は800MHz帯だけのローミング。東名阪で一部エリア拡大しましたがそこまで大きなエリアをお貸しするわけではないため、今のところ大きなインパクトはない。
競争条件は、ドコモと楽天モバイルのプランはしっかり見ながら対抗していきたい。
――端末出荷台数が縮小している。要因と影響を教えてほしい
髙橋氏
去年の第1四半期の169万台に対して、今期は127万台なので減っているのは間違いない。為替の影響があり、海外から仕入れる端末などはどうしても高くなってくるなかで、インセンティブの規制もある。高額商品の流動性が昔よりは低くくなっている。ここについては少し懸念している。
総務省がガイドラインの見直しをしており「転売ヤー」に対する規制の問題もありこれも重要だが、5Gの浸透率を上げるためにも流動性を少し上げていかなければいかないとも思っている。出荷台数はもう少し高くもっていきたいと思うが環境がなかなか許さないというのも実態と思う。
――京セラが個人向け端末から撤退しFCNTが民事再生した。端末メーカーの動向に関する受け止めは。
髙橋氏
国内市場で出荷台数がシュリンクしているのは他社も同じと思うが、そのなかで国内メーカーの採算性が厳しくなっているのは、本当に申し訳なく残念。京セラはコンシューマーでは厳しくなっているが、法人の方ではもう少しなんとかお願いしたり協力できることはしたい。個人的には国内メーカーの撤退が相次いでいるのが非常に残念。
――UQ mobileの料金体系がかなり変わった。ユーザーの評価や加入の状況など大きな変化があれば教えてほしい。
髙橋氏
UQ mobileはもともとS/M/Lと別れたシンプルだった。今回、データの使い方や通話などユーザーのニーズに合わせてバリエーションをもたせた。若干説明が必要になった部分もある。現場にしっかり落とし込むには若干時間を要したが、いまは落ち着いてきた。新しいプランも気に入って使ってもらえている。競争力も決して落ちることなく対応している。
かねてのM/Lに値するトクトク/コミコミプランの比率が上がってきている。ユーザーにとってはこういうプランが好感を持たれていると思うので力を入れていきたい。
――αUブランドでメタバースに力を入れているが、生成AIに人気が移っていないか。そうであればポートフォリオの変更はあるのか。
髙橋氏
メタバースはαUを始めてからビジネス用途での引き合いが強い。今までテキストのWebサイトだったものがビジュアルになりメタバースになっていくような、表現能力がメタバースで大きく拡張されると考えている企業が多い。そちらに注力してメタバースを広げていきたい。
コンシューマーもコミュニティを作るのは大変だが、これについても地道に数を広げている。一気にジャンプアップできる状況ではないがしっかりと対応していきたい。
メタバースという言葉は、流行り言葉のように見られているが実際はWeb3の要素の一つとして捉えられる。生成AIと親和性がある。たとえば、メタバースのなかで生成AIのアバターがいて会話ができるのようなことも一つの表現能力ととして組み合わせられる。
次の世代のインターネットテクノロジーとしてメタバース、Web3、ブロックチェーン、生成AIを捉えながらトライして、事業拡大を狙い投資を続けたい。
――トヨタ自動車への自己株買付について、トヨタから話があったということだが経緯は?
髙橋氏
丁寧な説明が必要かと思ったので、適時開示情報で詳しく説明している。トヨタから話があったが、モビリティカンパニーへの変革に取り組むということで、多額の投資が必要になるなかで、さらなる資本効率の向上のためにこのような申し出があったと理解している。
トヨタの成長のための投資資金としてということなので、我々としても理解できる。5月11日の自己株式3000億円を取得するという決議を踏まえてトヨタから自己株式取得することが適当であると判断した。
――MNPのワンストップ化で動きはあったのか? 楽天モバイルのワンクリック契約の受け止めを教えてほしい
髙橋氏
どういう影響があるのか、警戒して見ていた。一定数の使われる方がいらっしゃるが大きなインパクトは今のところない。こういうものはどんどんこなれてくる。転入の場合にもワンストップ化は重要だと思うのでしっかり対応したい。
楽天モバイルのワンクリック契約は、本人確認は不正利用・犯罪防止の観点から慎重にやらなくてはいけないと思っている。利便性はたしかに上がるのでバランスは重要。なぜこういうふうに今までやってきたかというと、犯罪などを助長することに繋がらないというのが重要。しっかり見ていかないといけない。TCAを含めて議論しているが、そのようなスタンスで取り組んでいる。
――アップルが「Vision Pro」を発表したが、KDDIは絡んでいくのか?
髙橋氏
今のところ、Vision Proでアップルとなにかするという話は進んでいない。ああいう新しいものは大好きなので、興味を持って見ていきたいと思うが今のところ大きなコメントはない。
――生成AIで目指す事業は具体的な目標はあるのか?
髙橋氏
いつまでにいくつというのは今のところない。生成AIは社内で進めている。「KDDI AI Chat」として全社員が使えるようにしているが、多様性を持って使い始めている。自分のようなシニアは「挨拶原稿つくって」というようなことを考えるが、30代くらいの技術者ならPythonくらい書くので、想像しなかったような使い方を始めているので、全社員に使ってもらって非常に良かった。
生成AIは業務効率化、ビジネス用途に適用していくもののほかに、我々のサービスにどう組み込んでいくかということに分かれるが、これを具体化を社内検討している。
――NTTの完全民営化が取り沙汰されている。KDDIへの影響は? メリットとデメリットどちらに捉えているか?
髙橋氏
総務省としても幅広い課題があると認識されている。推移をしっかり見ていきたい。完全民営化になるとNTT法を改正することになると思う。いろいろな要素が含まれるので、それを踏まえて幅広い課題があると認識されていると思う。
昔から主張しているが、我々からすると独占回帰のような話になるのが一番競争を阻害することにつながる。非常に重要な議論なので、関心を持って見ていきたい。
――6月に総務省が新プラチナバンド割当の指針を出した。楽天モバイルに有利な審査基準だがどう受け止めているか
髙橋氏
たしかに我々も審査基準をみたら楽天モバイルがかなり有利だと思った。これについて出すかどうか検討しているが、隣接バンドなので全く出さないのもどうなのかと思いながら……。結構有利な条件も揃っているしと悩みながら検討している。
かなり偏った選考基準だなという率直な印象です。
――楽天モバイルとの新たなローミング協定で業績予想が上振れると思うがどうか
髙橋氏
楽天モバイルのローミング協定の収益は、100億~200億円のあいだで改善されると思う。ここはプラスになるが、今期は微増益のプランを出していて慎重にやっているので今の段階で上方修正という考えはない。
今期は一番つらい。楽天モバイルのローミングで400億円くらい減ってくる。金融影響もあり成長領域とARPUの反転で打ち返さなくてはいけない。ARPUの反転が第一命題。これがしっかり見えたときにどれくらいの数字になるのかが第2、第3四半期でしっかり見ていきたい。
6月まででだいたい29億円のマイナスだが、7月にいい線まで来ている。なんとか第1四半期で反転させたい。そうするともうあまりマイナス要素がなくなってくる。
――競争環境の懸念事項はあるか?
髙橋氏
トピックはインセンティブの制限が2万円から4万円になることで、これにともない白ロム割引きも規制される。不適切な取引がなくなるのは非常にプラス。一方でもう少し流動性を上げないとARPU増にも繋がらないし、5Gの浸透率の課題もあるのでガイドラインがどうなるかが最大の関心事。
――今、ケーブルTV事業を移管する理由は?
髙橋氏
J:COMのM&Aにも携わったので、非常に思い入れがあるが、J:COMは自社でCATVをやっていて自分たちのISP機能を他社に提供する環境がある。我々はケーブル電話を中心としてCATV事業者との付き合いがあるが、両面から行くというのはもったいないと思っていた。J:COMも放送からインターネットにシフトしており、成長の絵を描きはじめていてその一助となる。
J:COMが成長戦略を書き直しているところで、そのタイミングにあわせて事業分割・譲渡を行った。
――IIJとの連携ですでにシナジーはあるのか?
髙橋氏
非常に良い関係値を作れていると思う。出資のタイミングで両社の責任者が入った協業ビジネスの拡大をテーマに、人材交流や技術力・運用力強化の会議を設置しており良い出資だった。
十数%の出資なので、シナジーを出して初めて正当化されると思う。しっかりとここについては進めていきたい。いまのところ非常に良い方向性で議論が進んでいる。