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YouTubeの国内経済効果は3500億円以上、10万人以上のフルタイム雇用も創出
2022年8月30日 14:31
YouTubeは30日、英国の独立系コンサルタント会社であるOxford Economics(オックスフォード・エコノミクス)による「YouTube Impact Report」の結果を発表した。YouTubeが2021年にもたらした経済的影響や文化的影響、社会的影響がまとめられたものになっている。
同日には、メディア向けの説明会も開催された。本稿では、その内容をお届けする。
サービス開始から15周年のYouTube日本語版ページ、今も変わらない使命
説明会の冒頭では、YouTube Japan代表の仲條亮子氏が登壇した。
YouTubeの日本語版ページは、サービス開始から今年で15周年を迎える。仲條氏は「『表現する場所をあらゆる人に提供し、その声を世界中に届けること』という当初の使命は今も変わっていない」とコメント。現在は、世界で毎月20億人、日本で毎月6900万人のユーザーが、さまざまなコンテンツをYouTubeで楽しんでいるという。
YouTubeは、「4つの自由」として、「表現の自由」「情報にアクセスする自由」「機会を得る自由」「参加する自由」を掲げている。
そして、オープンなプラットフォームを維持するために、「Remove:コミュニティガイドラインに違反するコンテンツを削除する」「Raise:信頼性の高い情報を見つけやすくする」「Reduce:ガイドラインのボーダーライン上のコンテンツや有害な間違った情報の拡散を減らす」「Reward:信頼できるクリエイターとアーティストに還元する」という、「4つの責任」の考えに基づいた取り組みを進めている。
オックスフォード・エコノミクスのレポートによれば、YouTubeのエコシステムは、2021年の日本において3500億円以上の経済効果をもたらした。また、日本で10万人以上のフルタイム相当の雇用を創出。いずれの数字も、前年と比べて大きく伸びたという。
仲條氏は、「YouTube ショート ファンド」など、クリエイターに収益をもたらす方法を紹介したうえで、「今後も日本のクリエイターエコシステムの発展に貢献していきたい」と語った。
「3500億円以上の経済効果」「10万人以上の雇用」の根拠は
続いて、オックスフォード・エコノミクス在日代表の長井滋人氏が登壇。同氏は、今回のレポートの数字がどのように導き出されたかを解説した。
3500億円以上とされる経済効果について、YouTubeの内外で収入を得ているクリエイターの活動に加え、その活動に必要なサービスを提供する企業などの活動も含まれる。これらの付加価値が、3500億円以上あるという。経済学の手法「投入産出(産業連関)分析」を用いた付加価値の推計にあたっては、重複計上を防ぐために、それぞれの売上から中間コストを差し引いたものが適用された。
長井氏は、「YouTubeの従業員に支払われた賃金が消費に回るような効果や、YouTubeで広告を出して売上が伸びた企業による効果などは、今回の計算に入れていない。そういう意味では、YouTubeのエコシステムの中で活動しているクリエイターや、それに連なるサプライチェーンの活動に限定しても、3500億円以上の経済効果が生まれているということになる」と強調した。
また、10万人以上のフルタイム相当の雇用創出効果について、たとえば週に数時間しか活動していないユーザーも含め、YouTubeのエコシステムに参加している人のトータルの就業時間を算出。そのうえで、それをフルタイム換算して出したものだという。
長井氏は、「グローバル化」「IT化・デジタル化」など、日本経済の抱える課題を挙げ、「YouTubeは、日本経済の抱えている構造的な問題に対して、かなり有効な解決通路を提供しているのではないかと思う」とコメントした。
YouTubeに関わるクリエイターや企業のストーリー
続いて、YouTubeに関連するクリエイターや企業のストーリーの紹介として、3社の事例が紹介された。
バーチャルYouTuber(VTuber)事務所「ホロライブプロダクション」を手がけるカバーの代表取締役社長の谷郷元昭氏は、バーチャルクリエイターのビジネスに関する現状を紹介。「クリエイターが高品質な配信を行ったり、ファンと一緒に盛り上がったりするような場としてYouTubeを活用している」と語った。
カバーのミッションは、日本のカルチャーを世界へ向けて発信していくこと。バーチャルクリエイターの活動は、最先端の日本のアニメ文化として、北米などの英語圏や、東南アジアでも広がりを見せているという。
「VTuberはニッチなもの、と思われる方もいるかもしれないが、たとえば『2021年に世界で最も視聴された女性配信者』のランキングで、カバー所属のVTuber(兎田ぺこら)が3位にランクインした。今後も、日本発のVTuber文化を、YouTubeを通じて世界に発信していきたい」と語った。
続いて、テレビ東京 報道局 クロスメディア部 テレ東BIZ副編集長の立花剛氏が、マーケティングツールとしてのYouTubeの活用方法を紹介した。
2019年4月から本格稼働したYouTubeチャンネル「テレ東BIZ」は、チャンネル登録者数が156万人。ニュース動画や、記者会見の動画、ディレクターによる解説動画などが配信されている。
立花氏は、テレビ東京がYouTubeを活用する理由として「時間の制約」「多様な表現」の2つを挙げた。テレビでは紹介しきれない素材を活用したり、さまざまな表現のスタイルを発信したりできる場として、YouTubeを活用しているという。
2022年1月1日~8月22日の期間、同社のチャンネルで最も再生されたのは、2月9日に配信された「『ロシアの論理』で読み解くウクライナ危機【豊島晋作のテレ東ワールドポリティクス】」。この動画は、750万回という再生回数を記録した。また、そのほかのノーカット動画なども多く再生されている。
自社の有料サービスへの誘導手段としてもYouTubeを活用している、とした立花氏は、「今後は解説動画のさらなる強化を図り、自社の有料サービスの会員獲得にもつなげたい」と語った。
最後に、ユニバーサル ミュージック デジタル統括本部 コマーシャル・オペレーションズ本部 本部長の種茂正彦氏が登壇した。
種茂氏は、「我々レコード会社の課題は、アーティストの新たなファンの獲得と、既存ファンのエンゲージメントを高めること。YouTubeというプラットフォームを活用して、これらをどのように実現するのか、日々試行錯誤している」とコメント。
また、「YouTubeは、当初は広告付きの無料サービスとしてミュージックビデオ(MV)を楽しむ場というイメージがあったが、今ではサブスクリプションの契約者がさまざまなコンテンツを楽しんでいる。我々の売上に目を移してみても、ビデオの売り上げからオーディオの売り上げにシフトしてきていて、純粋に音楽配信サービスとして楽曲を楽しむユーザーが増えているのではないかととらえている」と語った。
ユニバーサル ミュージックが運営するYouTubeチャンネル「UMJチャンネル」の登録者数は447万人。幅広いアーティストの情報が同チャンネルで発信されている。また、主要なアーティストの個別コンテンツを発信する場として、「OAC(Official Artist Channel)」も活用されている。
種茂氏は、具体的なアーティストの例として、YouTubeを通じてファンを増やしてきた藤井風の例などを紹介。今後について、「アルバムがリリースされるタイミングだけでなく、リリース前後も含めて継続的にコンテンツを導入し、新たなファンの獲得を図りたい。同時に、既存のファンのエンゲージメントも高めていきたい」とコメントした。