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KDDI「水空合体ドローン」のデモを公開、新たな課題も浮上

 KDDIとKDDI総合研究所、プロドローンは11月17日に、世界初の水空合体ドローンを自律飛行させ、遠隔で水中の様子を撮影する実証に成功した。

 今回は、この「水空合体ドローン」を使った水中映像撮影のデモンストレーションを見る機会を得たので、その模様をお伝えする。

KDDIのドローン

KDDI 事業創造本部 ビジネス開発部 ドローン事業推進 グループマネージャーの松木 友明氏

 KDDI 事業創造本部 ビジネス開発部 ドローン事業推進 グループマネージャーの松木 友明氏は、KDDIが取り組んでいるモバイル通信を使った「スマートドローン」を説明した。

 モバイル回線を利用して遠隔操縦と遠隔監視による目視外飛行を行うスマートドローンでは、配送やインフラ設備の点検、測量や農業などさまざまな分野での活躍が期待されているという。

 KDDIでは、スマートドローン運航管理システムを開発しており、たとえば飛行中のGPSによる位置情報のずれの検知と修正や、気象情報の確認、飛行ルートの監視や変更、人物の検知や点検対象設備のひびやさびなどの検出などを行える。この運航管理システムを利用することで、世界中どこからでも映像をリアルタイムで共有できるとしている。

 今回、KDDIのスマートドローンのラインアップに「水空合体ドローン」が加わることとなり、今後実用化に向けて検証などが進められる。

沿岸部に飛んで潜る「水空合体ドローン」

 今回開発している「水空合体ドローン」は、海岸から離れた場所(おおむね3km程度まで)までドローンが飛行し、着水。そのあと下部に備えられている水中ドローンが解放され、水中ドローンの遠隔操作とリアルタイムの映像を確認できる。

 これまでの水中点検では、沿岸部まで船舶を出し、そこからダイバーや水中ドローンによる目視点検を行っていたため、人的コストがかかっていたという。今回の「水空合体ドローン」では、遠隔でかつ着水ポイントまで自動で自律飛行するため、コスト削減や効率化が期待できるとしている。

 松木氏は、「水空合体ドローン」のユースケースとして、水産業での養殖場の監視や洋上風力発電所などの水中インフラ点検、海の二酸化炭素吸収(ブルーカーボン)量の測定などを挙げた。

水空合体ドローンの特徴

プロドローン 取締役 副社長の菅木 紀代一氏

 水空合体ドローンの特徴について、プロドローン 取締役 副社長の菅木 紀代一氏によると、ドローン下部に設置されたケージに水中ドローンを格納し、ケージの開閉とウィンチ操作で水中ドローンの離脱や回収ができる構造だという。

 空中ドローンの飛行時間は15分、航続距離は8kmだが、菅木氏は「10km以上を目指したい」とコメント。また、ドローン自体はアームを折りたたむことで、一般的なワゴン車に乗せられるサイズとなるとしている。

 空中ドローンと水中ドローンは、直径1.2mmのケーブルで接続されている。破断強度の高いケプラー繊維で守られた信号ケーブルで、水中ドローンが操作されている。

 なお、海上での運用にあたって海流や風などの影響を受けやすくなるが、GPSを用いてドローンの位置を保持できるという。一定の高波にも耐えられ、悪条件下でも運用できるとしている。

GPSが届かない水中での位置測位

 一方で、GPSの信号が届かない水中での位置測位はどのように行っているのだろうか。

 KDDI総合研究所 イノベーションセンター イノベーション協創 G研究マネージャーで工学博士の川田 亮一氏は、水中ドローンから音波を発射し、それを空中ドローンが受信することで相対位置を計測する方法を採用したという。空中ドローンのGPSによる位置情報と合成することで、水中ドローンの位置を特定し操縦者が位置を確認しながら操縦できる。

KDDI総合研究所 イノベーションセンター イノベーション協創 G研究マネージャーで工学博士の川田 亮一氏

 KDDI総研では、音響発生装置からの音波を音響受信装置で検出する世界最小クラスの音響測位システムを開発し、小型かつ高精度の音響測位デバイスを搭載することで、周りが見えにくい水中でも操縦ができるようになるとしている。

実際のデモンストレーション……のはずだったが

ドローンが離水するところ

 ここからは実際に披露されたデモンストレーションの模様をお伝えする。

 デモンストレーションでは、陸上から指定された水面の座標位置にドローンが自動操縦で移動し着水、水中ドローンがリリースされ水中の様子を遠隔で監視したのち、自動操縦で陸上に帰ってくる流れが披露される予定だった。

 ところが、現場がざわついている様子。担当者によると、機材トラブルで水中ドローンがうまくリリースされない状態になってしまったという。デモンストレーション当日の天候は、冷たい雨が打ち付けており、そのためかドローン内部の回線がショートしたのではないかとのこと。奇しくも、「水空合体ドローン」の新たな課題が浮かび上がった格好となった。

 そこで、今回は自動操縦による離陸、着水、離水、着陸までの流れをデモンストレーションすることになった。操縦者とドローンはモバイル回線で接続され、遠隔で操作ができる。ドローンが自動で位置測位し指定場所まで移動し着陸水できる場面を確認できた。

離陸する場面
空中のドローン
水上を飛行するドローン
着水する場面
離水し、出発地点に戻ってきた
KDDIの水空合体ドローン、離陸~着水~離水~着陸
遠隔操作、監視デバイス
空中ドローンからの映像
音波による相対位置測位画面。赤い印が水中ドローンの位置を示している
水空合体ドローン
格納ケージ
水中ドローン

 なお、11月17日の実証では、実際に水中ドローンがリリースされ水中監視が遠隔で行えることを確認しているという。

11月の実証の紹介動画

 KDDIの松木氏によると、初期型機の開発に約半年間、そこから現行機の開発に約半年間かかったという。今後も改良など開発をすすめ、商用機リリースにつなげたいとしている。