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ヤフーとLINEの経営統合完了、世界的AIテックカンパニー目指す

 ヤフーを傘下に収めるZホールディングス(ZHD)とLINEは、経営統合が完了したと発表した。両社は2023年度に売上収益2兆円、営業利益2250億円規模を目指すとしている。

 ZHDとLINEは、2019年11月に両社が経営統合することで合意、2020年8月には業務提携に関する基本合意書を締結した。2020年1月31日付で締結した株式交換契約書に基づいて、2021年3月1日に経営統合を完了した。

 今回の統合により、国内総利用者数は3億超。提供サービス200超で連結での従業員数は2万人を超すこととなった。

 Zホールディングス 代表取締役社長Co-CEOの川邊健太郎氏と代表取締役 Co-CEOの出澤剛氏は「今後、単独では実現できなかった価値の創造に取り組む。ユーザーに最高の体験を届け、社会課題を解決する。ユーザーにとって意味のある経営統合にできるかがすべてだ」と語る。

左=川邊氏 右=出澤氏

4つの分野に注力

 ヤフーとLINEの取り組みにおいて、その根幹となるのが検索・ポータル、広告、メッセンジャーの3つの分野と出澤氏。

 その上で特に力を入れる「注力領域」として「コマース」「ローカル・バーティカル」「フィンテック」「社会」の4つを挙げる。

LINEや実店舗での新たな購入体験

 コマース分野では、現在の利便性はそのままに新たな価値を提供していくという。「ソーシャルギフト」では、誕生日を迎えたLINEの友だちに気軽にプレゼントを贈れる。ヤフーショッピングと連携し、多くの商品を贈れるようにしていくという。

 「共同購入」では、気に入った商品が見つかったら一定人数の友だちに購入を呼びかけることで、低価格で購入できるというもの。また「ライブコマース」では、インフルエンサーがLINE Liveで紹介する商品を、同じくライブビューを見ている人とコミュニケーションし購入できる。

 一方、実店舗と連携した「X(クロス)ショッピング」の試みも試される。Webで注文した商品を自宅に配送するか、仕事などからの帰宅時に店舗で受け取るか、もしくは自宅まで配送するかを選べるというもの。

 さらに、サービスの利用状況や誕生日などさまざまな条件で価格が変動する「My Price」といった仕組みも検討しているという。また、両社の持つロイヤルティプログラムも統合し、より便利でお得なサービスにしていきたいと出澤氏。

 このほか、事業者向けのサービスとしてECソリューション「Smart Store Project」も提供する。ECサイトの構築や運営、購買分析、接客機能や送客を一括して管理することで、店舗のオーナーは商品の仕入れなどにリソースを集中できるという。

 こうした施策により、2020年代前半にEC物販取扱高国内No1を目指すとした。

 広告においても、とくに再購入の促進など従来では難しかった部分で両社の強みを活かしたソリューションを提供していくという。両者のメディア上でリアル店舗で利用できるクーポンの配布やPayPayやLINE Payでの決済時にポイント還元などが例示された。

飲食や旅行業界のDX支援

 飲食や旅行などの「ローカル・バーティカル」の分野では、両社の持つ幅広いサービスを送客起点として、AIを活用することで予約・集客のマッチングを最適化。同時にこうした業界のデジタルトランスフォーメーション(DX)を支援する。

 Yahoo!ロコや一休.comなど既存のサービスはもちろん、LINEアプリ内で飲食店検索サービス「LINE PLACE」を提供するという。

加えて、加盟店舗5万店超の出前館では、10万加盟店を目指し、日本最大のデリバリーインフラを構築するとともに、グループ内の他サービスにも出前館の配送網を活用していくとした。

金融により手軽さを

 フィンテック分野では「金融をもっと身近に、もっと便利に感じられる世界を作っていきたい」と川邊氏。

 借りる・増やす・備えるという部分のサービスの利便性を向上。提携する金融機関もグループ内に限らず、各分野でマルチパートナー戦略で勧めていくという。提供されるサービスのいち例としては、旅行キャンセル時のための「キャンセル保険」、少額ローンの「LINE Pocket Money」PayPayボーナスを1円単位から運用できる「ボーナス運用」が挙げられた。

重複サービスは統廃合すすめる

 今後、LINEが提供する「LINE Pay」は、PayPayが提供する「PayPay」に統合されることが明かされた。また、LINEウォレットからPayPayの利用が可能になり、統合までの間、PayPayのQRコードをLINE Payから読み取れるようにする。

 LINE PayとPayPayの統廃合は、国内に限ったもので台湾含めたアジア主要国ではサービスは継続される。

 両社は今後、競合するサービスの統廃合を進めていく方針を示した。ただし、必ずしも競合するサービスは統合されるわけではなく、ヤフーニュースとLINEニュースは、それぞれに男性、若い女性と異なるユーザー層が形成されていることから、この2つのサービスはこのまま継続されるという。

 新たに設置された、プロダクト委員会によりどのサービスを統廃合するかの検討が進められるとしている。

 また、今後新しいサービスについては、1社のみですすめるのではなく、両社で共同で展開していくとした。

行政・防災・医療では

 社会の分野においては官民連携でDXによる社会課題の解決を促進する。LINEを活用した新型コロナウイルスの枠新摂取予約システムを提供予定で、全国およそ200の自治体で導入される見込みという。

 たとえば、引越し時などに役所に行って煩雑な手続きが必要なくなるように、行政手続きをオンラインでかつわかりやすく実現できるようにするといった世界観が示されており、具体的には2021年中に行政手続の情報の拡充とマイナポータルと連携した行政手続のオンライン申請サービスを開始するという。

 また、防災分野では、平時から被災時、復旧まで一人ひとりに最適な情報を発信する。浸水の危険性が高い場所や災害発生時には一人ひとりに合った災害情報や将来的には、非難ルートのナビゲーションにも着手するという。

 加えて、医療サービスでは2021年度中にオンライン服薬指導を開始するとともに、オンライン診療の「LINEドクター」の国内No.1の提供数を目指すとしている。

スーパーアプリ構想

 川邊氏は、スーパーアプリ構想についても言及。「ZHDはLINE、PayPay、ヤフーアプリと3つのスーパーアプリ化の可能性を持つアプリを持つ世界で唯一の会社」と表現。

 それぞれにコミュニケーション、人とお店など法人、支払いから始まる関係性という異なった特徴があり、必ずしも中国の「WeChat」のように無数のアプリを内包するものを追いかけるのが正解ではないと語る。

23年度に収益2兆円目指す

 こうした注力分野でのキー技術はAIだという川邊氏。「すべてのサービスにAIを実装し、新たな価値の創造を力強く推進していく」と語る。同社では今後、AI関連に5年間で5000億円を投資、AIに係る人員も同じく5年で5000人増員していくという。

 アジア地域では根強い人気を誇るLINE系のサービス。今後は、ソフトバンクなどとの連携も強化し、経営目標として2023年度売上収益で2兆円、営業利益で2250億円を目指すという。主に広告とeコマースでの伸長を期待しているとした。

 同社では、ユーザーの課題やサービス・機能の要望を募る「課題解決ボックス」を設置。このほか、PayPayでは経営統合を記念して「超PayPay祭」も開始した(3月28日まで)。

 川邊氏は「日本からアジア、世界をリードするAIテックカンパニーへ、課題解決先進国となるべく、挑戦していく」と語った。コロナ禍でGAFAや中国企業が力を増していく中、どう存在感を世界へ示していくかという声に「2社はさまざまなサービスをコロナ禍で展開してきたが、日本においては我々(両社)のサービスのほうが使われた面がある」と指摘。「ローカルに根ざした対応力と保有するサービスの守備範囲の広さに特徴を持つ」とコメント。

 出澤氏は「ユーザーからすると、提供者は関係なく便利かどうかが重要。日本において真剣な問題に向き合いたい。(GAFAなどと)同質化するのではなく、差別化していく」とローカルでの対応の重要性を訴えた。