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電動キックボード「Lime」にKDDIが出資した理由

 9月7日と8日、福岡県福岡市の貝塚交通公園で、電動キックボードシェアリングサービス「Lime」の試乗会が開催された。

 Limeは、米国やドイツなど25カ国で利用できる電動キックボードサービス。運営元のNeutron Holdingsには、約1カ月前の2019年8月、KDDIがファンド(KDDI Open Innovation Fund3号)を通じて出資した。

 通信会社であるKDDIがなぜ、電動キックボードサービスとの関係を深めるのだろうか。

電動キックボード、楽しさは抜群

 今回の試乗会では、Limeにとって第3世代にあたる電動キックボードが用意された。それなりの重さがあるものの、手と一方の足をかけて蹴り出し、本体に乗ると同時にアクセルのレバーを回すとスムーズに加速する。

右手のハンドルにアクセルレバー
ディスプレイに速度が出る

 初めて電動キックボードに乗った筆者、最初はスピードの上がる様が予想を上回っていたことに驚いた。とはいえ、それにはすぐに慣れ、純粋な乗り物として楽しくなっていく。アクセルバーを全開にすると時速15マイル(約24km)になるというが、筆者自身は一瞬、時速14マイルまで体験した。自転車でここまでの速度を出すには簡単ではなく、手元のレバーをすっと回すだけで爽快感を味わえるのは面白い。

 一方で、今回会場となった公園内のコースは、ややアスファルトが荒れていたこともあり、がたつく印象も残った。もし公道を走るのであれば、周囲のクルマの状況、路面の状況によって、気持ちよく利用できるかどうか左右されそう。

蹴り出してからアクセルレバーを回せばモーターで走り始める

 スピードを出す分、制動距離を把握する感覚も求められるだろう。運転免許を持っている、あるいは一定の年齢以上の人にするなど、利用する側の条件が必要なようにも思える。試乗前には、雨天のマンホールのような濡れた金属上では、とても滑りやすくなるとも案内があった。

 試乗会は、電動キックボードがもたらす楽しさと課題、それぞれを考える良い機会とも言える。

法律上は原付

 電動キックボードのシェアリングサービスは、複数の事業者が実証実験といった形で、いくつかの場所で利用できる場所が登場しつつある。

 にわかに日本国内でも盛り上がる格好だが、今のところ、道路交通法の上では、いわゆる原付として扱われる。そのため、公道で走るためには、歩道ではなく車道を走ることをはじめ、ヘルメットの着用、ナンバープレートの取得や、保険への対応などが必要だ。

 そうした課題を踏まえても、電動キックボードは、自転車と異なり、大きな体力を使うことなく、気軽に移動できるというメリットがある。設置する場所も、シェアサイクルと比べて、よりコンパクトになるとのことで、店舗などにとっても導入しやすい面がありそうだ。

ホテル×電動キックボード

 試乗会が開催された福岡市は、さまざまな先進的な試みで知られる地域でもある。福岡市を拠点に、新たな取り組みを進めている企業のひとつがシェアフロント型ホテル「mizuka(ミズカ)」を展開するHosty。客室が、近隣地域内でいくつかの場所に散らばりつつ、フロントは1カ所という変わったスタイルで、現在は福岡市の天神・中州の2地区に施設を構える。

 KDDIは、そのHostyにも出資している。こちらもファンドを通じた形だが、KDDI担当者は「電動キックボードに関する条例改正がもし実現すれば、HostyとLimeの連携を進めたい」と意気込む。

 Hostyのクロスビー美喜雄氏も、Limeとの連携についての検討はこれから、と前置きしつつ「Hostyでは、ミニチュアシティというコンセプトで展開している。最初はホテルで、その後、ジムや周辺のレストランなどと繋がりサービスを強化する」と説明。法制度面での課題がクリアされれば、Limeとの連携に意欲を見せる。

クロスビー氏

 Hostyのようなサービスは、KDDIにとっては建物のIoT化といった面で通信事業とのシナジーが生み出せるだろうが、出資の理由はそれだけではない。

 国内の通信市場が成熟し、人口の傾向もあって伸び悩みが見える中で、事業の多角化で、ユーザーとの接点を拡大しようとするのは携帯各社が同じように進める取り組み。宿泊事業はそうした多角化の中でもインバウンド需要に向けた面がある。予約から旅の体験まで一貫してau経済圏のサービスを提供して、そのニーズを取り込めば、国外ユーザーの動きも収益化できる。

 Hostyは、年内にも東京での展開を目指す。客室は浜松町周辺(東京都港区)になるとのこと。Hosty全体としても9月末までに120部屋、年内に230部屋(うち東京は20部屋)と拡大を続ける方針。

 LimeとHostyの連携は、将来的な構想という位置づけで、導入への検討もまだまだこれからという段階だが、観光客にとって、より移動が楽になる手段になり得る。旅の体験価値を向上させる取り組みとしても期待されるものと言えそうだ。