ニュース

新制度施行に向けた取り組みを携帯4社が説明、総務省「モバイル研究会」第16回

 総務省は8月29日、「モバイル市場の競争環境に関する研究会」(モバイル研究会)の第16回を、議題や構成員の一部が重複する「ICTサービス安心・安全研究会 消費者保護ルールの検証に関するWG」との合同会合という形で開催した。

 冒頭では総務省の担当者から、改正電気通信事業法の施行に伴う関係省令などの整備について、現状と今後のスケジュールが説明された。続いて、店頭表示や広告に関する取り組みを消費者庁、電気通信サービス向上推進協議会、電気通信事業者協会(TCA)が説明(※関連記事)。最後に、改正電気通信事業法の施行に向けた取組状況が報告された。あわせて、研究会の構成員による質疑が行われた。

 なお、完全分離などに関連する「電気通信事業法の一部を改正する法律の施行に伴う関係省令等の整備等に対する意見募集」、全国BWA事業者(UQコミュニケーションズ、Wireless City Planning)の第二種指定電気通信設備指定などに関連する「電気通信事業法施行規則等の一部を改正する省令案等に対する再意見募集」が8月23日に公表されたが、今回のモバイル研究会ではこれらのパブリックコメントには言及されていない。

改正法や関係省令などは10月に施行予定

 あらためて整理しておくと、今回の電気通信事業法改正や付随する省令・ガイドラインの整備にあたっては、「モバイル市場の競争促進」「利用者利益の保護」という2点が主な目的として掲げている。

 競争促進のための取り組みとしては、通信料金と端末代金の完全分離、期間拘束や囲い込みの是正といった内容が盛り込まれた。利用者利益を保護するための取り組みとしては、販売代理店の届出制度の導入や、勧誘を適正化するためのルールの強化が挙げられる。

 改正電気通信事業法そのものは5月17日に公布されており、電気通信事業法施行規則をはじめとした関係省令、運用ガイドラインなどは、9月上旬に公布予定。

 改正法や省令の施行日は、10月1日となる見通し。なお、改正法のうち、スマートフォン以外に関する部分は2020年1月1日から適用される。

施行に向けた各社の取り組み

 NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルは、改正電気通信事業法の施行に向けた取組状況をそれぞれ説明した。

 発表者は、NTTドコモ 取締役常務執行役員 経営企画部長 藤原 道朗氏、KDDI 執行役員 渉外・広報本部長 古賀 靖弘氏、ソフトバンク 渉外本部長 松井 敏彦氏、楽天モバイル 渉外部長 鴻池 庸一郎氏。

NTTドコモ

 NTTドコモの藤原氏は、事業法改正に係る同社の考えとして「通信と端末それぞれを自由に比較・選択できるようになることでモバイル市場全体の活性化が期待される」と賛同。

 主な取り組みとしては、改正法の趣旨を踏まえて施行前の6月1日から分離プランを提供開始。端末購入を条件とする通信料金の割引であった「月々サポート」、通信契約の継続を条件とする端末割引であった「端末購入サポート」の受付を5月末で終了した。料金プランについては、省令・ガイドライン案を踏まえて、改正法適合プランを検討中。

 端末販売については、完全分離に伴って定価販売が基本となる分、粗利の削減やベーシックモデルのラインアップ拡充、36回払いや「スマホおかえしプログラム」の導入などで、ユーザーの負担増を避ける。

 施行に向けた課題としては、「駆け込み乱売」「既往契約」「継続利用特典」の3点を挙げた。他キャリアの販売店が法改正前の駆け込み需要を狙った大幅な端末購入補助やキャッシュバックを行っていることに言及し、改正法の趣旨にそぐわないと批判。

 既往契約に関しては、法の不遡及の原則に従って今回の法改正の影響は受けない。このため、他社が提供している48回割賦やそれと組み合わせた買い替えサポートプログラムを利用中のユーザーを想定すると、目標時期とされている「施行から2年後」にはまだ市場の流動性が上がらず、十分に制度改革の効果が現れないのではないかと指摘した。

 継続利用特典については、「ずっとドコモ特典」のポイント進呈は拘束を目的としたものではなく、長期契約者の要望に応えたものであると再説明。省令案に照らし合わせると、フィーチャーフォン(ケータイプラン)を契約している8年以上(3rdステージ以上)の長期ユーザーの場合は還元率が基準を上回ってしまうため、特典のポイント数を切り下げなければならず、はたしてユーザーの理解を得られるのか、改正法適合プランへの移行の妨げになるのではないかと懸念する。

 また、広告表示の問題にも言及。新料金プランの「ギガホ」について、当初「ネット使い放題!」という表現を用いていたが、消費者庁から優良誤認表示として指導を受けたことを明かす。その上で、KDDI(au データMAXプラン)の「データ容量上限なし」というフレーズやソフトバンク(ウルトラギガモンスター+)の「動画SNS放題」を例に挙げ、「放題」表示は消費者の受け止め方を踏まえて適正化に取り組む必要があるのではないかと問題を提起した。

KDDI

 KDDIの準備状況としては、現行の法令やガイドラインの順守とあわせて、広告表示の適正化についても各代理店に通知。組織体制としても、従来は地域ごとの支社に分散していた「代理店契約やコンプライアンス関係の統括部門」と「店頭広告物の表示ルールなどに関する統括部門」を本社に集約し、一元化することで運用を徹底する。

 auでは2017年から分離プランを導入しており、2019年6月末時点で1500万契約を突破。(旧)auピタットプランは、消費者の保護ルールに関するワーキンググループの中間報告書でも「利用実態に応じた料金プランへの見直し」と評価された。また、モバイル研究会前日の8月28日には、改正法に適合したプランとして「auデータMAXプラン Netflixパック」を発表。これは、「解約金1000円」「2年契約の有無による差額が月額170円」という要求を満たした仕様となっている。

 端末購入を条件とする通信料金の割引であった「毎月割」対象プランの受付終了など、改正法に適合しない料金プランの整理・縮小、情報システムの改修も進めている。また、施行前期間の業務の適正化に努め、「法改正前の早期購入を煽るような表現」の禁止を徹底する。

ソフトバンク

 ソフトバンクは5月から改正法施行に向けた全社プロジェクト体制を構築。10月以降のサービス仕様の検討、システム構築、代理店への周知などを急ぐ。新ルールのひとつである「事業者+代理店で2万円まで」という端末割引の制限に対応するため、代理店との連携フローの整備も進める。

 SoftBankブランドでは、2018年9月に分離プランを導入。2019年1月には、端末購入を条件とする通信料金の割引であった「月月割」の受付を停止した。9月前半以降に、改正法適合プランの先行導入を予定している。分離プラン未対応のY!mobileブランドでは、10月までに改正法の趣旨に則った新プランを導入する。

 広告表示の適正化については、2018年12月から、店頭ポスター・POPのフォーマットをキャリア側で指定。量販店などで例外はあるが、代理店独自のフォーマットでの価格訴求を行わない方針となっている。

楽天モバイル

 MNO参入を控える楽天モバイルは、“MNOとMVNOの両方で”改正法適合プランを準備中だという。あわせて、新プランへの移行を円滑化する措置の検討、総額表示への対応、代理店への周知といった準備を進める。

 参入前ということもあり準備状況の説明は手短に終え、同社の発表では「周知期間における違約金請求」「MNPやSIMロック」に関する意見の表明に持ち時間の多くが割かれた。

 周知期間における違約金請求とは、新制度の施行に前後して契約更新を迎える各社のユーザーの扱いに関する話題。多くのユーザーの契約は自動更新であり、事業者からの接触機会が限られるため、更新期間に新制度に関する認識・理解が進まなければ適切な選択ができないとして、「周知が十分になされるまでは、自動更新されたユーザーについても、改正法に適合する料金プランへの移行に際して違約金を減免すべき」と主張した。

 MNPのハードルを下げることや端末のSIMロック解除については、すでにモバイル研究会でも議論され、改正法で基本的な考え方が示されているが、これらに補足する形で次のような点を指摘した。

 まずMNPに関しては、各社ともに予約番号の発行を受け付けていない時間帯がある。楽天モバイルは「一般的にインターネットが活発に利用されている22-24時の時間帯は各社とも受付を停止している」(原文ママ)と、24時間対応の必要性を訴える。

 SIMロックについては、「端末を通じて通信役務の継続利用を利用者に強制するものであり、改正法の趣旨に反するのではないか」(原文ママ)と主張した。

 なお、SIMロックの件についてはNTTドコモが「販売時にSIMロックがかかっている主な理由は割賦販売時の持ち逃げ対策などで、期間拘束が趣旨ではない」と反論している。また、現行制度では3キャリアともに一括購入の場合は即日のSIMロック解除が可能であり、分割購入であっても購入日から101日目以降であれば完済を待たずに解除できる。

構成員からの意見

 野村総合研究所の北俊一氏は、「駆け込み乱売」について指摘。「私のところにも色々なタレコミが来ている」と、持参したある販売店のチラシを取り出した。チラシの内容は「法改正前の最終特価」「2万円しか割引できなくなる前に急ごう」といったもので、このようなことは全国で起きているのではないかと問題視。一方で、価格訴求に関する部分を除けばPOPやチラシは本来代理店に裁量がある部分でもあり、キャリアが一律で管理する状態になってしまったことは少し残念だと言い添えた。

 慶應義塾大学大学院 特任准教授の黒坂達也氏は、新制度の効果を測定するために10月から行われる評価・検証の仕組みを評価。モバイル研究会の中でもデータが十分に揃わないまま議論が進む場面があり、今後の政策形成におけるエビデンスを得るためにも、今回を機に評価・検証を定期的に続けられないかと提案した。