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「楽天モバイル」が“三木谷割”を続けられる理由

FREETEL SIMの統合で140万回線、個人向けシェア1位に

 プラスワン・マーケティングから「FREETEL」のMVNO事業を買収し、個人向けMVNOとして契約数トップに躍り出た楽天の「楽天モバイル」。大手キャリアのサブブランドなどが攻勢をかける“格安スマホ”市場の中で存在感を見せる同社。9月の「楽天スーパーセール」では、6日間で7000台以上の端末を販売し、契約数増加の大きな要因となった。

 楽天モバイルは定期的にセット端末の大幅な値引き販売を行っている。俗に“三木谷割”とも称される、この大幅値引き。実際は赤字覚悟で行っているものではなく、セール期間中の広告費を大幅に削減しすることで原資を捻出。“1契約あたりの獲得コスト”を通常時と同程度に抑えているという。

 また、積極的な店舗展開も楽天モバイルの特徴で、12月1日時点で42都道府県で181店舗を構える。この店舗網の拡大については、オンライン販売のデータを参考にし、戦略的な出店を続けているという。オンラインで売れているが近隣店舗が拾い切れていないエリアを特定し、ピンポイントで出店。やみくもに店舗するを拡大するよりも、多くの契約を獲得できる仕組みだ。その結果、“1契約あたりの獲得コスト”は店舗とオンライン販売でほぼ変わらず、10%程度のコスト差に収まっているという。

「1契約あたりの獲得コスト」はどの程度なのか

 1契約あたりの獲得コストを基準としてそれぞれ支出を最適化することで、収益の安定化を図ってきた楽天モバイル。「今後もMVNOの買収による拡大はあるのか」という記者の質問に対し、楽天 執行役員 大尾嘉宏人氏は、「1人当たりの獲得コストが安いのであれば買収もあり得る」と回答している。

 同社が11月に買収した「FREETEL SIM」の契約数は35万人。一方、負債の承継も含めた買収金額は約36億円となっている。1人あたりの獲得コストは約1万円強という計算になる。囲み取材にて「適正な獲得コストが1万円程度ということなのか」と問われた大尾嘉氏は、これを認めている。

楽天経済圏で“実質0円”を実現

 楽天グループの一員ということも、楽天モバイルの独自の強みだ。楽天モバイルはテレビCMも投入しているが、その投下量は、Y!mobileやUQモバイルの14分の1程度。その差があっても、楽天ブランドにより、高い認知率を獲得している。

 また、楽天の他のサービスとの合同でキャンペーンを実施することで、原資を抑えならがも効果的に契約を獲得している。例えば楽天カードでは、楽天モバイルに加入するというとポイントがアップするほか、楽天市場の上位会員は楽天モバイルの料金も割引される。

 楽天のサービスで囲い込む“楽天経済圏”を活用したもう1つの例は、楽天のモバイルの通信料金を楽天ポイントを充当できるようにしたこと。ポイントにより料金の“実質0円”を実現したことで、ユーザーに安さを感じさせた。料金についての感想をツイートするキャンペーンも実施したことで、ユーザーが新たなユーザーを呼び込む仕掛けとして作用している。

ユーザーの声を素早くサービスに反映しサポートの負担軽減

 一般的に、増加する契約数に比例するのがサポートのコスト。楽天モバイルでは、ここでも効率化を実施することで、負担を減らす取り組みを続けている。大尾嘉氏は「ユーザーの意見をすぐにサービスに反映させることで、その分の問い合わせは減る」と話し、ユーザーの要望にそったサービス拡充がサポート対応の負荷軽減に繋がっているとした。このほか、FAQやガイドブックの充実、チャットサポートとチャットボットの導入などを進めているという。

楽天モバイルの現状

楽天 執行役員 大尾嘉宏人氏

 大尾嘉氏は、“格安SIM”の市場の変化に対応しながら成長してきた楽天モバイルの3年間を振り返って紹介した。2014年~2015年のサービス開始当初は、格安SIMへの認知度が低かった時期。移行を促すため、端末ラインナップを強化してきた。2016年にはかけ放題やデータシェア、大容量プランを投入し、大手キャリアと並ぶサービスを揃えた。2017年には独自のプラン「スーパーホーダイ」を投入し、オリジナリティーを発揮してきたという。

 契約者の年齢層も広がりを見せており、“格安SIM”契約者の中心だった40代の割合が減り、より若年層へシフト。20代~30代で半数を占めるようになった。契約者あたりの収入(ARPU)も、2年前の2015年10月との比較で1.4倍に増加している(金額は非開示)。大尾嘉氏によると「今期(2017年度)は単月で黒字を達成した月もあり、マーケティングコストを抑えれば黒字化は可能な段階にきている」という。

 大尾嘉氏は来年(2018年)のテーマを「マーケティングの年」として、契約数をさらに拡大していく方針を示した。

「スーパーホーダイ」、9割弱が3年契約を選択

 9月に提供を開始した段階制の新プラン「スーパーホーダイ」。特徴は、ユーザーが契約期間を1年、2年、3年の中から選べること。途中解約すると残り年数に応じて1年あたり1万円程度の解約金が発生する一方で、2年契約か3年契約を選ぶと、「長期優待ボーナス」として、契約時にセット端末の購入価格などから1万円~2万円の割引を受けられる。

 この「長期優待ボーナス」が好調で、新規契約者の半数以上が「スーパーホーダイ」を選択。「スーパーホーダイ」契約者の88%は3年契約で加入している状況だという。

 スーパーホーダイの好調を受け、同社は既存プランからの変更でも新規加入と同じ割引を受けられる「スーパーホーダイ プラン変更キャンペーン」を実施する。2018年1月25日10時~2月23日9時59分。

満足度の高かったFREETELの料金プランは存続

 FREETEL SIMの通信サービスは、2018年1月15日より楽天モバイルにブランド統合される予定となっている。大尾嘉氏は「楽天モバイル事業では、ユーザーの声に耳を傾けることで事業を拡大してきた」と語る。買収したFREETELの通信サービスについても、ユーザーの声を取り込み、サービス改善へ繋げていく考えだ。

 買収後、楽天はFREETELの通信サービスの利用者に対し、アンケートを実施。その結果を元に、満足度が高かった」段階制の料金プラン「FREETEL SIM 使った分だけ安心プラン」はそのまま継続し、「使った分だけ安心プラン」と名を改め、楽天モバイルのサービスとして提供されることとなった。

 一方で、不満の声が多かったのは、通信速度や通話アプリ「FREETELでんわ」の音声品質について。通信速度については設備の増強で対応。通話アプリ「FREETELでんわ」については2018年春を目処に、「楽天でんわ」と同じ設備へ統合することで、音質の改善が図られる。

 なお、FREETEL SIMのユーザーに対しては、楽天モバイルの主力プラン「スーパーホーダイ」への移行を優遇するキャンペーンが実施される。「スーパーホーダイ」に切り替えると、契約時の手数料などが無料になるほか、1年目には毎月の料金から毎月500円が割引される。対象は2017年12月31日までにFREETEL SIMに加入したユーザーで、キャンペーンの開始は2018年春になる見込み。

「スマートコミコミ」の対応は課題に?

 MVNO事業を売却したプラスワン・マーケティングは端末の製造・販売を継続しつつ、通信事業では楽天モバイルの代理店として、旧FREETELの通信サービスに関わることとなる。

 「FREETEL SIM」の現ユーザーにとって、不安要素となり得るのが割賦の清算をせずに新機種に交換できる「スマートコミコミ」の今後だ。このプランは端末の販売と通信サービスがセットになっており、端末を市場価格よりも割高な割賦契約で購入する代わりに、購入から一定期間後に割賦残債の支払いなしで新機種に交換できるという内容。

 大尾嘉氏によると、「『スマートコミコミ』のうち通信サービスは楽天モバイルが引き継ぐが、新端末と交換できるオプション『とりかえ~る』は、今後もプラスワン・マーケティングが管轄する」という。仮に、プラスワン・マーケティングが新端末を提供しない場合、ユーザーは最新の端末への機種変更が交換できないまま、割高な残債を支払い続けることになる。この課題について、説明会の中では明確な対応策などは示されなかった。