ニュース

ドコモの災害対策、熊本地震への対応や今後の取り組みを解説

ドコモ品川ビル地下のガスタービン発電装置も公開

 NTTドコモは、東日本でネットワークの監視や災害対策などの要となっているNTTドコモ品川ビルのネットワークオペレーションセンターにて、記者向けの見学会を開催した。合わせて、東日本大震災後から現在までの災害対策の取り組みや、熊本地震での対応などが解説された。この日は、NTTドコモ品川ビルの地下にある自家発電システムも報道陣に初めて公開された。

NTTドコモ品川ビル

 これまでにも公開されているように、ドコモは東日本を担当するネットワークオペレーションセンターをNTTドコモ品川ビル内で運用しており、西日本は、大阪にある西日本オペレーションセンターが担当している。万が一、品川のビルが被災し業務が困難になっても、西日本オペレーションセンターが全国の通信網を管理できるようになっており、これは逆の場合でも同様。オペレーションセンターは大ゾーン基地局を含むアンテナ設備も備えており、ビル自体にも高度な耐震性能や自家発電などの設備が備わっている。

 東日本大震災で得た教訓から、ドコモでは、半径約7kmをカバーする大ゾーン基地局を全国106カ所に設置。基地局のうち約1900局はバッテリーの24時間化を進めるなど、電源の強化と中ゾーン、大ゾーン基地局の拡充を進めた。また早期の復旧に使う衛星エントランスや、非常用マイクロ設備、衛星携帯電話を即時提供するなどの被災エリアへの迅速な対応、災害用伝言板のガイダンス対応や、エリアメールの自治体への提供、SNSの活用といった取り組みも進めてきた。

 東日本大震災では関東と北海道を結ぶ二重化された基幹伝送路のうち、太平洋ルートが被害を受け、残り1つのルートで通信を行う形になったという。この状況では、万が一の状況の対応できないため、その後は全国で伝送路を三重化する取り組みが進められた。熊本地震では阿蘇大橋が崩落し、橋に敷設された光ファイバーケーブルが遮断されてしまう事態になったが、ドコモでは自社グループの設備を含めて三重化していたため、伝送路断による基地局の復旧の遅れは最小限に抑えられたとしている。

 またトラフィック対策でも、ノード系装置をプール化(グループ化)し、負荷分散する仕組みを導入しており、後述する地震発生直後のトラフィックの増加にも対応できたとしている。

 「中ゾーン基地局」とは、バッテリーによる24時間化や伝送路の二重化、アンテナ角度の遠隔操作(半径3~5kmにまで拡大)に対応するなど、通常の基地局を強化したもの。2017年度末までに全国で1200局以上を展開する予定。

 普段は稼働していない大ゾーン基地局は、2017年3月までに全国の106局すべてをLTEに対応させる予定になっている。なお、大ゾーン基地局は、周囲の基地局がほとんど稼働できないといった“壊滅的な被災状況”での稼働を想定する最後の手段であり、関係者は祈りを込めて「動かない方がいい」と口を揃える。

NTTドコモ 災害対策室 室長の池田正氏

熊本地震、恒常的な対策が効果

 熊本地震での被災状況や復旧への対応については、ドコモでは停波した基地局が最大時で82局で、市町村役場では発災直後からサービス中断なく通信を確保したことや、立ち入り禁止区域となった4局を除いて、4月20日夜に地震前のサービスエリアを復旧したことなどを紹介。対象となった熊本・大分の基地局数に対してサービス中断に至った基地局は約4%にとどまった。東日本大震災では、津波による損壊などもあり、対象エリアにある約45%の基地局がサービス中断になっていた。

 熊本地震の発生直後、ネットワークオペレーションセンターでは、“見舞呼”に代表される、被災地外から被災エリアへの通信を規制する対策を実施。被災地内での通信を最大限確保する対策がとられた。

 地震発生直後には音声通話は発信で最大36倍、着信で最大6倍の通信集中(混雑)が発生したが、ドコモユーザーに対する発信規制は実施されなかった。また、パケット通信は発信で最大5倍、着信で最大2倍にまで増加したが、こちらも発信規制は実施されず、メールなどの遅延も発生しなかったという。

 ドコモでは、前述のようにノード系装置の負荷分散や、交換機などの設備自体が強化されてきたことで耐久性が向上した結果、被災地での発信規制にまでは至らなかったと指摘。パケット通信については、通常時でも、東日本大震災の2011年当時から10倍にまでトラフィックは拡大しており、恒常的なトラフィック対策や設備増強による処理能力の向上が影響したとしている。

ドコモ品川ビルの地下、ガスタービンエンジン5機からなる自家発電システム

 5日に開催された見学会では、オペレーションセンターと、NTTドコモ品川ビルの地下にある自家発電システム(コージェネレーションシステム)も公開された。

ネットワークオペレーションセンター
ネットワークオペレーションセンターのフロアは、大きく分けて2つの画面が向かい合わせで配置されている

 ドコモ品川ビル地下の自家発電システムは、ガスタービン発電装置5機からなる設備で、順番に常時2機を待機させ、そのうち1機が24時間の常時稼働で運用するという体制。大規模な災害発生時で停電した際には5機すべてを稼働させることになる。

 ガスタービン発電装置はガスタービンエンジンとボイラーからなり、ガスを燃料にしたエンジンによる発電と、排ガスを使ったボイラーの蒸気による発電の、2つの系統で発電を行う。蒸気の熱は通信設備の空調にも利用される。ガスタービン発電装置は、基本的にジェット機に搭載されるジェットエンジンと同じ仕組みで、非常に大きな音が発生。地下フロアは壁に吸音材が貼られていた。

 ガスタービン発電装置1機の発電量は、最大4650kWで、一般家庭約1万1000世帯分に相当する。普段の燃料はガスで、非常時には軽油を利用する。軽油はさらに地下に埋設されたタンクに合計19万リットルが備蓄されており、備蓄分で約20~30時間分の発電が可能。災害による停電発生時には、24時間以内に燃料が優先して供給される体制も整っている。

ガスタービン発電装置の中核にあたるガスタービンエンジン部分
地下の自家発電システムのフロア
屋内の備蓄用燃料タンク。このさらに地下にも貯蔵されている