「東日本大震災の教訓を活かす」、ドコモの災害対策がほぼ完了


ドコモの岩崎氏(左)と尾上氏(右)
ドコモでは3つの方針で災害対策を進めてきた

 NTTドコモは、東日本大震災からの教訓を反映し、全国的に導入してきた新たな災害対策がおおむね完了したと発表した。23日には都内で報道関係者向け説明会が開催され、取締役常務執行役員の岩﨑文夫氏、研究開発推進部長の尾上誠蔵氏が説明を行った。

 ドコモでは昨年4月27日、今後の大規模災害への対策として「人口密集地や行政機関など重要エリアでの通信の確保」「被災エリアへの迅速な対応」「災害時におけるユーザーの利便性向上」という3つの考え方を示し、それにあわせた対策を実行する方針を掲げていた。今回の会見では、そうした発表済みの対策に加え、新サービスとして、30秒の音声ファイルをパケット通信で送信できる「災害用音声お届けサービス」が発表されたほか、緊急地震速報などを配信する「エリアメール」で新たに津波警報の配信が開始されることになった。これら新サービスの詳細は、別記事をご覧いただきたい。

 このほか、災害時におけるICT情報の活用として、Googleの「パーソンファインダー」との連携、ソーシャルサービスの「Twitter」との連携も発表されている。

 東日本大震災での教訓を反映させた、過去1年に及ぶドコモの取り組みは今回、おおむね完了した。昨年の震災のような大規模停電が発生した場合も、人口が多いエリアを中心にある程度、通信エリアは維持されることになった。震災発生時には首都圏を中心に通話が繋がりにくくなったが、新サービスの「災害用音声お届けサービス」などで、そうした状況の改善が期待されている。

災害対策の内訳これまでのスケジュール

新サービス「災害用音声お届けサービス」

災害用音声お届けサービスの概要

 今回の発表では、パケット通信経由で録音した音声データを送信できる「災害用音声お届けサービス」が発表された。これは、災害発生時でも、比較的早期に規制が解除される、あるいは規制が緩やかになるパケット通信を使って、音声で安否を確認できるというもの。一定規模の災害時のみ運用される。

 東日本大震災で、ドコモにおいて通常の50~60倍のトラフィックに達したという通話サービスは、災害が発生するたび、規制がかけられ、利用しづらくなる。

 それでも文字だけではなく、声で安否を確認したいという根強いニーズがあり、ドコモでは昨年、災害時にパケット通信で音声データを送信できるサービスを開発する方針を発表。その後、他キャリアとの共通運用に向けたガイドラインも制定されている。当初は、スマートフォン向けに提供される予定だったが、ドコモでは幅広いユーザーで利用できるようにするため、従来型の携帯電話(フィーチャーフォン)でも利用できるよう開発し、サービスインにこぎつけた。

災害用音声お届けサービスの仕組み災害用音声お届けサービスの利用の流れ
利用条件体験サービスが用意される

 今後は端末にあらかじめ用意される機能になる予定で、既存のスマートフォンではアプリのダウンロードが、そしてフィーチャーフォンではソフトウェア更新が必要となっている。ドコモでは利用を促進する取り組みが必要との認識を示しており、まずは3月いっぱいの体験期間での利用を呼び掛ける。

 通話とは別の機能として提供されるが、「通話しようとして、通じなければ録音」というユーザーインターフェイスにした場合、想定以上のトラフィックがパケット通信網に流れ込む可能性があるため、通話のインターフェイスとは意図的に分けたという。また録音と同時に災害用伝言板に登録、といった機能は実装されていないが、これは、「災害用伝言板」が1人のユーザーから家族・友人など複数人に向けた機能であるのに対して、「災害用音声お届けサービス」は特定の相手だけに向けてメッセージを登録する形になるため、用途が異なっている。ドコモでは今後のニーズ次第で、災害用伝言板との連携も検討するとしている。

エリアメールは津波警報に対応、対応自治体も拡大

国・自治体向けのエリアメール導入費用を無料にしたところ、導入例が順調に増加

 エリアメールについては新たに津波警報に対応した。エリアメールは、緊急地震速報のほか、国や自治体による災害・避難情報も配信できるサービスで、いずれも数秒で携帯電話へ配信される。ちなみに緊急地震速報と津波警報は、一斉同報配信の仕組みとして、国際標準規格のCBS方式とETWS方式に対応し、災害・避難情報はCBS方式が用いられているという。

 以前は、自治体が導入しようとすると費用がかかっていたが、昨年7月には国・自治体の利用料が無料になった。無料化以降、導入する自治体が増加し、現在は878の自治体で導入された。

グーグル、Twitterとの連携

 新たな取り組みの一環として発表されたのが、ICT活用の推進で、具体的にはグーグルの「パーソンファインダー」、そしてTwitterとの連携ということになる。

 「パーソンファインダー」は、2010年のハイチ地震で公開されたもので、東日本大震災でも提供された。東日本大震災では、2011年3月17日より携帯電話各社の災害用伝言板サービスの情報を検索できる形になったが、今回、正式にグーグルとドコモが協力し、大規模な災害が発生し、「災害用伝言板サービス」と「パーソンファインダー」の運用が開始されれば、連携できるようになる。

パーソンファインダーとTwitterの連携

 仕組みとしては、検索用のフォームが相互に用意され、災害用伝言板でパーソンファインダーを検索し、パーソンファインダー上から災害用伝言板を検索する、という形。たとえばドコモが保有する契約者情報をグーグル側へ渡すことはなく、登録された安否情報をグーグルとドコモの間で共有するわけではない。利用時には、携帯電話番号で災害用伝言板を検索したり、氏名でパーソンファインダーを検索したりできる。

 2012年3月末に対応する予定で、ドコモでは他社提供の安否情報確認サービスやNTTグループのサービスとも連携していく方針。

 またTwitterとの連携については、災害発生時に、政府・自治体・交通・インフラ会社・報道機関といった各組織のTwitterアカウントの一覧を「dメニュー」「iモードメニュー(iメニュー)」のトップページに掲載する。このアカウント一覧はTwitter社から提供されるもので、既に仕組みは導入され、対応済みとなっている。

 このほか利便性の強化策として、復旧エリアマップの機能拡充も紹介された。これは昨年12月に導入されたもので、公開までの時間が短縮され、見やすさの向上が図られている。

停電時も利用できる体制に

大ゾーン基地局の概要

 ドコモがこれまでに行った災害対策では、200億円の費用がかかった。このうち、「人口密集地や行政機関など重要エリアでの通信の確保」は180億円、「被災エリアへの迅速な対応」と「災害時におけるユーザーの利便性向上」は各10億円かかっている。

 200億円のうち大半を占める「重要エリアでの通信の確保」だが、このうち50億円が「大ゾーン基地局の設置」で、130億円が「基地局の無停電化、バッテリー駆動による24時間駆動」に費やされている。大ゾーン基地局は、東日本大震災で初めて導入された手法で、複数の基地局が津波などで破壊されたり、停電で動かなかったりするエリアにおいて、通常よりも広いエリアをカバーする基地局1つ(これが大ゾーン基地局)を用意するというものだ。

 昨年9月に名古屋・岐阜で設置された大ゾーン基地局は、県庁所在地を中心に全国104カ所に設置された。1つの基地局がカバーするエリアは半径約7km(通常は数百m~数km)で、各都道府県にだいたい2カ所(東京は6カ所、大阪は4カ所)設置されている。伝送路は2つあり、一方が切断されても繋がるようになっているほか、耐震性に優れた建物に設置されている。県庁所在地など、地域の中心となるエリアには、庁舎や病院が集まっており、大ゾーン基地局1つで、災害時に重要な拠点となる場所の通信を確保できることになる。ドコモでは「大ゾーン基地局の設置はおおむね完了したと考えている」(岩﨑常務)としており、設置されるエリアはこれ以上拡大しない見込み。

北海道(3局)、東北(12局)、北陸(6局)の大ゾーン基地局。赤い点線で囲われた部分が大ゾーン専用のアンテナ関東甲信越には25局を設置
東海には10局、関西には14局中国には10局
四国に8局、九州に16局

 通信エリアを確保するために130億円が投じられた「無停電化、バッテリーによる24時間化」については、2月末までに、都道府県庁や市区町村役場などをカバーする基地局の電源としての対策がおおむね完了する。エンジンを設置して電力を供給しつづける基地局は全国に約720カ所(完了率は99%)、バッテリーによって24時間稼働できるようにする設備は全国約1000カ所(完了率は87%)となる。バッテリーは、設備内の空きスペースに設置したり、敷地内に収納用のボックスを新たに設置したりすることで導入されている。必要なバッテリー容量の検討や物品の申請、法律上の手続きなどで3カ月~5カ月かかり、基礎工事に約2週間、搬入に約1週間、設置に約1週間とかかるとのことで、設計~完成まで4カ月~6カ月かかる、長丁場の取り組みとなっている。

基地局の無停電化、バッテリーによる24時間化の概要バッテリーの導入スケジュール
施設内の空きスペース、あるいは敷地内に新たなボックスを設置設置例

スピーディに被災地で対応

 基地局の無停電化やバッテリー駆動は、電力会社による停電が復旧するまでの対応策となる。ただ国内で発生する災害では、地震による津波、台風などによる水害や土砂崩れなどもあり、基地局設備そのものや、基地局とネットワークを繋ぐ伝送路が破壊されることもある。

 こうした対策として、かねてより導入されているのが衛星携帯電話だ。これまでに1000台配備しており、東日本大震災のほか、昨年の台風12号・15号の際にも自治体などに貸し出された。被災地の避難所などで展開し、できるだけ早く通信できる環境を提供する仕組みと位置付けられる。

衛星携帯電話を増配備衛星回線を使うエントランス回線を拡充
車載基地局を新たに9台人が持ち運ぶ可搬型基地局。北海道では自衛隊ヘリで運搬する訓練も

 被災地にいるより多くのユーザーが通信できるよう、臨時の基地局を用意するのも重要な対策の1つで、そうした装置の1つが車載基地局(車載型衛星エントランス基地局)。これまでドコモでは10台を運用してきたが、新たに全国で9台追加した。さらに、人の手で持ち運びできる可搬型基地局(可搬型衛星エントランス基地局)も新たに24台が導入された。このほか、基地局と基地局を結ぶ伝送路が壊れた場合に備え、有線ではなく無線で伝送路の役割を果たす「マイクロエントランス回線」は非常用として100区間分が配備された。

今後の対策

重要施設を分散化

 日本では、台風、地震、大雪など多くの災害に見舞われる可能性がある。ドコモでは、特に首都直下型地震への対策の1つとして、首都圏に集中する傾向がある重要な設備を他の地域に分散する。2012年度までには、パケット通信を支えるスマートフォン用のシステムと全国の顧客情報管理システムの2つのバックアップを関西と九州に設置し、サービスを継続して提供するために最低限必要な設備を日本列島の東西に分散させる。

 このほか、基地局においては太陽光発電やリチウムイオン電池の導入などで電源の確保・省電力化・電力使用量の見える化をはかり、“グリーン基地局”の取り組みを進める。

 昨年12月には東北復興新生支援室を設置したほか、事業継続計画(BCP)を含めた災害対策マニュアルの見直し。総合的な訓練の実施、自衛隊などとの連携強化も進める。

復旧エリアマップの機能拡充災害用伝言板サービスには音声ガイダンス




(関口 聖)

2012/2/23 20:26