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Pokémon GOと東北3県・熊本県がコラボ、観光復興の取り組みへ

左から熊本県東京事務所長の渡邉純一氏、達増岩手県知事、ナイアンティック村井氏、村井宮城県知事、福島県企画調整部長の伊藤泰夫氏

 岩手県、宮城県、福島県、熊本県と米ナイアンティックは、人気ゲーム「Pokémon GO」とコラボレーションした観光施策を行う。東日本大震災や平成28年熊本地震の被災県での取り組みとなり、被災したエリアの“今”を知って欲しいという。

 東北3県では過去、ナイアンティックが提供するゲーム「Ingress(イングレス)」のイベントが幾度か実施されている。今回の連携は、Ingressでの流れをくみ、より多くのユーザーが親しむPokémon GOを通じて、観光客の増進をはかり、訪れた人、地元の人双方にメリットが生まれる取り組みを目指す。

 具体的な連携のイメージとして、Pokémon GOのプレイヤーが訪れる場所であるポケストップやジムを追加すること、あるいはそれらのスポットを利用した周遊ルートマップの作成、Pokémon GO関連イベントの実施が検討される。

いつから実施?

 これらがいつごろ実現するか、現時点では未定で、これから検討されることになる。

 村井嘉浩宮城県知事は、「できるだけ早く、具体的に詰めていきたい。役所の場合、予算が必要になる。宮城県の場合、事業費が必要であれば補正予算を9月に組みたい。4県ともそうだと思います」とコメント。

 達増拓也岩手県知事は「先週末、(NHKで放送されたドラマにちなむ)久慈市で『あまちゃんサミット』があった。そこで集まった人が、あまちゃんにちなんだPokémon GOイベントを企画した。あまちゃんゆかりの場所を訪れるとおのずとポケストップに遭遇し、その写真を撮ったり、ポケモンに出会えばゆかりの場所を背景に写真を撮ったりして、SNSでシェアしていた。地域振興とPokémon GOの活用は自然発生的に起きているところもある。そういったところは県としてはすぐにでも連携できるのではないか」と回答した。

ナイアンティックと被災地の関わり

 Pokémon GOでは日本マクドナルド、TOHOシネマズと、パートナー企業とのコラボレーションが明らかにされているが、今回、ナイアンティックは被災地での観光振興という大きなチャレンジに挑むことになる。

 といっても、ナイアンティックにとって、こうした取り組みは初めてのことではない。今から2年前の2014年5月、宮城県石巻市で「Ingress」のイベントが開催された。当時、ナイアンティックはグーグル社内のスタートアップであり、グーグル自身が東北での復興支援活動に携わっており、Ingressのイベントもそうした流れのなかで実施された。Ingressを生み出したナイアンティック創設者のジョン・ハンケ氏も当時、石巻を訪れている(※関連記事)。

 2014年のイベントで石巻に集まったエージェント(Ingressプレイヤーのこと)は東京や関西など都市部だけではなく韓国やオーストラリアから来た人もいた。100人足らずだったが、その1年後、仙台で行われたイベント(※関連記事)には4000人、その翌日に東北各地で行われたイベント(※関連記事)には2000人が参加した。

 また熊本では、エージェントが被災者を支援するための情報発信に携わった(※関連記事)。この活動は、ナイアンティックの“中の人”の動きもあって、グーグルやヤフーを通じて被災者に、営業中のスーパーや銭湯などの情報が届けられた。

立ちふさがる“風評被害”の壁、防げるか“記憶の風化”

村井宮城県知事

 東日本大震災からは5年が過ぎ、被災地では新たな商業施設ができあがり、地場産品の回復など、復興に向けて着実に歩んでいる。

 その一方で原発事故の影響による立入禁止区域、風評による観光客の減少、歳月が過ぎることでの若年層を中心とした記憶の風化がある、と村井宮城県知事は指摘する。たとえば福島県では教育関連の旅行が震災前と比べて50%に落ち込んだままだ。今春発生した熊本地震では、熊本県内のいたるところに傷跡が残り、避難生活中の人も多く存在し、なおかつ観光への影響も出ている。

 今回の取り組みについて、村井知事は「Ingressのイベントが2015年、仙台で開催された。それがあったので村井からナイアンティックに連絡し、4県でやりたいと打診したら受け入れていただいた」と経緯を説明。震災の影響が残るからこそ、若年層を中心として人気の「Pokémon GO」との連携に取り組んで、“見て”“来て”“感じて”被災県の今を知って欲しい、と語る。

 記憶の風化を防ぐため、中長期的な取り組みとして、ナイアンティック日本法人の代表取締役社長である村井説人氏は「Ingressでポータルとして登録されているスポットは、普段気付かないものの、過去から脈々と受け継がれてきた遺産が多い。IngressやPokémon GOを通じて、普段見過ごしていたものに出会うことが多々ある。記憶の風化を防ぐと言うと大上段に構えてとっつきにくくなるが、(ゲームを通じることで)自然と学ぶ環境ができる。これはとても価値があること。Pokémon GOがここまで人気になったのは我々自身、とても驚いている。中長期的にどう成長するか、ナイアンティックの企業努力としていろんなことをやっていくことで継続していく物だと信じている。具体的に何をやるか、Ingressも中期と言える時間をかけてきていると思うが、そうしたノウハウを使ってPokémon GOでもうまい取り組みができればと思う」と何らかの取り組みを行う姿勢を示す。

 今回の取り組みを通じて、観光客の増加だけではなく、訪れる人と地元の人との間のコミュニケーションの促進も狙う。村井知事は、「県庁の目の前にも勾当台公園というところがある。いろんな方々が集まって、会話が始まっているという例も私は見て来た。公園という場所はいま、人が集まらない場所になっている。まず人に集まってもらえるようにする。人が集まればそこにコミュニケーションがスタートするだろう。Pokémon GOはその役割を担って欲しい」と述べた。

世界遺産への訪問、海外からの観光客増に期待

達増岩手県知事

 現実世界を舞台に、実際に現地へ足を運ばなければアイテムなどが手に入らないというナイアンティックのゲームは、多くの人をさまざまな場所へと誘う。ナイアンティック村井社長も「Ingressの時代から復興や観光振興に繋げてきた実績がある」と胸を張る。

 具体的に訪れて欲しいエリアとして、達増岩手県知事は「やはり被災地の沿岸部に来て欲しい。それから世界遺産の平泉や釜石の鉄鋼山跡にも」とコメント。村井知事は「Pokémon GOは米国で火が点いたが最近では台湾でも人気と聞いている。台湾からぜひ被災地へ来て欲しい」と期待を寄せる。福島県も避難指示が解除された楢葉町や、影響がないにも関わらず風評被害を受ける会津、中通りといった地域への観光にも繋げたいという。

福島県企画調整部長の伊藤泰夫氏
熊本県東京事務所長の渡邉純一氏

「危険な場所には入らないで」、常識もったプレイを

 一方で「Pokémon GO」では、不注意による事故や、立ち入りが禁止されるエリアへの侵入など、国内外でさまざまなトラブルが伝えられている。ナイアンティックでは、大規模な駅周辺でポケストップを撤去する、あるいはアプリ起動時に注意書きを表示したり、自動車で移動中と思われるような高速移動時にアラートを出したりするなど、アプリの改善を図っている。

 立ち入りを遠慮してほしい場所はあるか? という問いに熊本県の担当者は2000人近くがいまだ避難生活をしており、そうしたところへの立ち入りを避けて欲しいと要望する。また福島県は原発事故で避難指示が出ているエリアへの立ち入りをしないよう求める。

 達増岩手県知事は「危ないと思う場所や、真面目なイベントをやっている場面など、ゲームプレイヤー以前に、社会常識として人間として判断してもらえればと思う」とプレイヤー個々人の常識に委ねる姿勢を示した。

4県にレアポケモン?

ナイアンティック村井氏

 ポケストップやジムの新設、あるいはイベントの実施といった方向性は示されたものの、具体的なスタート時期やその内容はまだこれから。そこで「レアなポケモンも登場するのか?」という問いに、村井社長は「ひとつのアイデア。否定するつもりはない。いろいろ協議しながら、ゲームのバランスを最も重要視しながら我々のほうで決めていきたい」とした。

 また新設されるポケストップ・ジムの候補については村井氏「現時点でどれくらいの数がマッチするのかまだわからない。どう観光へ貢献できるかといった観点で、どういう方に貢献していただくのか、協議しながら決めていきたい」と説明する。

 Ingressでは、特定の場所でしかプレイできないスタンプラリーのような“ミッション”、そうしたミッションを複数用意してプレイ実績のひとつにカウントする「ミッションデー」というイベントが用意され、遠く離れた場所でも訪れたいと思わせる仕掛けが用意されている。現状のPokémon GOにそうした仕組みはないが、村井氏は「水辺にはみずポケモンなど、地形や自然にあわせたポケモンが登場するようにしているが、(今回の施策にあわせて)我々もいろいろと検討しながらサービスを設定していきたい。4県には自然豊かな場所があると思う」と述べて、何らかの仕掛けを採り入れる方針を示唆した。

新設するポケストップ、Ingressにも?

 新設するポケストップがIngressにも影響を与えるのかどうかという点について、村井社長は「ポケストップのもとになった情報は、Ingressのユーザーのみなさまと一緒に作り上げてきた価値ある資産だと思っている。今回の取り組みのような形は、これまでと違った形で価値ある情報を集めるひとつの手段だと考えている。この情報をPokémon GOだけにするのか、Ingressに反映するのか。ここは我々がきちんと考えて、ゲームバランスを踏まえていきたい。もちろん良い方向にいくようにしていきたいのでご心配なくというところです」と話す。

 ナイアンティックとしてはパートナー企業を今後も拡充する方針とした村井社長は「米国で開発されたプラットフォームに、日本が生み出したキャラクターが乗ったことで世界中に伝播した。(自治体との取り組みも)日本から世界へ発信できる、いいきっかけになると思う」とした。