インタビュー
アクセスは200万件、「熊本地震リソースマップ」を作ったYouth Action for Kumamoto
裏側にあったのはFacebookとIngressの力だった
(2016/4/27 15:36)
発生から2週間が経とうとする、平成28年熊本地震。いまだ揺れが続く被災地に向けて、4月17日から、グーグルが「熊本地震リソースマップ」を提供している。営業中のスーパーや飲食店、ガソリンスタンド、入浴できる銭湯や温泉など、多岐にわたる情報が地図上でチェックできるもので、グーグルだけではなく、ヤフーでも同じ情報を参照できる。
熊本地震リソースマップの情報源は、学生たちが中心となって動く「Youth Action for Kumamoto」(YA4K)だ。熊本地震リソースマップの元である、YA4Kが公開するGoogleマイマップの閲覧数は、これまでに197万回に達しており、中でも炊き出しマップへのアクセスは60万回に達した。
YA4Kを立ち上げたリードメンバーで、慶應義塾大学生の塚田耀太さんは、「(リソースマップを)見る人の“目線”を徹底的に意識した」と語る。
QRコード、ネットプリントを用意
YA4Kが提供するのは、給水情報、炊き出し・支援物資、営業中のスーパー、ガソリンスタンド、透析施設、営業中の医療機関などさまざま。最近では、新たにボランティアセンターの情報、被災者向けの一時避難受け入れ施設や、仮住まいなどの住宅情報のまとめも追加された。
こうした情報は現在、Facebookに用意された専用グループへの投稿をもとにしている。YA4KのFacebookグループへの参加者は3000人を超えており、誰でも情報を投稿できる。“誰でも”となれば気になるのは情報の信頼性だ。
塚田さんによれば行政や報道機関、店舗の公式アカウントが提供するものは正しい情報として扱う。口コミや一般のTwitterなどについては、複数の情報源があったり写真があったりするものは、一定の基準を満たしたものと位置付ける。さらに最近では、YA4Kにも関わる学生がボランティア活動を行うべく現地入りしており、ボランティア活動の合間に投稿された店舗営業情報などを現地で確認している。現地にいるYA4Kメンバーは、行政も把握しづらい非正規の避難所を探したり、正規避難所にいる人たちの人数をチェックしたりする。
こうして集められた情報は、ただリストとしてまとめるに留まらず、使いやすさを追求した形に仕上げられている。今回は、Googleマイマップに落とし込まれ、地図上へ一覧できるようにした。そのマイマップへの誘導として、グーグルやヤフーといった大手サイトのほか、YA4KではQRコード、コンビニネットプリントを用意する。熊本大学の学生が避難所を訪れ、QRコードを張り出しているところもあるという。また被災地の社会福祉協議会にも活用されはじめている。
Facebookで情報を募り、整理する
東日本大震災の被災地での支援活動に携わってきた塚田さんは、熊本地震の発生直後から周囲の仲間、古川拓さん、高橋弦さんと何ができるかSkypeを通じて話し合いをはじめた。地震直後は、もし現地入りしてもボランティアの活動する枠組が整備されていないなど、活躍できないのは明白だったため、後方支援という方向性はすぐまとまった。だが、具体的にどういう形にしていくか、なかなか決まらない。このとき、専用サイトの立ち上げも検討したが、メンバーのひとり、高橋弦さんが「見るだけになるのは古い。情報はあふれかえっている。みんなに投稿してもらおう」とアイデアを出し、Facebookグループを作成することに決まった。
そうして15日の午前3時半頃、Facebookグループを作成、同じく東北での支援活動に携わってきた知人など300人にシェアした。
一眠りした15日昼、塚田さんが目を覚ますと、300人にシェアしたFacebookグループの参加者は500人を超えていた。この段階で「これはもっと拡がるかも」と予感して、ソーシャルメディアで繋がる、さらに多くの知人に声がけを始める。それがいまや3000人ものメンバーを抱え、数多くの情報が寄せられる場へと短期間で成長。学生メンバーが中心となって、情報の更新を続けている。
Ingressのエージェント仲間がサポート
活動の初期段階で、情報収集・整理活動を支援したのが、塚田さんも楽しんでいるというスマートフォンゲーム「Ingress」のエージェント(Ingressプレイヤー)たちだ。塚田さんが地震直後、Ingressエージェントの多くが利用するGoogle+上でも、支援関連の情報が欲しいと声を挙げたところ、被災地関連のグループチャットに招かれた。Ingressは公園や街にあるアートなどがゲーム世界の中で“ポータル”という存在になり、実際にその場を訪れて遊ぶゲーム。現実世界を舞台にするだけに、普段からご近所のエージェント同士は顔見知りになりやすい。そうしたIngressの側面が生み出した繋がりだ。
グループチャットでは数多くの情報がやり取りされていた。ただ、情報の流量が多すぎて、整理する必要があった。そこで、その役割を担いたいと手を挙げた人たちによる、新たなグループが形成される。このグループを通じて、YA4Kが表に出していくコンテンツの形式が整えられていく。エージェントのなかには、たとえば自治体がメールで配信するコンテンツを自動的に整理しGoogleスプレッドシートへコピーする、というスクリプトを用意して、人力への負荷軽減を図る人もいた。
なかには、被災したエージェントもいた。そうした人たちは、普段からクルマで移動してIngressを楽しむことが多く、自然と、いわゆる生活圏よりも広い範囲でガソリンスタンドの場所を把握しており、行列情報なども写真を交えて集まってくる。最初は10カ所にも満たないガソリンスタンド情報は、エージェントの助けもあってどんどん充実していった。
さまざまな形で寄せられる情報は、こうしたメンバーの力を得て、「市区」「施設名」「営業時間」「住所」「ソース(情報源)」「更新日時」といった項目に分類され、地図上にプロットされていく。このエージェントたちのグループは、現地がやや落ち着きを取り戻し始めたことから、現在、一区切りをつけて、いったん活動を休止している。
グーグルに採用
多くの人を巻き込もう、と塚田さんがコミュニケーションした人物のひとりに、Ingressを運営する米ナイアンティックのメンバーである、河合敬一氏がいた。
つい最近、米国を訪れていた塚田さんは、シアトルで河合氏と面識を得ていた。河合氏はかつてグーグルに在籍し、東日本大震災のころにはクライシスレスポンスチームのメンバーでもあった。その河合氏から、何かあればグーグルを紹介する、と反応を得た塚田さんは、即座にグーグルマップとの連携を打診。グーグル側からもスピーディにYA4Kの情報を採用するとのレスポンスがあって、「熊本地震リソースマップ」として登場することになった。さらにはグーグルを介してヤフーでの活用も決まった。
グーグル側からYA4Kには「少なくとも1日に2回更新してほしい」とだけリクエストがあった。YA4Kでは、活動開始から1週間程度は、1日3~4回は更新をかけ、情報の鮮度を保つことを心掛けた。
変化していく環境にあわせて
約200万回も閲覧されてきた、YA4Kのマイマップ。ジャンルごとにマイマップが用意され、その利用件数の動向を最近、きちんと把握するようにした。すると給水情報や透析関連の情報は、当初に比べて、利用件数が落ち着きを見せつつあることがわかった。
こうした傾向は喜ばしいこと、そして今後は医療情報やボランティアセンターの場所、あるいはボランティア向けの滞在施設、被災者向けの一時退避用宿泊施設や住宅情報が求められるだろう、と塚田さんは語る。
情報はまだまだ欲しい
震災から1週間程度、1日数回の更新を行っていくなかで、メンバーのなかには不眠不休で活動する人が出てくるようにも。休みをきちんと取ってメンバーが体調を管理していく体制作りも課題のひとつ、という塚田さん。
先述したように情報の内容が変化していく可能性があるなかで、「情報はまだまだ欲しい」という。まもなくやってくる大型連休では、多くのボランティアが現地で活動すると見られるが、その連休の後も、現地では人手が求められる可能性がある。そうした状況に向けた支援、あるいはいずれ復興支援として熊本の観光企画も役立つ時期がやってくる。今の活動は、いつまで提供するのか決まっていないとのことだが、そうした展開もにらみつつ、Youth Action for Kumamotoは活動していく。