インタビュー
「arrows NX F-02H」開発者インタビュー
進化のポイントは突き抜けた機能と安定・安心・安全
(2015/12/21 12:00)
12月4日にNTTドコモから発売された「arrows NX F-02H」。富士通が開発した冬春のフラッグシップモデルとして、夏モデルのF-04Gから採用された虹彩認証機能を受け継いだうえで、MIL規格に準拠して耐久性能をより高めるなど、正統進化を遂げた1台となっている。ただ、端末の外観や機能・性能については、F-04Gと大きくは変わらないように見える。果たして、新端末のF-02Hはどこがポイントとなるのか、開発に携わった富士通 ユビキタスビジネス戦略本部 モバイルプロダクト統括部 第二プロダクト部の光安慶祐氏にお話を伺った。
細かな使い勝手の向上、ストリーミングの高速化で「一瞬」の良さをさらに追及
――夏モデルのF-04Gに続くフラッグシップのF-02Hですが、具体的な違いとしてはどんなところにあるのでしょうか。
光安氏
arrows NX F-02Hでは、夏モデルでアピールしていた「一瞬」というコンセプトを進化させること、そして「安心・安全に使える」点を強める、という2本柱でやっています。
「一瞬」については、F-04Gから引き続いて搭載している虹彩認証機能がその1つとなります。進化ポイントとしては、虹彩認証用の赤外線カメラをできるだけ端末中央寄りに配置して、より自然な姿勢で認証できるようにしています。また、カメラで位相差AFを使い0.14秒という高速オートフォーカスを実現しているところです。
それから通信機能の部分。F-02Gで初めて「高速ダウンロード」機能を搭載しましたが、これまではアプリやファイルのダウンロード時に利用できるだけだったのが、YouTubeなど一部の動画ストリーミング再生時にも適用されるようになりました。
「安心・安全」に関しては、本体上部のヘッドライン部分に傷がつきにくいハードアルマイト処理を施しているのと、背面にナノテクファイバーという素材を使って、背面の美しさ、デザイン性に特長をもたせながら、強さ、曲げ耐性を高めています。背面にはさらに「タフレイヤーコート」というコーティングを行っていて、それによって耐摩耗性の向上や、塗装のはがれにくさも実現しました。
米国国防省の装備導入基準であるMIL規格の14項目に準拠したのも「安心・安全」の要素の1つです。「本当に強いの?」と思われそうなデザインの中で、MIL規格の14項目準拠を実現し、スタイリッシュさと強さを両立させることを基本的な考え方としました。
――継続しての搭載となる虹彩認証ですが、前モデルでの反響はどうでしたか。
光安氏
購入者を対象に調査させていただいたところでは、利用率は非常に高いです。以前のモデルでは指紋認証機能を搭載していましたが、それと比較しても利用率は非常に高く、満足度も高くなっています。「虹彩認証機能があるから買った」という人もいらっしゃって、購入動機としても高い。しかも実際に使いやすいということで好評をいただいているものと認識しています。画面を見るだけですぐに認証できるというのが、この機能の強みになっていると思います。
――赤外線カメラの位置をずらしたとのことですが、それだけでも認識精度は変わってくるものですか。
光安氏
使用しているカメラなどの部品は以前と同じものなので、認証の際の速度が上がっているようなことはありません。しかし、位置をできる限り中央に寄せることで両目の画角内への入りやすさがアップしていて、よりスムーズに認証できるようになっています。カメラのある端末上部はいろいろなセンサーやスピーカーで“渋滞”していてスペースの取り合いになっていますので、設計担当者と細かく詰めて最適なポジションになるよう工夫しています。
――対応範囲がストリーミングにも広がった高速ダウンロード機能ですが、通信の高速化もやはりニーズは高いのでしょうか。
光安氏
スマートフォンで扱うコンテンツがどんどん多くなっていて、とにかくどんな時でも快適に通信したいというニーズがやっぱりありますね。いろいろなところでスマートフォンを取り出してWebを見たり、通信を頻繁に行うアプリを使ったりとか、とにかく常につながって通信状態にある時間が日々増えてきているのかなと思っています。その点からも、単に高速なだけじゃなく途切れないで安定してつながる通信のニーズが高いと考えて、安定通信と高速通信についてはこれまでもずっと取り組んできました。
そんななかで、従来はマルチコネクションと高速ダウンロードの設定をあえて分けていたのですが、煩雑で分かりにくいとお客様や社内からも意見があり、F-02Hからは高速ダウンロードをマルチコネクションのくくりにまとめています。
――F-02Gから搭載されたマルチコネクションですが、どれくらいのユーザーが日常的に利用しているか把握していらっしゃいますか。また、改めてその仕組みを簡単に教えていただけますか。
光安氏
マルチコネクションの利用率は弊社の調査で把握しておりますが、公表はできません。マルチコネクションはWi-Fiの環境が良いところではほぼ常にWi-Fiで通信するようになっています。「ここは速くダウンロードしたい」という時はLTEとWi-Fiの両方をフルスピードで実行する設定にも切り替えられますが、マルチコネクションは基本的には安定通信の実現を目的に、Wi-Fiの状況が良ければWi-Fiを使い、通信状況が良くない時だけLTEで補完します。オンにしているからといってLTEをどんどん使ってしまうわけではないので、通信量を気にされるお客様でも心配はありません。
――2015年は定額聞き放題・見放題の音楽配信、動画配信サービスが相次いでスタートしています。高速ダウンロードについては、そういったサービス側との連携ができると使いやすいのでは。
光安氏
そのあたりはNTTドコモ様とも話をしていて、多数のコンテンツサービスとうまく連携できないか検討しています。今回はいくつかの課題があってドコモサービスでは「dヒッツ」のみの対応としましたが、それ以外のドコモサービスと連携できないかは順次検討を進めていきます。
使ってみれば誰もが驚く、新しい規格に次々に対応するarrows
――arrowsのフラッグシップモデルは新しい規格に真っ先に対応するなど、特にマルチメディア関連の機能が突き抜けている感があります。今回もF-04Gで対応したTransferJetに加えて、録画番組の持ち出しを可能にするSeeQVaultにも対応してきましたね。
光安氏
arrows NXのターゲットは大きな画面を使いこなして動画、写真などのコンテンツを楽しみたいユーザーが多いのかな、という考えが根底にあります。ですので、それを支える通信の安定・高速化や、SeeQVault/TransferJetといったマルチメディアの新しい規格への対応はどんどん進めたいと思っています。
――とはいえSeeQVaultにしてもTransferJetにしても、まだ対応機器はそう多くはありません。将来的にどういう使い方を想定して搭載しているのでしょうか。
光安氏
まずSeeQVaultを搭載した理由ですが、スマートフォンでも対応することによって、これまでのカードリーダーが必要だった状況からお客様の使い勝手を上げられると思っています。対応製品はまだ限られていますが、F-02Hではコンテンツ再生用のSeeQVaultプレーヤーをプリインストールしているので、バッファロー様のアダプターと東芝様のレコーダーを使えば、録画したテレビ番組をすぐにスマートフォンに転送可能です。
――これらの機能はターゲットとしてはコンシューマーだと思いますが、活用用途として今後何らかの提案をしていく予定ですか?
光安氏
「対応しました」というだけではもちろんダメで、今後の新端末の検討もすでに始めていますが、1つのアイデアとして「SeeQVaultやTranseferJetを使って宅内で動画を楽しむ環境をもっと便利にできないかな」とは思っています。端末の中だけでやっていくのはやはり厳しい。他の機器やサービスとのつながりという観点まで含めて考えていかないとなりません。でも、TransferJetを実際に使ってみると、すごく高速で、誰もが驚く。もしかしたら有線でつないだ時よりも速く感じられるかもしれない。これをどういう風にアピールしていくかが重要だと思います。
――ところで1月31日まで開催されている、F-02H購入者を対象にした「冬のWプレゼントキャンペーン」がかなり充実していますね。
光安氏
Aコース、Bコース、Cコースがあって、合計1500名に豪華賞品が当たります。特にAコースはレグザサーバーとSeeQVault対応TransferJetアダプター、それにSeeQVault対応microSDHCカードという3製品のセットが500名に当たります。通常この規模のキャンペーンはせいぜい当選者が1~2名程度だったりしますが、これも、SeeQVaultやTransferJetをどんどん広めていきたいという我々の思いの表れです。
今までの積み重ねでできたMIL規格14項目への対応
――arrows Fit F-01Hや他社の冬春モデルもMIL規格に準拠していたりと、近頃は耐久性の強化にフォーカスしているような気がします。これはどういった理由によるものでしょうか。
光安氏
端末の買い替えサイクルがどんどん長くなっていることが理由として挙げられると思います。端末を一度購入したら長く使い続ける人が多くなっているので、「傷ついてほしくない」「壊れてほしくない」「いつまでもきれいに使いたい」というニーズは以前に比べて増えてきていると思います。そういうことからトレンドとしてそんな流れになっているのかなと。
MIL規格の別の準拠項目をどんどん増やしていく、というのがニーズとしてあるかどうかは分かりません。ただ、安心・安全に使えるという意味ではニーズのある指標です。安心・安全をうたっていく手法として、MIL規格の準拠項目を増やしていったり、試験をさらに厳しくするといった取り組みは継続して検討していくことになると思います。
――F-02Hは、MIL規格に準拠している割にはゴツくはなく、フォルムとしては夏モデルと同じようなテイストに見えます。
光安氏
MIL規格をうたっている端末は、デザインを見るといかにも強そうな見た目になっているものもあるようです。デザインは購入動機としても大きな要素であると認識しています。カッコ良く、スタイリッシュというのは前提として守りつつ、その中で安心・安全・強さを兼ね備えたいという考えでやってきました。なので、ゴツゴツしているように見えないよう気を付けながらやっています。
――前モデルのF-04Gと比べてF-02Hの耐久性はどれほど高くなっているのでしょうか。また、MIL規格準拠で何か開発において変わったところは?
光安氏
強度について一番分かりやすいのは、MIL規格に相当しない部分ですが、端末上部にあるヘッドラインの金属が従来の約2倍の傷つきにくさになっています。背面にある独特の模様に仕上げられたナノテクファイバーは、素材としては従来の1.5倍くらいの強さを実現しています。その素材を採用することで、強度を保ったまま薄型化を実現することができました。
ちなみに今回初めてMIL規格準拠としましたが、何か新しいことをやったから対応できたというわけではありません。これまでやってきたことの積み重ねです。我々は独自の試験を常に行っていて、その試験により培った耐久性によって、MIL規格の基準もクリアできたと思っています。世間でもよく知られている、第三者から認められている規格で箔が付くということもあり、今回からプロモーションとしてうたうことにしました。
――arrows NXのデザインテイストとしては、しばらくこの方向性で?
光安氏
大画面は維持しつつ、薄型に、というのはやっていきたいですね。スマートフォンは毎日欠かさず持つものですし、おしゃれにカッコよく持てる端末として、誰もが共感できるようなデザインにこだわりたいと思います。
チップセットの動作を自動で最適化する「NX!Tune」とは
――チップセットの発熱問題について、夏モデルでは他社も含めて苦労していたようです。今回はチップセットを変えて、周辺の使い方も工夫しているようですね。
光安氏
まず我々の基本的なスタンスとして、その時出すモデルにフラッグシップとして一番良いチップセットを採用する、という考え方があります。今回の冬モデルの時期においては、いろいろなチップセットのラインナップがあるなかで、「これが一番最適だ」と思えるもの、なかでも電力効率が良いチップセットを選びました。
ターゲットユーザーはスマートフォンを使いこなす人が多いので、高いパフォーマンスで長く持続的に使えて、常に快適な操作性を提供できるもの。それができるCPUはどれかを考え、もちろん夏モデルで熱や電池持ちに対して厳しいご意見があったことも理解したうえで総合的に判断し、今回はSnapdragon 808 MSM8992を選択しました。
――チップセットの動作を最適にチューニングする仕組みも導入しましたね。
光安氏
お客様の使い方、利用シーンを見ながら、ソフトウェア処理でチップセットを最適に調整していく「NX!Tune」という機能を搭載しています。電池残量、端末の温度、使っているアプリなどの各種ステータスやセンサーの情報と、電池残量に応じて特定のアプリを使っている場合にユーザーがどういった使い方をするか、というような数百のパターンをあらかじめ予測して、それを細かい時間で判断しながら最適なCPUパワーに調整している、というものです。
ベンチマークを実行してみると、成績は良いですし、実使用時間もかなり長時間になっていて、電池もちについては十分満足いただけると思います。
――他のチップセットや別機種への応用、あるいは今後の新端末への採用は計画していますか。
光安氏
NX!Tuneは、別のチップセットにも個別にチューニングして対応できます。端末にチップセットを載せたらそれで終わり、というのではやっぱりだめ(パフォーマンスが出ない)で、チップセットをより使いこなしていくための活動は今後もやっていきます。それをNX!Tuneとうたうのは今後もフラッグシップだけかもしれませんが、ミドル・ローエンド端末にも、それ相当のチューニングが入っています。
平均的なサイズの“手”を想定した操作シミュレーションを毎機種実施
――他に変わったところ、ウリとしている機能などはありますか。
光安氏
細かいところとしては、ユーザビリティの向上ですね。元々スライドディスプレイという画面全体を下にスライドさせて画面上部のボタンなどに指を届きやすくする機能を備えていたのですが、それを今回は左右にも動くようにしました。
F-05F以降では、新端末の開発時に本体形状が決まった後、日本人の平均的なサイズの手を想定した操作シミュレーションを行っています。画面内のボタン類の押しやすさをシミュレーションすることによって、Super ATOK ULTIASのキーボードの高さを機種ごとに微妙に調整しているんです。今回、F-04GとF-02Hとで端末サイズが異なるので、キーボードの高さも変わるかと思ったら、端末がかなり薄くなったのとディスプレイ下の長さも増えたおかげで、F-04Gと同じ位置で押しやすさに変化がないという結果になりました。そのような、お客様の使い勝手向上につながる取り組みは、今後も継続して進めていきたいと思っています。
――らくらくスマートフォン3では感圧タッチパネルを採用していますが、今後それをフラッグシップであるarrows NXに搭載することはないのですか。
光安氏
今の時点では感圧タッチパネルをハイエンドモデルにということは考えていません。面白い機能だと思いますし、もしかするとGoogleがリファレンス端末でサポートしてくる可能性もあるので、そうなったら我々も前向きに検討することになると思います。今は静観しています。
――最後に読者にメッセージがありましたら。
光安氏
arrowsのイメージは“全部入り”みたいなところが強いのですが、フルフルで入っているスペックだけでなく、常に使う人のことを考えた、気の利く配慮みたいなものをあちこちに施している機種です。我々としてはそこをどう上手に伝えていくかは課題なのですが、実際に使った人は満足していただいていると思うので、ぜひ試していただきたいです。また、電池もちについても他には絶対に負けないよう、これからも満足いくレベルに仕上げていきたいですね。
――ありがとうございました。