インタビュー

ハンドソープで洗えるスマホ「DIGNO rafre」開発者インタビュー

「洗える」だけじゃない、きれいに長く使えるデザイン

 各社のスマートフォンがスペックの向上をアピールする中、12月11日にauから登場したAndroidスマートフォン「DIGNO rafre(ラフレ)」は、“ハンドソープで洗える”という明確な利用シーンを提案して話題をさらった。

 その「洗えるスマホ」のデザインには、洗えるだけでない、ユーザーを意識したこだわりが込められている。製品を担当した京セラの横山早苗氏(営業部/商品企画担当)、光永直喜氏(デザインセンター/端末デザイン担当)、渡部貴昭氏(通信機器開発部/機構設計担当)、中澤孝浩氏(営業部/販売促進担当)にお話を伺った。

洗ってスッキリリフレッシュ、名前の由来はフランス語の「rafraichir」

――はじめに、今回の製品のコンセプトをお聞かせください。

横山早苗氏(営業部/商品企画担当)

横山氏
 「DIGNO rafre」は、スマートフォンをいつでもきれいな状態で使っていたいという女性のお客様をメインターゲットとして企画しました。最近では、スマートフォンは常に身に着けて持ち歩くものになってきていますよね。持ち歩いている中で汚れてしまうこともありますが、そうした時にさっと洗えるスマートフォンがあってもいいよね、というコンセプトで企画しました。

 事前の調査で「洗えるスマートフォン」はどうですかと聞いてみたら、子育て世代を中心に、8割の方から好意的な評価をいただきました。

 日常生活でスマートフォンにつくちょっとした汚れを気にされていたようで、特に女性では、電話した時に画面についてしまうファンデーションの汚れを気にされている声が多くありました。

――「rafre」というネーミングにはどのような意味があるのでしょうか。

横山氏
 実は、私が名付け親です(笑)。「ラフレシール(rafraichir)」という、「すがすがしい」とか「さわやかにする」といった意味のフランス語から取っています。英語でいう「refresh」です。

 “r”とか“f”のように丸みのある字が多くて、優しい印象になったかなと思います。

機密性と使いやすさの両立を目指したキャップ部

――「ハンドソープで洗える」ようにするために、どのような工夫をされたのでしょうか。

光永直喜氏(デザインセンター/端末デザイン担当)

光永氏
 課題のひとつは、ハンドソープは水の表面張力を下げるため、真水に比べ、より細かい隙間から浸水しやすいということです。「DIGNO rafre」では隙間をなくし、パッキンの機密性を上げることによって対策しています。

 わかりやすいのは、キャップの部分です。従来の製品では、端子を保護するためのパッキンで、2つのパーツを接着していました。真水に対する防水性能では問題ありませんが、接着部に隙間ができてしまうため、ハンドソープで洗える機密性としてはまだ不十分だろうと考え、今回はパーツを一体成型にすることによって、接着部の隙間をなくしています。

写真奥側の「DIGNO rafre」のパッキンは、Oリングのパーツも一体成型とすることで、従来製品(写真手前側)より機密性を高めた。スライドは京セラ提供

 さらに、石鹸カスが残るという課題もありました。ハンドソープで洗うなると、これまでの設計では、石鹸の成分が端末の隙間部分に残ってしまい、性能に影響が出てしまいます。今回、水で洗い流せるような構造に改良しています。

横山氏
 通話用のスピーカーでは、ディスプレイが振動する「スマートソニックレシーバー」を採用していますので、もともと穴がない構造です。キャップで覆えないマイクや背面スピーカーの部分では、穴を大きめにして洗い流せるようにしています。

 また、マイク穴をあえて見せるようなデザインにしています。ここにマイク穴があるとわかりやすくすることで、洗い流していただければということにしています。

――なぜ、「石鹸」ではなく「ハンドソープ」なのでしょう。

渡部貴昭氏(通信機器開発部/機構設計担当)

横山氏
 「DIGNO rafre」では国内で市販されているハンドソープでの洗浄に対応しています。最近の家庭では、石鹸よりも泡で出てくるハンドソープが主流となっていることがひとつのポイントです。また、石鹸では人によって泡立て方が異なるため、泡立て方によっては石鹸カスが残ってしまうことがあるので、お奨めしていません。

渡部氏
 取扱説明書やホームページでは、端末に負担をかけないで十分にきれいになるような洗い方を紹介もしています。

「DIGNO rafre」製品発表会で披露されたハンドソープで洗うデモンストレーション
京セラでは、「DIGNO rafre」の洗い方を動画でも紹介している

――最近のトレンドは、「キャップレス防水」にしてユーザビリティを向上させるというものですが、「DIGNO rafre」ではそのトレンドとは別の方向性のようにも思えます。

横山氏
 今までのDIGNOシリーズでもイヤホンジャックやmicroUSB端子をキャップレス防水とした製品を出していますが、「DIGNO rafre」ではハンドソープで洗える機密性を確保するためにイヤホンジャックも含めてキャップを着けています。

 一方で、キャップを外しやすいようにこだわっています。女性では爪にジェルネイルを施している方も多くいらっしゃいます。今までのキャップ付き機種ではそういった方から「キャップが取れにくい」という声もいただいていました。

 今回の「DIGNO rafre」ではキャップの部分の切り欠きをできるだけ大きくして、形も丸みをつけることで、付け爪をつけていても簡単に外せるような構造にしました。

光永氏
 デザインとしては、開けやすさと見た目の統一感を両立するために、最終段階のギリギリまで試行錯誤を繰り返しました。

 細かい点ですが、キャップは開ける方向が一目で分かるように、爪を引っ掛ける凹形状を工夫した分かり易いデザインとしています。矢印などを使って示さなくても、形状でわかるようなユーザービリティ上の工夫です。おそらく、過去にないくらい開けやすいキャップではないかなと思います。

――温水対応でお風呂でも使えるというのも、今まであまりなかった特徴ですよね。

「au +1 collection」からは、お風呂に浮かべられるアヒル形スタンドも登場

横山氏
 ハンドソープと同じように、お湯も表面張力が低く、浸透しやすいという性質を持っています。今までの防水端末では常温の真水までの対応でしたので「お風呂でも使える」とはアピールできなかったのですが、「DIGNO rafre」ではハンドソープに対応するために機密性を高めたことで、間違えてお湯がかかってしまっても安心な防水性能を持っています。

 あわせて、タッチパネルにお湯がかかっていても誤反応せずに使えることから、今回「バスルームでも使える」というのをひとつのポイントにしています。

実は男性にも馴染みやすいデザイン

――メインターゲットは主婦層とのことですが、男性からの反応はいかがでしょうか。

横山氏
 メインカラーの「コーラルピンク」は女性を意識した色ですが、「カシミアホワイト」と「マリンネイビー」は男性も十分使っていただけると思います。デザイン的には「女性向け」に大きく振っているというわけでもありません。

左から、マリンネイビー、コーラルピンク、カシミアホワイト

光永氏
 「カシミアホワイト」は、一般的なホワイトにゴールドの差し色として入れていてながらも落ち着いた色味とすることで、男性でも持てる色味に仕上げています。ネイビーというと単色では重くなりがちな色ですが、「マリンネイビー」では前面を明るくしたツートンカラーにしたことで、女性も選んでいただけるようなネイビーにできたと思っています。

横山氏
 「新しいスマートフォンを使ってみたいけど、どれを選べばいいのかわからない」というお客様に対して、そういう方に「ママ向け」としてアピールすることで、「ハンドソープで洗える」「お風呂でも使える」といった特徴を知っていただくきっかけになると考えています。

 ハンドソープで洗えるというメリットは女性だけのものでもないですし、男性社員にきいても、お風呂にスマートフォンを持ち込む人は意外と多いので、端末自体は男女どちらでもお使いいただけるデザインにしています。

――すり傷がついて回復するスクラッチヒーリングも施されていますね。

光永氏
 「洗える」スマートフォンですから、いつまでもきれいに使ってほしいという思いから、背面にはスクラッチヒーリング塗装を採用しました。対衝撃性能についても安心して長く使えるため、盛り込んでいます。

 「壊れにくくて、きれいに長く保てる」という当たり前のようで、意外と他社さんでは注目されていないポイントを重点的に追い求めることが差別化につながると思っています。

 端末のデザインでも、塗装が剥げやすい角を作るのは避けて、ラウンドフォルムを使いながらやわらかい形状に仕上げています。パーツのつなぎ目は鋭角になりがちですが、今回は側面のラウンドフォルムでつなぎ目をとどめて、できる限り丸く、持ちやすい形状にしつつ角をなくしています。

渡部氏
 性能評価でも、従来の塗装と今回の塗装でどれだけ傷がつくかを比較していますが、光沢の残り方で差が出るという結果が出ています。

――コンセプトからすると、ケースを付けないで使ってもらいたい製品でしょうか。

中澤孝浩氏(営業部/販売促進担当)

中澤氏
 実は、ケースにもこだわりがありまして、「au +1 collection」では「お風呂で使えるブックタイプケース」を提供しています。さすがに「ハンドソープで洗える」は難しかったですが、お湯で「洗える」ケースになっています。

 ケースをつけていただいても全く構わないのですが、せっかくなら洗えるケースを選んでいただけたら、ということで、洗えるブックカバーケースを用意させていただきました。

――最後に、読者に一言お願いします。

渡部氏
 性能評価の部分では、実際の使い方を意識して、手で洗って時間と体力をかけて検証しています。取扱説明書やホームページで洗い方のマニュアルも公開していますので、しっかりと洗っていただければと思います。

光永氏
 「ハンドソープ」という特徴を前面に押し出していますが、デザインとしてはベーシックな仕立てにまとまっています。角が取れていて持ちやすいな、このキー押しやすいな、キャップ使いやすいなと、長く使っていただけると気にいっていただけるかと思いますので、まずは手にとって試してみてください。

――本日はどうもありがとうございました。

石井 徹