インタビュー
「AQUOS ZETA SH-01H」「AQUOS Compact SH-02H」開発者インタビュー
ハイスピードIGZOや300Mbps通信も「人に寄り添う」ために
(2015/12/8 10:00)
この冬登場したシャープのドコモ向けスマートフォン「AQUOS ZETA SH-01H」と「AQUOS Compact SH-02H」は、ディスプレイの進化が進む中で、120Hzで駆動する「ハイスピードIGZO」という新しい方向性を打ち出した。さらに、「AQUOS ZETA SH-01H」では、ドコモ端末で初めて下り最大300Mbpsの3波キャリアアグリゲーション(3CC)に対応している。
スマートフォン「AQUOS」でシャープが目指す方向性、「ハイスピードIGZO」をはじめとする機能やデザインのこだわりと工夫について、「AQUOS ZETA SH-01H」と「AQUOS Compact SH-02H」の開発陣にお話を伺った。
お話しいただいたのは、コンシューマーエレクトロニクスカンパニー 通信システム事業本部 商品企画部長 高木健次氏、参事 磯部穂高氏、主事 大野卓人氏、別府莉那氏と商品開発センター システム開発部 チームリーダー 前田健次氏、ブランディングデザイン本部 デザイン開発センター 通信デザインスタジオ 参事 徳永大二郎氏。
――はじめに、「AQUOS ZETA SH-01H」と「AQUOS Compact SH-02H」の特徴についてお聞かせください。
高木氏
今回の「AQUOS ZETA SH-01H」と「AQUOS Compact SH-02H」は、「活きる力を起動するAQUOS」という、新しいブランドコンセプトのもとで開発された最初の製品です。
今までシャープでは、「技術のシャープ」「目のつけどころがシャープなシャープ」といったスローガンを提唱してきました。ここに、10月より新たに「人にいちばん近いシャープ」というスローガンを加え、人の生活に寄り添った製品展開を進めていきます。
「スマートフォンのAQUOS」では、技術の進化も落ち着きを見せている中で、より生活シーンにあった製品を提案していきたいと考えています。そのため、新たなブランドコンセプトのもと、「人に寄り添う技術」と「感動のリアリティ」、2つのテーマを追求し、「ハイスピードIGZO」をはじめとする機能・デザインを開発しています。
磯部氏
今までの「AQUOS」シリーズのデザイン上の特徴を受け継ぎながらも、中身は従来製品から相当進化させています。金属筐体にガラスを用いた筐体デザインでは、「光」を使った新しい見せ方を提案しました。機能では120Hz駆動の「ハイスピードIGZO」、「GR certified」の高画質カメラなどを、ハイエンドの「ZETA」だけでなく、サイズを抑えた「Compact」にも投入しています。
――「AQUOS Compact SH-02H」は今までのAQUOSにはなかったラインナップですね。
別府氏
「AQUOS Compact SH-02H」では「20代男性」に使っていただくことを意識して開発しました。今回の「Compact」では、「ハイスピードIGZO」や「GR certified」、「エモパー3.0」といった「ZETA」の先進機能をそのまま詰め込んだコンパクトモデルとなっています。
デザインにおいても新しい試みとしてイエローとシルバー、ブルーとブラックのバイカラーというシャープでは今までになかった色使いに挑戦しています。ユニセックスな形状で、若者層の方でも気に入っていただけるような製品に仕上げました。
磯部氏
あまりアピールしていないポイントですが、「Compact」では重さも、2810mAhのバッテリーを搭載しつつも約120gと、かなり軽量な部類になります。実際に手にとって試していただけると、そのサイズ感をご体感いただけるのではないかと思います。
ハイスピードIGZOで「今までにない滑らかさ」
――今回の目玉機能「ハイスピードIGZO」はどのような技術でしょうか。
前田氏
「ハイスピードIGZO」は、「ハイフレームレート表示」をスマートフォンで実現するものです。
一般的なスマートフォンのディスプレイは、60Hzで駆動(1秒間に60枚のフレームを表示)しています。今回の「ハイスピードIGZO」では1秒間に120枚のフレームを表示する120Hz駆動に対応しました。これは動画だけでなく、スマートフォンでSNSやブラウザなどのアプリを操作している時にも利用できます。
実際に触るとご体感いただけるかと思いますが、画面をスクロールした際の動きがとても滑らかになっています。
――他社では4Kの表示に対応したスマートフォンが登場するなど高解像度化が進んでいますが、その中でハイフレームレートを選択されたのはなぜでしょうか。
前田氏
もちろん、4Kのように高解像度化を進めていくのも技術的な進化の方向性の一つです。シャープではスマートフォン向け4K液晶も発表していますので、それを搭載することも技術的には可能でした。しかしながら、お客様に寄り添う、リアリティを高める上でどちらが有効か選択するときに、今回は時間軸での「高解像度化」となるハイフレームレートを選択しました。
高木氏
「4Kかハイフレームレートか」は開発と企画で議論を重ねました。最終的にお客様に満足していただけるのはどちらかを考えたときに、「5インチ程度のサイズ感では、4Kにしてもお客様に効果を実感していただけないのではないか」ということで、4Kは見送りました。一方で、ハイフレームレートは目で見ても違いがわかりますし、普段使っている時の操作感でも差が出てくるというところから採用しました。発売直後のアンケートで「今までにない滑らかさ」といったようにご評価をいただいていまして、この選択は間違っていなかったなあと思っております。
――「ハイスピードIGZO」では、どのような仕組みで120Hzの絵を作っているのでしょうか。
前田氏
スマートフォンを開発する際に、「入力と出力」という考え方を持っています。スマートフォンで扱う情報はすべて、「入力」を通して入ってきて、CPUで処理された後、「出力」から出ていきます。
「入力」は、カメラ、タッチパネルやマイク、センサー、通信機能といったスマートフォンに情報を取り込む装置です。今のスマートフォンはカメラや通信機能など、入力の機能がどんどん高性能になってきています。
一方で「出力」では、液晶、スピーカー(音響)や振動などがありますが、こちらはどちらかというと進化が止まっていました。今回のハイスピードIGZOは「出力」をリッチにしようという取り組みの1つです。
例えばテレビの「倍速液晶」の技術では、60fpsの映像から機器が中間の画像を作って合成する「フレーム補間」の技術が一般的です。それに対して「ハイスピードIGZO」では、CPUが画面を描写するときに秒間120枚の絵を直接合成しています。ここが、今までの技術との大きな違いです。
出力側のフレームレートの向上にあわせて、入力側のタッチパネルの120Hzで駆動しています。タッチパネルの駆動速度向上によって、吸いつくような機敏な動作を実現しました。
――駆動速度を向上させるとバッテリー消費は上がるように思えますが、いかがでしょうか。
前田氏
確かに、一般的に駆動速度を上げるとバッテリー消費量は増えますが、「ハイスピードIGZO」と、シャープが今まで取り組んできた「液晶アイドリングストップ」を組み合わせることで、電力消費を抑えることができました。
一般的なディスプレイでは、120Hzで駆動させると常時120Hzで表示し続けることになります。対して「液晶アイドリングストップ」+「ハイスピードIGZO」では、滑らかな表示が必要な場合は120Hzで駆動し、静止画など動きがない表示のときはフレームレートを下げることができます。表示する内容に応じて、液晶の更新頻度をコントロールしますので、電力を無駄に消費することなく表示することができるわけです。
その技術のおかげで、「ZETA」と「Compact」では、実使用時間を落とすことなく、ハイフレームレート化を実現できました。今までAQUOSでは、IGZOによってお客様の電池もちへの不安を解消していましたが、今回は操作性の向上によって、みなさまに感動していただける技術を実現することができました。
――ハイフレームレートのほかにディスプレイの特徴はありますか。
前田氏
あまり前面に押し出してはいませんが、今回から液晶の方式を従来タイプのものから、高視野角タイプの液晶に変更しています。動画をみんなで楽しむといったシーンを想定していることが理由です。
液晶の方式を変更しても、おなじみの「のぞき見ブロック(ベールビュー)」もしっかり搭載しています。実は、そもそも高視野角タイプの液晶に対しては、効果的なベールビュー機能の実現が難しく、当初あきらめかけていたのですが、「高視野角だからこそ必要だ」と海外の研究開発部門まで巻き込み、なんとか商品化することができました。
「生命感」の表現のキーは「光」
――デザインでのコンセプトを教えてください。
徳永氏
今回の「AQUOS ZETA SH-01H」では、これまでシャープで継続して展開してきた三辺狭額縁のEDGESTと、ドコモ様向けのAQUOSで昨年から取り入れているヘキサグリップシェイプを継承しつつも洗練させています。ひとつの完成形と言えますね。
さらに、人により近いAQUOSというコンセプトを実現していく上で、今までにない取り組みを行っています。それが「光」というマテリアルを使った「生命感」の表現です。
「生命感」を感じるキーワードには「呼吸する」「動く」「反応する」「成長する」などがありますが、これらをプラスチックやガラスといった素材で表現するのは難しいことですが、「光」ならば表現できるのではないかということで、重要なデザイン要素のひとつとなっています。
――これまでも携帯電話にカラフルな通知ランプを取り入れた機種はありましたね。
徳永氏
これまでの携帯電話では、着信したら光って知らせるといったように、インジケーターとして利用されていたと思います。今回のAQUOSの「ヒカリエモーション」では、そこにとどまらずに、ユーザーとの間に情緒的な価値を作り上げることに主眼を置いています。
いわば、「情緒的な関係をデザインする」ということです。そこで重要になるのはAQUOSがユーザーを「思いやる」「察する」「気づかう」といった感情を表現することでした。
高木氏
「親しみ」とか「テキパキ」を光であらわすとどうなるのか、といったテーマを立てて検討しました。
――光を表現する取り組みで、難しかったことはありますか。
徳永氏
まず、設計段階で難航しました。というのも、デザインに光を取り入れる場合、スケッチを描くだけでは、イメージを伝える事ができないからです。
実際に光らせてみないと分からない、ということで、回路設計の開発部門も巻き込んで、動きをともなって光るパーツのサンプルをいくつも作って検討しました。透明のパーツの方がきれいに光るのではないか、いやいや何も無いように見えるところから光った方が驚きがあっていいのではないかと、その度にサンプルを作って印象の違いを検討しています。
――デザイン部門だけでなく、設計部門が一体となって取り組まれているのですね。
徳永氏
今回「光」を取り入れることを決めたときに、端末のどこを光らせるかという実装上の課題もありました。端末の大きさや厚さを増やしてしまうわけにもいきませんので、デザイン設計と平行して、内部構成や内部配置については常に技術部門と連携を取りながら開発を行っています。
今回の「ZETA」はアルミ筐体ですので、フレームをアンテナとして成立させる為に4コーナーに樹脂のパーツを設けています。そこを光らせることで外観に新たな要素を加える事なく「光」を搭載できました。フラッグシップの「ZETA」だけでなく「Compact」にも「ヒカリエモーション」を搭載していますが、実は、内部の配置はそれぞれ異なっています。
具体的には、「ZETA」では導光板を用いてLEDユニットからの光を2点に導いていますが、「Compact」ではLEDユニットからの光を直接当てています。「Compact」でも当初は導光板を用いる予定でしたが、試しに導光板無しの配置したサンプルを作ってみたところ、裏面に施したフレネルレンズ形状と相まって光がにじんだ様子がきれいにみえる、ということで正式に採用しました。均一に光ればいいという単純なものではないところが、光の奥深いところですね。
プロダクトデザインというとまず思い浮かべるような部分、筐体の仕上げについても大きく進化しています。
アルミ筐体では、加工方法を変更しています。前機種では鍛造技術を用いていましたが、今回は切削加工で仕上げています。どちらの技術も長短があるのですが、三辺狭額縁デザインが進化して要素がミニマイズしていく中では、加工の精緻さに優れている切削加工が欠かせないということで採用しました。
背面パネルは今までアクリルパネルを使用していましたが、傷つきやすさへの対策や、美しい状態で長く使っていただきたいとの思いからガラスに変更しています。
アルミフレームの仕上げについても、最終的にはブラスト仕上げにダイヤモンドカットに落ち着きましたが、最適な仕上げを求めてさまざまな仕上げを検討しました。
多機能なスマートフォンながら、目に入る要素はできるだけシンプルになるように心がけました。見た目では、商品を構成するガラスや金属が印象に残るようにデザインしています。
――「Compact」では、端末の背面に貼って雰囲気を変えられる「ニュアンスシート」も面白い試みですね。
徳永氏
「Compact」は2種類のボディカラーを展開していますが、それぞれのカラーにあわせて2枚ずつ「ニュアンスシート」が同梱されます。その雰囲気にあわせた壁紙もプリセットされているので、表と裏の両面で楽しむことができます。
別府氏
同梱されている「ニュアンスシート」は4種類のうち3種類がクリアシートの上に柄を施したもので、端末のカラーを生かして雰囲気を変えることができます。
徳永氏
最終製品に同梱されているのは2種類ずつの4種類ですが、実は、この何倍ものシートを試作しています。それぞれのカラーにあわせて世界観や利用シーンを設定して検討を重ねた結果、最終的に残ったのがこの4枚です。
最近は「スマートフォン市場に閉塞感がでてきた」などといわれていますが、こういった世界観を拡張するちょっとした仕掛けからも、市場を活性化していければと。
ユーザーのことを話すようになった「エモパー」
――AQUOSといえば、スマホが話しかけてくる「エモパー」もおなじみですね。
大野氏
「エモパー」は愛用されている方が多く、「エモパーがあるからAQUOSにしたい」と言っていただけるようになりました。もともとスマートフォンをもっと身近に感じていただくには、愛着のわくキャラクターになればよいのではないかと始まったエモパーですが、今回の「エモパー3.0」では、もっと身近な存在になれるように成長します。
そのメインとなる機能が「エモパーメモ」です。これは、しなければいけない用事をエモパーが代わりに憶えていてくれる機能です。例えば、シャンプーを買わなければいけない用事がある時には、ロック画面を2回タップしてエモパーに「明日、シャンプーを買う」と話しかけます。
すると翌日仕事終わりに、会社を出てイヤホンをつけたら「そういえば、シャンプー買うっていっていませんでしたっけ」と話しかけてくれます。話しかけた言葉から「明日」や「次の日曜」といった時制を認識して、カレンダーに登録する動作がキーとなっています。ユーザーさん自身のことを話すようになったエモパーで、もっと愛着をもって使っていただけるようになると思います。
――親しみやすさをあげるために工夫をされていますね。
大野氏
はい。エモパー3.0では「エモパーメモ」のほかにも、もっと愛着をいただけるよう、今回のキーワードである生命感を、エモパーにも取り入れました。
声だけではなく、端末全体で感情を表現できるようになりましたが、例えば話しているときの画面は、ふわふわとした光がまるで生きているかのように回転したり大きくなったりと、不規則に動き回ります。ほかにも、エモパーが話す内容にも生命感を与えるように喋る際には、音を加えたり、表示する文字が動いたり、「光」のエフェクトも使って表現したりまさに端末全体で語りかけている様子を表現しました。
また、「もっと話しかけてきてほしい」との声にこたえて、カーテンを開いて明るくなった時に「まぶしい!」と話したり、椅子に座った振動を感知して話しかけたりと、エモパーが話しかけるきっかけを増やしました。
冬モデルで唯一の300MHz対応
――通信機能では、「AQUOS ZETA SH-01H」が冬モデルのスマートフォンで唯一、3波キャリアアグリゲーションで下り最大300Mbpsの通信に対応していますね。
高木氏
このタイミングで音声端末に搭載するのはスピード感をもって開発する必要がありました。「快適性」というテーマのなかで、ハイエンドの「ZETA」にはぜひとも搭載したいということで、開発陣ががんばってくれました。
技術的にはLTEのカテゴリー9に対応していますので、ネットワークが対応すれば下り最大375Mbpsでの通信が可能です。
「GR certified」のカメラは「明るくてぶれない」新レンズに
――カメラ機能ではどのような進化がありますか?
大野氏
従来から取り組んでいるリコーイメージングの画質認証プログラム「GR certified」は今回の新機種でも取得しています。
このプログラムでは、レンズ自体の基本性能を高くしないと取得できず、印刷した時の画質の高さも求められます。ただ「カメラで撮って表示したら綺麗です」では取得できないものです。
今回は「ZETA」向けに新開発のレンズユニットを搭載しています。このレンズユニットは7.9mmの厚さに「光学式手振れ補正」と「明るい写真」という2つのポイントを盛り込んでいます。
磯部氏
レンズ以外では、フォーカス速度を従来の3分の1以下の約0.1秒まで短縮しました。このフォーカス速度で手振れ補正も利用可能なので「早くてぶれない」カメラといえます。120fpsのフレームレートで動画を撮影できる「ハイスピードカメラ」の機能も引き続き搭載しています。今回はスローモーションで再生するだけでなく、「ハイスピードIGZO」で120fpsの映像をそのままお楽しみいただけます。インカメラも広角になっていて、風景を入れた自分撮りができるようになりました。
――このほかに、機能面での特徴を教えてください。
大野氏
端末の側面を握るジェスチャー機能「グリップマジック」では、動作方式を大きく変更しました。
これまでは静電容量式のセンサーを設置していましたが、今回は赤外線方式の近接センサーに変更しています。手だけではなく、手袋をした状態でも反応するようになりました。
指紋センサーでは、なぞる指によって即座にアプリを起動する機能も搭載しています。意外と反響をいただいているのが「ClipNow」、端末の上部をなぞるだけでスクリーンショットを撮る機能です。Chromeで使った場合は、URLも一緒に保存したりと、細かいところから気を使っています。
――最後に、読者に向けて一言お願いします。
高木氏
スマートフォンAQUOSでは、ユーザーさんが笑顔になるような商品作りをしていきます。これからもよろしくおねがいいたします。
――本日はどうもありがとうございました。