インタビュー
サードウェーブデジノス開発者インタビュー
「Windows 10 Mobile」搭載スマホを作った理由
(2015/10/15 07:00)
まもなく正式リリースが噂されるWindows 10 Mobile。ドスパラをはじめパソコンではおなじみのサードウェーブデジノスからもWindows 10 Mobile搭載スマートフォンの発売がアナウンスされた。今回はWindowsスマホ開発の経緯と、現時点で明かせる限りのスペックについて、同社で製品企画開発を担当する冨岡功氏と宍戸訓之氏に伺った。
Windowsのスマホ開発は昨年夏から検討
――9月2日にWindows 10 Mobileのスマホの開発表明をされて、間もなく発売ではないかと思われるのですが、そもそもWindows 10 Mobileのスマホを開発しようとした経緯は?
宍戸氏
そもそもWindows Phone(OSバージョン8.1)の頃に作ろうとは思っていました。しかし、日本で使うとなるとハードルが高い面がありました。地図、アプリストア、デスクトップ版やタブレットのWindowsとの調和性で、まだ環境が整っていないと思っていました。それらがWindows 10 Mobileでは大きく改善されていたので、開発に踏み切りました。
――発表がこのタイミングになったのは?
宍戸氏
最初はWindows 10 Mobileの情報自体少なかったですからね。普通に考えたらPC版と同じように7月に出るのかな、と思っていたので、その頃には出せるのかな、と考えていました。それが遅くなり、秋になるよ、と。そうなると開発もWindows 10のプレビュー版で行うわけですが、その時点では端末の開発ができないわけです。私自身はWindows Phoneを使っていたんですけど、それにプレビュー版を入れても正直、完成度は低いように感じました。しかし、Windows 10が正式に発表され、モバイルとの親和性が良いことが分かりました。そこでWindows 10 Mobileが出たときには、スマホを間に合うように作って出そう、と決めたのです。
――実際にはWindows 8が出た頃からスマホを出す、と検討していたわけですね。
冨岡氏
そうですね。宍戸の言う通り、2014年の夏頃には検討していました。我々はマイクロソフトのOEM、パソコンを販売しているという立場ですからね。ただ、携帯電話の開発をしているわけではありません。Windows Phone 8.1というのは携帯電話として独立していましたから、同じWindowsという名がついてはいても、パソコンやタブレットのWindowsとは違うものという意識がありました。
――たしかに別モノという感じはありますね。
冨岡氏
ですが、Windows 10 Mobileは、マイクロソフトさんが言うところの「1つのWindows」の中に含まれる商品になる。そうであればWindows 10 Mobileを最初からやりましょう、と。(PC版の)Windows 10は7月29日にリリースという話でしたから、私たちも28日にイベントを行い、翌日にはすぐにWindows 10搭載のパソコンを販売した。Windows 10 Mobileもリリースされたら、同じようにお客様がすぐに手に入るようにしたい。ケータイでも「1つのWindows」を体験していただけたらと思いますね。
販売価格は“2枚くらい”
――スマートフォンを出す、というのであればAndoridという選択肢もあるわけですよね。なぜWindowsだったのですか?
冨岡氏
私たちがWindows製品を販売している会社ということもあるのですが、そもそも私たちがWindows 10 Mobileをどう見ているかというと、Windowsの“スマホ”を発売するという感覚では無いんですよね。スマホではなく「小型のWindows」を発売する、という気持ちなんです。Windows Phone(8.1)はまさにスマホでしたが、Windows 10 Mobileは「Windows機」というポジションだと思っています。
――なるほど。お店でWindows機を売るときに、パソコンやタブレットと同じように自然とスマホも並んでいるという。
冨岡氏
そうです。そこにあるべきモノ、タブレットより小さなWindows、持ち運びが便利なWindowsです。今回からOSの名前にも「Phone」が入っていませんよね。
――たしかに。ところで、この端末を買う最初のユーザー層はどんな人たちを想定しているのでしょう?
宍戸氏
まずは興味のある人だけが最初は買うことになるでしょう。とは言ってもすでにWindows Phoneは発売されているわけで、となるとイノベーターの次、アーリーアダプター、アーリーマジョリティと呼ばれる、普及する一歩手前の人たちまではお客様になっていただけるのではないかと考えています。そのためにはWindows 10 Mobileをまずは使ってもらわなければいけません。そこで価格はだいぶ下げようと考えています。
――本体価格は他社のWindows 10 Mobileのスマホと同じくらいでしょうか?
宍戸氏
そう、ですね……。
冨岡氏
まあ、2枚くらい。
――2万円?
冨岡氏
2枚くらいとしか言えません(笑)。1000円札2枚かもしれないし、5000円札2枚かもしれない(笑)。
――なるほど(笑)。では、正式発表までのお楽しみということで。しかし、そうなるとコスト的にはギリギリですよね。
冨岡氏
そうですね。真面目な話、今回はWindows 10 Mobileを採用した初めてのスマホですから、まずはいろんな方に使ってもらいたい。まずは試してもらわないと。
たとえば私の場合、iPhoneがそうだったのですが、3Gのときは記憶容量が小さいけど、実質0円で買えた。だからまずはお試しで使ったんですね。そして使ってみて良かったから、次のモデルでは一番大きい容量のものを発売日に並んで買ったんです。
そこでWindows Phoneを振り返ると、現状では日本国内で使ったことがある人は、ほとんどいらっしゃらない。このWindows 10 Mobileでもそう。次はよりプレミアムな、高いスペックのものを出しますよ。ここで個性的な端末を出しても、高価だから誰も試さない、買わないですよね。
――それはよくわかります。
冨岡氏
だから「失敗してもいいかな」と思われるくらいの価格で提供しないといけない。そうなるとまずはスペックもそれに合わせて、となりますよね。
気になるスペック、対応バンド
――プレミアムなモデルも予定されているということですが。
冨岡氏
はい、年明けくらいのタイミングでスペックがプレミアムな端末も出したいと思っていますよ。
――となると今回出す端末のスペックは、どれくらいのものなんでしょう?
宍戸氏
あまり詳しくは言えないのですが、ルールとして決まっているところもあって、チップセットはSnapdragonの4コアを使っています。Windows 10 Mobileでは使っていいチップセットがコレだけなので、今のところ選択肢がありません。
冨岡氏
一番早く発売できる端末のスペックは決まっているんですよね。ただ、Windows 10 Mobileは非常に軽いOSですよ。Windows Phoneもそうですが、遅く感じることが無い。
――最新のAndroidスマホと比べると、スペックは低いわけですよね。
冨岡氏
速いCPUではないですよね。スペックシートだけを見るとAndroidのミドル、ローといった印象を持たれるかと思います。しかし、Windows 10 Mobileで使うと動作が軽い。遅く感じないように上手く動かしているな、と思います。OS自体のコアが良いのでしょうね。パソコンの話でも、古い小型ノートパソコンにWindows 10を入れると、7やVistaよりサクサク動いて、そこそこ使えるといった話があります。Windowsのコア自体の改善で、OSを気持ちよく動かせるレベルになったのかな、と。Android端末のスペックからのイメージよりも、使用感は良くなっていますよ。
――開発で苦労した部分となると、対応バンド(周波数帯)でしょうか?
冨岡氏
やっぱりそこですね。国内のバンドの選択ですね。
宍戸氏
今回対応しているのが、バンド1/3/5/6/9/19になりますね。LTEと3Gを同じバンドにして、海外でも使えるようにGSMにも対応しています。とくにドコモさんが使っているバンド19は絶対に対応する必要がありました。
冨岡氏
国内でちゃんと使えた上で、SIMフリーなんだから、GSMに対応して香港、台湾、韓国、中国あたりもカバーしておこう、と意識しています。
――アジア圏を重視したのは一体……?
冨岡氏
単に自分たちが出張でよく使うから(笑)。海外出張や旅行での用途もあっていいかな、と付けてみました。
宍戸氏
メインはあくまでも国内使用なので、ちょっと遊びの部分ではありますね(笑)。
――海外から入って来たSIMフリーのスマホは、ヨーロッパや北米の周波数に対応していることが多いので、日本のユーザーからすると購入後に「アレ?」と思うこともありますよね。
冨岡氏
弊社のスマホなら国内での通話もサポートしていますから安心ですよ。
――検証やフィールドテストもしているわけですよね。これまでの御社の製品と比べるとスマートフォンは大変だと思うのですが。
宍戸氏
そうですね。パソコンと違ってWi-Fi、Bluetoothの技適だけではありませんからね。認証会社の方と相談しながら行いましたが、通信は別モノですね。
――デュアルSIMになっているようですが、これはWindowsのスマホとして当たり前の規格なんでしょうか?
冨岡氏
いえ、違います。最初は分かりづらいから外そうという話もあったんですね。2番目のSIMスロットはGSMだけに対応しているので、日本では使わないからやめようという。ただ、2枚挿していると海外で便利なんですよね(笑)。
――そこもご自身の出張で便利だから(笑)?
冨岡氏
そうです(笑)。
宍戸氏
国内だけで使うのならGSMのスロットは無駄になりますけど、海外では2枚挿しが一般的に行われていますからね。プリペイドのSIMも普通に売っていて、場所やライフスタイルで使い分けています。SIMフリーのスマホやMVNOのSIMが広がっていけば、そんな使い方が日本でもスタンダードになっていくのではないかと思っています。
――マイクロソフトも新興国をターゲットにWindows PhoneではデュアルSIMを仕掛けているようですしね。自然な流れとも言えますね。
宍戸氏
そうですね。ベースにあるものをあえて潰さなくてもいいかな、と。
冨岡氏
アジアやヨーロッパは車で国境を超えることも多いし、香港と深センのように隣同士でも使えるSIMが違うこともある。こうした地域を行き来する人にはデュアルSIMのほうがいいんですよね。プライベートと分けたりといった使い方もできますし。
宍戸氏
東南アジアでは1つの国の中でSIMが使えるエリアが分かれています。
――昔の日本もそうでしたよね。
冨岡氏
そうそう、私は20年くらい前に東京デジタルホンを使っていたんですけど、その頃は本当に東京しかつながらなかった。今の日本ではそんなことはないけども、そういう時代のことを思い出せばデュアルSIMの意義も分かりますよね。
――安く作ることを考えると、3Gのみという選択肢もあったのでは?
冨岡氏
バンドを減らすという考えもあったんですけど、ただ減らすとやっぱり出張に影響があるので(笑)。
宍戸氏
今度のスマホは国内のバンドのうち半分くらい使えるし、それは活かしたいな、と。そこまでやるなら日本で使えないものがあっても、持てるものはすべて入れていくつもりで。認証会社の方からもOKが出たので、広くつながると思います。
――通信方式としてはFDD-LTEに対応されていますが、TD-LTEへの対応(WiMAX 2+、AXGP)はどう考えていますか?
宍戸氏
これからの検討ですね。TD-LTEが活用されて、SIMフリーのスマホやMVNOのSIMが出てくれば対応したいと思っています。ただ出てくるのか? というのはありますね。とくにソフトバンクさんはいろんな通信方式とバンドがごちゃごちゃしていて、あれに全部対応するのは難しい。
冨岡氏
一番SIMの多いドコモさんに合わせるのが対応しやすいんですよね。ただ、一応より広くというのは考えてはいます。
販売はやっぱりドスパラ? 色、ロゴ、ネーミングの内情
――御社の場合、グループにドスパラをはじめ店舗もありますが、販売チャネルは?
冨岡氏
まずはグループ内とAmazonなどでの販売を考えています。パソコンと同じですね。そこから広がっていく形になります。
宍戸氏
弊社はBtoBもやっているので、全然予想もつかないところから出てくる可能性もありますが。
――SIMとセットでという販売のように、MVNOと組むことはないのですか?
冨岡氏
やってみたい、というMVNOさんは募集中です。そういう話もすでにいただいています。とくにWindowsを広めてくれるところとは積極的に組んでいきたい。
――パソコンのようにパーツを選んでスマホを組み立てる、なんてことはできないでしょうか? 購入サイトでカメラのモジュールを800万画素から1300万画素に変更して、みたいな。
冨岡氏
それは難しい話ですね……。たとえばオンラインストアで、パーツを選んでカスタマイズして買うというのは難しい。本当はやりたいですけどね(苦笑)。それでも今後、セルフィーの強化とか、ある機能をすごく強化したマイナーチェンジモデルを出す、というのは可能だし、もちろん考えています。
――販売サイクルについてはどう考えていますか? 四半期(3カ月)や半期(半年)に1モデルくらいのペースで、売り切ったら次のモデルといった感じでしょうか?
冨岡氏
サイクルはそれくらいで出せればいいな、とは思っていますが、とくに決めているわけではなく柔軟に対応していきます。
――ちなみに、今回のカラーバリエーションは?
冨岡氏
カラーバリエーションではなく、交換パネルで黒、白、水色に対応することにしました。
――黒、白はスタンダードですが、なぜ水色が選ばれたのでしょう?
宍戸氏
そこは気になるところですよね。いろんな色を考えたんですよ。赤、オレンジ、ピンクも候補にありましたし。
冨岡氏
そうすると他店のイメージカラーと被ることもあるし、黄色もLumiaで好きだったのですが、最終的にデジノス、ドスパラらしい色ということで。実際にドスパラで使っている同じ水色、青色を使っています。
――白のパネルにあるWindowsロゴの青色にもこだわりが?
冨岡氏
そこは本当は黒にしようと思っていたのですが、私がこの間「青がいいね」と言ったらそのまま採用に(笑)。
――せっかくですからブランドネームというか、ペットネームみたいなものは付けないのですか?
冨岡氏
付けません。これはパソコンやタブレットと同じ方針ですね。デジノスモバイル、みたいな言い方で。ひねらずに、デジノスのWindows 10 Mobileでいいだろう、と思っています。寂しいですかね?
――やはり、分かりやすい呼び方があれば、お客さんも混乱しませんから。
冨岡氏
私たちとしては「10(ten)」を必ず入れたいとは思っています。製品名のどこかに「10」を付ける。たとえば先日販売を始めたSkylake搭載のノートパソコンは「Critea DX10」にしました。Windows 10の世界観を表現している、Windows 10という大きい商品を扱っている、と思っています。これまでのWindows Phoneと比べないでほしい、という。
※編集部注:取材時は名称が決まっていませんでしたが、10月14日に「Diginnos Mobile DG-W10M」となるとのアナウンスがありました。
――スマホを出すとなると、タブレットにもSIMを挿したいとか、他の端末でWindows 10 Mobileを搭載した機種を、といった声もあるかと思いますが。
冨岡氏
そうですね。たしかにそういう声もあるのですが、モバイルのSIMを挿すとなるとデータ通信の使用料がかかるので。とくにタブレットはより通信料が多くなりやすい。出そうと思えば出せますが、ユーザーの不利益になる可能性が高いので、あまり乗り気ではないんです。むしろそういうユーザーにこそ、今度のWindows 10 Mobileを使ってほしい。大きいタイプも出そうと思っていますので。モバイルの大きいのはもう作れる環境にあります。
宍戸氏
CPUと画面の大きさは密接に関係していて、5.5、6インチとかになると、ミドルスペックのCPUが必要になったりはしますが、作ることはできますね。Windows 10 Mobileのフルの機能が全部解放されているわけではないので、その解放に合わせて端末を出していくという形になりますね。
――電池持ちはどうでしょう? 電池が2つ付いてくる、といったわけでもないですよね。
冨岡氏
普通に使って1日持つ、という印象でしょうか。予備の電池をオマケに付けるということもしなくていい。Windows 10 MobileはCPUのスペックが低くてもいいし、低クロックでいい。メモリもたくさん積まなくていい、消費電力が小さい、それでも遅く感じない、と考えるとOSが優秀と言えるのではないでしょうか。電池を外すことはできるので、予備を買って持ち歩くことはできますが、普通はいらないんじゃないかな。むしろ1年後とか2年後に新しい電池を買って付け替える、という需要はあると思います。
――実際に触れる場所は用意するのですか?
冨岡氏
発売前から並ぶ場所もありますよ。そこで試してもらいたいと思っています。Windows 10をモバイルで動かす環境を実際に見てもらえれば、そこそこよく動いていることが分かってもらえます。一度分かってもらえれば、価格的にもセカンドマシンとして使ってもらうことも期待できます。そこからメインマシンへと狙っていければと考えています。
――本日はありがとうございました。