インタビュー
PCメーカーが“学習する”ニュースアプリを作った理由
PCメーカーが“学習する”ニュースアプリを作った理由
「My Time Line」開発者インタビュー
(2015/3/24 07:00)
NECパーソナルコンピュータは、Android/iOS向けにニュースアプリ「My Time Line」を提供している。ユーザーがどの記事を読んだかをアプリ内で記録・分析し、ユーザー個人の興味動向に応じたニュースを表示するという学習機能がユニークなアプリだ。
先日のAndroid版のアップデートでは、同期機能や同じトピックスのニュースをまとめる機能など、Windows版で先行して提供されていた機能が実装され、パソコンとスマートフォンの両方で同等の機能を利用できるようになった(iOS版も近日対応予定)。また、パソコン版・スマートフォン版の両方でリアルネットワークスの「RealPlay」で提供されている動画チャンネルも視聴できるようになっている。
今回のアップデートの内容や、そもそもなぜパソコンメーカーであるNECパーソナルコンピュータがこうしたアプリを提供するのかについて、同社の商品企画本部 コンシューマグループ 主任の岩本義樹氏に伺った。
――まずMy Time Lineのアプリを開発された経緯について教えてください。
岩本氏
NECパーソナルコンピュータはハードウェアを販売しています。レノボとの事業統合により、市場シェアはかなりのものになっています。今まではそうしたハードウェアを中心にやっていましたが、これからはサービスも、と考えました。そこに向けて提供するアプリとして、2013年のWindows 8.1のリリースのタイミングでWindows向けに「My Time Line」の提供を開始しました。Windows向けのニュースアプリとしては良いポジションにいると考えています。
当初はWindowsパソコン向けに展開していましたが、スマートフォン版のニーズが高く、2014年12月にスマートフォン版をリリースしました。当初のスマートフォン版にはWindows版のすべての機能は搭載されていませんでしたが、今回のメジャーアップデートにより、学習内容の同期など、Windows版で特徴的な機能を実装しました。
――Windows版が先にリリースされているということですが、機能的にもWindows版が先行している部分があるのでしょうか。
岩本氏
開発着手が1年くらい先行していたので、機能も先行している面があります。しかし、今回のアップデートでユーザーエクスペリエンス面ではほぼ一緒になりました。
――今回のアップデートでいくつかの機能が追加されていますが、ユーザーからの要望が大きかった新機能は?
岩本氏
一つは、ユーザーの興味を学習してニュースの色が変わる機能です。My Time Lineの最大の特長はユーザーの興味を学習して成長することです。こうして学習し、興味のあるジャンルのニュースがより赤く表示されるようになっています。
また、学習した内容をほかの端末にも反映させたい、という要望に応え、同期機能をスマートフォン版にも搭載しました。ほかにも任意のキーワードを設定できるマイリボン機能や同じトピックスのニュース記事をまとめる機能などに対応しています。
――リアルネットワークスの動画にも対応されていますが、動画に対応されるきっかけは。
岩本氏
もともと動画を配信したいと考えていました。動画インフラを作ることも考えましたが、ある企業にリアルネットワークスさんを紹介していただきました。彼らはインフラもコンテンツプロバイダーもかなり充実していて、それが通常のタイムラインの中で提供できるということで、パブリッシャーとしては組みやすく、採用に至りました。
ユーザーの興味を学習し、一緒に成長するニュースアプリ
――学習機能がMy Time Lineの特長とも言えますが、この学習はどのようにやっているのでしょうか。
岩本氏
詳しい仕組みは公表できませんが、ただページを表示させるだけでなく、表示させている時間も見て、ユーザーの興味を分析します。分析の処理は端末のアプリ上でやっていて、同期ではデータを暗号化して送受信しますが、サーバーは単に通り道になるだけです。
――興味の学習データをサーバー上で処理して、たとえば似た興味動向のユーザーを見つけ出し、そこから新たな記事をレコメンドするといった機能は?
岩本氏
そうした協調フィルターのようなことも検討していますが、今は個人の嗜好分析に注力しています。将来的にはユーザー同士の嗜好を結びつけるところはやりたいですね。
――どのくらい使い込んでいると学習機能によるパーソナライズが効いてくるのでしょうか。
岩本氏
1週間くらいでパーソナライズされるように設計しています。
――継続して使わないと良さがみえないのはもどかしいとも感じます。
岩本氏
学習に時間がかかるところについては、今後いくつかの施策を考えています。また、学習だけでなく、注目度の高いニュースが読めるようなユーザーエクスペリエンスを考えています。
コンセプトは「自然に学ぶ」ことです。ただし、フィルタリングエンジンは調整されていて、自分に興味のあるものだけが振ってくるタイムラインにはなりません。興味のないジャンル、嬉しいニュース、悲しいニュースがあります。そういったものもタイムラインに表示させることで、世の中に遅れないように、と考えました。
自分が好きなファッションと映画だけを見たい、というニーズがあるのもわかりますが、それでも大きな出来事のニュースは害にはなりませんし、知っておくべきことでもあります。そういったニュースも確実に入手できつつ、かつ自分が興味のあるニュースも見られるようなタイムラインになります。この学習エンジンはアップデートのたびにチューニングもしています。
――いろんなことを自然に学んでいけるのは新社会人にとっても嬉しいところですね。
ニュースは読み捨てるのではなく、より深掘りできるように
――ほかにもさまざまニュースキュレーションアプリがありますが、それらとの差別化ポイントはどのようにお考えでしょうか。
岩本氏
スマートフォンのニュースアプリはニュースを読み捨てるイメージがあります。今回のモバイル版のアップデートで追加された記事のまとめ機能やマイリボンの機能は、ニュースを深掘りしていくことをサポートしています。我々のアプリは、読むことより深く知ることをコンセプトとしています。
たとえば「iPhoneの新製品が出た」みたいなニュースだと、記事が数十個になったりします。ほかのニュースアプリだと1つの記事が出るだけなので、ユーザーも情報を提供するニュースメディアも面白くありません。いろいろなメディアがいろいろな視点からニュースを書いているので、それらを読むことで、より深く知ることができます。
このようにニュースを深掘りして知っていけるのがMy Time Lineの特徴です。ここはパソコンからスタートしたという経緯もあるかもしれません。サクサク読めるのは当たり前ですが、ニュースを深く知っていけるのが立ち位置の違いだと考えています。
マルチプラットフォームでアプリを提供する理由と今後
――そもそもパソコンメーカーであるNECパーソナルコンピュータがAndroidやiOS、ライバルであるほかのメーカーのパソコンでも使えるMy Time Lineを提供しているのはなぜなのでしょうか。
岩本氏
一つの大きな戦略として、クローズドに自分たちでしか使えないようにはしない、と考えています。そもそも我々はトップシェアのベンダーとして、日本人のデジタルライフを伸ばしたい、とも考えています。そこを我々のプラットフォームに絞ってしまうと、単なるハードウェアのソリューションになってしまいます。良いアイディアがあるならばオープンに展開したい、と考えました。
――逆にNECパーソナルコンピュータやレノボのパソコンで使ったとき、さらに豊富な機能が使えるといったアドバンテージはないのでしょうか。
岩本氏
今のところないですね。将来的にも基本的な考え方としてはありません。基本思想はオープンで、メーカーがやっているサービスですが、一つのサービスとして提供します。
――WindowsパソコンとAndroid、iOSの3プラットフォーム、UIを見ると、画面サイズは違いますし、タッチの有無といった違いもあります。UIはプラットフォームごとに分かれていく方向なのでしょうか。
岩本氏
私はUIのデザインも担当しているのですが、将来的にはWindowsのUIも変わってきますし、Androidもスマートフォンとタブレットでユーザーが期待するUIが違います。iPhoneとiPadもそうです。でも、提供価値を一緒にしよう、と考えています。解像度と縦横比でUIデザインはそれぞれ最適化していますが、どの画面を見てもMy Time Lineになることを目指しています。
ここは悩ましいところもありまして、5インチのスマートフォンから24インチのデスクトップパソコンまでをサポートするために、議論を進めています。一方でタブレットへの最適化や30インチ以上の大画面のUIも含めて考えたとき、どうなるか、と。今後はスマートウォッチもありますし、さあどうしようか、と。
――3プラットフォームでのアップデートは今後、横並びで進むイメージでしょうか?
岩本氏
正直に言えば、現状でもWindowsが先行している部分があるので、まずはそこを揃えるためのアップデートをスマートフォン向けに提供していきます。そうして情報リーダーとして完成したら、コラボレーションを広げていこうと考えています。プラットフォームごとの制約を受けない部分の広げ方は、3プラットフォームで一緒になります。
――どのような方向に進化するのでしょうか?
岩本氏
どこまで言えるか、というところではありますが……このアプリはニュースアプリとしてニュースを提供していますが、そもそものコンセプトは「情報リーダー」です。そのコンセプトのもと、まずはニュースから開始し、今回のアップデートでは動画も見られるようになりました。ここで、たとえば時事ニュースだけではない動画もリアルネットワークスさんと広げていきます。ヒントとしては、デジタルの世界だけでなく、リアルの世界の情報も得られるようにしたいと考えています。
――本日はお忙しい中、ありがとうございました。