インタビュー
「モバイルプロジェクト・アワード2014」受賞者に聞く
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コミュニケーションの追求がヒットにつながった「モンスターストライク」
(2014/7/28 11:38)
昨年10月にサービスを開始し、1年経たずに累計利用者数1000万を突破したゲームがある。それが、ミクシィの送り出す「モンスターストライク」だ。元々はSNSの「mixi」を運営していた同社だが、FacebookやLINEといった海外向けサービスに押され、四半期ベースでの売上高は徐々に落ち込んでいた。ピーク時の2011年度第4四半期には約380億円だった売上高は、2013年度第2四半期に約183億円に下落している。このころには、営業損益も赤字になった。
こうした状況を一変させるべく、同社はスマートフォン向けのネイティブアプリに注力し始めた。過去にはフォトブック作成アプリの「nohana」や、自分撮りアプリの「muuk」などをリリースしている。モンスターストライクも、こうした新規事業戦略の一環として生み出されたタイトルだ。この目論見は当たり、冒頭述べたように利用者数はすでに1000万人を突破している。業績にも大きく貢献し、2013年度第4四半期には、過去最高の売上高を記録するに至っている。モンスターストライクの大ヒットで、V字回復を果たしたというわけだ。
SNSで有名だったミクシィと、ゲームアプリのモンスターストライクが結びつかない向きもあるだろう。サービスとしては、一見するとまったく別物にも思える。こうした見方を否定するのが、モンスターストライクを生み出したプロデューサーの木村弘毅氏だ。木村氏は「ミクシィという会社はいろいろな領域でコミュニケーションを追求してきた」としながら、モンスターストライクもその発想の延長線上で生み出されたと語る。
「いろいろなコミュニケーションサービスをやっているが、友達や家族と遊ぶのは領域として非常に重要。ゲームはビジネスとしても熱い領域です。スマートフォンのゲームを見渡したとき、いわゆるソーシャルゲームと言われているものが、そこまでコミュニケーションを主軸にしていないことに気づきました。僕らがやりたい遊びはこうだということをブレイクダウンしたのが、このモンスターストライクだったのです」(木村氏)
こうした目的があったため、モンスターストライクには、スマートフォンのゲームとして比較的珍しい仕組みを取り入れられている。同タイトルでは、Bluetoothでスマートフォン同士を連携させ、同じ場所で複数のプレイヤーが一緒に遊ぶことができる。セルラーやWi-Fiといった通信機能を標準で持つスマートフォンでは、サーバー上で仮想的に複数のプレイヤーを結びつけるゲームが多い。むしろ、ソーシャルゲームをうたうほとんどのゲームが、こうした仕組みを採用していると言っても過言ではないだろう。木村氏によると、この仕様には次のような意図があるという。
「世の中を見渡してみると、カラオケもボーリングも飲み会もそうですが、実際に会って遊ぶのは皆さんが普通にやっていることです。それを、普段持ち歩き、密に使っているスマートフォンがお手伝いできることは多々あるのではないでしょうか。元々ケータイはパーソナルなデバイスという印象がありましたが、iPad miniなどのタブレットも出てきて、友だちと見せ合うことにも違和感がなくなってきました。そういうマインドセットができあがってきた中では、みんなで顔を突き合わせながら遊ぶのにも、違和感はないと思います」(木村氏)
スマートフォンのゲームという限定を外せば、実際に会って遊ぶことはごく自然なこと。それを大画面化したスマートフォンや、コンパクト化したタブレットで補完するというのが、モンスターストライクで採用した考え方だ。木村氏が「ゲームの歴史を見ても、家庭用ゲーム機でも、ソファの前に集まってみんなでワイワイ遊ぶのは自然なこと」というように、コンピューターゲームの枠内でもこうした遊び方は普通だった。木村氏がスマートフォンのゲームを評して「僕らから見たらすごく自然な状態」と述べているのも、そのためだ。
では、モンスターストライクはどのようにして、ここまでの大ヒットに至ったのか。木村氏は「友だちと一緒に遊ぶ仕組みを入れていたため、自然に『一緒に遊ぼう』という流れができた」と話す。普段から顔を突き合わせて遊ぶことが多い学生層から火がつき、自然にユーザーが増えていった。「mixiアプリでやってきたマーケティングプロセスに基づき、マーケティングもしてきた」というように、モンスターストライクだからこその特殊な仕掛けはしていないという。
もちろん、開発にあたってはスマートフォン向けゲームならではの苦労もあった。木村氏は「メモリやGPUがものすごく足りない」としながら、「そぎ落とす作業にすごく苦労した」と語る。
「グラフィックやサウンドが少ない中で、どう表現し切るか。それが、すごく大変でした。モンスターストライクには、ファミコンのような2Dのゲームを作っていたエンジニアが多々入っていますが、ある意味で昔の戦い方に似ていますね」(木村氏)
一方で、「スマートフォンならではというのは、あまりよく分からない」とする木村氏。「コンシューマー向けゲーム機でやったとしても、企画的にはあまり変わらなかったと思う」と当時を振り返る。モンスターストライクのプラットフォームをスマートフォンにしたのは、その性能面よりも、誰もが持ち、しかも肌身離さないという特性に注目したからにほかならない。こうした特徴を生かすために、「誰もが遊べるように、複雑な操作は排除した」というが、その反面「やりこみ要素も盛り込んだ」。
「実はモンスターストライクも結構細かいやりこみ要素がありますが、それを知らなくても人に勧められるように作ってあります。バランスが難しいところですが、あまりにシンプルすぎると、底の浅いゲームになってしまいます。長く遊んで、徐々に覚えていけるようにしてあり、チュートリアルもほとんど用意していません。あとは『こうやるんだ』というのを、友だちに聞いてもらえればうれしいですね」(木村氏)
これだけの人気が出ると、SNSのmixiと連携させてくるのではという声も出てくるが、木村氏はこうした見方を「何も考えていないし、無理やりやる必要もない」と完全に否定する。
「mixiとは完全に切り離したものと考えています。たとえば、任天堂さんで考えてもそうですが、WiiとニンテンドーDSのゲームが、全部連携しているわけではありません。それぞれのサービスにコアバリューがあり、連携することでお客さんが笑顔になるならやりますが、そうでないならやりません。ミクシィもグループ企業が増えてきましたが、今までもお客さんを無視した形でシナジー効果を出そうということは一切やってきませんでした。グループ会社が多い企業は往々にしてトップダウンでそういう指示がくることもありますが、それがなかったのは大きいですね」(木村氏)
モンスターストライクは「その場で会って、その場で解散という非常にテンポラリーなソーシャルグラフ」。「非同期コミュニケーションに特化したSNS」のmixiとは、お互いに相容れないというわけだ。こうした見方ができるのは、ソーシャルグラフの特性を知り抜いてるミクシィだからこそと言えるだろう。
今後の目標は、「まず海外展開」だという。
「日本で評価されているものを、海外に持っていくのは自然なこと。スマートフォンは海外にも、スイッチ1つ押すだけで出せてしまいます。ですから、そこまで『グローバル!!』という意味込みでやっているわけではないんですけどね(笑)。一緒にその場にいて、笑ってもらえる。それを日本から出す価値観として提案できたら幸せです」(木村氏)
すでにモンスターストライクは台湾に展開済み。中国や香港、マカオについては、中国ネット企業・テンセントとの提携を発表している。アジアを皮切りに、日本発のコンテンツをどこまで広げられるのか。ミクシィの成長の源泉にもなっているタイトルだけに、その成否にも注目が集まる。