「SH007」「SH008」「IS01」開発者インタビュー

シャープがau向けに開発したこだわりの3モデル


 シャープはこの夏、au向けにSH007とSH008、IS01の3機種を投入する。SH007はソーラー発電に対応する「SOLAR PHONE」の第2弾、SH008は無線LAN搭載で防水仕様の「AQUOS SHOT」、そしてIS01はau初・シャープ初のAndroid端末だ。

 今回はこれら3機種について、シャープ 通信システム事業本部 商品企画部 主事の本田雅則氏と、商品企画部の仁賀智弘氏にお話を伺った。


発電能力が向上したSOLAR PHONE SH007

SH007
背面パネルには独特なデザイン処理が施されている

――まずSH007のコンセプトからご紹介をお願いします。

仁賀氏
 au向けのSOLAR PHONEの第2弾として企画しました。消費者の中でエコへの感心が高まっていますし、そのなかでSOLAR PHONEを出すことにシャープとしての意義も大きいと考えています。

――デザイン、とくにソーラーパネルのあるディスプレイ背面のデザイン処理が変わっていますね。

仁賀氏
 SOLAR PHONE第1弾のSH002は、ユーザーの皆様にはご好評いただきましたが、ご購入者の属性を見たとき、男性が過半数を占め、女性の方が少ない結果となりました。そこでSH007では女性のユーザー層の拡大を狙っています。

 SH002は、ソーラーパネルのメカっぽい見た目が男性に好まれたのだと思います。女性ユーザーを拡大するために、まずソーラーパネルのデザインを一新しました。ご覧いただければわかりますが、トップパネルにグラスカット処理を施しました。これは高級グラスやコスメなどの生活雑貨を意識しています。

 さらに背面側も作り込みました。防水端末というとゴツゴツしがちですが、より愛着を持って長くお使いいただけるよう、ラウンドフォルムとしています。

 カラーバリエーションについても、エコをイメージさせるブルーをメインとして、女性に人気の高いホワイト、そしてトレンドカラーのブラウンもラインナップしました。ブラウンは調査したところ男性の評価も高い色です。

――ソーラー発電の能力は変わったのでしょうか。

仁賀氏
 前回は10分の充電で1分の通話が可能でしたが、新しいソーラーパネルなどの改善を加えることで発電効率を上昇させ、10分の充電で2分の通話可能になりました。

――ソフトウェア面での特徴は?

仁賀氏
 ソーラーだけでなく、アプリも新しくなっています。地磁気センサーや気圧センサーなどを搭載しているので、それらを使った「フィールドロケーター」というアプリを搭載しています。

 フィールドロケーターにはいくつかの機能が含まれています。まず、GPSと地磁気センサーを使った機能として、そのときその方向に見える星座や惑星の星図を表示する方位計機能があります。気圧センサーを使った機能としては、気圧や高度を表示したりグラフ化して表示する気圧計&高度計を搭載しています。GPSの座標を記録するGPSロガー機能もあります。自転車に乗る方などを対象とした機能です。microSDカードにGPX形式のログファイルを記録するので、いろいろなパソコンのGPX形式ソフトやWebサービスとも連携できます。

――アウトドアシーンでの利用を意識されているのでしょうか。

仁賀氏
 意識はしていますが、アウトドアシーンがすべてではないと考えています。防水仕様なのでキャンプなども想定していますが、そうしたアウトドアだけではなく、普段の生活の中でアウトドア志向やエコ志向が強いお客さまにアピールしたいと考えています。

――ソーラー以外の機能としては?

シャープの仁賀氏

仁賀氏
 ソーラー関連の強化だけでなく、ベーシックなデバイスの向上やユーザビリティの改善も行っています。

 たとえばカメラ機能では8メガのCCDセンサーを搭載しました。笑顔フォーカスシャッターや振り向きシャッターなどの機能も搭載しています。カメラで読み取った単語を検索する、ラクラク瞬漢/瞬英ルーペという機能も搭載しています。

 これはSH007とSH008の共通機能でもあるのですが、文字入力関連なども改善しました。デコレーション絵文字の絞り込み検索などの機能を搭載しました。メールに関しては、自動振り分け機能のある迷惑メールフォルダ機能を新たに追加しています。こちらはブラックリストと許可リストで設定できて、迷惑メール扱いのメールは着信通知がされません。

 長く使ってもらいたいという考えの中で、キーの形状も変更しました。指がかりが良いように傾斜を付けた「クリートラインキー」というデザインになっています。

――SH002では電子ペーパーを搭載されていましたが、今回は?

仁賀氏
 今回のSH007とSH008では、電子ペーパーと同じように表示し続けても消費電力がほとんどないメモリ液晶を搭載しています。とくにSH007はソーラー発電があるので、直射日光下でも見られるようにハイコントラスト型のメモリ液晶にしています。また、メモリ液晶にすることによりサブディスプレイの表示設定を変更すると、ソーラー充電状態を漢字表示することも可能になりました。

 

防水仕様になったWi-Fi WIN対応機、AQUOS SHOT SH008

――続いてSH008のご紹介をお願いします。

SH008

仁賀氏
 SH008はau向けAQUOS SHOTの第3弾です。今回はユーザーの利用シーンを増やしたいと考え、防水をテーマに開発しました。バスルームやキッチンなど、いろいろなシチュエーションで使える防水のAQUOS SHOTになっています。

 これまでのAQUOS SHOT、「SH003」と「SH006」は、比較的男性よりでデザインしました。今回はそこから一転し、女性もターゲットに入れ、ハイエンド端末志向の20~30代男女をターゲットとしています。

 デザインのポイントは2つあります。まずはカメラ重視のケータイと言うことで、カメラ面のデザインを作り込んでいます。そしてもうひとつは、女性の手にもなじむように、また長く愛着を持って使っていただきたいという思いを込め、ラウンドフォルムとしました。

 カメラ面のデザインとしては、造形物として高品位感を出したい、ということにこだわりました。従来はカメラレンズを強調していましたが、今回はカメラレンズは主張はするけれど全体として綺麗な造形物となるようにデザインしています。

 ラウンドフォルムにするためには、防水コネクタカバーの出っ張りなど技術的な課題がありましたが、パッキンなどを工夫して課題を克服しました。背面部は電池カバーの分割線もスマートに仕上げています。

カメラのある背面

――基本的にSH006の路線を踏襲しているかと思いますが、カメラ機能での強化ポイントは?

仁賀氏
 SH003やSH006でコンティニュアスAFや笑顔フォーカスシャッターなど基本機能を強化してきましたが、今回はブログなどに写真を掲載する際に便利なモザイク加工やプリティ加工といった自動レタッチ機能を搭載しています。ユーザビリティ、タッチのUIについても改善を施しています。

 写真を見る側のフォトビューアーも機能強化し、タグ情報による管理や検索が可能になりました。

――今回も無線LANを搭載されていますね。

仁賀氏
 Wi-Fi WINに対応しています。ここは基本的にSH006と同じですが、SH008は防水対応なので、水まわりでもでも無線LANをお使いいただけます。

背面ディスプレイはメモリ液晶を使っている

――SH007同様にメモリ液晶を搭載されていますが、こちらはミラー仕様で、表示量も多いですね。

仁賀氏
 こちらはハイエンド機なので、ニュースや天気なども表示できるようにしました。

――独自アプリの「GPSゴルフナビ」というのは以前の機種と同じものですか?

仁賀氏
 GPSゴルフナビも強化しています。いままでは残ヤード表示のみでしたが、今回はコース図の表示に対応しました。タッチパネルに対応しているので、目的の場所までの距離を測定できるようにもなっています。また、ゴルフをプレイしている際に、歩数計と連動し、カロリー消費なども表示できるようになりました。

――メール関連の機能では、SH007と同様に絵文字検索や迷惑メールフォルダに対応されているのですね。

仁賀氏
 SH007と同様です。シャープとしては、メールや文字入力のユーザビリティを他社に先駆けてやるという考えを持っています。メールとはちょっと異なりますが、SH008ではシークレット設定した人からの発着信履歴などを非表示に設定する機能も搭載しています。

 

シャープ初のAndroid端末、IS01

――続いてIS01についてコンセプトからご説明をお願いします。

IS01

本田氏
 開発コンセプトとしては、「Webコミュニケーションを使う」というものがあります。1年くらい前に行ったユーザー調査で、ある女性から「メールを使う機会が減った」という意見を頂戴しました。友達と遊びに行くときも、mixiで呼びかける、と。メールではなくmixiなどのSNSを中心としたコミュニケーションの実際とはどういったものだろう、と考えたのがきっかけでした。

 まずmixiのページビュー数だけではなく、モバイル率に注目しました。調査時、mixiはページビュー数も相当なものでしたが、モバイルからの利用者が8割を超えていました。見るだけでなく投稿もモバイルから行うニーズが強まっています。こうしたことから、モバイル環境でいかに伝えたいことをスパっと投稿できるか、という点に着目し、Webコミュニケーションをコンセプトに掲げました。

 フルタッチという選択肢もありましたが、やはりしっかり文字入力していただくために、フルキーボードを搭載することにしました。普通、ケータイを作るときは、サイズを先に決め、それに収まるようにスペックを作り上げますが、今回はそのサイズの制限を一回外し、「Webコミュニケーションのための最強の端末」というコンセプトを元にゼロベースで商品企画を考えました。

 このようにWebコミュニケーション、つまりブログやSNS、Twitterに注目した結果、打ちやすいキーボードとAndroidを組み合わせたIS01、「スマートブック」が生まれました。

――想定しているターゲット層は?

シャープの本田氏

本田氏
 20代から30代の独身女性をターゲットにしています。調査すると、独身女性はWebコミュニケーションでのアクティブ率が高い傾向があります。外出や旅行のときに使う、あるいは緩い友達とのつながりも意識している方が、この層には多い傾向があります。ブログやSNSにどんどん投稿する、というイメージです。

 実際にこの層のブロガーに試作品を見てもらったところ、7割くらいが「欲しい」と答えてくださいました。このようなデザインなので、通話機能の使い勝手を気にする方はいらっしゃると思いますが、逆にWebコミュニケーション志向の方には響く端末となっています。

――ちゃんとしたフルキーボードを搭載されるというのが特徴的ですね。

本田氏
 普通のケータイの場合は、まずディスプレイスペックから決めます。なぜかというと、液晶が大きいと本体も大きくなる、つまりディスプレイのサイズがスペック全体で重要なポイントとなるからです。しかし今回はそれとは違ったアプローチを採り、まず最初にキーボードのサイズから決めました。

 キーボードのサイズ、ここはコンセプトの時点で明確にしていたのですが、「机に置いても、両手で持っても使える」形状を目指しました。小さすぎると机に置いたときに複数の指で打ちにくくなり、大きすぎると両手で持ったときに親指が届かなくなります。その間のバランスを取りました。

パソコンに近い構造・配置のフルキーボード

 キーボードの配列についても、デザインの早い段階から、数字の列のある5列にしようと考えていました。このあたりも、デザイン違いや大きさ違いなど、社内で数ミリ刻みで削りだしの試作モックを大量に作り、比較検討しています。その結果、キーボードはこのサイズとなりました。

 ディスプレイのサイズは、キーボードがこのサイズになったので決めた、というイメージに近いです。横幅がありますので、パソコン向けのWebサイトも普通に見られます。

 ディスプレイのサイズはノートパソコンほどではないので、使うときはノートパソコンよりも自分の近くに寄せて使います。それを想定し、ディスプレイの角度もより広く開くようにしています。

 このほか、トラックボールも搭載しています。ディスプレイはタッチパネル対応なので、トラックボールはなくてもAndroid端末として成立するのですが、片手でも操作できるように、と搭載しました。ブラウザとトラックボールは相性が良く、使いやすくなっています。

――ほかのAndroid端末との違いや特徴は?

独自のタスクマネージャ

本田氏
 UI関連では、まずタスクマネージメントまわりを工夫しています。普通Androidでは、アプリを終了させるという概念がありません。タスクが生きていれば、以前の画面に復帰します。しかしこれは、普通のケータイをメインで使っている方は、アレッ? と思ってしまうかもしれません。

 そこでIS01では終話キーを押すことで、アプリを終了させられるようにしました。もちろんホームキーでアプリを終了させずにホーム画面に戻ることもできます。さらにホーム画面長押しで、起動中のタスクをサムネイル表示できるようにもなっています。

 また、「コンテンツマネージャー」という独自アプリを搭載しました。これは本体内にあるメディア系ファイル、オフィス系ファイルなどを管理・表示するアプリです。ワンセグの録画なども含めファイルタイプを気にせずに扱えるのが特徴になっています。最近作ったファイル、という表示もできます。

 普通のケータイの場合、データフォルダのように、作ったデータ、ダウンロードしたデータがどこにあるかわかりやすく作られています。しかしAndroidではそういった考え方がなく、ファイルブラウザ・アプリは標準で搭載されていません。そこで、普通のケータイに慣れた方にも違和感なく使いこなしてもらうために、今回は独自アプリを搭載しました。

 そもそもAndroidには内蔵メモリを使うという発想がなく、データは基本的にSDカードに保存するようになっています。しかし今回は3.2GBの内蔵メモリを搭載しているので、それを活用する、という意味合いもあります。

 このアプリはAndroidの枠組みで作っていますが、技術的には高度なことをしていて、ちょっとOSにも手を入れています。内蔵メモリの拡張もAndroidではエポックメイキングなことでして、Androidの開発の中心であるGoogleさんと相談しつつ進めましたが、なかなか大変な作業でした。

メニュー操作などは素のAndroidとほぼ同じだが、画面が横長なので、だいぶ違って見える

――普通のケータイとの違いでいうと、アドレス帳はどうでしょうか。

本田氏
 アドレス帳については、ビジネス用途でも安心してお使いいただけるようロック機能を加えています。普通のケータイの場合、アドレス帳のアプリをロックすればデータを守れますが、Androidの場合、アドレス帳のアプリを起動しなくても、アドレス帳のデータをほかのアプリから参照することが可能になっています。そこで、データを隠せるように作り替えました。ここでもGoogleさんと相談しつつ手を加えています。

 また標準のアドレス帳では並び順としてアルファベットが先にきて、そのあと平仮名が続いていましたが、ここも日本で使いやすいように変えています。

――日本語のフォントもほかのAndroid端末に比べると綺麗ですね。

本田氏
 今回はモリサワフォントとLCフォントを搭載し、綺麗だと評価いただいております。これはTrueTypeフォントの置き換えなので、それほど難しいことではありません。

――このほかに独自のアプリはどのようなものがあるのでしょか。

本田氏
 mixiやTwitterの独自アプリを作りました。あとはau oneナビウォークやセカイカメラを標準搭載しているほか、LISMOやEZwebのメールにも8月以降に対応する予定です。

――アプリ以外のところ、ウィジェットにはどのような工夫をされているのでしょうか。

本田氏
 コンセプトとしては、開くとウィジェットがたくさんあって、そこからWebコミュニケーションに繋がる、ということを実現したいと考えました。プリインストールしているウィジェット以外にも、シャープの提供する「SH Widget Gallery」から追加ダウンロードすることもできます。また、Android標準のウィジェットだけでなく、追加のフレームワークとして「Droidget」というウィジェットエンジンも搭載しています。

――赤外線通信やワンセグなどを搭載しているのも他のAndroid端末と違いますね。

本田氏
 シャープの強みはなんだろう? と考えました。シャープはおかげさまで国内ではたくさんのユーザーさんがいらっしゃいます。Androidになっても、シャープ端末としてご購入いただくユーザーもいらっしゃると考えました。赤外線通信やワンセグは日本独自仕様だから要らない、とおっしゃる方もいらっしゃいますが、実際に使われるユーザーの大半にはそういったグローバル性といったことを考えません。便利に使っていただくために、ワンセグや赤外線通信を搭載しました。

 また、シャープ的な機能としてはカラーベールビュー機能も搭載しました。どのアプリが動いているときも、Alt+Enterでベールビューモードに切り替わります。

 ワンセグや赤外線通信、そのほか日本で当たり前のケータイの機能がこれまでのスマートフォンででは実装されていませんでした。そういったものは、拡張すれば改善できるので、シャープは今回、拡張を加えました。Androidだから、スマートフォンだから「できない」ではなく、むしろAndroidは拡張性に優れていると思います。

――今回、シャープさんとしては初のAndroid端末になります。

本田氏
 実際にAndroid端末を開発してみて、オープンプラットフォームのさまざまな面を体験できました。

 オープンプラットフォームの良さは、明らかに開発にスピード感があることです。アプリを試作してから実際に動かすまで、ほとんど時間がかかりません。

 一方で、開発コミュニティの動きを予測しながら対応する必要もあります。たとえば特定のWebサービス向けにアプリを作っても、ほかの開発者も同じようなアプリを作っていたり、あるいはそのWebサービスの公式アプリが登場することもあり、そうなると当社の独自性を打ち出しにくくなります。これはオープンプラットフォームの怖さでもあります。

――ディスプレイ解像度が横長が基本で960×480ドットと珍しいですが、一般開発者によってアプリが開発されにくいのでは。

開発者向けモデル「JN-DK01」も販売されている。スマートフォンでありながらカラーバリエーションが用意されるのも日本的といえる。左上と右上がIS01で中央下は開発者向けモデルのJN-DK01

本田氏
 シャープとしてもその点は気をつけています。解像度が独自になっていますが、これもGoogleさんと話し合いながら開発しました。デベロッパー向けに専用端末も販売しています。ディスプレイ以外にも、赤外線通信のAPIなども公開しています。

 Androidにおける開発者やユーザーの断片化は、まだ段階として早いと考えています。Androidは全体で魅力的なフィールドになるべきです。端末としても、プラットフォームとしても、両面から魅力的にならないといけません。

 だから開発者の方には、シャープの端末でしか動かないアプリを作ってもらう必要はないと考えています。ただし、当社の端末が最初に評価される端末になって欲しい、と考えています。

――海外のスマートフォンでは端子類にキャップがないものが多いですが、IS01にはしっかりありますね。

本田氏
 故障の原因になりそうな構造はなるべく避けたいと考えています。日本のお客さまのケータイに対する要求品質レベルは、非常に高いレベルになっています。

――日本の普通のケータイに近い品質レベルになっている、ということでしょうか。

本田氏
 基本的な考え方は日本のケータイと同じレベルの品質確保を目指して取り組みました。

――いろいろなものが詰め込まれたAndroid端末になっていますね。

本田氏
 初めてAndroid端末を使うユーザーさんにも使いやすいよう取り組みました。現時点でやりたいことは初号機であるIS01から一通りやったつもりです。

――本日はお忙しいところありがとうございました。

 



(白根 雅彦)

2010/7/23 06:00