「P-06B」開発者インタビュー
防水タッチパネルに秘められた狙い
P-06B |
パナソニック モバイルコミュニケーションズ製「P-06B」は、NTTドコモの2010年夏モデルのうち、STYLEシリーズに属するスイーベルタイプの端末だ。丸みを帯びたボディに感圧式タッチパネルや1320万画素カメラを搭載し、スペック面ではハイエンドモデルに位置づけられるが、タッチパネル搭載により、新たな体験を提案するモデルでもある。
「P-06B」の開発を担当したプロジェクトマネージャーの奥野 和久氏、商品企画担当の池田 大祐氏、機構設計担当の関根 武史氏、電気設計担当の山口 学氏、ソフトウェア担当の高橋 秀幸氏、コンテンツ担当の相澤 淳氏にコンセプトやポイントを聞いた。
■新スタイルの創造
――「P-06B」の特徴として、「ラウンドフォルム防水」「手書きダイアリー/手書きフォト/メモ」「1320万画素カメラ」が挙げられています。
奥野氏
「P-06B」ではその3つのポイントを打ち出していますが、それらについて考えたとき、2つの要素がありました、1つは、タッチパネルを搭載しますからアプリを充実させること。そこで買ってからすぐ楽しめるよう、手書きダイアリーや手書きフォト/メモを用意しました。もう1つは、主なターゲット層である女性ユーザーが、半身浴中でもそれらのアプリを利用できることを考えていました。
そして、「P-06B」は“電話”という点も重要なところです。操作をタッチパネルだけで行う、という形にすると心許なく思う方もいらっしゃいますので、テンキーも用意しました。カメラについては、PRIMEシリーズの「P-04B」と同等レベルのデバイスを採用し、機能面もほとんど同じです。
池田氏(左)と奥野氏(右) |
池田氏
企画をスタートさせた2008年12月ごろ、既にWオープン機構を採用したモデルが2~3機種リリースされていました。将来を見据えたとき、新たなスタイルが求められるだろうと予測していた時期です。そこで、新スタイルの創造に取り組んだわけです。
これまでの携帯電話を見ると、たとえばWオープン機構は、テレビ、つまりパナソニックの「VIERA」がコンセプトの基本にあります。また多くの携帯電話では、背面を見るとコンパクトデジタルカメラのようなレンズがあります。テレビとカメラという2つの機能がわかりやすく、訴求しやすいスタイルと言えます。では「新たなスタイル」とは何か、ということで考えたのが「インターネット」でした。他社製品ですが、2008年12月ごろと言えば、「iPhone 3G」が発売されて半年を経たころです。価格面での競争力があり、広がる兆しが見えていた時期ですね。
ただ、さきほど奥野が述べたように、全画面タッチパネルでは……ということでスイーベル型(回転2軸ヒンジ型)になるわけですが、既存のスイーベル型では、ヒンジ部がまっすぐです。「P-06B」のデザイナーは、横長画面で手にしたとき、左右対称のほうが美しいと考え、ヒンジ部の形状にこだわりました。全面タッチパネルでも使えますし、開けると安心感のある普通の携帯電話という形状を目指すと。そこで「ヒンジを消したい」、“ヒンジレスイーベル”を目指したいと考えました。
――ヒンジレス、スイーベルを合わせて“ヒンジレスイーベル”ですか。
池田氏
ええ、こうしたデザインの原型は、早期に固まっていました。ただし、ラウンドフォルム、防水、タッチパネル、といった要素を詰め込んでいった結果、当初は現在よりも二回りほど大きなサイズでした。その小型化に苦労しましたが、デザイン面と技術面での挑戦の結果、このサイズ(約114×51×19.9mm、最厚部で約21mm)になりました。
池田氏がP-06Bで描いたイラスト。同氏のオリジナルキャラとか |
――なるほど。ところでスペック的にはPRIMEシリーズの「P-04B」と同等かそれ以上といった形ですが、SYTLEシリーズに位置付けられていますね。
池田氏
PRIMEシリーズは、機能を理解している方がその機能を使いこなすシリーズ、と言えます。「P-06B」は1320万画素カメラやタッチパネルなどを備え、当社の中でもハイエンドモデルであることは間違いありません。ただ、細かなところまで知らずとも「こう使いたい」というニーズに応えられる機種ということでSTYLEシリーズになっています。
――カメラの画素数を抑える、といった選択肢を選ばなかったのはなぜでしょうか。
池田氏
ターゲット層である女性ユーザーのカメラに対するニーズは高いのです。PRIMEではなくとも、高画素のほうが良いのです。そこは譲れないポイントですね。
■タッチ操作を追求
池田氏
もう1つ追求したのが「新しいタッチの価値創造」です。カメラ機能だけタッチ操作できる機種などは存在しましたが、全てをタッチで操作できるようにした機種としては、当社は最後発になります。それならば、iPhoneを超えるようなタッチを目指さなければいけないということで、他社製品もかなり分析し、「タッチメニュー」「手書きダイアリー」「手書きフォト/メモ」という3点を用意することにしました。
――それぞれの特徴は?
池田氏
タッチメニューは、タブ表示で切り替えられるようにしています。左端のタブはいわば“ホーム画面”になるメニューで、よく利用する機能のアイコンがあります。その隣は自由にアイコンを追加できるカスタマイズメニューです。下にスクロールしてどんどんアイコンを追加できます。最後に、一般的な携帯電話のメニューランチャーと同等のメニューを用意しました。また、背景画像はパノラマ写真などを設定でき、“安らぎボタン”と呼んでいる一番右のタブを押すと、メニューなどの表示を消して、画像のみ楽しめるようにしています。
――そういえば「P-06B」はNTTドコモのオペレータパックを採用した機種ですが、タッチパネル操作も含まれているのでしょうか。
高橋氏
タッチパネル関連は、過去の機種のノウハウを利用しながら、新規で開発した部分がほとんどになります。タッチメニューをはじめ、手書きダイアリーや手書きフォト/メモ、電卓などですね。新規の要素ですから、アンケートなどを参考にしながら開発を進めました。
カスタマイズできるメニューも |
――同時期に発表されたパナソニックの夏モデルのうち「P-06B」のみ、メールのインライン入力に対応していますが……。
高橋氏
そこはオペレータパックの導入によるものになりますが、当社が培ってきた良い部分も残しつつ、新しい仕組みになったと思います。
――「P-06B」のタッチパネルは感圧式(圧力で検知する仕組み)ですね。国内で発売される最近のタッチパネル搭載機種は、多くが静電式(画面に触れただけで検知する仕組み)ですが、感圧式と静電式ではタッチパネルの操作感が異なります。その“違和感”について、怖さはなかったのでしょうか。
山口氏(左)と高橋氏(右) |
奥野氏
それは確かに怖かったですね……。操作感が異なるのは事実ですから。ただ、いかに違和感を覚えていただかないようにするか、チューニングを重ねました。ペンでの操作を推奨し、販売店でもそのあたりがきちんと伝わるよう、販売スタッフさん向けの資料を用意したり、店頭で配布する冊子を作ったりしました。Webサイトなどで、そうした使い方を案内していきますし、こうした啓発活動には注力しています。発売後、ユーザーさんからいろいろな声をいただくだろうとは予想していますが、スマートフォンからの乗り換えではなく、旧来のパナソニック端末を使ってこられた方が機種変更で手にするということが多いとも予想しています。
池田氏
「P-06B」の特設サイトでは、タッチパネルでイラストを描くシーンを紹介しています。初級レベルではペンの色で描いていき、次のステップでは写真を取り込んで装飾していきます。また、マーカー(蛍光ペン)機能も用意しているのですが、これで絵を描いていくと、半透明のカラーが重なっていき、水彩画のような深みのある色合いを再現できます。実際に描いたシーンを見ると、難しそうに思えるかもしれませんが、どなたでも描けます。“絵は心”ですよ(笑)。
■ラウンドフォルムの防水
――スイーベルでの防水機構ですが、Wオープンの防水を実現した「P-10A」のノウハウは活かされたのでしょうか。
関根氏
ええ、そういった部分は継承しています。難しいのは「量産できる防水の仕組み」なのですが、防水できる設計にしていたとしても、実際に工場で組み上げたときにどうなるか、製造部門との連携がキーになります。今回は、初期段階から製造部門のスタッフにも協力してもらいました。そうした取り組みは、「P-10A」でも行っていましたが、今回、さらにノウハウを進化させています。
奥野氏
量産すると歩留まりが重要です。実際に組み立てていき、当社が掲げた基準に達しない製品が増える、いわば“排除率”が増えるとビジネスとして成り立ちませんから、量産行程における課題を洗い出し、解決していきます。何かあると関根が工場へ赴き、1カ月ほど帰ってこなかったこともありましたね。
量産を前提にした防水機構に工夫を重ねたという |
関根氏
筐体はパッキンで防水し、ヒンジ部は新たな部材を開発して防水を実現しています。「P-10A」よりも新しいチャレンジを行っていますね。またバッテリーカバーは、防水用の内蓋を採用しています。内部構造は狭くなりますが、内蓋と外蓋の機能を分離できますから、結果的にコストダウンに繋がっています。
――丸みを帯びた形状は、苦労されたのでは。
関根氏
ラウンドフォルムは相当苦労しました。特にディスプレイ部の周囲を囲む部材は、丸みを帯びながら蒸着処理を施しているのですが、成型用金型にとって難しい面がありました。金型で成型する際、上下の割り線が出てくることを前提に設計しながら、、線が残らないように工夫しています。
またディスプレイ部とキー部の間に位置するヒンジ部を見ると、ヒンジ部とディスプレイ部が接する部分は水平ではなく丸みを帯びています。このデザインだと、ディスプレイ部を回転させたとき、ヒンジ部と干渉を逃げる要素が増えるため、工夫が必要でした。また、折りたたみの角度によっては、回転させるとキー側ボディをえぐってしまうことがありますので、柔らかい素材を付けています。
――なるほど。
関根氏
また感圧式ディスプレイは、静電式と比べ、防水構造が複雑になっています。感圧式ですと、2枚のガラスを用意して、下のガラスにケーブルが付いています。このケーブルで検知した圧力の信号を送るのですが、ケーブルをボディへ入れる部分の止水が難しいんですね。
山口氏
バッテリーは前モデルと容量は同じですが、ラウンドフォルムを実現するため厚みはややあるものの、横幅は短いものを採用しています。ラウンドフォルムでは、丸みを帯びた部分に部品を詰め込めませんから、周囲に余裕がでる構造が求められます。
■1320万画素カメラとコンテンツ
――1320万画素カメラというのも特徴の1つです。
山口氏
機能面ではP-04Bと同等です。ここまでの画素は必要かと思われるかもしれませんが、訴求ポイントになりますし、デジタルズームや高感度撮影のときにも活きてきます。またカメラの起動にかかる時間は約1.1秒で、比較的高速な部類に入ると思います。
相澤氏(左)と関根氏(右) |
奥野氏
ユニークなところでは、「おまかせチョイス」という機能を用意しました。6~8枚の写真を連写して、その中からピントがあっていたり、顔の位置など構図が良かったりする写真を選びだし、上位3枚の写真に王冠マークを付けます。走っているお子さんや、メリーゴーラウンドに乗っている人の撮影などに役立つ機能です。
――コンテンツ面での取り組みを教えてください。
相澤氏
5月の「P-04B」の発売にあわせ、有料サイト「P-SQUARE MARKET」をオープンしました。これまでも「ファイナルファンタジー」「機動戦士ガンダム」「レイトン教授」などのタイトルを揃えたり、Wオープン端末向けのコンテンツを提供したりして、「Pと言えばゲーム」と言われるほど、重点的に取り組んできた分野ですが、有料サイトで、より幅広い方に楽しんでいただくことを目指しています。
「P-06B」向けには5種類のタイトルをラインナップしています。そのうち「Bomblink」「FingerPiano」「つみネコ」といったゲームは、スマートフォン向けに展開されていた、iモードにはなかったコンテンツを持ってきています。タッチ対応で、コンテンツの選択肢を拡げられます。今後も、Wオープンやタッチパネルなど、それぞれの機種にあわせてバリエーションを充実させます。
■次への戦略
P-06B開発陣 |
――池田さん(商品企画)のお話や、今の「iモードにないもの」といった部分を伺っていると「P-06B」は、スマートフォンと一般的な携帯電話という狭間の時期に向けた機種という印象です。
池田氏
スマートフォン市場の成長をどう見るか、難しいところはありますが、今後スマートフォンへのシフトは加速すると見ています。
昨年に石井(圭介氏、同社モバイルターミナルビジネスユニット長)が述べたように、スマートフォンへの検討は行っていますが、たとえばAndroidはユーザーインターフェイスが従来の携帯電話と大きく異なります。そうした中、「P-06B」は携帯電話として使えるし、タッチパネルでも操作できるということで、(スマートフォンへの)端境期に安心して使っていただけるだろうと。
――時代が移り変わるタイミングだからこそ、ということですね。今日はありがとうございました。
2010/7/21 06:00