「SH-06A NERV」企画者インタビュー

“初号機”に込められたこだわりを聞く


企画は、NTTドコモ、プロダクト部第三商品企画部が行った。左から板橋通子氏、神谷俊彦氏、中村吉伸氏

 6月27日に公開される「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破」とのコラボレーションによって誕生した「SH-06A NERV」。型番こそ「SH-06A」だが、外観から内蔵コンテンツまで完全に別物。設定上の名称である、「第5種情報管理統制機器」と呼ぶにふさわしい仕上がりとなっている。

 この端末が実現した経緯や、こだわったポイントなどを、企画に携わったNTTドコモの担当者に伺った。なお、今回は端末の内容が内容だけに、若干“専門用語”が散りばめられている。こんなことをした筆者のため、インタビュー中のテンションも高めだが、あえて大きく手を加えずに“生のファントーク”をお届けしたい。



 

ヱヴァンゲリヲンケータイ、誕生

SH-06A NERV

――まず「SH-06A NERV」の企画経緯を教えてください。

神谷氏
 2年ほど前、キングレコードさんから「新しい映画とコラボレーションしませんか」というお話をいただきました。その中で何ができるのか、いろいろと検討を重ね、今に至っています。このコラボレーションは(高度なテクノロジーを有した)NERVの官給品というコンセプトですから、その時の最新機種でやりたいという意向が、ガイナックスさんにも、キングレコードさんにも、もちろん、我々にもありました。

――最新機種にもいろいろと種類はあります。なぜ、SH-06Aが選択されたのでしょうか。

神谷氏
 いろんなメーカーさんにお話しし、結果としてシャープさんに賛同していただけました。

――シャープに“好きな人”がいたのでしょうか(笑)。

神谷氏
 そうですね(笑)。

――まさに“ユニゾン”ですね。ただ、無難にやろうとすると、着せかえケータイやパネルをかぶせるという方法になってしまう気がします。ここまで思い切れたのは、なぜでしょう。

神谷氏
 確かに、簡単にやる方法はいくらでもあります。ですが、それをやってしまうと全然面白くないですし、せっかくコラボするなら思いっきりやりたかったので、その結果がこれです(笑)。

――シャープ端末の中からSH-06Aを選んだ理由を教えてください。

神谷氏
 ハイスペックというのが、理由としてありました。

中村氏
 ちなみに、今、らくらくホンも含めて5つのシリーズを展開していますが、この機種はどこにも入っていません。機能面を考えると、「これがあったらよかったね」という後悔がないように、一番ハイスペックなものを選びました。

――SH-07Aも候補に入っていたのでしょうか?

中村氏
 SH-07Aだと、(サイクロイドスタイルで筐体が2つに)分割されているので、少しデザインがしづらいというのはありました。

――限定3万台と発表されましたが、その数字の根拠はどこにあったのでしょうか。

神谷氏
 もちろんファンはそれ以上いらっしゃるとは思いますが、特別色を出してコンテンツなども追加しているので、金額が高くなってしまします。そういうところを踏まえて、3万台という数を出しました。

――結果として、ドコモショップでの予約分は即日完売でしたが。

神谷氏
 そうですね。それに関しては混乱も起こってしまい、かなり申し訳ない気持ちでいっぱいです。

――売れ行きに地域差はあったのでしょうか。箱根(※NERV本部がある「第三新東京市」は現在の箱根付近)での予約台数が妙に多いということも(笑)。

神谷氏
 う~ん、それは聞いてないですねぇ(笑)。

 

外観から中身まで、貫くNERV官給品仕様

ドコモ第三新東京市支店がNERVに商品を納入。検品を行い、印を押したのち職員に配られた……というリアリティのあるパッケージ

――あ、それがパッケージですか。本格的ですね(※記者会見時にはCGのみだった)。

神谷氏
 ドコモの第三新東京市支店がNERVに販売して、NERVの方が印鑑を押して職員に配ったという設定になっています(笑)。ですから、印鑑の部分はちゃんと本物を押したような質感を出しました。

――元々のSH-06Aに入っているデコメテンプレートやデコメ絵文字が、逆に入っていなかったところにもこだわりを感じます。

神谷氏
 そうですね(笑)。専用の端末ですから、全てをNERV専用にしたい意志でやってきました。一部共通の部分はありますが、ほぼ変えられたかなという感じです。例えば、デコメ絵文字は688個プリインストールされていますが、そのうち、通常のSH-06Aと共通なのは120個だけです。568個は専用のものに入れ替えました。

サブディスプレイのフォントも変更

――ちなみに、どんなデコメ絵文字なのか、すごく気になります。

神谷氏
 ミサトの部屋の冷蔵庫にあったビールや、シンジが通っていた学校など、細かいアイテムまで絵文字にしています。

――(端末内のデコメ絵文字を見て)シンジの夢に出てくる電車内まで絵文字になってますね(笑)。コダワリと言えば、着うた再生中の画面が「SOUND ONLY」になっていたのも、相当盛り上がりました。

神谷氏
 “新しい機種”として作ってますからね。そういった通常のきせかえツールでは変えられないところにも、かなり手を加えて“官給品”色を出しています。通常では変えられないサブディスプレイのフォントも、エヴァ調に変えています。

“官給品”のイメージを尊重した、付属品の数々

――官給品というコンセプトも渋いと思います。個人的にはあまり好きではありませんが、コラボというといわゆる“キャラグッズ”になってしまいがちな気がします。

神谷氏
 キャラグッズ的にすると、持っていて恥ずかしいのもありますし、携帯電話は使っていただくことに意義があると思います。映画内でNERV職員に配布されているという設定もあったので、今のような“普通に近いデザイン”で作ることになりました。

――“鳴らない、電話”ではダメということですね。NERV職員のケータイの待受画面が綾波レイなのは、ある意味で「気持ち悪い」(※『THE END OF EVANGELION Air/まごころを、君に』のエピローグのセリフです、念のため)気がします(笑)。

中村氏
 映画の中で登場人物が使うという設定があったので、そこに本人のイラストが入っているのはおかしいですからね(笑)。

神谷氏
 ですから、ベースの状態は全て官給品仕様で、デフォルトではキャラクターが全面に出ません。ただ、やはりキャラクターにも人気はありますから、そちらのコンテンツもプリインストールしました。ちなみに、マチキャラもデフォルトはNERVのロゴですが、「ひつじのしつじくん」も入っていて、プラグスーツを着てヱヴァを応援しています(笑)。

――「iアバターメーカー」のアバターもプラグスーツ! サントラも入っているんですね。

板橋氏
 全部ではありませんが、ほぼCD1枚分が入っています。おトク感というより、買ってすぐに楽しめることを目指しました。そういう意味で、今回、データボックスに「EXTRA」というフォルダを作っています。プリインストールフォルダにコンテンツを入れていったら、入りきらなかったので(笑)。キャラクターの声優さんのボイスなども、ここに入っています。購入された方は、「EXTRA」フォルダもぜひ見てみてください。

――ちなみに、この端末専用のサイトなどは用意されるのでしょうか。

神谷氏
 劇場版制作の都合もあるので、「破」のコンテンツはこの端末専用に配信する予定です。NERVからのウェルカムメールがメールボックスに入っていて、そこからアクセスする仕組みにしました。例えば、「破」では新キャラクターの「真希波・マリ・イラストリアス」が登場しますが、彼女のきせかえツールをこのサイトからダウンロードできます。

――「別冊取扱説明書」が付属していますが、通常のマニュアルとはどこが違うのでしょうか。

板橋氏
 端末のコンセプトや、Webサイトに記載した内容をより詳細に書いてあります。通常のSH-06Aと差分がありますので、その使い方なども記述しました。

――外観も一瞬見ただけだと、SH-06Aと気づかないぐらい“別物”になっている気がします。

神谷氏
 通常だと出ないような処理をしました。マットでザラっとした手触りになっています。表面には“溝”を入れたかったのですが、本当にやってしまうと強度が落ちて割れてしまう可能性があるので、ここには塗装を吹かないことで、少しだけ凹凸感が出ました。ほかには、カメラ周りにオレンジの“照準”のような模様を入れています。これも、通常のSH-06Aにはない部分です。

 

思う存分堪能したい、“第5種情報管理統制機器”の背景設定

――「MAGIシステムのテクノロジーを応用した」「NERV網からFOMA網に接続する」といった背景設定もかなり細かく、色々と妄想できます(笑)。

神谷氏
 コラボレーションですから、こだわるところは徹底的にやらないと、お客さまにも失礼になってしまいますからね。ガイナックスさんに、色々とアイディアを出していただきました。

――念のための確認ですが、本当にNERV仕様のSIMカードを作るという計画はないですよね?

神谷氏
 案はあったのですが、残念ながら色々とできない事情もありまして……。フィクションとはあまり言いたくないですが、一応設定です(笑)。でも、こういう設定があるのは楽しいですよね。

――気が早いですが、“初号機”の完成度がここまで高いと、次も気になります。「急/?」が公開されるタイミングで、“弐号機”を出すという構想はありますか。

神谷氏
 個人的にはぜひともやりたいです(笑)。今回、私は仕事があって予約できませんでしたし。

――それは本当にお気の毒ですが、次回にも期待しています。本日はどうもありがとうございました。

 

(石野 純也)

2009/6/23 18:43