インタビュー

1000万回線を突破したワイモバイルの新料金プラン「シンプル2 S/M/L」、キーパーソンの寺尾氏が“実質値下げ”と語るその理由

 ワイモバイルが新料金プラン「シンプル2」を発表した。4GBの「S」、20GBの「M」、そして30GBの「L」が用意され、10月以降、利用できるようになる予定だ。

 現在の「シンプル」と比べると料金はやや上がるものの、S/M/Lいずれも通信できる容量がアップしており、ソフトバンクでは1GBあたりの価格(ギガ単価)は下がるとアピールする。

 はたして、どういった考えで新料金プランが提供されることになったのか。ソフトバンク 専務執行役員の寺尾 洋幸氏が報道陣のグループインタビューに応えた。

これまでの「シンプル」プラン

――これまでの「シンプル」プランで、S/M/Lはどれがよく利用されているんでしょうか。

寺尾氏
 だいたい「S」と「M」は同じくらいです。徐々に「M」が増えています。店頭で「M」をおすすめする施策をとっていますが、お客さまの理解も進んでいますので、自身にマッチした通信量を選ばれるんですよね。

 今回、通信量を増やしますので、より「M」を選んでいただきやすい環境にできるかなと思います。

寺尾氏

キャズムを超えた? 1000万回線超に

――これまで、ソフトバンクの決算などで、ワイモバイルの契約数が好調だと幾度となく示されてきました。何が牽引しているのでしょうか。

寺尾氏
 ひとつは店舗があることですね。

 それからもうひとつが「キャズム」(溝)を超えたのかな、という点です。

 実は、昨年度末で1000万回線を超えたのです。

 1000万契約ともなれば、国内の契約数の10%程度になります。学校で言えば、クラスで3~4人になるでしょうか。ワイモバイルのことを知っている人が増えるというのは、すごく大きい。

 かつてウィルコムのときも、クラスで4~5人を超えると爆発的に利用が増えました。今回も同じかはわかりませんが、店頭での地道な活動と、認知が上がってきたところがあります。

 その上で「わかりやすさ」を一生懸命お伝えしていることが効果を上げているのかなと思います。

――料金プラン名では、ワイモバイルが一番わかりやすいです。

寺尾氏
 料金プラン名に名前をつけるのは難しいですね。

【お詫びと訂正 2023/09/01 18:25】
 記事初出時、寺尾氏の発言として「昨年末に1000万回線を超えた」としておりましたが、正しくは「昨年度末」です。お詫びして訂正いたします。

「くりこし」はつらい

寺尾氏
 新プランを設計するにあたっては、実は余った通信量を翌月に持ち越す「データくりこし」は、すごくニーズのある機能なのですが、正直、反対だったんです。

――なぜですか?

寺尾氏
 いや、「くりこし」ってARPU(ユーザー1人あたりからの平均売上)をものすごく落とすんですよ。

 でも、お客さまへのインタビューをやっても、すごく根強いニーズがありましたので、踏襲することにしました。

多くのユーザーが割引の対象、ワイモバイルとしては「実質値下げ」

――割引後の価格は従来とあまり変わらない、ということでしたが、実際どれくらいのユーザーが対象になるのでしょうか。

寺尾氏
 具体的な数はお伝えできないのですが、結構いくんですよ……ええと……(どう伝えるか悩む様子)はい、“結構”な人数です。

 たしかに支払額は少し上がっています。とはいえ、「S」ですと、割引後の場合、3GBで月額990円というものが4GB/月額1078円になります。

 「M」も同じく割引後で、月額2090円で15GB→月額2178円→20GBです。

 僕らとしては、ギガ単価は値下げしています。つまり増えた通信量の割には、さほど値上げしているつもりはないのです。(サービス内容を見ずに)価格だけ見ると値上げと言われそうですが、ご理解していただきながら提供したいですね。

――電気代の値上がりなどもあって、料金を値上げしないと事業運営が厳しい状況なのでしょうか。

寺尾氏
 厳しいかどうかは言いにくいところですが、我々の最大の責務は通信インフラを支えることです。破壊的に安くするために1兆円借金すればいいのか、はたまた再投資できない状況になって、本当にいいのか? ということだと思います。

 ワイモバイルとしては、そんなに値上げしているつもりはなく、ギガで調整しているつもりです。ただ、通信業界全体で5Gへの投資を進めています。ここをしっかりやっていかないと、周辺を含めて成長していきません。企業として収益を確保しなきゃいけないと思っています。

 電気代はもちろんそうですし、販売店のスタッフさんや社員の給与向上などもあります。それらを企業努力でどこまでまかなえるのか。これまでのままでいいのか、という議論も別であると思いますが、単純な値上げということではいけないですね。

「1GB以下で安くする」意味

――1GB以下の場合、安くなる仕組みが導入されます。しかし、プランM、プランLを契約するような方でも1GB以下になることが本当にあるんでしょうか?

寺尾氏
 ひとつは「やってみたかった」というところはあります(笑)。

 でも、実際にはいらっしゃるんですよね。その月だけ何らかの理由で使わなかったということがあるのです。

――店頭でのセールス活動で、本来は小容量という人が「M」「L」を選ぶこともあるのでしょうか。

寺尾氏
 何らかの特典を受け取るためにそういうケースはたしかにあると思います。でも、そうやって加入したユーザーの方は、翌月、必ず落ちる(小容量プランに変える)んです。

 お客さま自身、そういう変更に慣れているところもありますし、僕ら自身も「ショップ店頭でできる手続きは、オンラインでも簡単にできるようにしよう」って頑張っているところもあります。

 もちろんまだ100%、店頭での手続きすべてをオンラインに対応できているわけではありませんが、それでも98%、99%まできています。本年度中にはすべての手続きをオンライン化できるよう頑張っています。

 そういう点もコストダウンの理由になっています。

 そして、使い勝手がどんどんよくなっていくと、「プランM」「プランL」に入ったとしてもすぐ契約を変更されるというわけです。

 もちろん、1000円違うけど容量も大きいとなれば、そのままにする方もいます。

LINEMOとワイモバイルはどちらでも

――オンラインでの手続きが浸透すると、LINEMOを選ぶ方もいるのでしょうか。

寺尾氏
 どちらでも選んでいただけるようにしていますし、いらっしゃると思います。ブランドを切り替えていく方はいるでしょう。ただ、切り替える動機や特典があまりないので、さほど多くはないかなと。

PayPayカードの割引が導入

――ワイモバイルの発表に先駆けて、KDDIが「au」で金融サービスと連携する新料金プランが発表されました。ワイモバイルの新プランでも「PayPayカード割」が用意されています。

寺尾氏
 他社さんのことにはコメントは控えます。何をされたいか、その意図は理解しているつもりですし、僕ら(通信事業者)は金融サービスは必ず手掛けなければいけないんですよね。

 銀行業をやりたいというわけではないのですが、(ソフトバンクのグループ内でも)PayPayカードでもそうですし、グループ内で金融面での回遊という意味では、楽天さんが好例です。

 必要なサービスとは言え、どうお伝えしていくかが難しい。たとえば銀行のサービスは、価値を創りにくいなと感じています。住宅ローンのようなものの場合、ユーザーにとっては一生に一回、利用するかどうかですよね。

 PayPayカード割では、ワイモバイルとPayPayカードの距離が近づきます。PayPayでも後払いにしていただくのが一番おトクです。

 10月以降に開始ということで、今回はキャンペーンのことはお話していません。ただ、そういう点も関連させて、いろいろできます。

通話料割引、シニアの利用動向は?

――シニアで通話定額が多いという話は以前からありますが、実情はいかがですか。

寺尾氏
 それは本当に多いです。フィーチャーフォンからスマホへ切り替えた方を含めて、多いですね。年齢ではっきり区切れるわけではないのですが、通話時間も圧倒的に長いです。

 ワイモバイルでは、最初10分の通話定額込みの料金プランだったんですよね。「10分定額で、11分からは課金」というのは、親世代への説明として難しい、という課題があったんです。

 「かんたんスマホ」を手掛けたときに、「気がついたら通話で何万円」になりかねなかった。それはちょっとイヤですよね。なので、シニア向けはそういう事故がないように作ろう、と。

 他社さんも追随してきたので、マーケティングで検討した上での施策と見られたかもしれませんが、もともとは「自分の親に持たせたあと、親から『先月1万円かかったんだけど、どういうこと?』って言われるのイヤだよね」というところだったんです。

「いい落としどころを見つけた」

――今年は携帯各社が新たな料金プランを発表しています。

寺尾氏
 プラン設計する上で、他社の動きはもちろん拝見しています。

 ただ、どこに着地させるかは、いろんなシナリオがあり、悩んでいました。

 トータルとしては右上にしたい(収入増にしたい)ものの、ギガ単価は安くするなど、いろんな工夫をしています。今回はいいところを見つけたかなと。

――NTTドコモの「ahamo」以降、20GBがひとつの基準になっています。

寺尾氏
 プランMで15GB→20GBにしましたが、単にキリがいいからそうしただけなんですよね。

通信量超過時の「2段階制御」

――発表会では、新たにネットワーク利用の公平性のため、2段階目の速度制限を入れることが発表されました。「ほとんどの方が1段階目までで、2段階目に行く人は2%程度」ということでしたが、一方でユーザーの通信量が増えているというお話もあります。今は2%程度でも、たとえば半年後、制限対象になるユーザーが増えるのでは? と思ったのですが、いかがですか。

寺尾氏
 それはまだ想定していません。というのも、今回、通信量そのものを増やしています。プランMなら15GBが20GBになります。基準が大きくなったので、なかなか制限対象にはならないのではないかなと考えているんです。

――なるほど。一方で、たとえば「安いけど遅い」といった、速度制限と料金を関連付けるような手法はどうでしょう。

寺尾氏
 その考え方はよく言われるのですが、お客さまに理解していただけるかどうかが、なかなかわからないんですよね……安いと思って使っていただけるのであればいいのですが、「安くて遅い」が騙されたような形になるかもしれない。

 ◯円ですよ、とアピールしてもいいのですが、誤認をさせてしまいますよね。ちゃんと伝えなければいけないけど難しい。

 もしやるなら、ワイモバイルではなく、LINEMOですとか、もっと別のカテゴリーを分けて導入するとかないといけないかなと。ワイモバイルは3つのS/M/L以上に増やしたくはないんです。

 実は、ソフトバンクでは、すごくアジャイルな開発ができるんですよ。だいたいLINEMOから着手して、効果を試しながらですね。特にeSIM関連でしょうか。

 店舗がないLINEMOですから、調整事項が少ない。まず試して、。で、オンラインに特化しているがゆえにアジャイルにできるということで、そのネタを探しています。

――ありがとうございました。