インタビュー
ドコモ「いつでもカエドキプログラム+」はなぜ「1年ごとに買い替えやすく」なるのか
2023年9月13日 00:00
NTTドコモが、スマートフォンを買い替えやすくする端末購入補助プログラム「いつでもカエドキプログラム+」を始めた。
同社の購入補助プログラムは、2019年6月に「スマホおかえしプログラム」、2021年9月に「いつでもカエドキプログラム」が登場し、今回の「いつでもカエドキプログラム+」は、2023年9月以降に発売される新機種で利用できる。いずれのプログラムも、割賦で新機種を購入し、一定期間を経てドコモへ端末を返却することで、残債が免除される。
2019年の「スマホおかえしプログラム」は36回払いで残り12回分が免除されるかたちだった。2021年の「いつでもカエドキプログラム」は残価設定型になり、23回目まで割賦で支払ってから返却すると24回目(おおよそ一括価格の半額近い金額)が免除された。
一方、最新の「いつでもカエドキプログラム+」は、smartあんしん補償の利用料や、早期利用料(最大1万2100円)を支払うことで、購入から1年で返却し、残りの残債の支払いが免除される。
残債の免除は「代物弁済」と呼ばれる仕組みで、代物弁済自体は「スマホおかえしプログラム」から続くもので、その名の通り、物で支払分を納めるということになる。
なぜ1年で買い替えやすくする仕組みにしたのか。早期利用料の意味は何なのか。NTTドコモの担当者に聞いた。
インタビューに応えたのは、プログラムの設計をリードしたNTTドコモ営業本部営業戦略部の那須翔営業戦略担当課長、和泉浩明営業戦略担当課長、補償サービスを担当するアフターマーケットビジネス部の田中和宏戦略・企画担当課長と池田和樹氏。
「もっとハイエンドに買い替えたい」というニーズに応える
――まずは、なぜ新プログラムを提供する事になったのか、教えてください。
那須氏
これまでは、「早期利用特典」をご用意して、「購入から23カ月より前に端末を返却してもお得」という考え方で、2年間、提供してきました。
具体的な実績は、戦略的にちょっと開示するのが難しいですが、ただ、加入率という面では、ミドルエンドの機種と比べ、ハイエンド機種はハッキリと差があります。誤差と言えるレベルではないです。
新プログラムを設計するにあたり、「最新機種を使いたい人はどれくらいいるのか」を調査したんですね。逆に言えば、「最新機種を使いたいのに使えない、我慢している」人がどれくらいいるのかと。
その結果からも、最新機種を使いたいというニーズは確実にあることがわかったんですね。であれば、その利用をもっと伸ばしていきたいと考えて、新たなプログラムをつくることにしたのです。
――「もっと利用を伸ばしたい」という点、当たり前のようではあるんですが、もう少し詳しく教えてほしいです。なぜ伸ばさなければいけないんでしょう?
那須氏
先ほどお伝えしたニーズ調査で、コストを抑えながら新機種を使いたい、毎年替えたいという方がいることがわかった、という点がひとつ。
もうひとつは、端末が故障した際、買い替えのコストを抑えたいというニーズも見えました。故障時に新たな端末として中古端末を選ぶ方もいれば、できるだけハイスペックなものを安く手に入れたいという方も、非常に多くいることがあらためてわかりました。
そうしたことを踏まえて、今回、新しいプログラムを導入しています。
1年ごとに買い替えていただけるようになるのであれば、1年の利用でドコモへお戻しいただける端末は、いわば美品として、程度が良い状態であることも想定できます。
その美品を、ドコモ認定中古品の「docomo Certified」として提供しますので、中古販売でもニーズに応えやすくなります。
実質負担額が安くなる理由
――利用期間が1年に短くなると、その分、美品で戻ってくる、ということで実質負担額が下がるというお話でしたが、smartあんしん補償がセットになることは、実質負担額の設定に影響は与えていますか?
和泉氏
いえ、それは関わりがありません。
一方、回収した端末の価値ということでは、これまでとの違いは「docomo Certified」です。1年半ほど前に開始したんですよね。
回収したスマートフォンをリユースする取り組みのうち、もっともコスト効率が高いのは「docomo Certified」なんです。
一般的には、7~8年前の古いスマートフォンを回収しても、「docomo Certified」向けに提供できる割合は非常に低いです。比較的新しい機種であれば、利用期間も短ければ美品の確率も高くなります。
つまり、1年で返却してもらうということが、コスト効率のさらなる向上に繋がり、お客様に還元できる(実質負担額をこれまでより安くする)原資になると考えています。
――新プログラムの登場で、端末価格の値付けに影響を与えませんか?
那須氏
はい、そこは関わりがないとご理解いただいて大丈夫です。
――実質負担額がこれまでより安くなる、というのも、単純に2年で返却していた分が、利用期間1年に短縮されるから、という。
那須氏
単純に半額というわけではないですが、はい、そうですね。
ドコモにとってのメリットは?
――ざっくり言えば「ニーズに応える」ための新プログラムだということですね。たしかに利用が1年だけとはいえ、従来よりも実質負担額がその分安くなりますので、ユーザーとしてはありがたい面があります。ただ、その「ニーズに応える」という言葉を素直に受け止められないというか、ドコモにとってのメリットもあるのでは? と思ってしまうのですが……。たとえば5Gの利用が増える、設備投資した分の稼働率が上がるですとか。
那須氏
たしかにそうした点は、あるかなと思います。
今のプログラムは、冒頭お伝えした通り、ハイエンドモデルほど加入率が高い。高額な端末は、結果的に実質価格としては求めやすくなるというものだと思っています。
ドコモにとっても、ハイエンドモデルをご利用いただくお客様の方がデータ量も非常に多いです。なおかつ、「爆アゲセレクション」と映像配信サービスなど、さまざまなサービスの契約率も高いのです。
新プログラムによって、よりハイエンドの端末をお求めやすくして、より楽しんでいただきやすくなれば、結果として、ドコモとしても、通信サービスだけではなく、より長く楽しく安心して、スマートフォンをお使いいただけるかなと。
「お客様のニーズへ、総合的に応える」ということは、ドコモとしても良いことというわけです。
1年になった理由
――なるほど、コンシューマー向けの事業としては当然の理由といったところですね。では「1年で返却する」という“1年”ですが、なぜこの期間になったのでしょうか。
那須氏
理由としてはシンプルで、今の一般的な新機種の登場サイクルが1年、だからです。「常に新しい機種に買い替えたい」というニーズを踏まえれば、1年にするのが自然かなと考えたわけです。
――なるほど、確かに。あえての質問ですが、ちょっと極端な例ですけども、3カ月や半年、はたまた1年半で返却……という考え方はあまり議論にならなかったですか?
那須氏
議論をしたのは事実です。
田中氏
とはいえ、たとえば3カ月など、細かく刻んだかたちにすると、複雑になります。すごくシンプルな設計を目指したこともあって、「最新機種を使いたい」というニーズへ、素直に考えると「1年」というサイクルでシンプルにしていくのがいいと思ったわけです。
――なるほど、シンプルさを重視した設計だと。そもそものところで、旧プログラムの方をベースにするっていうのは結構最初からすんなり決まっていたということですよね。
那須氏
一番最初は、もう少し幅広く検討はしました。とはいえ、「これまでのプログラムとsmartあんしん補償を組み合わせる」ことは、方向性として、割と初期の段階で決まりましたね。
smartあんしん補償を組み合わせた理由
――smartあんしん補償の契約が必須になる、というのは既存プログラムと比べて、新プログラムで加わった要素だと思います。そもそも、これってなぜなんでしょう?
那須氏
ニーズへの調査で見えた要望のひとつでしたので、それが決め手ですね。
田中氏
smartあんしん補償では、もともと「故障時に修理代金が安くなる」「交換もできる」という選択肢をご用意しています。
ただ、お客様のニーズとしては「故障したこのタイミングで、こんなふうに壊れたのなら、新しい機種にしたい」という声もあったのです。とはいえ、smartあんしん補償としては「故障したからおトクに機種変更」には対応できていなかった。
これが、新プログラムで「端末買い替え」と「補償」がセットになることで、「端末が壊れたときの選択肢」として買い替えも選んでいただきやすくなるわけです。
――なるほど。とはいえ、smartあんしん補償の内容を改定する、という考え方もできそうですが……。
田中氏
smartあんしん補償の進化の方向のひとつとして、そういった考え方はあるかと思います。
一方で、すでに「いつでもカエドキプログラム」がかなり利用されています。となると、お客様にとってわかりやすいのは、「既存プログラムの延長線」で捉えていただいて、「買い替え」と「補償」を組み合わせたほうがいいだろうと考えたのです。
那須氏
smartあんしん補償自体、これまでも大変ご好評で、多くの方に加入いただいているんです。今回、自然と組み合わさったというのが実態かなと思っています。
――smartあんしん補償の料金も今回改定されたところがありますね。
田中氏
もともと端末価格に応じたコースをご用意しています。高い機種ほどsmartあんしん補償も高いコースになります。
昨今、為替レートや部材の高騰などで端末価格が上昇傾向にありますので、それにあわせて改定したということになります。
「早期利用料」とは
――新プログラムの「いつでもカエドキプログラム+」では、1年で端末を返却して、残債免除という特典を得る際、「早期利用料」として最大1万2100円を支払うことになりました。そもそも、この「早期利用料」というのはどういった意味を持つものなのでしょうか。smartあんしん補償の利用料は、実質負担額の設定には関わりがないということなんですね。
那須氏
端末購入から1年という早い時期に利用できる、ということが今回、非常に大きな特典になっているかなと思います。そこで、特典を利用する際にご負担を、という観点で設定しました。
ドコモとしても、魅力を最大限にしたいと考えるなかで、「1年ごとに買い替えられるようにする」ために早期利用料を支払っていただくことになります。
――なるほど。たとえば、早期利用料なし、その代わり毎月の支払額を上げるという考えよりも使いやすいであろうと。
那須氏
はい、早期利用料という形のほうがご理解いただきやすいかなと……。早く特典を得るほうで「早期利用料」をいただくと。
和泉氏
「1カ月あたりの支払額を上げる」か、「早期利用料を設定して、月あたりの支払い額を下げる」か、どちらが良いかは議論したのですが、那須が申し上げたとおり「早期利用料」のほうがいいだろうと考えました。
――利用する期間が1年短くなる、そのかわり最新機種に買い替えられる……と考えると、早期利用料は負担ではあるんですが「いつでもカエドキプログラム+」ってユーザーにとって、良いことしかないように思えて、逆に不安になってしまうところがあるんですよね。
那須氏
ありがとうございます。SNSなどを拝見しても、残債免除の額が増えますので、非常にご好評いただいてるかなと思います。
1カ月あたりの支払額を上げると、特典を選ばない方の支払い分にも影響することになります。その点でも考え方の分岐点がありました。早期利用料は、特典を利用する人にとっての手数料のような位置づけで、設定することになりました。
今後の進化は?
――競合他社でも真似しようと思えばできそうな気もしますが、特に影響はないでしょうか。
那須氏
そうですね。他社さんの動向は注視していきますが、ドコモとしては自信をもってお届けしたいですね。
――現状、対象外になっている機種、たとえば今夏発売されたような機種が新プログラムの対象機種になる可能性はあるんでしょうか?
那須氏
今後、発売するものでは、対象機種は当然ですが広げたいです。過去の機種については、ご要望などに応じて検討はしたいです。
ただ、発売済みの機種はすでに購入された方もいますので、慎重に検討することになります。既存プログラムを利用されているでしょうから、いつから適用するか、いつご案内するのか、全体的なお客様の利便性を見た上での判断かなと思っていますので、非常に慎重なかたちになるかなと……。
――今後について教えてください。登場したばかりですが、対象機種の拡充以外で、何か考えていきたいことはありますか?
那須氏
美品で返却いただけると、「docomo Certified」として次のお客様にもお使いいただけます。環境へ配慮したいという思いもありますので、きれいな状態で使っていただけるようにするご提案をしていくことが、非常に重要な取り組みになるかなと思っています。
和泉氏
docomo Certifiedの美品の程度を示すランキングは今のところ変更の予定はありません。ただ、今取り扱っている機種は2年サイクルで扱っていますが、(新製品発売の)1年後から開始していく(docomo Certifiedの対象機種として取り扱う)ことも視野に入れています。
1年後に返却される機種は、「A+」の比率が高まるだろうと思います。「docomo Certified」は、現状、2年落ちの機種を提供していますが、ラインアップや物量が増えて、1年落ちのものが追加されるなどお客様のニーズに応えられるようになるのかなと思います。
――ありがとうございました。