インタビュー

mineoがeSIMを提供する意義、デュアルSIM時代の戦略を訊く

 オプテージは8月24日、MVNOサービス「mineo」においてeSIMサービスの提供を開始した。

 コンシューマー向けMVNOとしては初のKDDI対応eSIMサービス。さらに2023年2月にはNTTドコモ回線に、時期は未定ながらソフトバンク回線へも対応する見込みだ。今回、eSIMサービスが提供された背景はどんなものだろうか? さらにKDDIの障害による影響とは。オプテージ モバイル事業戦略部長の福留康和氏と天野陽介氏に聞いた。

mineoは過去最高の伸びに

 福留氏によれば、mineoの契約数は7月末時点でおよそ122万契約。これは同社として過去最高の数字としており、直近の新規契約数は前年同月比で6割増と大きく伸びた。新サービス「マイそく」は、年間4万加入の目標に対して、開始5カ月で4万7000加入を達成したという。

左=オプテージ 福留氏 右=同 天野氏

 後述の福留氏の話によれば、例年5月の大型連休以降は回線獲得数が落ち込みやすいものの、2022年の5月は堅調な推移を示した。直近でのトピックとしては、MVNOの水準に近い、低廉な料金で勝負を仕掛ける楽天モバイルが「0円プラン」を廃止したほか、7月にはKDDIが大規模な通信障害を起こし、にわかにバックアップ回線としてのMVNOが注目される向きがあった。

 「2021年ごろから、MNO各社による新プランやキャンペーンなどにより市場の流動性は2022年の現在でも高まっている」と見解を示す福留氏。そうした中で、堅調な成長を見せるmineo。新たに始まったeSIMではどのような展開を描いているのだろうか。

SIMは組み合わせて使う時代に

――mineoは順調にユーザー数を伸ばしていますね。増加の要因としてKDDIの通信障害や楽天モバイルの料金プラン改定は影響しているのでしょうか?

福留氏
 新サービス(マイそく)が大変好評いただいています。他社様のサービスへの個別の言及は、差し控えさせていただければと思いますが、mineoの契約回線数の動向としては、継続して増加していて、通常は5月の大型連休をすぎると落ち着く傾向にありますが、今年は大変好調でした。

――以前にも別のサービスが開始した当初、目標数値をかなり前倒しで達成していらっしゃったかと思います。こうした数値はどのようにして決定されているんでしょうか?

福留氏
 「ゆずるね。」で混雑時間帯に回線を使わないと宣言されている方は5~6万人いらっしゃいます。それをもとに「4万契約ぐらいは日々利用してもらえるのではないかな」ということでこの目標を立てました。

――7月もかなりユーザー数が伸びたようですね。

福留氏
 6月から「ホーダイホーダイ割」というキャンペーンを開始しました。これによりさらに利用が増えました。

――かけ放題のユーザー数も多いですね。サービスを提供されている皆さんから見て、どういったことが要因であるとお考えなんでしょうか?

福留氏
 お客様の声を聞いている限りでは「専用通話アプリなしでこの料金は魅力的」だとか「大手3社の回線で完全かけ放題はすごい」「めちゃくちゃ安くなる」といった声をいただいています。

――サービスそのものへの評価の声が多いようですね。今後、eSIMが普及して複数SIMが当たり前になったときにかけ放題オプションはどのように使われていくでしょうか。たとえば、電話はmineoで、データ通信は他社SIMでというスタイルもありそうです。

天野氏
 もちろん、我々mineoの回線をメインで利用していただきたいです。mineoの10分かけ放題や時間無制限かけ放題は、競合他社様よりは安い価格でご提供しておりますので、たくさんの方に使っていただきたいサービスだと思っています。

 加えて、eSIMや含めたデュアルSIMというところを見ていくと今後、お使いになられる方は増えていくでしょう。。特にマイそくで制限がかかる時間帯(12時~13時)の間だけはmineo以外のSIMで通信するという考えもあると思います。昼の1時間だけ使う、ということなら1GBのSIMカードを組み合わせて使うことで(料金の節約としても)うまくいくのかなと。

 ネットの声を見ていると「パケット放題プラス」と0円で維持できる他社回線SIMの組み合わせがすごく話題を呼んだということもあったようです。我々の中でも「そんなに盛り上がるのか」と思うくらい盛り上がっていて、3割くらいの新規加入者の方が複数SIMを利用しているというのも予想外でした。

 これまではひとつの端末=ひとつのSIMが当たり前でした。ひとつの椅子(端末)を巡って、競合他社様とどのSIMを使ってもらえるかと勝負していましたが、昨今はデュアルSIMが一般的になってきました。加えて先般の(KDDIの)通信障害もあり「こういう(デュアルSIM)使い方があるんだ」というのが広がり、市場規模が倍になりました。

 これまで、他社さんと競い合いながらSIMを選んでもらっていましたが、他社さんと組み合わせてもらいながら一緒に盛り上げていく、というような使い方があるのかなと思いました。

eSIMサポートの備えは? mineo独自の取り組み

――eSIM対応は以前から明言されていました。難しい部分があったのでしょうか?

福留氏
 eSIMを提供するには、フルMVNO(ユーザー情報を自社で管理する)とするか、キャリアさんからおろしてもらう(ライトMVNO)方法の2つがあります。今回、我々はキャリアさんからおろしてもらう方法を選びました。その関係でこのタイミングでの提供となりました。

 各キャリアさんが最短で提供できるよう、eSIM卸のシステム開発を進めてきた結果としてAプラン(KDDI回線)は8月、Dプラン(NTTドコモ回線)は2023年2月の提供となりました。

――フルMVNOで提供するとなると設備投資やMVNO事業者にどこまで裁量があるのか気になるところですね

福留氏
 5G SA化も控えていますから、そのタイミングではフルMVNO化も検討しています。しかし、現段階ではまずライトMVNOで提供したいですね。

――eSIMは分かっている人には便利な反面、うまく動かないなど想定外のトラブルに見舞われる人もいるようです。そういったところへの備えはどうなっていますか?

福留氏
 物理SIMには、機種変更しても差し替えれば使えるというメリットもあります。すでにmineoユーザーの方やmineoのみを契約している方には、引き続き物理SIMを使ってもらえればと思っています。

 一方でこれから複数SIMを利用したい方にはeSIMを検討してもらえればと思います。たとえばiPhoneなどの物理SIM+eSIMのデュアルSIM端末はeSIMが必須となります。今回、eSIMを提供することでより多くのお客様にmineoをご利用してもらえるのではと思っています。

 eSIMの難しさ・分かりづらさについては、申し込みの導線も含めていただいた意見も踏まえつつ都度改善していきたいですね。

天野氏
 事業者としてしっかりサポートをしていくのはもちろんですが、mineoには「マイネ王」というコミュニティサイトもあります。その中でQ&Aや「サポートアンバサダー」という実際のユーザーがビデオチャットで操作のサポートをしてくれるというサービスもあります。

 こうしたサービスがあるのは、他社にはない我々の強みだと思っています。

KDDI障害の影響

――7月のKDDIの通信障害はどの程度影響があったんでしょうか?

福留氏
 障害の影響そのものについては、発表のとおりです。トリプルキャリアに対応するmineoならではの事象として、一部で他社回線への変更の問い合わせがありました。契約者数の動向という意味では大きな変化は見られません。今回の障害をきっかけに、複数SIMを検討する方が一般ユーザーでも法人でも増えていくでしょう。

 eSIMやeKYCの提供だけではなく、複数キャリアの回線を提供することで、より安心して通信環境をご利用していただければと思います。

――法人向けに、今後のラインアップとして、たとえば「1契約でバックアップ用の回線がついてくる」といった商品もあり得るのかな、と思ってしまいますね

福留氏
 現時点でそういった商品はありませんが、我々は3キャリアの回線を提供していますので実際に、法人からはバックアップ回線として、冗長化を進める上で回線を提供してもらえないかというお声は頂いております。

――補償については自社での取り組みということになるのでしょうか、KDDIと協議などはありましたか?

福留氏
 約款に基づく補償ではありませんが、ご迷惑をおかけした中でも引き続き利用いただいていることに対してのお詫びとお礼の気持ちということで、Aプランユーザーに対して8月の基本料金から最大200円を割り引きました。

――利用者としては、たしかに納得できます。しかし、障害を起こした当事者でもなくMNOとは提供料金にも差があるなか、MVNOのサービスのあり方としてこのままでいいのかと思う部分があります。今後、ルールが整理されるべき案件のひとつともとれそうです。本日はありがとうございました。