インタビュー
「強みはコンテンツにあり」――TELASAが目指す5G時代の動画配信
au×テレビ朝日のタッグで生み出す新たな価値
2020年6月22日 06:00
au 5Gサービスの開始とともに、始まった動画配信サービスの「TELASA」(テラサ)。これまでの「au ビデオパス」の後継に当たるものだが従来、KDDIが自社のみで運営していたのに対して、TELASAはテレビ朝日と共同で設立した「株式会社TELASA」が運営している点で大きく異なる。
さまざまなテレビ番組のオンデマンド配信サービスが立ち並ぶ中、どちらかというと後発組であるTELASAにはどのような戦略があるのか? TELASA 代表取締役社長の神山隆氏と同社 取締役副社長の清水克也氏、KDDI パーソナル事業本部 サービス統括本部 エンターテイメント推進部長の宮地悟史氏に聞いた。
新型コロナにぶつかるも好調な船出
――新型コロナ禍でのスタートとなったTELASAですが、出だしの感触はどんなものでしょうか?
神山氏
TELASAのサービスを開始した4月7日に、東京都へ緊急事態宣言が発令されるというタイミングでして……。しかしながらユーザー数の伸びは堅調です。ビデオパス時代と比べても増加していますね。TELASAの役割は、本店であるテレビ朝日のサブスクリプションといったところにあります。コロナ禍で新ドラマの撮影やオンエアなどもストップしていますから、影響としてはプラスマイナスの両面がありますね。
――コロナの影響はありつつも、まずまずのスタートを切れたということですね
神山氏
そうですね、TELASAスタート後の新規ユーザーの方以外にも、もともとのビデオパスユーザーの方の利用も底上げされている部分もあります。いまのところ、スマートフォンからのユーザーが多く、(多様なデバイスのユーザーを)追いかけないとな、というところです。
既存ユーザーの解約率も現段階ではだいぶ抑えられている印象です。(TELASAにリニューアル後)、好印象なインパクトを与えられているとは思っています。
――やはりコロナによる巣ごもり需要的な部分は大きいのかもしれませんね。
神山氏
そうですね、ただし今はYouTubeなどで無料のライブ映像配信や映像コンテンツ以外にもゲームなどさまざまな競合があります。ですから、全体的に見ると可処分時間の奪い合いになっているという感はあるかもしれません。
TELASA設立の経緯とは
――ところで、TELASAが立ち上がった経緯はどういったものだったのでしょうか?
神山氏
KDDIではもともと、2012年からオンデマンドビデオの「ビデオパス」を展開していました。それが2015年からテレビ朝日と協業のスキーム体制を確立しました。主として、最新のドラマの見逃し配信や放送期間中のアーカイブ配信やオリジナルコンテンツの展開などを行っていました。
それを今回、5G時代に合わせた形にしようというのがTELASAです。テレビ朝日さんとしても、「放送インフラを超えたコンテンツ展開」というところを強化したいという思いもありました。すでにKDDI傘下のSupershipとともに動画広告のプラットフォームなども立ち上げていますが、TELASAはそういったネット戦略の延長線上に位置するもので、ネット動画の強化というのがテレビ朝日さんの狙いですね。
KDDIとしても、グループのアスミック・エースと一緒にコンテンツを制作はしていた地上波のコンテンツを充実させていきたいという思いがあり、テレビ朝日さんとお互いの想いが一致したというところです。
議論自体は、2017年頃から始まっていました。それが19年夏頃に一気に加速して今回の設立に至った、ということになります。
――立ち上げのタイミングはやはり5Gとの同時スタートを狙ったものでしょうか?
神山氏
そうですね、タイミングとして非常に良いというか、大きなイベントですからね。テレビ朝日さんとしても4月スタートのドラマを豊富なラインアップで取り揃えているということで、そこから会社を立ち上げるタイミングを逆算していたというところはあります。
とはいえ、新型コロナでドラマがまだでていない、というところはあるのですが(笑)。
――ところで、TELASAという社名はなんとなく「テレ朝」という響きを感じますね
神山氏
実は、社名はかなりの数の候補の中から選びました。「TEL」の部分は放送と通信を表し、「ASA」はAUとテレビ朝日からです。やはり「テレ朝感」があったほうがいいのではないかなと。全く違う名前だとわかりにくいですし、ユーザーが想起しやすい語感を目指した結果ですね。ロゴの色はauのイメージカラーのオレンジです。
つまりは、KDDIとテレビ朝日の両者がしっかりタッグを組んでやっていくぞ、ということをいろいろな角度から表した社名なんです。
後発であるTELASAの強みとは?
――オンデマンド配信には「テレ朝動画」や「TVer」「Paravi」などさまざまな先行者がいますが、これらとの差別化はどう打ち出していくのでしょうか?
神山氏
テレ朝動画は、テレビ朝日さんの地上波配信から漏れるようなものを扱う実験的な取り組みをする場だと思っています。地上波の番組を扱うのはあくまでTELASAです。TVerは複数のテレビ局が横断して手掛けている見逃し配信のプラットフォームです。
ですから、我々の立ち位置は少々違います。TVerで最新の見逃し配信を見た方で「もっと昔のシリーズから見たい」という場合にはTELASAへ、という連携もあると思っています。
一方、「Paravi」や「hulu」などはそれぞれTBSさんや日テレさんが本店という立ち位置になります。(TELASAと同じ)横並びの立ち位置で競合ということになります。ただし、それぞれで扱うコンテンツが競合するわけではありません。視聴時間の奪い合いという意味では競い合うことになりますが、いわばテレビのチャンネル争い、視聴率争いと同じものと考えています。
基本的には、テレ朝さんの番組は、特に最新のものについてはTELASAでしか見れませんからそこが差別化につながります。
――なるほど。コンテンツの中身で勝負という時代だからこそ後発だから不利、とは言えないわけですね。ところで、auではNetflixも擁していますが……。
神山氏
Netflixもまた、海外作品やオリジナルの配信など独自の立ち位置を築いていますし、auが5Gで提供する料金プランでは、TELASAもNetflixのバンドルプランがあり4Gにもそれが拡張されていきます。そういったものをセットでお届けするのが、auとしての考えなのかなと思います。
――提供するコンテンツは最新のもののみならず昔のものも多いですね
清水氏
そうですね、「相棒」シリーズなんかは単発時代のものから取り揃えてあります。権利関係について許諾が取れたものはかなり昔の作品もラインアップしています。
神山氏
テレ朝さんのコンテンツというのは、ブランドが強いものが多いです。ドラマもそうですし、「仮面ライダー」シリーズなどの特撮。それに加えて、「ドラえもん」や「クレヨンしんちゃん」といった一つひとつのジャンルに代表作があります。
こうしたものを会議などで「ストック価値」があるというように表現していますが、こうした多くの作品にファンがいる、ということが特長でもあり、強みだと思っています。
清水氏
音源関係の権利の問題などもあるのですが、解決できない類のものではありません。メンバーみんなでクリアできるよう頑張っています。そう遠くない将来にもっとたくさんのコンテンツを皆さんにお届けできるでしょう。
ジャンルとしても特に特定のものにこだわらずドラマ、バラエティなどを取り揃えていきます。特に、競合サービスと比べるとバラエティはかなりラインアップが豊富なのではないでしょうか。
宮地氏
ビデオパスを立ち上げた当時は、「スペック」の競い合いだった部分がありました。何万本のビデオが配信できているか、という部分の争いです。15年にテレビ朝日さんとの協業でうちのプラットフォームにしかない、オリジナルコンテンツを配信する方向になりましたが、競合サービスも同じようなタイミングでそういう流れに乗り始めました。
つまり、各プラットフォームが量ではなく特徴的なコンテンツで戦うようになってきたという時代の変化の中でもう一歩、次のステージに登りたいというところで、両者の想いが同じタイミングで合ったのです。
競合サービスもある中で、後発と言うとたしかにそうなのですが、テレビ朝日さんのコンテンツとアスミック・エースのオリジナルコンテンツで最強のラインアップになっているのではないかと思っています。
5G時代には動画サービスがより身近に?
――TELASA発表時のリリースには「放送と通信の融合」とありますね。ちなみに、過去のKDDIとしての取り組みでも同様の文言がありますが、これらには共通項があるのでしょうか?
神山氏
放送事業者さんはインフラとコンテンツの両方を手掛けています。デバイスが進化するにつれて、コンテンツを映し出すスクリーンは多様性を増していきますが、こうしたことを放送と通信の融合を捉えるとしたら、今はまだ道半ばといったところでしょうか。
プラットフォームを横断的に駆使して視聴者さんと向き合っていく取り組みはやっていかなければ行けないと思います。今はテレビ朝日さんの見逃しやコンテンツを揃えている段階ですね。今後、テレビ朝日さんのクリエイターの方々がこうしたプラットフォームを活かしてくれるかというところも大きいと思います。
番組作りにおいても、視聴者をいかに番組に惹きつけられるかという仕掛けを作ることができれば、テレビ朝日さんの放送も見てもらえて、TELASAも見てもらえるという仕組みを作り出して、コンテンツメーカーであるところのテレビ朝日さんと視聴者の結びつきを強くできるというところまで持っていきたいとは考えています。
一方で、映画配給や制作も行っているアスミック・エースのコンテンツもお届けしつつ、オンデマンド配信のプラットフォームとしての強みを発揮しつつ、ライバルに立ち向かっていければというところです。
――5Gに合わせて登場したTELASAですが今後、5Gが欠かせないサービスなども登場するのでしょうか?
宮地氏
テレビ視聴はこれから通信インフラの中に組み込まれていくのではと考えています。ユーザーは常に通信がつながっていて、料金なども通信契約の中に埋もれていてすべてが無意識下で体験できるのが5Gの世界だと思います。技術的な特徴に依存しているということは現時点ではなく、5Gはそういう体験を提供するサービスとしての位置づけですね。
たとえば5Gならではの取り組みとしては、アーティストのライブの配信などで視聴者がインタラクションできるようになどの取り組みの研究も行っていますが、動画配信という面では、5Gの中に浸してお客さんの生活に浸透させていく、という位置づけですね。
――最後になにかアピールなどがあればぜひお願いいたします。
神山氏
KDDIグループにはジュピターテレコムがあり、映画製作・配給のアスミック・エースがあり、KDDIとしてももともとコンテンツに土地勘がある企業グループではあります。一方でテレビ朝日さんは、老若男女みんなが知っているタイトルを抱えていて、誰でも楽しめるテーマパークみたいなものだと思っています。TELASAはこうした両輪に支えられたプラットフォームと捉えています。
神山氏
テレ朝さんとKDDIのアセットはTELASAの強みに繋がりますから。それを具現化していくことも役割の1つです。ユーザーの皆さんにとっても、auユーザーだけしか使えないということはありません。NTTドコモでも、ソフトバンクでもNTT東西のブロードバンドでも使えますから(笑)。緊密にやり取りはしていきますよ。
KDDIにとっても、5G時代に必ず必要になってくるであろう、映像コンテンツのジェネレーターが近くにいることは意味があるでしょう。
そういう意味では、KDDIとテレビ朝日のビジネスをつなぐ意味合いもTELASAにはあると思います。放送だけではできないこと、通信だけではできないことがあったとして、そこにTELASAが入ることで、独りよがりにならない有機的なユーザー体験をお届けできるのではないかな、と思います。
――ありがとうございました。