インタビュー

ドコモの「49gのディスプレイグラス」をさっそく体験! 担当者に聞くそのコンセプトとは

 NTTドコモが3日、発表した「軽量ディスプレイグラス」は、その名の通り、わずか49gという重さに仕上げられたデバイスだ。

 それでいて目の前に100インチ相当のディスプレイが広がり、スマートフォンを繋げて映像コンテンツやオフィスアプリを活用する、といった使い方が想定されている。

 発表翌日、さっそくNTTドコモで「軽量ディスプレイグラス」を体験してきたので、その使用感や、開発担当者へのインタビューをお届けしよう。

軽量ディスプレイグラス試作機のスペック
ディスプレイ方式OLED
解像度フルHD(1920 × 1080)
視野角約40度
重さ約49g(フロントアタッチメント、ケーブルを除く)
スピーカーステレオスピーカー
マイク
接続USB Type-C(DisplayPort Alternate Mode)

構成は「ディスプレイ」「スピーカー」「マイク」だけ

 ウェアラブルの眼鏡型デバイスと聞けば、ここ数年、VR(仮想現実)、MR(複合現実)といったコンテンツを楽しめるゴーグルタイプを思い浮かべる人が多いだろう。

 一方、「軽量ディスプレイグラス」は、あくまで外部ディスプレイとして仕上げられた製品だ。

 小型ながらフルHDという解像度のディスプレイを備え、その映像を、一般的な眼鏡で言えばレンズのある場所で反射して、画面を見る形。

 反射する部分は、その先が透けて見えるようになってはいるが、実際に装着してみると、視界の中央に大きな画面が表示されるため、そちらに集中することになる。

 フロントアタッチメントと呼ばれるパーツを装着することで、画面表示の背景に、暗い幕がかかる格好となり、視界上の画面は背景から際立って、より見やすくなり、没入感が高まる。

3種類あるフロントアタッチメント
中央のくぼんだところに、磁石でフロントアタッチメントを装着する

 取材前は、小さく、軽いデバイスだけにいつも身に着けられるかな? という点も気になっていたが、実際装着してみると、画面に目を奪われ、意識上の視野はかなり狭くなることがわかった。決して歩きながら使うようなデバイスではないが、その反面、たとえば新幹線や飛行機、室内などでの利用は、かなり相性が良さそう。

 本体にマイクとスピーカーが搭載されているものの、スマートフォンにBluetoothイヤホンを繋げれば、「画面はディスプレイグラス、音はBluetoothイヤホン」と役割分担して利用できる。

 ちなみに、針金のような部材を採用したつるの先端(先セル)や、鼻パッドを支える部分(パッドアーム)を曲げたり、パッドアーム/鼻パッド部を外して高さをカスタマイズしたりすることで、フィット感を調整できる。

 コンパクトなデザインだけに、普段眼鏡を使っている人は、いったん眼鏡を外してから「軽量ディスプレイグラス」を装着することになる。遠くを見るように目線を向けることでピントが合うとのことだが、試作モデルでは視力矯正レンズを後付けできるようになっていた。たまたま筆者は、このレンズの度にマッチしたようで、試したところ、画面表示がはるかにクッキリと見えるようになった。

 DisplayPort接続ということで、今回はAndroidスマートフォンに繋いで試した。ハイエンドのGalaxyシリーズの機能で、パソコンライクに使えるようにする「DeX」も体験できた。また筆者が持ち込んだiPad Air(第4世代)に繋いで表示されることも確認できた。

 Bluetoothキーボードなどの入力デバイスをスマートフォンに繋げれば、利用できるという。DisplayPort対応のパソコンでも利用できる。対応するアダプターがあればiPhoneでも利用できる可能性があるとのことだが、まだ検証は進められていない。

 軽量ディスプレイグラスの電源はスマートフォン側(USB Type-C)からの給電。バッテリーは内蔵されていない。

「ちょうど良い製品がなかった」

 「軽量ディスプレイグラス」の開発担当として、取材に応じていただいたのは、NTTドコモプロダクト部の津田浩孝氏と石丸夏輝氏だ。津田氏は、2018年春に登場した“ジョジョスマホ”「JOJO L-02K」の開発メンバーでもあった人物だ。

――まず開発のきっかけから教えてください。

津田氏
 もともとドコモでは、5G時代を見据え、XR(VR、MR、ARの総称)に注力する方針を掲げています。たとえば、2020年には「Magic Leap 1」の国内販売もはじめました。

石丸氏(左)と津田氏(右)

 ただ、XRはまだまだ広く普及するには、ハードルがあります。それは、たとえばコンテンツの広がり、エコシステムの確立、発熱や視野角の広さなどハードウェアの進化などです。

 それならば、「今あるコンテンツ、エコシステムの資産を活かして、シンプルなデバイスをうまく提供できれば、グラス型デバイスが一般的にならないか」と考えたんです。うまく行けば、その後、VR、MRへ繋がっていかないかなと。

――ここ数年、眼鏡型のウェアラブルディスプレイとしては、VR、MRに対応するデバイスが多かったように思います。

津田氏
 はい、そうしたVR/MRを楽しめるスマートグラスといったデバイスには、空間を認識する機能や、現実空間にオーバーレイする仕組みなどがあります。

 しかし「軽量ディスプレイグラス」はセンサーやカメラを一切搭載していません。あくまで映像出力に徹したモデルなんです。

 49gという軽さも、狙って仕上げたものではないんですよ。「シンプルなグラス」であり、必要なスペックとして「視野角」「解像度」を決め、その後、デザインを最適化した結果、最軽量になったんです。

――類似したデバイスって、ほかにないんでしょうか?

津田氏
 検索すると、クラウドファンディングや、CES(米国の展示会)などで見かけます。ただ、リッチな表示ができるものの大型だったりして……コンシューマー向けで使える物がなかなか見つけられませんでした。それが、実は「軽量ディスプレイグラス」を開発する経緯だったりします。

――そういえばパートナー企業と開発ではなく、ドコモが開発した、ということですよね。

津田氏
 既存の仕組みを組み合わせたものですが、外観だけではなく、内部構造などかなりドコモが主体となって詰めていきましたので、「ドコモが開発した」というものになります。

 デザインもかなりのバリエーションを検討しました。眼鏡にもっと寄せた形も考えたのですが、ちょっと飛び出したような形状になり、ボツとしました。

石丸氏

 フロントアタッチメントは3種類用意しました。一番コンパクトなものは、面積が最も小さく、透過率も最も低い。画面だけではなく周囲をちゃんと観たいときに使うことを想定しました。

 最も大きなアタッチメントは、没入感を高めるためのものです。そして中間にあたるのがサングラス風に仕上げたアタッチメントで、外でも使いやすいように、と考えました。

最も小さいアタッチメント
中間にあたるサングラス風のアタッチメント
最も大きいアタッチメント

津田氏
 フロントアタッチメントを換装式にした理由は、生活のさまざまな場面で使っていただきたいと考えたからです。あとからバリエーションを増やすこともできますし。

――大きなアタッチメントにして、集団で山手線に乗ったら、ものすごく注目されそうですね……。何も知らない人にも、「これはちょっと違うぞ」と伝わる外観という印象です。

津田氏
 こうしたデバイスはやはり、アーリーアダプターというか、詳しい方に関心を持っていただけるのだと思います。

 でも、大画面で映像を観るといった使い方は、もっと多くの方からニーズがあるのではないでしょうか。特別な設定、アプリがなくても繋ぐだけで使えるという点では、想定してない方々が意外な反応をしてくださるのではないか……と、ちょっと期待しています。

 ここ最近話題の「Clubhouse」のような音声ベースのサービスで、ちょっとした状態表示があれば、こうしたグラスデバイスとの組み合わせは、いろんな可能性があるかも、なんて話しています。

 たとえば先の年末、好きなアーティストのライブ配信がたくさんありました。開発中の「軽量ディスプレイグラス」を使って、ちょっとしたスキマ時間に、そうしたライブを楽しんだんですよ。観るだけならVRゴーグルでもいいのですが、周囲の物を目にして、ご飯を作りながら映像を観たりして。

――それは羨ましい……!

津田氏
 可処分時間を有効に使えたとすごく実感してます。使い方は人によって千差万別だと思います。どんな使い方があるんだろう、ということを知りたくて、「試作しました」と今回発表したところもあるんです。

――これ販売されるんですか?

津田氏
 現時点で決まっていることはないです。でも、当然、僕らも実際に使っていただきたいと思ってます。

 ご要望、反響があれば、(発売に向けた)後押しになると思います。ぜひお聞かせください。

――ここまで読んでくださった読者の皆様には、ぜひ、SNSなどでドコモさんへの熱い希望をぶつけてほしいですね。さて、シンプルにして市場開拓をスピーディに、というコンセプトはよくわかりました。しかし、開発中にはいろんな機能を載せたくなったと思うのですが、いかがでしたか?

津田氏
 改善に取り組むとすれば、私たちとしては、量産性というか、「このまま商品化しようと思えばできる」というレベルで開発をしています。とはいえ、まだディティールを詰めたいところもあるんです。

 たとえば鼻パッドなど、どうフィットさせるかという点はまだまだ改良の余地があります。

 あるいは全体のバランス感。はたまたフロントアタッチメントのバリエーションや透過度は検討の余地があります。

 視力矯正の仕組みも現在の形が良いのかどうか、継続的な課題だと思っています。もっと手軽にしたいですね。

――体験したところ、映像は正面にドーンと表示される形でした。ディスプレイを反射して目にする、というシンプルな構造では当然だとは思うのですが、それでも開発中、映像を端に表示する、なんて仕掛けも考えられたのでは?

石丸氏
 そうですね、アイデアのひとつとしてはありましたが、先述したようにシンプルさを追求することを優先しました。そういった機能を実現するには、カメラ、センサー類なども必要になっていって、大きく重くなります。いろいろ載せれば実現できることは増えますが、トレードオフですね。

津田氏
 一度、最小構成で開発し、後からセンサーを追加したらどうなるのかなど、引き続き検討していきたいです。

――今後、体験できる場はありますか?

津田氏
 決まっているものはありません。でもご要望があれば検討したいです。

石丸氏
 本来は2月4日~6日に開催される「docomo Open House 2021」で触れていただければと考えていたのですが、オンラインイベントになりましたので……。

――確かに今のご時世は難しいですね。発売時期についての考えは?

津田氏
 スケジュールは何も決まってないですね。なんとも申し上げられないです。

――おいくらなら、買ってもらえそうでしょうか?

津田氏
 MRグラスのような製品とは異なり、シンプルに仕上げた製品です。そういった点を踏まえて、ご納得いただける価格を模索していくことになるのかなと。

――確かにMagic Leap 1と同じ価格(25万円)だと、ちょっとそれは……ってなりそうです。かといって……いや、しかしこれ、お蔵入りにならないですよね?

津田氏
 製品のスペック、コンセプトの旬はあると思います。もっと良い物が出てくれば、そちらをご提案すればよいということになるんでしょう。

 あるいは今回の試作品が直接的になにか、ということがなくても、ノウハウなどは今後も活かせるでしょう。いつまでに出さないと成立しない、というわけではないと。

――なるほど、確かにそうですね。今後に期待しています。ありがとうございました。