インタビュー
端末に見る富士通コネクテッドテクノロジーズの変革、この1年で何が変わったのか?
2019年7月24日 06:00
1年ほど前、投資ファンドのポラリス・キャピタル・グループ傘下に入った、富士通コネクテッドテクノロジーズ。先ごろの新モデル発表会では、arrowsには珍しい海外メーカーで製造された端末や、翻訳専用機「arrows hello」など、これまでのarrowsシリーズからすると毛色の違うモデルが登場した。
本誌では、富士通コネクテッドテクノロジーズの事業本部 プロダクト事業部 事業部長の白井宣彦氏と事業本部 プロダクト事業部 商品企画部 部長の今村誠氏にこれまでの富士通コネクテッドテクノロジーズの変化や「arrows U」「arrows hello」が誕生した理由、arrowsの今後についてインタビューを行った。
意外にも社内での変化はゆっくり?
――1年ほど前から、株主の変更など、会社としては変化があったと思いますが、一番大切にしてきたことはなんでしょうか?
白井氏
社名の変化は、あまり意識はしていません。そしてスマートフォンをずっと作ってきましたから、ものづくりに対する想いや考え方は変わっていません。
1年前からの変化点といえば、3つの事業部があるところでしょうか。やはりこれからはものづくりだけでは厳しい部分もある。私がリードするプロダクトのほか、サービス、ソリューションと3つに別れて事業を進める形になりました。
その中で今一番の柱はプロダクトです。arrowsは比較的年齢層が高めのユーザーがターゲットです。そういった方々に刺さる商品、スマートフォンを中心として開発を進めてきています。
――全体の規模は変わっていないでしょうか?
白井氏
会社としての規模は変わっていません。ただ、会社として3つの事業を進めていくという形になっていますから、スマートフォンの開発に携わる人は、多少減りましたかね。
――デバイスの開発チームからサービスやソリューションへ、というとなかなか難しい部分もありそうですね
白井氏
ソリューションという部分では、長年培ってきた無線技術やスマートフォンの技術をコアにIoTやビークルにシフトして進めていこうと思っています。
サービス面では、我々にはらくらくホンやらくらくスマートフォンなどのプロダクトがあります。それらを軸としたシニア層へ対するサービス展開を進めていこうと考えています。そういう意味ではサービスやソリューションは新たな事業でして、難しい部分はあるのかなと思っています。
――ソリューションやサービスで注目してほしいものはなんでしょう?
白井氏
具体例はまだちょっと難しいですね。今まさに仕込んでいるというところでしょうか。
arrows helloの構想は数年前からすでにあった
――新しい取り組みや変化という意味では「arrows hello」はその結果かと思っていました。
白井氏
スマートフォンでも翻訳機能はありますから、それを使えばいいという意見もあるかもしれません。ただ、ニーズは「すぐに起動して、すぐに使える」ことでしょう。そういったところから「arrows hello」は生まれました。
「arrows hello」で培ったものはスマートフォンにフィードバックできると思っています。
今村氏
じつは、3年ほど前からスマートフォンだけではなく、ほかの事業にも進出しようという声があったんです。そこで新規事業チャレンジのような部署を立ち上げて、翻訳機やサービスなどのいろいろなアイディアを出しました。
それらがビジネスとして成立するかどうかを検討し、残ったものを世の中に出していくというプロセスを取っていたんです。その中で残ってきたのが現在、我々が提供しているサービスだったり、翻訳機だったりするわけなんです。
会社の名前が変わったから「こういうことをしてみよう」というよりは、実は前々から我々が温めていたものだったんですよ。
自分たち主導のビジネスを
――スマートフォンだけではなく、他の事業への進出を考えた経緯とはどんなものなのでしょうか?
今村氏
キャリアさんと進めていくビジネスは、展開の予測をつけられるんです。話し合いの中である程度の規模でビジネスが進んでいくのはわかる。ですが、それでも予測できないこともあります。
やはり、(キャリアに)おんぶに抱っこのままではいけない、自分たちでできる事業がなくてはいけないなと感じたんですね。
それが法人向けサービスだったり、「らくらくコミュニティ」というSNSサービスでお客様と接したりする機会はありましたので、そこからもう少し広げたいという思いがありました。
――1年ほど前にポラリスの傘下となったことは、変化を加速させるきっかけになったんでしょうか?
今村氏
髙田(FCNT 社長の髙田克美氏)はその当時、「なるべく我々が富士通としてやってきたことは変えないように」ということをとても大事にしていました。もちろん、変わらなきゃいけない部分はありますから、そこは変わらなきゃいけませんけどね。
しかし、会社が変わった瞬間にガラッと雰囲気まで変わらないようにというのはありました。
――ユーザーに評価されてきた富士通コネクテッドテクノロジーズの価値は今も昔も変わらずにあるということですね。
白井氏
我々のような技術チームからすると、技術力が我々の価値だと思います。スマートフォン黎明期から、続けてこられたのは、無線の技術もそうですし、ソフトウェアについても知り尽くした製品づくりを続けてこられたと思います。
arrows Uと国内生産/国外生産について
――とすると、富士通コネクテッドテクノロジーズの技術が投入されているとしても、arrows Uというのはなかなか異色の商品ではないでしょうか。
白井氏
我々はこれから、限られた人材で、さまざまな事業を行っていきます。そのためには協力会社と製品を開発していく必要があります。
そうした位置づけの製品が「arrows U」です。しかし、商品の企画やソフトウェア面についてはすべて富士通コネクテッドテクノロジーズで開発していますし、性能面や機能面はすべて我々のこだわりを入れ込んであります。
――日本製を求める声もある程度あるでしょうが、海外製造であることがどう受け止められるでしょうか。
白井氏
とは言っても、今では日本国内で製造までやっているメーカーは少なくなりました。さきほどと被りますが、仕様やソフトウェアの作り込みなどは我々がしっかりやっています。
評価面でも完全自社開発の端末とほぼ遜色なく、基本的なところは外さないようにした製品を作り上げています。ですから、自信を持って出荷できる製品ができていると思います。
――コスト面ではどうでしょうか? 完全自社製造と外部生産ではやはり違うのでしょうか
今村氏
そこはご想像の通り。やはり差はありますね。
――となるとやはり、今後、国内製造は減っていくのでしょうか?
今村氏
基本的には、国内製造にはそれなりの良さがあると思っています。それをお客様にどうわかってもらえるかが大事かなと思っています。
設計の部分を国内でやるか海外でやるかは違います。作り込みだったり、商品の訴求ポイントだったりは、それに応じて変えるところは変えていいかなと思っています。富士通コネクテッドテクノロジーズとして、品質の確保は国内製造でも海外製造でもしっかりしていきます。
――コミュニケーションのハードルも大きく違いそうですね。
白井氏
物理的な距離が近いところですと、何かあってもすぐに(製造の)現場に行けます。製品ができあがってからもすぐに届きますから、すぐに評価ができます。そういった利点は(国内製造の)メリットではないかと思いますね。
――製造拠点を、国内と海外のどちらか一方に絞るわけではないのでしょうか?
白井氏
基本的には、これまでずっと製造してきた国内の工場での生産は続けるつもりでいます。
ユーザーとキャリアにマッチした製品を
――arrows Uがソフトバンク向けになったのはどういう経緯でしょうか?
今村氏
価格面の話もあるんですが、キャリアさんのユーザー層の違いが大きいです。あくまでイメージですが、ドコモのユーザーさんは、どちらかというと安心感を求められます。
それに対してソフトバンクのユーザーは、初期からiPhoneを取り扱われていることもあって、iPhoneユーザーが多いと見ています。そうした中で、Androidを選ばれるユーザーは、こだわりを持って使っている方ではないかと思うのです。そうした違いが最終的に商品にあらわれてきます。
メーカーとしてモデルを統一できるのであれば、ありがたい面はあります(笑)。しかしそれぞれのキャリアさんで求められるものは違いますから、それをひとつにまとめるのは苦労しますね。
――そう言われると、ユーザーとしては自分にマッチしたモデルが選びやすくなるように思えるところもあります。やはりこれからもそうした細かいニーズに答えていくということでしょうか。
今村氏
そうですね……、結果としてそんな感じになっています(笑)。ただ、タイミングや環境の変化も大きいですね。
白井氏
キャリアさんのラインナップや時期によってマッチしないこともありますし、タイミングによっては、統一モデルとして共通設計などもできると思います。いい製品を我々のコンセプトで作っていけば、いろいろなキャリアさんにも入っていけると思っています。
次期arrowsシリーズのハイエンドは?
――ここ最近の富士通コネクテッドテクノロジーズは、ハイエンドモデルから遠ざかっていますがその理由はなんでしょうか?
今村氏
やはり、「何を一番大事にするか」ではないかと思っています。我々の今の一番のお客様は、arrowsというブランドに安心感、信頼感を感じてもらって買っていただいていると思っています。それを具体的に商品化するとなると、ミドルクラスのモデルのほうが相性がいいんですよね。
もちろん、ハイエンドモデルをもうやらないというわけではありません。ただarrows NXでは虹彩認証を搭載していました。それも、安心感というところから来るものでした。
今は(市場が)成熟化しており、何かが尖っているというと「カメラ」などが多いでしょう。そういうものとお客さまに評価いただいているarrowsの価値を合わせるのは、なかなか難しいですね。
――いまはまだ、富士通コネクテッドテクノロジーズとしてハイエンドモデルに取り組むべきタイミングではないと?
今村氏
そういう部分はあります。今は4Gと5Gの端境期です。今、4Gのハイエンドを出したとしてそれはいつまで使えるか、悩ましいところではないでしょうか。
――法改正で、端末割引に制限がつく方向になっています。そうした業界動向などが与える影響は?
白井氏
今は非常に難しい時期ではないかと思います。
駆け込み需要でプラン変更前のものを購入するとか、既存端末をそのまま使い続けるのか、もう少し見てみないとよくわからない部分がありますが、端末メーカーとしてはなかなか厳しい状況だと思います。
こういう状況ですから、長く使える端末を開発していくのがいいのかなと思います。我々の訴求ポイントである「割れない」などの堅牢性を備えたものや、安心安全の機能を備える端末が良いだろうと。
――確かに端末買い替えのサイクルが長くなってきたとされています。こうした状況を見据えた上での「割れないスマホ」だったんでしょうか?
今村氏
いや、そんなかっこいいもんじゃないですよ(笑)。
「価格に見合った中身」を今まで以上に
――今後、割引の規制など施策が見えない部分もありますが、これからのarrowsの開発について、そうした業界動向へ合わせた考えなどはあるのでしょうか?
今村氏
それはありますね。しかし、今は料金プランが変更されてまだ1カ月程度で、状況が見極めきれていない部分もあります。秋にはまたプランが変わるようですし、そのときどうなるかまだわからないですね。
しかし、ひとつ言えるのは、これまではユーザーにとって、端末の本来の値段が非常にわかりづらい形で販売されていましたが、こうした状況はなくなるんだろうなということです。
「価格に見合った中身」を今まで以上に吟味しないと、ユーザーに見捨てられるのではないでしょうか。
SIMフリー市場には……
――そういう意味では、SIMフリー端末はまさにそうした状況だと思いますが、SIMフリー市場についてはどうお考えでしょうか?
白井氏
製品の開発として、SIMフリー市場“専用”の端末を開発することは考えていません。その製品に合った機能や、価格帯があります。そこで受け入れられるようなものがあれば、今までもそうでしたが、(SIMフリーモデルとして)出すこともあるかなと思います。ただし直近に発売するというものは今のところありませんが……。
今村氏
SIMフリーというと、ちょっと横ばいのような気がしているんですよね。なので、どうなんだろうなというところはあります。
――確かにMVNO市場は、横ばい、伸び悩みとも言われていますね。買い替えが容易というのはSIMフリーモデルのメリットのひとつだと思いますがどうでしょう?
今村氏
まだ少し時間がかかるかなと思います。端末と料金が分離されてもドコモのユーザーはやはりドコモショップに(端末を)買いに行くのではないでしょうか。(サポート面などで)お金じゃないところでの囲い込み競争はあると思います。
そう考えると、キャリアモデルがSIMフリーモデルのような売られ方をするのは、もう少し先になると思います。キャリアさん同士の競争になりますから、かなりそういう部分をがんばるでしょう。
――海外メーカーはサポートに重点を置き始めています。コンシューマーにアピールしやすいポイントのひとつにも思えますが、富士通ではメーカーとしてのサポートの施策はどうしていきますか?
今村氏
(キャリア向けに供給するモデルについては)キャリアショップが全国に展開されており、地方にも数多くあります。当社でもコールセンターを設けて対応できるようにしています。
――携帯料金4割値下げなどが実行されると、キャリアさんも減収になります。そうなったときに、キャリアショップなどはどこまで維持されるのか、ということもありますが……
今村氏
正直、今この段階ではまだわかりませんね。しかし、物の値段と中身が一致してくるときは絶対にきます。そこを意識しながら商品を企画しなくてはいけないですね。
――今、何を企画されているのか気になりますが……
今村氏
いや、それはさすがにまだ言えません(笑)。
――arrows Uやarrows helloを見ると、富士通内で劇的に変わった部分の結果なのかな、と思ったんですが、実はじっくり育ててきた結果なのでしょうか。
白井氏
そうですね、ものづくりへ対するこだわりなどは昔から変わらずにいるところではあると思います。
――現在は、ミドルクラスの価格帯でも中身と価格の一致という点もあり、中国メーカーの勢いが増しています。富士通として、ここに注目してほしいというところがあったら教えてください。
白井氏
市場はこれから5Gに向けて大きく変わっていきます。その時期に合う、値段が少し高めの端末はやっていきたいと思います。
ミドルクラスであれ、ハイエンドであれやはり値段と中身がマッチした端末が受け入れられていくでしょう。見合った機能や訴求ポイントを盛り込んだ端末を開発していきたいですね。
今村氏
5Gは何かあると思ってます。
――それはこれまでの富士通コネクテッドテクノロジーズらしさを残した端末ですか?
今村氏
どこまでを「我々らしさ」と思ってもらえるかですが……、せっかくの5Gなのでプラスアルファで出していきたいなと。
もともとは(カメラセンサーなどの部材)デバイスを作る会社ではありませんでした。そうではないところで特徴を出さなきゃいけません。何かやっていきますよ。
――ありがとうございました。