インタビュー

IoTデバイスやSIMフリー端末のVoLTE対応サポートを強化するau

KDDI 商品技術部長の辻大志氏に取り組みを聞く

 スマートフォン市場では、キャリアを問わず使えるSIMロックフリー端末が続々登場している。これから、モノがインターネットに繋がる「IoT(Internet of Things)」も広がりを見せていくだろう。

 通信インフラを提供するキャリア側も、この市場の動きに対応して、自身のネットワークについての情報公開を進めている。KDDIが2016年4月にオープンしたWebサイト「au OPEN DEVICE DEVELOPER SITE」もそういった取り組みの1つだ。

「au OPEN DEVICE DEVELOPER SITE」

 「au OPEN DEVICE DEVELOPER SITE」は、デバイス開発者向けの情報サイト。au LTEネットワークへの接続条件や、相互接続性試験(IOT:Inter-Operability Testing)を通過したメーカーブランドのスマートフォンや通信モジュールを紹介している(※関連記事)。

 サイトを立ち上げた意図や、auのSIMロックフリー端末に対する取り組みについて、KDDI 商品・CS統括本部 商品技術部長の辻大志氏にお話を伺った。

――「au OPEN DEVICE DEVELOPER SITE」を公開した狙いをお聞かせください。

KDDI 商品・CS統括本部 商品技術部長 辻大志氏

辻氏
 今までインターネットに繋がらなかったモノに通信機能をつける「モノのインターネット(IoT)」という概念が広まってきました。弊社もIoT事業部を立ち上げましたので、これから本格的に展開していきます。

 IoTの世界では、多くのメーカーさんのデバイスが通信インフラを利用します。今までお付き合いのある携帯電話メーカーさんだけでなく、そういった端末メーカーさんや、通信モジュールのベンダーさんに、au VoLTEの接続情報を広く情報を公開するのが「au OPEN DEVICE DEVELOPER SITE」のサイトの目的です。

――「IOT(接続性試験)でIoT(モノのインターネット)をしっかりサポートします」ということですね。

辻氏
 そうですね(笑)。もともと、auは3GでCDMA2000という規格を採用してました。CDMAは3Gの規格としては非主流になってしまったので、メーカーさんもサポートしづらい状況でした。その経緯から、LTEオンリーのネットワークへの移行を進めています。

 通話も完全にVoLTEオンリーで3G非対応という、世界的にも先進的なネットワークでもあるので、積極的に情報を公開していかないと、auのネットワークに対応した端末が増えないのではないか、という懸念もありました。

 サイトでは、au VoLTEのネットワークに接続するにはどういう条件が必要なのか、どういった試験を行うのか、という要件を紹介しています。接続性試験では、技術的な情報を提供するほか、技術適合基準証明など、日本の法制度についてもあわせてサポートします。

au VoLTE対応のSIMフリースマホが増えた背景

――消費者の視点では、この秋には「ZenFone 3」や「IDOL 4」などau VoLTEに対応するSIMフリースマートフォンが増えてきたように思います。

辻氏
 さまざまなモノに通信を持たせるIoTですが、未だにメーカーさんも具体的なサービスのイメージが固まらない中で模索している状況です。まずは市場が確立しているスマートフォンのメーカーさんに、取り組みを紹介いたしました。

 サイトを立ち上げてからすぐに、メーカーさんから「接続性試験をしたい」というお声がけをいただきました。また、展示会などでメーカーの方にお会いしたときに、「こういう取り組みを進めています」とお話しすると、興味を持っていただけるので、お応えできていなかった需要があったのだと感じました。

 中国のメーカーさんにとってはちょうど、VoLTEの実装を進めている時期ですので、タイミングが合って、ラインナップが増える結果に繋がったのだと思います。

ASUS ZenFone 3
alcatel IDOL 4

――「通話はVoLTEだけ」と最先端を走るauネットワークですが、デバイス側のVoLTE対応はやはり難しいのでしょうか。

辻氏
 最近はau VoLTE網で検証済みのチップセットもあります。そういったチップセットでは、auのネットワークに接続するためのプロトコルを実装しているため、技術的な難易度は以前よりも下がっています。後は日本の緊急通報システムなどに対応していただく必要があります。

――VoLTEについても最近はAndroidがOS側でサポートしているので、そこまでの難易度ではないのでしょうか。

辻氏
 そうですね。Androidスマートフォンのメーカーさんからは、電話アプリの作り込みまでは必要ないという声を聞いています。

――法人向けにはau VoLTE対応のWindows 10 Mobileスマートフォンも登場していますね。

HP Elite x3

辻氏
 はい。「Elite x3」は、メーカーのHPさんが独自にVoLTEに対応したWindows 10 Mobileスマートフォンです。auはVoLTEの実装をサポートしました。マイクロソフトさんもご尽力いただいたと聞いています。

 チップセットのレイヤーでサポートされているLTEの対応は難しくはありませんでした。一方で、アプリレイヤーで対応するVoLTEは、OSが変わると実装方法が変わるので、産みの苦しみがありました。

――接続性試験には、シミュレーターを使った試験、ラボでの試験、技術適合証明取得後の商用ネットワークでの試験という段階がありますが、どの期間がかかりますか。

辻氏
 よほど問題がなければ1カ月はかからず完了します。以前は修正が入り、数カ月かかったこともありましたが、チップセットの完成度が高くなっていますので、最近では無くなっています。LTE対応のチップセットも安定してきているなと感じています。

 どのメーカーさんも一発で合格しようという気概で持ち込んでこられますし、弊社のエンジニアも何かトラブルがあればすぐ対応するよう待機していますので、スムーズに進むことが多いですね。

当初はLTEバンド対応が課題に

――クアルコム系のチップセットを採用した端末は、よりスムーズに通過するイメージでしょうか。

辻氏
 そうですね。最近ではクアルコムさんだけでなく、MediaTekさんもVoLTEサポートに力を入れています。

――実際に利用する上ではLTEの対応バンドも検討する必要がありますが、au VoLTEに対応したい端末が試験できる環境は整っているのですね。

辻氏
 はい。バンドに関しては、LTEサービスの開始当初に技術的な困難さがありました。auではプラチナバンドの800MHz帯で、LTE Band 18を利用しています。このBand 18は、世界でもauだけで使用されているバンドです。かつてはBand 18への対応の困難さが、メーカーさんがau LTE網に対応する際の障害になっていました。

 現在はBand 18を、世界で使われているBand 26に含まれる形で運用していますので、独自バンドへの対応というハードルはなくなっています。

――「au OPEN DEVICE DEVELOPER SITE」では、auの接続性試験を通過したデバイスや通信モジュールを紹介していますね。今後、このサイトはどのように更新されていきますか。

辻氏
 直近では、スマートフォン表示に対応します。そのほかにも、サイトを使うお客様にとって不便なところを細かく改修しています。今後も接続性試験の情報を必要とするベンダーさんからの要望に答え、コンテンツの内容も含めて更新していきます。

――このサイトは主にデバイスメーカーを対象としていますが、コンシューマーに向けた取り組みはいかがでしょうか。

辻氏
 将来的には、auの接続性試験を通過したモジュールで採用したIoTデバイスを、紹介するようなサイトを作ってもいいかなと思います。

 「SIMさえ挿さっていれば繋がる」というのがセルラー(携帯電話網)の良いところだと思っていますので、僕らはIoT向けの通信プラットフォームをしっかり整えていきます。活用方法をお任せすることで、市場に広がりがでてくると考えています。

――本日はどうもありがとうございました。