インタビュー

ワールドワイドに展開する旅行ガイドブックの配布に「トラベルSIM」が一役

海外通話料金が7分の1になったラテラ・インターナショナルの事例

 国内で多数のMVNOが激しい競争を繰り広げている格安SIM、格安スマホ。その流れは海外渡航者向けにも波及し、海外でも格安の通話・データ通信が可能なSIMが登場し始めている。なかでも法人向けのサービスがウケているのが、アイツーの「トラベルSIM」。個人ユーザーはもちろんのこと、個人事業主から中小・大企業の法人ユーザーまで対象にしたプリペイド型のサービスとなっており、旅行や出張などに幅広く利用できるものだ。

トラベルSIMを活用しているラテラ・インターナショナル

 トラベルSIMが用意しているプランは、通話とデータ通信が可能な「トラベルSIMトーク」と、データ通信のみが可能な「トラベルSIMデータ」の2種類。法人ユーザーの場合はそれぞれのプランについて「トラベルSIM for Corp」として契約でき、チャージしている残高が一定以下になった際に自動でチャージする「オートチャージ」機能などに対応しているのが特徴となる。

かつてはローミングで通話しすぎて回線がストップすることも

 このトラベルSIMを業務で活用している企業のうちの1社が、ラテラ・インターナショナルだ。同社は日本人向けの海外旅行用ガイドブックと、インバウンド(訪日旅行客)向けに地域別言語へ翻訳した国内旅行用ガイドブックを製作している。片手で軽く持てるコンパクトな冊子ながら、広告やクーポンの類いをほとんど掲載していない分、大部分が旅行に必要不可欠な「最大公約数の情報」(同社)が詰まった内容となっている。

 同社常務取締役の西谷憲一氏いわく「競合がいない」なか、特にアジア・オセアニア地域を中心に販路を広げており、日本人向けのガイドブックは国内にある大手・中小の旅行代理店に毎年計500万部を、インバウンド向けのガイドブックは当該地域の旅行代理店に毎年計80万部を納入している。

上段が日本人向けの海外旅行用ガイドブック
7カ国語で展開しているインバウンド向けの国内旅行用ガイドブック
アジア地域での納入先地域、代理店と納入部数など

 また、3年前からはオフライン地図の利用が可能な旅行情報アプリ「スマベール」(Android版iOS版)の提供を開始した。同社取締役 開発部長の笠間三智郎氏は「マネタイズは今後の課題」と話すが、紙のガイドブックとは別に、デジタルへの取り組みも活発化させている。

アプリ「スマベール」

 こうした海外旅行者向けの旅行ガイドブックの製作や、現地旅行代理店に対するガイドブック納入に関わる折衝には、当然ながら現地へ赴き、情報収集と交渉に当たることが欠かせない。その際、現地での円滑な業務のために何よりも必要とされるのが、電話だ。

 これまで西谷氏は、幾度となく海外出張を繰り返し、現地クライアントとのコミュニケーションや、別の国で交渉を進めている他のスタッフ、あるいは本社との連絡に電話を使用してきた。データ通信はほとんど使うことがなく、通信したとしてもごく少量で大きな追加料金がかかるほどのボリュームではない。あくまでもメインは通話という「非常にアナログな仕事」(西谷氏)だ。

株式会社ラテラ・インターナショナル 常務取締役 インバウンド事業部長 西谷憲一氏

 2015年はおよそ2カ月に1回海外に渡航し、そのたびに2週間~20日間は現地に滞在した。現在旅行ガイドブックを納入しているのはアジアだけでも13都市あり、1回の海外出張で2~3都市を巡るのは当たり前。そのため、都度現地で通話用にSIMを手配するのは手間の面から現実的ではなかった。以前までは国外電話・国際電話を通常のローミングで使用しており、時々使いすぎて「回線がストップしてしまい、後で経理から怒られた」(西谷氏)こともあったという。

着信無料の効果が大きく、電話料金は7分の1に

 そんな折、出会ったのが「トラベルSIMトーク」だった。このSIMの特徴は、通話料金が安価であることに加え、月額の基本料金がかからないこと。さらに同社にとっての大きなメリットは、通常1回につき100円以上かかることもある渡航先での電話の着信が無料で、SMSによるメッセージ送受信もしっかり利用できることだと、西谷氏は言う。

 「仕事柄、クライアントからの電話着信が多かった」ため、トラベルSIMの使用後、月間の電話料金はそれまでの7分の1に縮小したという。SMSについては、データ通信が不安定な地域でもテキストメッセージでやりとりできるのが大きいとのこと。

 現在同社では「トラベルSIM for Corp」でオートチャージ設定を施した「トラベルSIMトーク」を2回線、端末セットで契約している。この端末セットで使い続けるなか、西谷氏が特に驚いたのは、つながりやすさだという。時には電波が届かなそうな都市圏から離れた地域に足を踏み入れることがあるにもかかわらず、少なくともアジア地域では「ほぼどこでもつながる」のだとか。

 トラベルSIMは、通常は3Gの電波をつかむことができるが、まれに2Gの電波しか届かない地域もあり、その際は音声の遅延が気になることがある、と西谷氏。しかしこれは現地キャリアの電波の問題で、他は不満に感じるところはないという。一度、突然通話ができなくなってしまったことがあると言うが、単純にオートチャージの設定をし忘れただけで、電話連絡してチャージを行うことですぐに通話が可能になったようだ。他に大きなトラブルはなく、オートチャージによって残高の把握や入金管理など、「業務とは直接無関係なケアが必要なくなったのもメリット」だとトラベルSIMの便利さを実感している。

株式会社ラテラ・インターナショナル 取締役 開発部長 笠間三智郎氏

相手との時差を考慮して、SMSも活用する

 なお、同社では念のため日本のフィーチャーフォンを万が一のバックアップ用に携行しているが、使うことはまずないとのこと。メインのトラベルSIMの端末はAndroidスマートフォンで、「スマートフォンとしては全く使いこなせていない」と謙遜するものの、クライアントなど社外の人との連絡は主に電話で行い、他の国にいるスタッフには時差も考慮してSMSで履歴を残しながらやりとりするなど、使い分けもしっかりできている。

 創業47年目を迎えるラテラ・インターナショナルは、海外旅行がまだ高嶺の花だった時代に、何を持っていくべきか、治安はどうなのか、といった旅行者があらかじめ知っておきたい情報を創業者が冊子としてまとめたのが始まりだという。使い勝手を考慮してガイドブックは今も電子化せず、電話1本で地道に販路を拡大し続けてきた。このような一見アナログな業務においても、海外渡航者向けの格安SIMである「トラベルSIM」という、ある意味最も新しいデジタル時代のサービスが確実に浸透し始めている。

トラベルSIMのセット端末「LEAGOO Lead 4」

(協力:ラテラ・インターナショナル)