インタビュー

SIMフリー市場で存在感を増すファーウェイ

CEATEC会場でデバイス・プレジデント 呉波氏に聞く

 参入メーカーも増え、成熟してきたSIMロックフリー端末市場。その中で大きな存在感を占めていているメーカーがファーウェイだ。千葉県の幕張メッセで開催中の展示会「CEATEC JAPAN 2016」にて、ファーウェイ・ジャパンのデバイス・プレジデント 呉波(ゴ・ハ)氏にインタビューする機会を得た。

 SIMフリー端末の販売状況の変化から、デュアルスタンバイやUSB Type-Cなどのトレンド機能への対応など、最近の市場動向についてお話を伺った。

ファーウェイ・ジャパン デバイス・プレジデント 呉波氏

――今回のCEATECでは、「P9」や「P9 lite」「honor 8」「MateBook」といった、国内向けのスマートフォンやタブレットのラインナップを一通り紹介されていますね。最近投入した機種の手応えはいかがでしょうか。

呉氏
 SIMロックフリーのスマートフォンでは、4カ月間連続でシェアNo.1を獲得しました。直近の9月にはこの差をますます広げています。一番の売れ筋はP9とP9 liteです。

 SIMロックフリー市場ではシェアの3分の1を占めている状況です。ただし、この市場でシェアNo.1となることは、弊社の最終目的ではありません。

 弊社は、家電量販店など2000店舗でスマートフォンを販売しています。こちらの調査結果は、キャリアショップを除いたスマートフォンを販売する国内5000店舗すべてが対象となっています。そして、キャリアが販売する端末も、SIMロックフリーで提供される端末も、すべて合計したメーカー別シェアを示しています。

 この調査において弊社は、2016年の6月~9月の間、4カ月連続で4位に位置しています。これは、大手キャリアを中心に販売しているサムスンやLG、HTCといったライバルメーカーよりも多く販売しているということです。

――4月に総務省が大手キャリアの販売促進策を制限するガイドラインを通達して以来、販売状況に変化はありましたか。

呉氏
 もちろん機種にもよりますが、簡単に言うと2~3倍ほど、販売ボリュームが大きくなっています。日本政府の方針は、市場に大きく影響していますね。

 ただし、市場の構造が完全に転換したとまでは言えません。販売に制約が課されたとはいえ、大手キャリアのスマートフォンには、なにかと理由をつけて割引などの優遇が行われています。一方でSIMロックフリー端末は、本体価格そのままの割引なしで販売されます。こういった価格差がある中でも、ファーウェイの端末を選んでいただいているのだと認識しています。

――2015年までは低価格帯のモデルを中心に売れていた様子ですが、今年になってミドルレンジ帯が主力になっているように思えます。

呉氏
 私もそのように考えています。今年の前半までは、1万円台後半~2万円のスマートフォンが主力でした。総務省の施策もあり、4月に入ってからは3~4万円のスマートフォンが最も大きな販売ボリュームを占めています。一方で、2万円以下の端末の売れ行きは一気に落ち込みました。

 そうした市場動向に対応して、弊社は6月という最適なタイミングでミドルレンジ帯の「P9 lite」を投入しました。また、9月末に発売した同じくミドルレンジモデルの「honor 8」は評判がよく、一部の店舗では欠品が出てしまっている状況です。

 ところで「honor 8」では、製品を見たユーザーさんからこれまでにない反響をいただきました。、Twitterで「リアカバーがセクシー」と投稿されたのです。honor 8は、その外観から美しさにこだわっているので、ぜひ店頭で手にとって眺めていただきたい機種です。

――7月にWindows 10搭載のMateBookを投入されましたが、タブレット市場での動向はいかがですか。


呉氏
 日本のタブレットの市場は、2010年にiPadが発売されて以来、アップルが圧倒的なシェアを維持してきました。2016年現在では、ファーウェイはキャリア向け市場とSIMロックフリーなどのオープンマーケットの両方で2位となっていて、首位のアップルに肉薄するまでに拡大しています。

 スマートフォンではライカと提携してカメラの強化に取り組んでいますが、タブレットでは動画を見る機会が多いことから、harman/kardonの技術を組み込んだ、音にこだわった製品を開発しています。

ファーウェイブースでは、最新のSIMフリー端末を手にとって試せる展示を行っていた

デュアルカメラも防水もFeliCaも、ファーウェイが先だった?

――ファーウェイは2015年の「honor6 Plus」からデュアルカメラを搭載したスマートフォンを提供されていますが、アップルがiPhone 7 Plusで追随してきましたね。

呉氏
 デュアルカメラというと、ハードウェアに目が行きがちですが、スマートフォンのカメラの目的は「綺麗な写真を撮ること」です。そのためはハードウェアに良いものを搭載するだけでなく、センサーから取得したデータから画像を生成する「アルゴリズム」が重要となります。

 弊社ではロシアにアルゴリズム研究所を設けており、専門的に研究しています。また、P9ではカメラメーカーのライカと協業していますが、これは単にライカの技術をライセンスしてもらうということではありません。ライカとファーウェイで協力して新しいアルゴリズムを開発しているのです。この取組みを拡大して、9月にはライカと共同でドイツに新しい研究開発センターを設立しています。

――iPhone 7には、ファーウェイは提供していないFeliCa決済や防水といった機能も盛り込まれました。こういった日本のユーザーの期待が大きい機能の提供については、どのようにお考えでしょうか。

ドコモから2013年に発売された「Ascend D2 HW-03E」

呉氏
 実は、FeliCa決済も防水も、3年前の機種で既に提供しています。NTTドコモから発売された「Ascend D2 HW-03E」では、おサイフケータイ機能とIPX5/7相当の防水性能を備えていました。しかも、イヤホンジャックを搭載していません(笑)。社内では「iPhone 7がAscend D2を真似してきた」なとど冗談を言っていました。

 現行のSIMロックフリー端末でFeliCaや防水に対応するかどうかですが、ユーザーの要望があるならば、ふさわしい時期に投入できるようにと考えています。

「nova」シリーズの日本展開、Type-C端子やデュアル待受の採用は?

――9月初めにドイツで開催されたIFA2016では、スマートフォンに新シリーズ「nova」が登場しましたが、今回のCEATECの展示にはありませんね。日本での投入予定はいかがでしょうか。

呉氏
 novaシリーズは、今までのスマートフォンのラインナップでは捉えきれていなかった、女性ユーザーをターゲットとして開発したスマートフォンです。具体的な提供予定はお伝えできませんが、ファーウェイにとって女性も、非常に重要なユーザーと考えています。

――USB端子について、最近のファーウェイ製品にはType-C端子を採用するものが増えてきましたが、今後はType-C端子に一本化していくのでしょうか。

呉氏
 Type-Cのメリットを1つ挙げるとしたら、「急速充電」があります。例えば、honor 8では「Quick Charge 3.0」に相当する、9V/5Aの高出力で充電する機能を備えています。これまでのスマートフォンは、夜間に1晩かけて充電するので、枕元においておくと、ほんのり暖かくなって、少し不安がありました。急速充電に対応する機種なら、朝出かける前の30分間でも充電できるので、そういった不安も解消されます。

 こういった新規格としてのメリットがありますが、実際に利用するには不便な面もあると思います。というのも、従来規格のmicroUSBは、7年近く携帯電話の標準的な端子として普及していたからです。それこそ家を探せばmicroUSBケーブルが10本は出てきますし、友達の家やレストラン、タクシーの車内でさえ、microUSBで充電できる環境があります。

 一方で、Type-Cは、登場したばかりの規格です。今の段階では初めてType-C端子のスマートフォンを使うというユーザーが多いでしょう。

 つまり、出かけるときにType-Cケーブルを忘れると、1日中充電できないという不便な目に合うかもしれません。ということで、まずはバッテリー容量が大きく1日充電せずに安心して使える、上位モデルからType-Cの採用を進めています。

――最近のSIMロックフリー市場では、LTEと3Gのデュアルスタンバイ(DSDS)がトレンドになっています。ファーウェイからはDSDSについて、どのように考えていますか。

呉氏
 女性向け端末と同じように、拡大してきたSIMロックフリー市場の中で、より細分化されているニーズに応えた製品だと受け止めています。つまり、すべてのユーザーが求めている機能ではないと考えています。弊社はまず、すべてのお客様に満足いただけるような、使いやすい製品ラインナップを揃えていく方針です。

 量販店に行くと、数十種類の端末を並べているメーカーもありますが、日本市場は、「数を出せばシェアが取れる」という単純な市場ではないと考えています。スマートフォンの「写真」や、タブレットの「音」のように、性能を磨き上げることが重要です。

――VR(仮想現実)もトレンドになりつつありますね。ファーウェイではヘッドセット「HUAWEI VR」を発表されていますが、日本で提供される予定はありますか。

呉氏
 「HUAWEI VR」は、中国市場ではすでに発売しています。グローバルで展開してから、日本に投入する形も考えられます。日本のユーザーが求めていないタイミングで投入しても仕方ありません。要望が強くなった、最適なタイミングで製品を投入していますので、展開時期に差が出ることがあります。

――サムスンは8月に発覚したGalaxy Note 7のバッテリー問題で、リコール対応に追われていますが、製品の品質管理についてファーウェイはどのように考えていますか。

呉氏
 弊社では年間の平均故障率を示すデータ(AFR)を他社製品も含めて収集していますが、他社製品と比較しても、弊社のすべて製品で、AFRは特に低い値となっています。安全性については、自信を持っておすすめできます。

 ここ3年間ほど、毎回お伝えしていますが、弊社の日本市場での目標は「生き残ること」です。日本市場はもともと要求水準が高い市場ですので、特に厳しい品質管理基準で製造した製品を提供しています。

――本日はどうもありがとうございました。