インタビュー

「トラベルSIM」のアイツーが新サービスを続々投入する背景

拡大する法人ニーズにもきめ細かく対応

 海外旅行者向けの「トラベルSIM」を展開するアイツーは、今年に入って「ChatSim」や「貼るSIM」、トラベルSIMの法人パッケージ、トラベルSIM向けの残高ゼロでも着信履歴を残せる「かけてねコール」や欧州34カ国向けの「トラベルSIM 2週間EUデータ放題」などの新商品・新サービスを次々に追加している。

 こうした商品を追加していく狙いはどこにあるのか、今回はアイツーのトラベルSIM事業部 事業部長のJag 山本氏に話を聞いた。

キャリアがやらない、他社がやらないサービスを

アイツー トラベルSIM事業部 事業部長のJag 山本氏

――これまでは海外旅行者向けの商品として「トラベルSIM」を提供されていましたが、今春に「ChatSim」と「貼るSIM」をラインナップに追加した狙いは?

山本氏
 我々にとって、とにかく海外に行かれる方へのSIMサービスが大きな柱になっています。トラベルSIMシリーズが高い評価をいただいていますが、トラベルSIMよりも細かいニーズもあります。

 たとえば「ChatSim」ですが、こちらは留学するお子さんをお持ちの親御さんからのニーズがありました。親が設定して留学する子どもに渡し、余計なことはさせたくない、と。トラベルSIMデータよりもリーズナブルで利用期間も長いので、トラベルSIMではカバーできないニーズを埋められると判断し、スタートしました。

 また、今春よりiPhoneのSIMロック解除(iPhone 6s/6s Plusからは購入後半年でロック解除が可能になる)が始まりましたが、iPhoneはデュアルSIM端末ではありません。海外で使うとき、SIMカードの入れ替えなしで使えれば、と考えました。Androidユーザーはリテラシーが高いので、いろいろな設定やSIM挿し替えなどの手順に慣れていますが、iPhoneの場合はできるだけスマートかつ少ない設定で、ということで「貼るSIM」をスタートさせました。こちらもトラベルSIMとはかぶらない、異なったニーズを狙っています。

 トラベルSIMが大きな輪っかですが、より細分化したニーズに応えるべく、ChatSimと貼るSIMをスタートさせています。

――トラベルSIMなどは、ローミングに比べると料金的なメリットもありますが、現地でプリペイドSIMを調達するのに比べると買う手間がかからず、事前につながるかどうかを確かめられるというのは便利ですよね。

山本氏
 そうですね、そこは大きいです。当初は海外のプリペイドやレンタルWi-Fiルーターを知らない人がターゲットでしたが、それらを知っている上でトラベルSIMが選ばれるようになっています。

 現地でSIMカードを買うのは手間がかかり、言語の問題や設定の問題もあります。実際に現地でSIMカードを買ったけど設定できず、つながらないというようなことを経験される人も多く、出発前に設定できて実績があるものということで、トラベルSIMに辿りつく人が多いようです。

――auが24時間980円の「世界データ定額」を発表しました。あちらについてはどうお考えでしょうか。

山本氏
 弊社の大きなお客さまは格安SIMユーザーなので、大きな影響はないと考えています。法人向けもそうですが、どのキャリアの海外定額も、月額固定費がかかる上での付加サービスなので、乗り換えるほどではありません。また、大手キャリアのローミング定額では通話料金は安くならず、着信にも料金がかかってしまいます。

――トラベルSIMがデータとトークの2種類、ChatSim、貼るSIMとありますが、これらの売れ方、使われ方の違いに特徴はありますか?

山本氏
 先ほどもお話ししたように、ChatSimはもともと留学を想定していますが、留学される方の親御さんが買うケースが非常に多いです。クレジット付きの留学ChatSimを出してからは、ほとんどそちらが買われています。

貼るSIMは文字通り、既存のSIMに貼ることでデータ通信サービスを追加する

 貼るSIMも狙った通り、iPhoneユーザーがほとんどです。SIMフリーのAndroid端末はデュアルSIMで使われる方が多いようです。

 トラベルSIMシリーズでは、ここに来て通話も可能な「トラベルSIMトーク」が伸びています。月額料金もかからないので、通話もあった方が安心では、というところに流れてきているようです。一般のお客さまはもちろん、法人のお客さまもトークが多くなっています。

 スタートから1年半くらいが経ちましたが、アーリーアダプターはアーリーアダプター的な使い方でデータ利用が多いですが、一般旅行者に認知が高まるにつれ、安定した通話へのニーズが出てきて、そういった使い方が増えています。データを使っていた人でも、海外ローミング中の通話料金が高いと感じてトークに乗り換えるケースもあります。

――今後はトークが中心に?

山本氏
 どれもまんべんなくやっていくつもりですが、現在はトークがニーズの大きなところなので、ここはちゃんとやって行きます。

――先日発表された、自分の残高がない場合にも相手側に着信履歴を残せる「かけてねコール」ですが、こちらは通信会社がやるサービスなのか、と思わせる面白いサービスですね。

山本氏
 ほかがやらないようなサービス、嫌がるようなサービスでも、他社との差別化ができ、一定数の分母が見込めれば面白いのでは、と考えています。儲からないかも知れませんが、そこでサービスを提供して信頼してもらうことで、次のビジネススキームにもつながるかな、と考えています。

 通信会社というより、海外に行く人にITサービスを提供するのがアイツーのトラベル事業部だと思っています。5Gの時代になればローミング料金がもっと安くなっているかも知れませんが、その時お客様には信頼しているところからサービスを買いたい、と思っていただければと。そのためにも我々はユーザーロイヤリティを上げる商売をしたいと考えています。そうすれば長くいろいろなサービスを提供でき、次のステップもあるだろう、と。純粋な通信会社ではないところも含めた強みです。

 かけてねコールについては、マニアックなサービスかなとも思っています(笑)。プリペイドの仕組みがわかっていなくて、着信履歴がタダだと思ってる人もいます。なかなか伝わりにくいサービスかもしれませんが、ユーザーにメリットがあれば、こうしたサービスを提供していきたいですね。

急速に高まる法人ニーズ

――トラベルSIMの場合、海外での着信のお金がかからないというのは、一般の人にとっても便利ですが、法人にもウケているのでは?

山本氏
 そうですね、法人は非常に大きいです。アジアに出張する人などは、一気に弊社のサービスの乗り換えてもらっています。大手キャリアでのローミング時には着信料が1分100円以上かかるところ、その部分が100%のコストカットになるわけですから。電話を受けるだけの人も少なからずいるので、ニーズは大きいです。

 たとえば企業の海外研修にあたり、電話で連絡できないと研修費が出ない、といったこともあります。ローミングでも良いのですが、電話がかかってくるとコストがかかるので、トラベルSIMを導入する、といったケースもあります。

――法人向けには「トラベルSIM for Corp」を発売されましたが、そちらの反響はいかがでしょう。

山本氏
 これまで法人向けは表には出さず、お問い合わせベースで細々と売っていましたが、改めてパッケージ化して商品ラインナップに入れたのは4月末になります。請求書やオートチャージなどの法人向け独自のサービスに対応しており、こちらを開始してから一気に法人利用が増えています。お問い合わせいただいてから導入までも素早くできるので、そこも非常に良い感触です。今の時代、明朗な料金プランが求められているな、と実感しています。

――法人向け独自の機能はどこがウケているのでしょうか。

山本氏
 月締め払いやオートチャージが大きなところです。とくにオートチャージは1つ1つの回線ごとに上限設定できることも、安心感があると評価いただいています。

 法人契約の場合、一定数以上を導入するとき、利用者がどんな端末を使っているかの情報を共有していただいています。導入する部署と利用する部署が別々で、利用する人が細かいことがわからない、といったことがありますが、そうしたときも、どの端末を使っているかを我々が把握しているので、サポートが圧倒的に素早く行えます。

 法人様によっては導入時に端末を預けていただき、設定などのサポートをすることもあります。そういったことができるのが、導入決定をする部署として安心できるところになっているのではないかと思います。

――実際に法人ではどのような端末が使われることが多いのでしょうか。

山本氏
 バラバラですね。ルーターだとAtermなどが多いですが、スマホに関してはバラバラで、Nexusなどを大量導入しているところもいらっしゃいます。

 トラベルSIMの導入に合わせてSIMフリー端末を導入されるケースもあります。これまで会社の端末はフィーチャーフォンだったけど、現場の意見で海外に行く人はスマートフォンに変更する、といったケースもありました。

――トラベルSIMは通常、エストニアの電話番号が付与されますが、法人向けにイギリスの電話番号を追加するサービスも提供されています。やはり法人からのニーズが高いのでしょうか。

山本氏
 そうですね。相談として多いのが、「トラベルSIMトークへの発信料をもっと安くしたい」ということでした。ほとんどの会社はIP電話を使っていて、それだと安いのですが、一部の携帯電話会社からだとかなり高くなります。とにかく発信を安くできないかというところで、このサービスを導入しました。利便性や手続きの簡単さから、イギリスの電話番号は非常に良いバランスです。今回はG-Callさんとも協業するので、固定電話からだと1分15円、ケータイで1分40円でかけられます。

――法人では、どのサービスの利用が多いのでしょうか。

山本氏
 法人はほぼトラベルSIMブランドで、ChatSimや貼るSIMはあまり多くありません。ほぼトラベルSIMトークとトラベルSIMデータです。

――法人から多い要望などはありますか?

山本氏
 やはり一番多いのは、エリアを増やして欲しいという要望ですね。それから、Wi-Fiルーターで使う人も多いので、データをたくさん使えるプランが欲しいという声もあります。その点でいうと、「EUデータ放題」は好評です。2週間4GBですが、これをEUに限らず、アジアにも広げて欲しいというニーズは高まっています。

ライバルは現地SIMにあらず

アイツーの製品群

――私たちも海外取材で使いやすい便利なサービスがあるといいな、と思うことがしばしばあります。現地でプリペイドを買わずに済むのが良いですよね。

山本氏
 実は、我々は現地のプリペイドSIMカードをライバルだとは思っていません。現地SIMは、購入や設定が難しく、追加チャージもややこしいことがあります。我々が目指すのは、安くて利便性が高いというところではなく、サービスに伴う部分には料金がかかるけど、しっかりサービスするよ、というところです。見合った価格で提供するところのバランスを取ることが大事だと考えています。

 たとえば現地SIMだと、そのキャリアしか使えず、使いたい場所がエリアではないことがあります。でも、普通の人はどのキャリアが良いかわかりません。そうなると、ローミングの方が使えることもあります。トラベルSIMは平均で1カ国1.5キャリア使えるので、セカンドオピニオンが使えるのも、専用SIMの強みとなっています。

――海外出張で国内端末を持って行ったら店員がAPN設定情報を知らないということがありました。iPhoneだと自動設定されるキャリアが多いですが、iPhone以外では大変なことがありますね。

山本氏
 APNだけならば良いですが、余計な設定があることもあります。iPhoneも最近、現地SIMが使えなかったという声があり、見てみたら、国内MVNOのプロファイルが残っていたということがありました。ここは知識がないとダメですし、現地のショップで店員に設定してもらうのも難しいところです。

 その点、我々の製品であれば出国前に設定し、日本語でしっかりとしたサポートが受けられます。このサポートが重要で、個人・法人問わず安心感につながっています。

 法人からの要望で言うと、海外での販売というのもあります。現地での在外日本人向けのサポートを厚くするべく調整を進めています。

――法人向けで言うと、管理者の手離れが良いようなところが需要なのでしょうか。

山本氏
 だいたいマニュアルを見れば設定できるので、特別に何かエスカレーションしないといけないとかはありません。必要ならやりますが、おおよそ皆さん、わかっていることが多いですね。

 わからない人向けには、端末をセッティングして納品するサポートもしています。そうすると、ほとんど何もトラブルは起きません。あるとすれば現地で利用者が不要な設定変更などをした場合ですね。

――法人向け事業の実績はどのくらいあるのでしょうか。

山本氏
 実績で言うと、ちょうど10周年になります。アイツーのトラベルSIMが本格的に始まったのは2年前からですが、エストニアとの直接契約から移行している方もいらっしゃいます。たとえばクルーズ旅行を販売されている会社さんは、寄港地ごとに便利にお使いいただいています。こうした事例からクチコミで広まった部分もあります。

 こうした実績が、新参サービスに対する大きなアドバンテージなっています。長く使っている人からの評価も高いです。

――トラベルSIMがサービスインする時には端末をバンドルするような売り方もされていました。法人向けに推奨端末などはないのでしょうか。

山本氏
 以前より、どの端末でどう動くかがわかってきました。ですから、端末を推奨するということよりも、こちらで仕入れているものでなくても済ませられることが多いです。

 不思議なことに法人さんは日本メーカーが好きというのがあります。日本製というか、見たことのあるメーカーを希望される傾向はありますね。

――SIMフリースマホだと、デュアルSIM端末が増えてきているので、トラベルSIMのような製品が増えると面白いですね。

山本氏
 商品企画としては、SIM自体は通常のものと一緒だけど、「for ○○○」みたいに特定機種向けに銘打ってやるということは検討しています。シリアル番号だけで機種がわかるので、サポートコストを下げられます。その分、ユーザー還元するような製品を計画中です。

――今後の新商品にも期待しています。本日はありがとうございました。