インタビュー

「CXって何?」KDDI菅CXOに聞く

“auを使って良かった”を目指す取り組みとは

 「大きく、変わります」――5月31日、auが2016年の夏モデルの発表会で宣言した“決意表明”だ。その場で登壇したKDDIの田中社長は、ユーザーの声を聞いて、サービス全体の改革に取り組む姿勢を紹介している。

 その旗振り役となるのが、田中社長から直々にCXO(=お客様体験価値改革プロジェクト統括責任者)に任命されたKDDI コンシューマ事業本部 コンシューマ営業本部長 兼 コンシューママーケティング本部長の菅隆志氏だ。「CX」は何を意味するのか、auは今後、どのように変わっていくのか、菅氏にお話を伺った。

KDDI CXO 菅隆志氏

「CX」って何?

――「CX」という言葉は、一般にはあまり馴染みがない言葉だと思います。CXとはどのようなことを表現されたことでしょうか。

菅氏
 CXは「カスタマー・エクスペリエンス」の略で、「お客様体験価値」を指す英語です。我々にとってのCXを、auケータイをお使いになるお客様を例にあげて説明しましょう。

 新しいケータイに興味を持ったときに、まずはauのホームページで調べ使ってみて、端末の良し悪しがわかる、故障したらアフターサービスで店頭に行く、何かわからなければお客様センターに電話する。といったように、auにとってのお客様との接点はさまざまなプロセスで存在します。これがauにとっての「カスタマージャーニー」です。

 そのすべてのプロセスでお客様にとっての体験が価値として蓄積されていきます。全体の価値が上がれば、auのブランド強化に繋がりますし、「auはいいね」と思ってもらえます。我々がCXに対する取り組みは、それぞれの接点での体験価値を上げるために、全社的に盛り上げていこうというものです。

2016年夏モデル発表会で紹介された「カスタマージャーニー」

――KDDIがCXに対する取り組みを始めたのはいつ頃からでしょうか。

菅氏
 きっかけは、2014年度から進んでいる、市場環境の変化でした。スマートフォンが主流になって、他社との差別化が難しい状況になっています。その中で(総務省の)タスクフォースもあり、MNPの流動率も落ちている。来店率も若干下がっています。

 他社との差別化はもちろんこれからも必要ですが、それ以上に、今のお客様にauを末永く使い続けていただく、そのためにお客様体験を向上させる必要性を強く感じました。

 2015年度にCX推進部を立ち上げ、全国13店舗のauショップでトライアルを実施しました。今後どのように活動を進めていくかを検討し、この4月から本格的に展開を始めています。

――1年間のトライアルでは、どういった活動を実施されたのでしょうか。

菅氏
 老若男女、ITリテラシーの高低などが異なる、さまざまなお客様のペルソナを設定して、シミュレーションを行いました。店舗対応や電話サポートといったいろいろなシーンを想定し、ネガティブに感じるところ「ペインポイント」を探りました。ペインポイントを発見したら、どのように改善すれば、プラスになるのかを検討していきました。

――CXOで改善を目指すのは数値化が難しい「人の心」ですが、どのように評価するのでしょうか。

菅氏
 NPS(ネット・プロモーター・スコア)という指標があります。アンケートで調査をして、「auを知り合いに勧めたいですか」といった質問で評価を図ります。単純にサービスが良かったといった程度では「勧めたい」とまではなりません。お客様から「良かったよ」と言われるauを目指します。

現場から本社まで「オールau」の取り組み

――13店舗でのトライアルを通じてどのようなことが見えてきましたか。

菅氏
 改めて、ショップ店頭での待ち時間がペインポイントとなっていることを認識しました。その改善のためには、待ち時間を短縮するための取り組みももちろん必要ですが、業務プロセスの効率化やITサポートも必要となり、ショップだけでは限界もあります。

 そこでトライアルの中では、待ち時間を快適に過ごしていただくための取り組みに力を入れました。ドリンクを提供する、待ち時間で楽しめる雑誌やタブレット端末を用意するといった小さい改善の積み重ねですが、お客様のペインポイントの減少に結びつきました。

――auショップのスタッフも一体となってCXに取り組んだのですね。

菅氏
 auショップでのCX活動を実際に担うのは、代理店のオーナー、マネージャー、店長、そしてショップスタッフです。実際の現場で対応するスタッフまでCXの重要性を理解しなければ、「お茶を出せばよい」という、形だけのサービス改善に留まってしまいます。

 トライアルの中で、取り組みの成果を実感したエピソードがあります。あるauショップで、お客様が車で来店されたときに、急な雨が降り出しました。それに気づいた店員が傘を持ってお迎えにいったのです。このスタッフの話を聞いたとき、CXを理解していただいたことでこの成果を得られたのだと実感しました。

――CX活動を通して、端末のラインナップにも変化していくのでしょうか。

菅氏
 そうですね。もちろん、端末ラインナップの拡充には、今までも取り組んできました。今後は、もっとお客様の声に耳を傾けて、ニッチなニーズにしっかりとマッチするような製品を揃えていかなければならないと感じています。例えば「DIGNO rafre」や「mamorino Watch」のような商品は、今までのauではなかなか生まれてこなかった商品だと思います。

 ターゲットを絞った商品を揃えるのは、メーカー主導で開発された商品を扱うだけでは不十分です。auとしても、腹をくくって揃えていかなければならないと考えています。

ハンドソープで洗える「DIGNO rafre」
通話もできるキッズ向けスマートウォッチ「mamorino Watch」

――料金プランについても、CXの観点から決められるのでしょうか。

菅氏
 まだまだ不十分ですが、もっと分かりやすく、ターゲットに合ったシンプルなプランを出していく必要があります。

 いたずらにプランを増やしても複雑になってしまいますが、例えばあまりデータ通信を使わないシニア層向けには、データ容量が少なめでその分安い料金プランをご用意する、というように、お客様の利用実態に即したものは揃えていく必要があると考えています。

――ショップにとどまらず、全社を挙げて取り組まれていくのですね。

菅氏
 はい。全社の事業方針として、「お客様体験価値向上企業に転換しよう」というスローガンを掲げています。私が統括するコンシューマー部門はもちろん、コーポレート部門やソリューション部門の社員もCX向上のために取り組んでいます。

他キャリアとの差別化、変化する市場への対応は

――ここまでお話を伺って、お客さんからすると「当たり前」と思われるような基本的なところから取り組まれているようにも感じました。

菅氏
 おっしゃる通りです。今までもお客様の声を聞いて改善活動には取り組んできました。しかし、現状から見ていくと、やっぱりまだまだ不十分だというのが我々の大反省です。CXを向上するためには、今までのやり方を切り捨てて、新たなスタートを切る必要があると考えています。

――他のキャリアとどのように差別化していくのでしょうか。

菅氏
 サービス全体に関わる取り組みなので、具体的に「ここがこう変わる」とは言いづらいですが、お客様に「auを使っていてよかった」と思っていただけるように改善していきます。

 例えば、XperiaやTORQUEで実施している「オーナーズパーティ」というイベントもその1つです。その機種のユーザー様を30~40人ご招待して、製品の世界観を体験していただくというイベントですが、よりauのスマートフォンの魅力をより深く体験していただきたいという思いから始めた取り組みです。

 もっと幅広いお客様に向けた取り組みでは、8月に開始する無料の登録制プログラム「au STAR」があります。「au STAR ロイヤル」「au STAR パスポート」「au STAR ギフト」の3種類を用意しています。

 「au STAR ロイヤル」は長期契約のお客様にポイントなどで還元します。「au STAR パスポート」は、ショップでお待ちする時間をより短く、快適に過ごしていただくための試みです。定期的に特典をお送りする「au STAR ギフト」では、すべてのお客様に、どこにでもある特典ではなく、ちょっと気の利いた、楽しんでいただけるようなギフトをプレゼントしていきたいと考えています。

――先日(7月20日)、じぶん銀行のauユーザー向け特典「プレミアムバンク for au」が終了し、「au STAR」と連携した新サービスに移行すると発表されましたが、どのようなサービスになるのでしょうか。

菅氏
 具体的な内容についてはもう少ししたらご案内いたします。ただサービスを終了しますというだけではネガティブになりますし、「au STAR」のプログラムの中でしっかりカバーしていきます。

――かつて「auの庭で。」というキャッチコピーを使われていましたが、スマートフォンがオープン化していく中で、auのサービスは比較的クローズドなものが多いように思います。SIMロックを解除した他社端末のユーザーに対して、受け入れの部分を強化していくことはできないでしょうか。

菅氏
 他社端末の対応には周波数の問題など難しい面もありますが、今までの方向性とオープン化を比較して、よりお客様に最適なサービスの方向性を検討していきます。

――最近、端末の価格が高いと感じているユーザーが多いように思います。

菅氏
 まさしく、マーケットの流れがそうなってきていますね。お客様の心理では、今まではイニシャルコストの高さを気にされていましたが、タスクフォースやSIMロックフリー端末の登場といった流れを受けて、ランニングコストの方も意識が映られるようになってきています。MVNOは廉価な端末を提供していますので、そちらに流れていくお客様も少し流れていく、というのが今のマーケットの構造です。

 この流れをauとしても受け止めなければいけない、ということで、2つの戦略があります。1つは、auとUQ mobileというダブルブランドを両輪として戦っていこうというもの。もう1つは、CX活動の目的でもありますが、「auを使っていて良かった」と思っていただけるレベルまでのauのブランド価値をより高めていくことです。

――最後に、読者に対して一言コメントをお願いします。

菅氏
 auのテレビCMでも「大きく、変わります」と宣言していますが、それに見劣りしないように現場含めて改善していきます。ぜひ、auが変わるところを見守っていてください。今のauのお客様に末長くお使いいただけるように、新しくauを使われるお客様にもその魅力を感じていただけるように努力していきます。よろしくお願いいたします。

――本日はお忙しい中、どうもありがとうございました。