インタビュー

同質化、実質0円廃止、年間サイクル化――スマホ「AQUOS」が進む道は

シャープの林商品企画部長に聞く

 ここ数年、スマートフォンは進化の速度が緩んだ印象を与え、どの機種も似たようなスペックになって“同質化”が進んでいるといった指摘がある。そうした流れのなかで、最近では総務省のタスクフォースを受けた実質0円の廃止、NTTドコモによる年間サイクル化など、スマートフォンメーカーを取り巻く環境にも大きな変化が生まれている。

 そこでシャープは今回、「活きる力を起動する」というメッセージを掲げ、スマートフォンをユーザーに寄り添う存在として進化させる考えを明らかにした。商品企画部長の林氏に聞いた。

「活きる力を起動する」というメッセージを新たに打ち出す

同質化から抜ける一手

――「活きる力を起動する」というメッセージを決めるまで、さまざまな検討を重ねたと思いますが、まずはそのあたりから聞かせていただけますか。

林氏
 特徴を打ち出さなければならない、ということでいろいろと取り組んできました。画面一つで手の中で……といったあたりで、これまでEDGEST、フレームレスといった狭額縁デザインを採用してきました。今回大きく変えたのは「人に寄り添う」というテーマの部分です。そこで今回のAQUOSでフラッグシップにあたる各機種は、角を丸くして持ちやすいデザインを採用しつつ、カメラなど使い勝手の向上を図りました。

シャープの林氏

――デザイン面でいうと、三辺狭額縁のEDGESTや、額縁がないように見えるフレームレスが強い印象を与えるものだっただけに、今回はギャップが大きいと感じました。

林氏
 今回の機種でも、EDGESTやフレームレスの技術は、もちろん継承されています。デザイン性や手に持った感覚は非常に大事なポイントです。金属の採用が主流ではあるのですが、シャープとしてはアイデンティティというかデザインの見え方としてちょっと変化させたいと考えた。そこで、フレームに金属を採用した。デザインテーマとしては、「カッティングエッジ」というワードでイメージしてきました。直線的でありながらうまくカーブを使っています。この角の丸みは、フォーミングプレス、三次元で金属をプレスし、切削して仕上げています。逆にいうと切削だけでここまでの形状は作れません。この仕上げはこだわった部分です。

フレームの仕上がりを語る林氏

 デザインとしては要素をできるだけ少なくすることが主流で、今回のAQUOSもそうしています。今回、2.5Dと呼ぶディスプレイパネルは柔らかな表情を演出しています。

3キャリアで同じフォルム

――3キャリア向けのモデルが、いずれもほぼ同じ形に仕上げられました。

林氏
 2015年冬モデルからしっかり合わせてきていますが、シャープとしてどうアプローチしていくのか、という視点も踏まえると、「シャープの携帯電話ってこうだよね」という認知を高めていきたいと思っています。キャリアさまごとに完全に異なるモデルはだんだん難しくなる、というのではなく、しっかりとメーカーとして打ち出すというスタンスでの方針です。

――ではペットネームについてはいかがですか?

林氏
 ZetaやSERIE、Xxといった名前は、キャリアさまのなかでの位置付けもありますが、それぞれがある程度知っていただいているところもあります。このタイミングで変更する大きな理由がなかったというところでしょうか。

――機能面だけ見ると、au版だけは指紋認証がないという形です。

林氏
 そのあたりはキャリアさまと一緒に作り上げている部分で、それぞれ考え方や戦略があるなかでのことですね。シャープとしては、ユーザーに寄り添うという視点で開発しています。

ドコモ版には「スグ電」

――ユーザー体験での開発というと、たとえば今回、NTTドコモが「スグ電」としてメーカーをまたいで、使い勝手の改善を図る機能を導入しました。

林氏
 「より使いやすいユーザーインターフェイスを提供しよう」というところですので、メーカー、キャリアといった垣根にこだわらず(その目標の達成を)目指そうということですね。センサー類を利用しているので、単なるアプリではなく組み込まれた形ですが、シャープとしてはキャリアさま独自のアプリケーションのひとつという捉え方です。

――キャリアごとに異なるホームアプリのように、ですね。

林氏
 はい、そうです。こうした開発の流れは、今までとあまり大きく変わっていません。そしてこれからも大きく変わらないのではないかと思っています。同質化、コモディティ化という指摘があるなかで、キャリアさまの役割、Androidのエコシステムがある。しっかりそれぞれとコミュニケーションさせていただきながら、シャープとしては取り組んでいきます。

エモパーがヘルスケアで進化した理由

――特徴ひとつであるエモパーについても教えてください。シャープの掲げるAIoTを象徴する存在ですが、今回、ヘルスケア関連の機能で進化するということになりました。最初から進化の方向はヘルスケア一本ということでなく、数多く議論されたと思うのですが。

林氏
 エモパーがこれから進化するなかで、情報発信や気持ちを通じる部分が大切です。完全な人工知能というわけではありませんが、ユーザーの行動を予測してアドバイスして、良い相棒になってくれる。人に近しい存在として、でしゃばりすぎずに、肝心なところで役立たないというわけでもなく、進化していく方向にあります。

 進化の候補として、最初からヘルスケア一本! なんてことはありませんが、ユーザーに近い部分としてヘルスケアという分野があるだろうということで、今回はそちらに集中することにしました。

――スマートフォンのOSの機能として、グーグルやアップルが音声認識アシスタントを提供するなかで、シャープとしてはユーザーにアピールするポイントはどういった機能になりますか?

林氏
 今回はタニタさんの体組成計との連携はひとつわかりやすいところでしょうか。今後も、簡単に便利に使えるようになっていくのが、我々がやっていくべきことかなと思います。

――夏モデルではタニタさんとの連携を案内いただきました。今後の連携は?

林氏
 エモパーは常に進化し続ける存在にしたいと思っています。小さな機能でも仕掛け作りをしていって、もっと認知していただいて使っていただけるようにしたい。ただ、具体的なところは……いろいろ検討中です(笑)。健康関連は、普段から気にされているところでしょうから、これからももう少し力を入れていきたい。次のお楽しみということで。

――もう種まきはされていると。単に会話で愛着を持ってもらうための存在ではないのですね。

林氏
 体重だけではなく、もうすこし面白みが欲しいですよね。はい、考えています。

SIMフリー端末は……

――ところで林さんが担当されているのは、キャリア向けの携帯電話端末事業ということになるのでしょうか。

林氏
 国内市場向けの携帯電話の商品企画という形ですね。

――となると、SIMロックフリーモデルも含まれるわけですね。今回は紹介がなかったですが……。

林氏
 市場環境ですとMVNOさんの市場が拡がっていて、我々も当然、意識はしています。今のタイミングでは、3キャリアさん向けの商品ということで、そのあたりはまた今後あらためてご案内したいです。

鴻海とのシナジーは?

――市場環境という意味では、今春、鴻海との関係といったニュースがありました。

林氏
 通信事業本部としては、国内向けの携帯電話をしっかりやっていくべきでしょう。会社としてはシナジー効果を出していくべきだと思います。ただ、私の口からは具体的な取り組みや今後については差し控えさせてください。

――業界を拝見している身としては、鴻海との協業により、製造面でのシナジー、ひいてはコスト面でのメリットといったところを期待してしまいます。一方で、日本の市場環境として総務省でのタスクフォースがあって、端末価格への過剰な割引をやめてサービスなどでの競争に変化すべきという形になってきました。環境の変化があるなかで、商品企画という立場では、現状を捉えていますか。

林氏
 とても難しいですね。もちろんお客さまとしては、より良いものをより安くお求めになるのだろうと思います。そういった方向で市場が形成されていくのであれば、そこに対応していく。今後も国内外の動向を勉強していきますが、現時点ではそこまでの大きな影響は出ないと思っています。

ドコモの年間サイクル、影響は

――市場環境というところでいけば、NTTドコモが「年間サイクル化」という方針を打ち出しました。商品開発はどう変化していくのでしょうか。

林氏
 お客さまが端末を長く利用されるようになってきて、それを受けた流れだと思います。メーカーとしては1年間を通じて選んでいただける端末を作っていくのが使命でもあり、生き残る道でしょう。今回の機種は、技術の粋を尽くして出したつもりです。次のフラッグシップにも注力していきます。

 一方で、テクノロジーの進化が止まっているかというと、そうではないと思っています。その変化のスピードはどんどん速くなっている。その時々にあわせた商品を投入していきたい。中途半端なものを出すのではなく、次を見据えた開発を行いたいです。

――「年間サイクル化」ということで、シャープのフラッグシップが次に登場するのは1年後なのかな、と思っていましたが、そうではなく、その時々にあわせた商品を投入していくということですか。

林氏
 ハイエンドだけではなく、ちゃんとお客さまに向き合った商品を作っていきたいです。ドコモさんの言う年間サイクルというのは「次のフラッグシップが1年後」ということかもしれませんが、それだけではないです。またフラッグシップを1年間お休みするのではなく、このモデルを1年間売るということです。

――購入から長く利用される傾向が強まっていくということで、今夏のモデルを購入すると、そのモデルがたとえばOSアップデートがどこまでサポートされるのか。エモパーが進化すれば、いつまで新機能が追加され続けるのか。今の段階でユーザーに向けてメッセージを出していただけるものはありますか?

林氏
 難しいところですが、半年、1年で飽きられるようなモデルにしてはいないつもりですし、OSアップデートのようなところはお客さまが期待されているところでしょう。もちろん安定性も期待されていると思います。今までなかった1年間の販売ということで、継続した取り組みは今後も考えていきたいですね。

――将来のスマートフォン開発についても教えてください。たとえばマシンラーニング、ディープラーニングのような仕組みをスマートフォンにも活用していくですとか、検討されているなかで、何か今教えていただけるものはありますか。

林氏
 今いろいろとやっているんですよ……(笑)。スマートフォンはスマートフォンとして、ひとつのカテゴリーであるなかで、方向は2つあると思います。ひとつは既存のカテゴリーのなかで機能や使い勝手を追求していく。もうひとつは新しい価値感を提供していく方法が何かあるよね、ということで議論しています。それが本当にお客さまに受け入れてもらえるものか、奇抜過ぎてはいないか。すぐにそうなるかどうかは別の話ですが、今あるものを延々と続けることはありません。進化して、違ったものを出していきたいです。

――ありがとうございました。