【CES 2016】

2.4GHz帯でワイヤレス給電する「Cota」、出資したKDDI雨宮氏に聞く

 Wi-Fiと同じ2.4GHz帯の電波を使い、ワイヤレスでの給電を実現する技術――それが、KDDIが出資を決めた「Cota」だ。Cotaは、米国のOssia社が開発。既存の非接触充電との大きな違いは、電波を使っていること。空間内に充電したい端末があればよく、“充電器にセットする”という手間がなくなる。

 この技術の詳細はOssiaブースで行われたデモを紹介する関連記事に詳しいが、キャリアであるKDDIはここにどう関わっていくのか。出資を決めた経緯や、同社の狙いを、KDDIの新規ビジネス推進本部長 雨宮俊武氏に聞いた。

――まずは、KDDIがOssiaに出資を決めた経緯をお話ください。

インタビューに応えたKDDIの雨宮氏

雨宮氏
 もともとKDDIは、サンフランシスコにオフィスを作り、いろいろな技術やアイディアを持つスタートアップを探していました。国内ではKDDI∞Laboがありますが、やはりシリコンバレーにオフィスが欲しいということで立ち上げています。

 そのオフィスの人間がスタートアップの集まる場所で、たまたまOssia社を見つけて、情報が日本へ送られてきました。そこからいろいろと調べましたが、調べれば調べるほど、おもしろい技術だと分かった。こういう技術は、IoTの世界で、インフラになってくるものです。ぜひやるべきだということで、我々が出資することにしました。

――KDDIはどのような役割を担うのでしょうか。また、これは実際、日本に導入する予定もあるのでしょうか。

雨宮氏
 かなり強い思いでやっています。IoT、IoTと言われる中で、家の中のさまざまなモノに通信が載ってくることは容易に想像できます。そうなったとき、一番問題になるのがやはりバッテリーです。ただ、IoTの製品だと、スマホのようにそんな大容量のものは必要ありません。こうしたところに、場所を選ばず、ずっと継続して給電できるというOssiaの技術は非常に向いています。

 ただし、日本ではまだ法整備が十分ではない。(改正を働きかけることは)Ossiaがやっていきますが、我々もそれをサポートします。

――アライアンスを作って、他のメーカーと共同で広げていくようなお考えはありますか?

雨宮氏
 今、ビジネスモデルをどう作るか考えているところです。彼らはメーカーへのライセンス供給も考えています。そうすれば、メーカーと一緒になってやることができます。

――今、この技術を広げるにあたっての課題を改めて教えてください。

雨宮氏
 ひとつは法整備です。もうひとつ、送信側と受信側のどちらを先にやるのかというのも大きな課題です。ただ、こちらに関しては、我々はスマホのデバイスを持っていますし、Wi-Fiスポットもあります。最初はデバイスに入っていくことになるのでしょう。いつの間にかワイヤレス充電ができるデバイスが広がっていて、送信側の準備ができれば始められるという話に持っていきたいですね。

ワイヤレス充電器のCota。10メートルまで離しても給電可能

 また、Cotaは2.4GHz帯のWi-Fiと同じ周波数を使うので、アンテナをアクセスポイントと共用することができます。つまり、チップさえ入れてしまえば、準備は整うということです。

――現在、設置されているWi-Fiスポットを、充電器に変えるということもできるわけですね。その際、Wi-Fiとの干渉が気になります。

雨宮氏
 Ossiaからは基本的に干渉は起こらないと聞いていますが、やはり同じ周波数なので、起こらないことはないというのが我々の見立てです。出力とのバランスになってきますが、どこまで大きくするのかにもよりますね。また、人体への影響なども考えなければなりません。それらをバランスよく調整することも、大きな課題です。

――健康への影響があるのでしょうか。

雨宮氏
 アメリカの基準にはなりますが、研究所に頼み、実験をして大丈夫だという承認は得られています。ただ、日本の場合、ここに明確な規定がないのです。

ワイヤレスなため、認証の仕組みも用意されている。CESでは、au IDを使って機器を認証した

――法整備は、そういうところにも必要そうですね。デモでは、au IDを使った認証を行っていました。ここはポイントになるのでしょうか。IDやパスワードが必要だと、充電に対する敷居が上がってしまうような気もしました。

雨宮氏
 やはり、そこはセキュリティの問題が大きいですね。認証がないと、範囲にあるものがなんでもかんでも充電できてしまいます。そこには、ユーザーの意思が必要になります。
――なるほど。認証がないと、マンションなどでお隣まで届いて、勝手に充電されてしまう可能性もありますからね。

雨宮氏
 無線だと、お客様にとっては普通のことになるのではないでしょうか。ただし、そのときにau IDでやるのかは、また別の話です。世の中に普及すれば、我々だけが使うものではなくなります。おそらく、その人が持っているIDで認証していくことになるのでしょう。
――日本では、いつごろまでに実現できそうでしょうか。

雨宮氏
 OssiaがFCCの承認を取り、今年中にアメリカでサービスをスタートすると言っています。それを受け、我々としては2017年中になんとか日本に持ってきたい。ただ、そこは法整備も絡むため、我々だけではなんとも言えないのですが。

――端末側を対応させようとすると、どの程度のコストになるのでしょうか。コストが跳ね上がってしまうと、搭載が厳しいと思いますが、いかがですか。

雨宮氏
 跳ね上がるというようなことはありません。大量生産すれば、数ドルの下の方でできるようになります。

――IoTはいいのかもしれませんが、スマートフォンのような製品に入れようとすると、アンテナの配置が大変になるような印象も受けます。

雨宮氏
 おっしゃるように、スマートフォンには通信用のアンテナが入っていて、通信しているときに一番受信効率がよくなるようになっています。ですから、これが広がれば、アンテナの作り方が変わってくるかもしれません。

――今のCotaの充電器は、家庭に置くことを想定すると、ちょっと大きすぎるような印象を受けます。これはどの程度、小型化できるのでしょうか。

雨宮氏
 それは、Ossiaのロン(Ron Khormaei)から答えてもらいましょう。たとえば、テーブルの範囲だとどうですか。

Ossiaのエンジニアリング担当副社長、Ron Khormaei氏

Khormaei氏
 テーブルの範囲なら、目覚まし時計ぐらいのサイズにはできます。今のものはプロトタイプ。開発途中で、小型化も進めているところです。また、電波をどこまでの範囲に届けたいのかでも、サイズは変わってきます。

 そのため、アンテナがモジュールになっていて、全部で58個ですが、切り離して1個から使うことができます。

――最後に、KDDIとしては、出資に対してどのようなリターンを求めていくのでしょうか。

雨宮氏
 出資に対し、企業価値が上がればリターンになるというのはありますが、我々は、出資してほったらかしにはしません。その企業が大きくなるために、サポートしていきます。彼らのアメリカでのビジネスまではできないかもしれませんが、日本でのビジネスをサポートすることで、全体としてビジネスを大きくしていくことはできます。それは我々のビジネスにとっても、メリットがあります。そういう形での、相乗効果をあげていきたいですね。

――ありがとうございます。

乾電池をCota対応にすることも可能だ。天気を光で知らせる傘立てのようなIoT製品にも、応用しやすい
アンテナはモジュールになっており、1枚ずつ切り離して使うこともできるという

石野 純也