ケータイソリューション探訪

iPhoneの法人利用についてソフトバンクに聞く


 iPhoneユーザーが増える中、ソフトバンクでは法人に向けての販売も強化している。実際、iPhoneはどのような法人ユーザーに使われているのか。ソフトバンクモバイル 法人事業推進本部 法人プロダクトサービス統括部 ソリューション推進部 ソリューション推進課の中野晴義課長に話を聞いた。

――iPhoneは日本に上陸して1年半が経過しますが、実際、法人市場ではどのような訴求をしてきたのでしょうか。

ソフトバンクモバイル 法人事業推進本部 法人プロダクトサービス統括部 ソリューション推進部 ソリューション推進課の中野晴義課長

中野氏
 日本上陸時のiPhoneはすでにOS 2.0でExchange対応していたこともあり、法人向けの販売を検討していました。当時は主にメール連携の訴求が中心で、「リアルタイムに閲覧できるメールビューワー」という部分を押していました。一方で小さな企業に対しては、ウェブとマップの閲覧性の高さという点を訴求しました。

 2008年9月に法人のお客様向けのイベントを開催したのですが、その時はiPhoneの使い方として、「このような業務分野にソリューションとして活用できる」という可能性を示したものでした。

 あのとき、試験導入を通じてお客様に触ってもらうという取り組みをしつつ、実はユーザーのオフィス環境がどういったものかの調査も実施していました。お客様のグループウェア環境についてヒアリングをさせていただきながら、iPhoneの活用が可能かをお客様と共同で検討していたのです。

 昨年2月より実施したEverybodyキャンペーンの効果もあり、法人市場も伸びてきています。法人としての導入については導入検討期間が必要であるため急激なものではありませんが、価格に敏感な小規模企業だけでなく、大企業でも導入が進んでいます。

 昨年の夏前後からはiPhone対応のソリューションも増えてきています。ここにきてメール・グループウェア連携以外のiPhone活用の提案もできるようになっています。

――iPhone導入に積極的、あるいは保守的な業種などはあるのでしょうか。

中野氏
 特定の業種というのは特にありません。昔はセキュリティ面の不安から金融業界は厳しいという話もありましたが、AIGエジソン生命保険様に導入いただいたりと、一概には言えなくなっています。

 一般論で言うと、セキュリティに厳しい業界はiPhoneよりもBlackBerryという意見もありますが、iPhoneのセキュリティ機能も強化されたこともあり、他のソリューションとの組み合わせ提案などによりiPhoneが採用されるケースも出てきています。

――企業が導入を検討する上で、ライバルとなるスマートフォンはあるのでしょうか。

中野氏
 やはり比較として出てくるのがBlackBerryです。個人情報保護法により、セキュリティポリシーが強固なものに制定されており、スマートフォンなどを導入する際に身構えている状態です。しかしiPhoneとBlackBerryとシンクライアントのPCを比べて、最終的にはiPhoneに決まるといったケースも出てきています。

――iPhoneを導入したことで、ソフトバンクは残業コストが大幅に下がったと言っています。実際、導入した企業でもコスト削減効果は期待できるものなのでしょうか。

杉田弘明課長(事業戦略統括部事業戦略部ビジネスマーケティング課)
 ノートPCにデータカードをさしてデータ通信を使っていたが、PCを使う頻度が減少し、データカードの通信料が下がったという話を聞きます。結果、携帯電話の通信料は増えた一方で、それを補うぐらいにデータカードの料金が減り、全体的なコストが下がったという話はよくあります。

――iPhoneといえば、カメラも搭載し、さらに音楽やゲームも楽しめるマシンとなっています。法人で導入する際、そのような機能に制限をかけられるものなのでしょうか。

中野氏
 もともと日本上陸時にも端末上でカメラや音楽機能を制限することはできました。しかし、パスワードを知っていれば解除できてしまい、法人で使うにはセキュリティポリシーの面で不足がありました。

 「iPhone構成ユーティリティ」というソフトウェアがアップルのサイトから無償で配布されているのですが、これを活用すれば、Exchangeの設定ファイルや無線LANのWEPキーなどの構成ファイルが作成でき、利用者に対して一斉に配布することが可能になっています。

 この構成ユーティリティのバージョンが上がり、機能制限に対応するようになりました。カメラなどの機能制限も構成プロファイルで設定し、複数台にまとめて同一のポリシーを設定できるようになっています。昔は利用者で削除できましたが、いまでは管理者のみが削除可能となっています。

――通常、iPhoneのパスワードは4桁ですが、その他のパスワードを設定できたりするのでしょうか。

中野氏
 iPhone上では4桁のパスワード設定が可能です。Exchangeを使っている場合、Exchangeと連携してパスコードロックを使わないと使えないプロファイルにすることもできます。また、Exchangeを使っていない場合でも、構成ユーティリティを使うと、パスコードを4桁以上にしたり、英数字混じりのパスワードを必須にする、1カ月経過すると新しいパスワードを要求する、と言った設定が可能になります。前回、前々回と同じパスワードは使えないとか、間違えた回数によって消去する設定も自由に決められるようになります。

 OSが3.0になって、構成ユーティリティによりセキュリティポリシーが厳しい企業にも対応できるようになりました。

――iPhoneを導入するとなるとPCやMacに同期させるのが前提になると思いますが、実際、導入企業でも同期という作業は行っているのでしょうか。

中野氏
 セキュリティに配慮する企業では、導入時に必ず議論になるポイントです。「iTunesはなぜ必要なのか?」という指摘があり、iTunesで音楽や映画を購入・視聴できるという点が邪魔者扱いになっているようです。一方で、最強のバックアップツールともいえるため、メリットとデメリットがあると思います。

 しかし、OSのアップデートにも必要なので、PCと連携しての活用をオススメしており、同期をしている企業が多いです。ただし、1人1台という場合もあれば、部署1台というところもあります。

――アップルでも積極的に法人展開をしているようですが、実際、アメリカではどうなんでしょうか。

中野氏
 我々でも、アメリカの情報を共有しようとしていますが、やはりExchangeの普及率が日本とは大きく異なるようです。アメリカでは、Exchange連携をベースに導入が広がっているとのことです。一方、日本はNotesやサイボウズ、Desknet'sなどグループウェアも複数あり、セキュリティに対してもかなり厳しい。アメリカは、「何かあればワイプすればいい」という割り切った発想もありえるようなので、なかなかセキュリティ要件の高い日本の事情とは相違するようです。

――アプリを作りやすいという面で、法人に支持されている面はありますか。

中野氏
 アプリを作ってiPhoneを活用したい、という話もありますが、むしろ、今後さらに広がるものだと思っています。もともと、法人を意識したアプリ開発ベンダーが少なく、企業もまずメールから導入するというかたちが多かったからかも知れません。ただ、最近は業務連携やVPNを張って自社サーバーとつなげたいというニーズが出てきました。

 法人の場合は用途が決まっていて、絶対的に使えない機能があるかないかかが導入の判断基準になっています。現時点でiPhoneは外部機器連携のソリューションが少ないのですが、そのあたりのニーズも増えてきています。

――ソフトバンクモバイルでは一方でWindows Mobileも扱っています。そちらとの棲み分けはどうなっているのでしょうか。

中野氏
 ソフトバンクとしてはまずはiPhoneです。やはり、我々しか持っていないプラットフォームですし、先進的なユーザーインターフェイスというのは大きいです。

 しかし、外部機器連携などを求められるとWindows Mobileも併せて提案する場合もあります。セキュリティに関して言うと、確かにiPhoneは進化していますが、法人のお客様からのBlackBerryが欲しいと言うニーズの中には、リアルタイムに端末を監視管理し、遠隔で変更させたいというニーズもあります。現時点では、ソフトバンクとしてはWindows Mobileとサードパーティのソリューションでの提案を進めていくことができます。お客様のニーズ・要件に合わせて、というものです。

――今後の法人向けiPhone市場をどう見ていますか。

中野氏
 検討中の顧客も多くソリューションも増えてきます。大画面をいかしたeラーニングやポッドキャストを利用したソリューションなど、法人市場でiPhoneを活用できるソリューションが続々と出てくると思います。

――ありがとうございました。



(石川 温)

2010/3/8 06:00