ケータイソリューション探訪
WM6.5搭載のスマートフォンを導入する佐川急便
佐川急便が2010年10月から導入する端末 |
法人市場において、スキャナーなどの機能を取り込んだ業務用端末が増えつつある。佐川急便では2010年の秋に向けてWindows Mobile 6.5を搭載した端末を一斉に導入する計画だ。果たして、同社が導入を決めたきっかけは何だったのか。佐川急便と、同社に端末を導入するNTTドコモ、OSプラットフォームとなるマイクロソフトに話を聞いた。
佐川急便では2010年10月からバーコードスキャナ付きスマートフォンをNTTドコモから全国で導入する。端末はWindows Mobile 6.5を採用し、タッチパネルでの操作が可能。FOMAハイスピードに対応し、Bluetoothや赤外線通信機能も備える。佐川急便では2万4000台の導入を予定している。
――そもそも、導入するきっかけは何だったのでしょうか。
(左から)北東卓氏(佐川急便)と柏本浩靖氏(同) |
北東卓氏(佐川急便 営業戦略部 部長)
第一に、お客様とセールスドライバーとの情報共有をさらに密にすること。次にセールスドライバーの業務効率を上げたいという2つの狙いがあります。今回のプロジェクトは2008年9月に立ち上げ、2010年10月に第1号機を現場に投入できる見込みです。
――今まではどのような端末を使われていたのでしょうか。
北東氏
セールスドライバーは携帯電話に加えて、PDT(ポータブル・データ・ターミナル)という荷物の情報を共有する端末、カード決済端末、荷札を発行するプリンターという4つの端末を携行しています。また、携帯電話をはじめ、PDTや決済端末などにはそれぞれ通信モジュールが入っており、コスト増になっていた実情があります。
これまで通り4つの機器を携行して業務をするというのはあまり効率的ではないということから、まとめていくことにしました。本来ならばオールインワンにしたかったのですが、携帯電話とPDT、決済端末とプリンターをそれぞれ1つにして、計2つにまとめることができました。
――新しい端末を導入する上で重要なポイントはどこにありますか。
北東氏
やはり操作性と耐久性は欠かせません。ドライバーというのはハードな動きをする上に、スキャニングを迅速に行い、スピーディに仕事を進めなくてはなりません。現場に投入するからには業務効率に繋がらなくてはならない。設備投資をムダにできないため、営業店の生の声を聞きながらプロジェクトを進めてきました。
(左から)田島保如氏(NTTドコモ)、松本巧氏(同)、伊藤哲志氏(マイクロソフト) |
松本巧氏(NTTドコモ 関西支社 法人営業部 第二営業担当主査)
セールスドライバーが使うということで、耐久性や防水性が求められました。そこで、佐川急便さんからの意見も聞きながら、汎用性をもたせた端末開発を進めています。
田島保如氏(NTTドコモ 法人事業部ソリューションビジネス部 モバイルデザイン開発室 第一開発担当)
開発メーカーである富士通さんは、F1100というスマートフォンを作っており、それとは別にハンディターミナルの実績もあります。それらのノウハウが生かされており、いままで以上のクオリティを目指して開発しています。
――今回の端末では、どのような新機能を盛り込んでいるのでしょうか。
柏本浩靖氏(佐川急便 営業戦略営業課 係長)
運賃の計算機能や、荷札・領収書の発行などがあります。これまではハンディターミナルにモジュールを積んでいたため、メール連携が十分ではありませんでした。しかし、今回から対応させ、さらに携帯電話の機能があるので、お客様との直接のやりとりが今まで以上に可能になります。これまでは電話の受付に関しては、センターで受けて店舗からドライバーに連絡する、といったようになっていましたが、これからはドライバーに直接問い合わせることができるなど、スピードアップにつながります。
また、携帯電話本体のスペックが高いので、機能を随時追加できるようしています。
――これまではどのような端末を使っていたのでしょうか。また、Windows Mobileを採用したきっかけは何だったのでしょうか。
まだ開発途中のため、待受画面は一般的なWindows Mobile 6.5と同様 |
柏本氏
これまではTRONをベースとした端末を使っていました。しかし、データ管理が優れているということからケータイを使おうということになり、プロジェクトが始まりました。当初から、マルチキャリアでも対応し、アプリケーションが開発できるようにと、どのキャリアでも使えるWindows Mobileにしようという結論になりました。
キャリアの独自のOSに頼ってしまうと、そのキャリアしか使えないようになってしまいます。汎用性を持たせるためにOSを選ぶことを最優先しました。特に基幹系との連携を考慮したというわけではありません。
――マイクロソフトとして、苦労した点などはありますか。
伊藤哲志氏(マイクロソフト モバイルコミュニケーション本部 シニアプロダクトマネージャー)
弊社は裏方的な業務になりますが、そのなかでもベストなかたちを引き出せるようにお手伝いをしてきました。端末の開発においては、昨年から調布に日本語開発チームがいるので、国内メーカーとの連携が強化されています。数年前のように海外端末の流用ではなく、日本のメーカーで、日本のユーザーの声を聞いて、開発できるようになっています。
導入予定の企業からの問い合わせや要望に対して、アメリカではなく、日本のマイクロソフトとして動けるようになった点が大きいです。
――法人向けというと、信頼性を重視する傾向が強いので、過去の実績があるWindows Mobile 6.1を使うのかと思っていましたが、今回はなぜ6.5にしたのでしょうか。
伊藤氏
OSの選択に関しては、NTTドコモさんと富士通さんで協議されました。ユーザーインターフェースに関して、ドライバーさんに直感的に操作してもらうには指で使えるWindows Mobile 6.5ということになりました。やはりWindows Mobile 6.1となると、ペン操作が主体になってしまいます。アプリに関しては互換性があるのでバージョンの差分を考慮することはあまりありません。
北東氏
セールスドライバーのさまざまな利用シーンを考えると、やはり片手で使えるのがいいですね。(操作が簡単な)タッチパネルが使いやすいと思います。
――マイクロソフトとして、Windows Mobileが法人に広がりを見せているという手応えは感じていますか。
伊藤氏
もともとビジネス領域はスタートしており、親和性の高さは自負していました。しかし、スマートフォン市場は詳しい人にしか認知されておらず、ブレークスルーを模索していた状況でもありました。Windows Mobileというと、Exchangeと連携したメール端末という印象が強いですが、実際は業務端末の導入が多いんです。
セキュリティ面を大企業ほどは気にしない一部の中小企業は他のスマートフォンを導入することもあるようですが、セキュリティ面や周辺機器の連携、さらにはOfficeやサーバー製品との協調によるメリットは、Windows Mobileの強みと言えます。
アプリの開発環境もVisual StudioによってPCやCEからの移植が可能で、ゼロから作る必要もなく、生産性の向上はもちろんのこと、コスト削減効果も大きいです。
今回のような大型案件が公表されることで、問い合わせも増えています。
――端末を導入する上で、苦労した点などはあるのでしょうか。
柏本氏
開発当初は、どのキャリアにかけあっても「スキャナーに対応したケータイはありません」という反応でした。そこで海外を調べ、お隣の韓国に視察に行くなどして、スキャナー付きのケータイなどを見つけ出そうとしました。アメリカではPDAにスキャナーを装着して使われていたりもしていましたね。
そうこうしているうちに、NTTドコモさんに相談したところ、快く応じてくれるようになりました。
――ドコモとしてはかなり佐川急便からプッシュされていたのでしょうか。
松本氏
弊社としては佐川急便さん専用ではなく、いろんな業種に使ってもらえるようにと端末を企画していました。
柏本氏
弊社だけの専用端末を開発すると高くなるだけに、佐川スペシャルというのは望んでいませんでした。何よりも汎用性があって、入力が早くてコストが安いのがいい。競合他社ではスペシャルモデルを作るところがあるようですが、弊社は「作ったら絶対にダメ」ということになっていました。
――端末内のアプリの更新はやりやすいようにできているのでしょうか。
柏本氏
アプリケーションサーバーを作っており、夜間の充電中に更新や管理を行えるようにしています。今までの専用ターミナルはバージョン管理も大変で、住所変更や郵便番号変更に伴うデータベースの変更も月1回、すべて手動でダウンロードして設定していました。営業店内にアクセスポイントを設置しており、端末とBluetoothで接続して更新をかけていました。
――コスト削減効果はどれくらいと見ているのでしょうか。
北東氏
現状に比べると、年間8億円セーブできるようになると見込んでいます。さらに将来的には年間12億円以上の効果を目標にしています。企業の戦略として、IT関連のコストを圧縮して、新たなところに投資していきたいと考えています。
――ありがとうございました。
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2010/2/17 06:00