南極観測船しらせと携帯電話

KDDI総研 恵木真哲
KDDI総研社長。過去2年間は主として世界の携帯電話市場の調査・分析を担当。豪州駐在経験を活かして、オセアニアのケータイ事情を随時紹介する。


 1983年から四半世紀にわたり日本と南極を往復した3代目南極観測船しらせのあとを継ぐ4代目南極観測船「2代目しらせ」が、この5月、横須賀基地でお披露目された。一般公開には1万2000人も押し寄せたというから人気者だ。代々、新たな越冬隊を乗せて南極に向かう際に立ち寄るのが西オーストラリアのフリーマントルで、今年も11月下旬に第51次越冬隊がやってくるのを待つことになっている。一方、帰り道に越冬隊を下ろすのはシドニーだ。

 ところで、南極で携帯電話は利用できるか? 答えはもちろんイエスである。といっても通常の携帯電話でなく、衛星を経由する衛星携帯電話である。ただし、南極も場所によってはチリの携帯電波域でカバーされ、南極観光客が普通の携帯電話を使うこともできるらしいが、昭和基地では当然その電波は入らない。

 さて、携帯電話が今ほど普及していなかったころの寄港地シドニーでの話を紹介しよう。しらせが寄港する2~3カ月前から、領事館の音頭で受け入れ準備が開始される。声がかかるのは旅行業者、免税品店と通信事業者等である。任務終了の越冬隊員はシドニーで数日、骨を休めた後、空路で日本への帰国の途につくが、その前にシドニー滞在を楽しんでもらおうとのささやかなおもてなしである。

 越冬隊員の一番の要望は「ゆったりとした湯船につかりたい」。その後は市内観光や免税品店での買物と日本の家族への電話が一般的な行動パターンである。1990年代の携帯電話は高嶺の花であり、おいそれとはレンタルできない。そこで登場するのが、岸壁での臨時公衆電話ブースである。最初の内はこの公衆電話ブースから日本への国際電話がかなりあったが、メール時代の到来とともに、インターネット接続可能な臨時公衆電話ブース設置と要求が変化していった。

 今なら、各隊員は自分の携帯電話を持っていればローミングを使って日本への通話は可能であり、レンタル携帯電話の出番もないかもしれない。そこで、ふと、疑問がわく。昭和基地や、大海に出れば携帯電話の電波は届かない。となると、越冬隊員は日本近海や豪州近海でしか利用できない携帯電話をわざわざ携行するのであろうか? 通話ができなくも今時の携帯電話はカメラやCD代わりになる。私なら持っていくように思うのだが、あなたが南極に行くならならどうします?

(恵木真哲)

2009/10/28 15:54